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十二闘士の継承者  作者: イヴ
第一章 炎の闘士・カオス
7/13

残された言葉



―――〈黒き薔薇の剣(ナイトメア)〉の戦艦内部。


「離せ!離せよ!」


赤い鎖で拘束された、黒い戦艦へと運ばれたアレン。

魔法で作られたその鎖は、もがけばもがくほど、腕に食い込んでいくようだった。


「おいこらぁ!ここから出しやがれ!」


一方、〈星天精霊(アスタリア)〉のクゥは、奴らの〈魔導器セレスティア〉の檻に捕まっていた。


先ほどから頭突きをしたりしているが、その程度ではびくともしなかった。

また、魔法を放とうとすると、檻に力を吸い寄せられるのか、発動出来なかった。


「くそ・・・なんなんだ、この檻は・・・!」


格子を掴みながら、声を漏らすクゥ。

いま二人は、戦艦のデッキらしき広い場所に放り投げられている。

そこには同じような黒い服を着た兵士たちが、黙々と作業を続けていた。


「なんなんだよ・・・一体・・・!」


鎖を解こうとするアレン。だが、それは解く気配すらしなかった。

その時、目の前の扉が音を立てて開いた。

その音に目を向けると、そこには、先程の仮面の男が立っていた。


「お前・・・っ!」


跳びかかろうと立ち上がるが、鎖がそれを邪魔し、敵わなかった。


「どうやら、元気はあまり余っているようだな、少年」

「ふざけるなっ!よくも村のみんなを・・・父さんを・・・絶対に許さない!」

「フフ・・・許さない、か・・・それは素晴らしいな。どうかその想い、もっと募らせてくれたまえ」

「な、に・・・!?」


男の言っていることが分からず、アレンは目を見開く。


「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私の名前はネオ・グランチェ。以後、お見知りおきを」

「お前の名前なんて聞いてない!」


だが、男―――ネオはそれを無視し、隣にいた兵士に話しかける。


「これより、基地へと帰還する」

「了解。―――百八十度解凍。基地へと帰還する」


ネオに指示された兵士は、デッキにいる兵士全員に指示する。

それを受けた兵士たちは、作業を急ぐように手を動かす。

すると、戦艦が音を立てて、静かに動き始めた。


「な、なんだ・・・!?」

「お前ら・・・一体、何処に向かう気だ!」


格子越しにクゥが問いつめる。


「我々の基地だ。なに、君たちはビップ待遇だ。安心し給え」

「何が安心しろだ!こんなことされて、できるわけないだろ!」


ガンッと格子に身体をぶつけながらクゥは叫ぶ。

その隣で、アレンは俯きながら、身体をわなわなと震わせた。


「お前は・・・お前らは、〈黒き薔薇の剣(ナイトメア)〉って、一体何なんだ!なんであんなに平然と人を殺せるんだ!」


ガシャンと音を立てながら、ネオに言い詰める。

ネオはその言葉に、顎に手を当てながら、中央の椅子に座った。


「ふむ・・・君は本当に何も知らないのだな」

「なん・・・だと!」

「・・・星天精霊(アスタリア)。我々のことは、眠りながら〝視ていた〟のだろう?その少年に教えてやればいい」


ネオは不敵な笑みを浮かべながら、その視線をクゥに移す。

クゥは格子越しに、その仮面を睨み付けるが、一呼吸を置いて口を開く。


「・・・〈黒き薔薇の剣(ナイトメア)〉とは、一言でいえば〝世界の支配者″だ」

「世界の・・・支配者・・・!?」


クゥの言葉に、アレンは目を見開く。


「人聞きが悪いな。支配者ではなく、〝世界の統治者″と言ってもらおうか」

「言い方を変えただけじゃねーか。ようは世界を好き勝手にしてるってことだろ」 

「どういうことだよ・・・それ・・・!」


アレンは驚きの表情を隠せずにいたが、クゥはそのまま続ける。


「〈黒き薔薇の剣(ナイトメア)〉・・・ここ数年間で凄まじい力を手にして、世界中の国や街に侵攻・壊滅をし、支配下に置いている。その規模は計り知れず、奴らの基地は世界中に多数。だが、未だに本部の位置は愚か、首領が誰なのかもわからない。

その中でも、特別な力を持った者がいてそいつらの力は、一国の軍隊にも勝るとか・・・。

それがどんな力なのかは分からなかったが・・・どうやら、目の前にいるお前も、その中の一人みてーだな」


金色の瞳が仮面の男を睨み付ける。

だが、それに臆することなく男は小さく笑いを零した。


「そうだ・・・〈黒き薔薇の剣(ナイトメア)〉の中でもほんの一部にしかいない選ばれし者・・・それが 〈闇色の騎士(ナイトバロン)〉だ」

「〈闇色の騎士(ナイトバロン)〉・・・?」

「御大層な名前だな。まぁ、俺が知っているのはざっとこんなもんだ。

・・・んじゃ、今度は俺が質問する番だ」

「伝説の精霊から質問とは、光栄だな。なにかな?」

「お前の腕輪に付いている、その石はなんだ?」


その言葉に、アレンは男の腕に視線を移す。

確かに、その腕輪には黒い石が埋め込まれていた。


(あれは、あの時・・・)


先ほどの業火の中、男のその腕輪から放たれた黒い光線。

それが、父の胸を貫き、父を殺した。

その映像が頭を過った瞬間、アレンの中の怒りが、更にうねり始めた。


「フン・・・やはり、これが気になるか。

しかし、その言い方は、最早これが何かは分かっているようだな」

「・・・今ので、俺の勘違いじゃないってことが分かったよ」

「・・・おい、お前ら何の話を・・・」


状況が飲み込めないアレンは、二人を交互に見つめる。

すると、男は腕輪をはめている腕を高く上げた。


「・・・これは、かつて世界を統治していた、二大天使が一人・・・〈アダム〉だ」

「・・・っ!」

「アダム・・・だと・・・!?」


其の名を聞いた瞬間、アレンは目を見張った。

恐らく、其の名を知らない者は、この世界にはいないだろう。


〈聖魔大戦〉で〈死を呼ぶ闇(エンシェント・ダーク)〉によって貫かれて砕け散った、〈二大天使〉と呼ばれし者、〈アダム〉。

〈イヴ〉とともに〈ユグドラシル〉より生まれ、〈知恵〉を司る存在として、伝説に残っている。


だが男の腕輪に嵌っている〈アダムの欠片〉は、とてもじゃないが〝聖なるもの″という感じは全くしなかった。

すると、クゥは格子に身体をぶつけながら、大声を上げた。


「ふざけんな!アダムはあの戦争で死んだんだ!

それに、万が一生きていたとしても・・・お前らみたいな人間に力を貸すわけないだろ!」

「信じられないのも無理はない。先程目覚めた貴様にはな。だが、これは事実だ。我々はほとんどのアダムの欠片を所持している。これはアダムの意志でもある」

「アダムが・・・自らの意志で、お前らに力を貸しているだと・・・!?」

「・・・そういうことだ。我らはこの力を以って、世界を一つにする。―――それが我らの願い」

「ふざけるな!人の命を何とも思っていない奴らが世界を支配するなんて、俺は許さない!」


ネオの言葉にアレンは叫ぶ。だがネオは相変わらず冷たい瞳でこちらを見つめた。

その時、身体を拘束している炎の鎖が、身体に食い込んだ。


「ぐ・・・!」

「苦しいか、少年」

「っ、俺は・・・お前を許さない・・・!絶対に、絶対に・・・!」

「〝殺してやる″か?」

「っ・・・!」


その言葉に息を呑む。

その様子を見ると、ネオは更に笑みを零す。


「しかし・・・こんな子供が選ばれし者とはな・・・」

「なんのことだ・・・?」

「・・・知らないのか?」

「だから、なんのことだって聞いてんだ!」

「・・・・」


ネオはその言葉に、何かを考えるかのように再び顎に手を当てる。


「それより、どうして俺だけここに連れてきた⁉俺をどうするつもりだ!」


アレンは噛みつくような勢いで叫んだ。

すると、ネオは静かに立ち上がり、アレンの前に立った。


「君には力が・・・いや、素質がある」

「素質・・・?」

「そう・・・今の段階では、その言い方が正しい」

「な、なんの・・・」


アレンは目を見開きながら問うが、ネオはそれに答えなかった。

だが、クゥは何か分かったかのような表情を浮かべていた。

その時、後ろの扉が開き、一人の兵士が入ってきた。


「ネオ様。例のものを持って参りました」

「ご苦労」


そう言って後ろを振り向く。

その奥に視線を映すと、その兵士の手には一つの箱があった。

ネオはその箱の蓋を開ける。

すると、その箱の中から黒い不気味な光が放たれた。


「あれは・・・」

「・・・!」


不気味な光の中に手を伸ばし、ネオは何かを掴む。

それは、ネオの腕輪に埋め込まれている<アダムの欠片>と同じような石だった。


「これも〈アダムの欠片〉だ。つい最近発見された、な」

「何だと・・・!?」

「お前・・・それをどうするつもりだ!」


檻に捕まったまま、クゥが叫ぶ。

だが、ネオはそれを無視してアレンに向き直る。


「この光、分かるか?これが覚醒している証だ」

「覚醒?」

「この世に散らばったアダムの欠片は、それぞれ欠片のまま眠りに就いた。そして今、その欠片たちは眠りから覚め、覚醒している。いずれ全ての欠片が一つになり、真の姿へと戻るために。

だが、まだ目覚めずに眠っている欠片もある。この光が、この欠片が覚醒している証なのだ」


「それで・・・それを、どうするつもりだ・・・!」

「言っただろう。君には素質があると。

君は選ばれし者だ。星天精霊(アスタリア)が君の傍にいるのが、その証拠。

―――そこの精霊は、君が目覚めさせたのだろう?」

「俺が・・・クゥを?」


ネオの言葉に、アレンは驚く。

確かに、アレンが遺跡の地下にあったあの水晶玉を触った瞬間、その水晶玉が割れてクゥが現れた。

あれが、封印を解いた・・・ということになるんだろうか。


―――『標的の君を殺すために、この村ごと破壊したというのに』


燃え盛る村の中で、ネオは言った。

あの言い方では、まるで自分を殺すために来た・・・ということになる。


(―――選ばれし者・・・俺が?何の?一体何だっていうんだ・・・!?)


「まぁ、今はそんなことはどうでもいいか。

それに、早くしなければ、君の感情も落ち着いてきてしまう」

「なんの・・・話を・・・!」

「―――〈闇色の騎士(ナイトバロン)〉、つまりアダムの欠片を持つことが出来る者はほんの一握りだけ。一体何が欠片を持てるのかを決めるのかはまだ解明されてはいない。

だが、君ならこの欠片を持てるはずだ。君にはそれだけの素質があるのだから」

「な・・・」

「おいやめろ!そんな物、アレンには必要ねぇ!」

「必要ならあるさ。この欠片を使えば、私を殺すことだってできる」

「な、に・・・?」

「私が憎いのだろう?私を殺したいのだろう?

ならばすべてをこの欠片にゆだねろ。心も、身体も。そうすれば、楽になれる。そして、強くなれる。

何者に代えがたい力を手に入れることができる」


ネオは、アレンに顔を近づけながら静かに言う。

その一つの一つの言葉に拳を振るわせる。


(力が・・・手に、入る・・・?)


すると、ネオは不敵の笑みを浮かべ、欠片をアレンの額に当てる。


「さぁ・・・堕ちるといい、〈継承者〉よ」


ネオは欠片を持つ指に力を入れる。


―――その瞬間、〈アダムの欠片〉がアレンの額に入って行った。


「ぐ・・・!?ぐあああああぁぁl!」


(な、んだ・・・これは・・・!?)


凄まじい激痛が、アレンの身体を襲う。

それはまるで、頭の先から指の先まで、雷が走るかのような激痛だった。


「アレン!」


クゥが降りに体当たりをしながら叫ぶ。


「やめろ!そんな穢れまみれの欠片を人間なんかに埋め込んだら・・・!」

「ああ、死ぬだろうな」

「・・・・!」

「だが、それは悪まで普通の人間の話。私も、欠片を埋め込んだこの装具を身に着けることでこれを使いこなしている。

だが・・・この少年は普通ではない。そんなこと、お前が一番分かっているだろう?

星天精霊(アスタリア)・・・いや、〈導く者〉よ」

「・・・お前は・・・お前らは、どこでそれを・・・!・・・っまさか、アダム・・・!」


クゥは茫然と立ち尽くす。

その間にも、アレンの雄叫びの様な悲鳴は続いていた。


「ぐああああ、あああああぁ!」

「アレン!くそっ!」


檻から出ようと何度も体当たりするが、びくともしなかった。

その間に、〈アダムの欠片〉はもう半分ほど、アレンの体内に入っていた。


「アレン、しっかりしろ!」


クゥの言葉が、艦内に響く。

だが、その耳には声は届いていなかった。


「かはっ・・・ああ・・・・!」


(く・・・そ・・・身体が、言う事・・・聞かな・・・い・・・)


意識が朦朧とする。もう、指一本動かすことも億劫だった。


(このまま・・・身を委ねた方が・・・楽になれる・・・のか・・・)


意識が、少しずつ薄れていく。


だが―――。


―――『それでよいのか?少年』


朦朧とする意識の中、誰かの声が響いた。

凛とした、それでいてどこか穏やかな声。


(誰・・・だ・・・)


―――『黒き穢れに身を任せ、己の憎しみに心を支配させ、それでよいのか?』


すると、瞼の裏に、脳裏に、何かがちらついた。

それは、燃え盛る紅い炎。

村を燃やした赤き炎とはまた違う。

まるで、暗い夜を照らすような気高く、優しい紅き炎。


その炎を見た瞬間、アレンは思い出した。

昨夜見た、不思議な夢を。


(お前は・・・夢の・・・)


―――『我はお前をずっと見てきた。それ故、お前をこのまま闇に染まらせるわけにはいかない』


(何を、言って・・・)


―――『今のお前はお前ではないはずだ。自分をしっかり持て。自分が自分であることを忘れるな。

    今、お前を支配している感情を鎮めろ。それはお前にしかできぬことだ』


(感情を鎮める・・・それは、この憎しみを捨てろって言うのか?

―――そんなこと、できるわけない!

村の人を、そして父さんを殺したこいつを憎んで、何がいけないんだ!俺は何も間違っていない!)


静かな言葉に、頭を振るアレン。

だが、声の主は黙らなかった。


―――『ならば思い出せ。父と・・・そして母の言葉を』


(え・・・?)


その言葉に、アレンは目を見開く。


―――『いま一度思い出せ・・・お前を愛してくれた、二人の言葉を―――』


その瞬間、母のある言葉が頭をよぎった。


―――『アレン・・・本当に優しい人はね、人の痛みが分かる人のことを言うの。

そして、何があっても、人を憎んだまま生きてはいけない。

憎しみは、確かに人間が持つ感情だから、抱いてしまうのは仕方がないこと。けれど、憎しみからは何も生まれない。

どうかあなたには、人の痛みや憎しみを受け入られる子になってほしいわ』


アレンにとって、この言葉は大切な思い出だった。

子供のころは、難しくて分からなかったが、今ならその意味が分かるような気がした。


そして、父が残した言葉―――。


―――『本当の意味で、優しい心を持って生きてくれ・・・』


(父さん・・・母さん・・・)


二人の姿と言葉が、アレンの脳裏にはっきりと映し出される。


(そうだ・・・俺は・・・!)


その瞬間、身体中が燃えるように熱くなっていった。


(このままじゃ・・・ダメだ・・・俺は・・・!)


重い瞼を開き、閉ざしていた口を開く。


「お・・・俺・・・は・・・」

「・・・・?」


ネオがアレンの言葉に気づく。

―――すると、ほとんど体内に入り込んでいた〈アダムの欠片〉が、急に押し戻された。

そして、完全に押し戻された欠片は、そのまま何かに弾かれ、床へと転がる。


「なに・・・!?」


床へ転がった欠片を見つめながら、ネオは小さく声を漏らす。


「お・・・俺・・・は・・・」


すると、鎖で繋がれながらも、アレンはゆっくりと立ち上がった。

その光景に、〈黒き薔薇の剣(ナイトメア)〉たちは目を見開いた。


「俺は・・・そんな力、いらない・・・!それを手にしたら・・・父さんと、母さんとの約束を・・・破ることになる・・・!」

「アレン・・・」


真っ直ぐ見つめる紅い瞳に、クゥと、そして兵士たちが息を呑む。

男もまた、その瞳には何かを感じていた。


「だから俺は・・・お前の思い通りにはならない!二人との約束を・・・守るんだ!」


ゆっくりと言葉を繋げた瞬間、身体が燃えるように熱くなった。

身体中の血が巡り、騒いでいく。

そして、手に握られた碧いペンダントが、誰も気づかないくらいの光で、優しくそっと輝き出した―――。




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