燃え盛る村
「ったく、忘れ物に気づかないなんて鈍い奴だな」
「悪かったな。ってかお前がいきなり現れたからだろ!」
その頃、アレンは村を出て遺跡に向かっていた。
そしてクゥは、相変わらずアレンの首元に巻き付いていた。
森の中に入り、先程通った道を進む。
しばらくすると、カオスの遺跡が見えてきた。
「あれ?」
だがよく見ると、入口の前に誰かが立っていた。
遠目から見るとそれは、父・ランディだった。
「父さん!」
アレンが走りながら声を上げる。
すると、ランディはその声に顔を上げる。
「おお、アレン!」
「何だよ父さん、遺跡に来てたのか?」
「村のみんなにあいさつした後、ちょっとな」
「そっか、入れ違いになってたのかー」
「あと、アレン。これ、遺跡の中に落ちてたぞ」
ランディはそう言うと、手にしていた短剣を差し出す。
「あ、それ!今探してたとこなんだ!よかったー見つかって!」
「ちゃんと持ってなきゃダメだろ?」
「いやーさっき、遺跡でいろいろあったから、気づかなくって・・・」
「いろいろって?」
「あ、いやその・・・」
「ほー。こいつがお前の父ちゃんか?」
すると、クゥが突然アレンの首元からひょこっと顔を出した。
「のわっ!」
「んだよその色気のない声は」
「色気ってなんだ!つーか勝手に顔出すな!」
「いいじゃんか別にー!」
「お前みたいな未確認生物を説明するのには時間がいるんだ!」
「誰が未確認生物だ!俺は立派な精霊だぞ!」
「見た目は未確認生物だろ!」
「なにをー!?」
アレンとクゥはそのまま口喧嘩へと発展する。
だが、その様子をランディは沈黙したまま見つめていた。
「あ、父さん!実はこいつ、クゥなんだ!あの星天精霊のクゥなんだよ!」
「説明が雑だな!もっと敬意を表しながら説明しろよ!」
「今のどこが雑なんだよ?一番分かりやすい説明だろ!」
「クゥ・・・星天精霊の・・・」
「そうなんだよ!あの遺跡で数千年もの間、眠ってたんだって!すごいよな、俺もさっき見つけてさ!」
「人をやっと手に入れた秘宝みたいなに扱うな!何が見つけたんだーってんだこんのアホが!」
「誰がアホだよ!?」
「アホだからアホって言って・・・のわっ!?」
すると、ランディがクゥの首根っこを掴んだ。
それに驚いたクゥは、情けない声を上げる。
「父さん?」
「いきなり何するんだよ!離せー!」
だがランディは、クゥを掴んだまま黙っていた。
「どうしたんだよ、父さん?」
「・・・なるほど。確かに聞いていた通りだな」
「え?」
「でもまさか、本当にそんな姿だったとはな。何かの冗談かと思っていたが」
「え?」
「なに?」
そこまで言うと、ランディはクゥを離した。
クゥはそのまま空中に浮くと、睨むようにランディを見つめる。
「・・・今の、どういうことだ?今の言い方・・・まるで俺の姿を知っている、みたいな口ぶりだったよな」
その言葉に、アレンは目を見開かせる。
確かに今の言い方は、クゥの事を知っている口ぶりだった。
お互いに睨むように見つめ合う、クゥとランディ。
「・・・確かに俺は知っていた。お前のことを」
しばし続いた沈黙を破ったのは、ランディだった。
「お前の姿、お前の存在、そして・・・あの遺跡にあるものを」
「遺跡?」
「・・・!」
ランディの言った意味が分からずにいるアレン。
だが、クゥだけは目を見開いて驚いていた。
「あんた・・・一体何者だ・・・」
「ク、クゥ?」
表情と、そして纏う雰囲気が変わったクゥに、アレンは少しゾッとする。
だが、そんな様子を見ても、ランディは先程と何ら変わらなかった。
「俺は只の人間だ。そして、そこにいるアレンの父親。俺という存在に、何も特別な意味はない。
―――ただ俺は、ある奴から話を聞いただけだ」
「ある奴、だと?」
怪訝そうな表情を浮かべるクゥ。アレンにも訳が分からなかった。
いまこの世界で、星天精霊について知られていることはほとんどない。
姿、その能力・・・何のために二大天使から産み落とされたのか、それすら解明されていないこの世界で、ランディは一体、誰からクゥの事を聞いたというのか。
「俺のことを一体誰に聞いたんだ?悪いが今この世界で生きている奴に、俺の事を知っている奴はいない」
クゥの質問に、ランディは瞳を閉じる。その仕草に、アレンはハッとする。
それは、ランディが何かを戸惑う時の仕草だった。
すると、閉ざしていた瞳を静かに開く。
「それは言えない」
沈黙があったとは思えないほど、ランディはきっぱりと言った。
「約束したんだ、そいつと。時が来るまで誰にも言わないと」
「時が・・・来るまで?」
アレンは首をかしげるが、クゥは何かを感づいたような表情を浮かべる。
「だが―――」
そう、ランディは言いかけたその時―――。
―――ドオオオォォン!
「うわっ!?」
凄まじい轟音と地響きがあたりを襲う。森にいた鳥や他の動物たちが一斉に騒ぎ始める。
倒れぬよう何とか体勢を保っていると、やがて地響きは収まった。
「アレン、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だけど・・・今のは、一体?」
「あっちの方から聞こえたけど・・・」
クゥが森の出口―――〈エレ・ブランカ〉のある方角を指さす。
「っ、まさか!」
ランディは何かを察したような表情を浮かべると、慌てて森の外に向かった。
「父さん!」
慌ててランディの後を追うアレン。
クゥもまた、アレンの後を追うように空を飛んだ。
見慣れた道も駆け抜け、懸命にランディの後を追う。
やがて森を抜け、村と森の間に広がる草原で、ランディが立ち止まった。
「っ、父さん!」
近くまで走って近づき、息を整えながら隣に並ぶ。
だが、その父から返事はなかった。
「どうしたんだよ?なにかあ―――」
ランディの見ている方に、アレンも目をやる。
その光景に、アレンは大きく目を見開いた。
数十メートル先にある〈エレ・ブランカ〉。
そこが、赤い炎と黒い煙で覆われていたのだ。
「な・・・!」
「あれは―――!」
クゥもまた、先に見据える惨状に目を見開いた。
震える身体を何とか抑え、アレンは拳を握る。
「っ・・・みんな!」
「っ待て、アレン!」
走りだそうとするアレンを、ランディが抑える。
「離せ父さん!早く行かないとみんなが―――!」
「お前はだめだ!ここで大人しくしていろ!」
「なんでだよ!村があんなことになっているのに、黙っていられるか!」
離せ、と言って暴れるが、体格差があるのせいでうまく身動きが取れない。
ランディもまた、懸命にアレンを押さえる。
その時、暴れていたアレンの腕が、ランディの心臓あたりにヒットする。
すると、ランディは一瞬苦しげな表情を浮かべ、腕の力を抜く。
アレンはしめたとばかりにその腕を払い、村へと真っすぐ直行する。
「アレン―――くそっ!」
腕を押さえながら、ランディもまたアレンの後を追うように走り出す。
「―――っておい!お前ら!」
何の用意もしないまま、二人は村へと向かっていった。
クゥは頭を掻きながら、二人の後を追うように飛んで行った。
少し気になることがあるものの、今はそれどころではないと、クゥは頭を振った。
✤
うるさく鳴り続ける心臓を押さえながら、アレンは村の入り口あたりまで走ってきた。
―――その瞬間、目の前に広がる光景に言葉を失った。
辺りは一面火の海で、建物もシンボルである風車も燃えて崩れていた。
所々で何かを焼ける匂いもする。見ると、すぐ隣で真っ黒に燃えている人の形があった。
「な・・・な・・・!」
「こ、これは―――!」
狼狽えるアレンに比べ、落ち着いたように睨み付けるランディだが、その拳は震えて見えた。
「―――これはこれは」
その時、目の前から声が響いた。
聞こえたその声に、三人は視線を真正面に移す。
そこにいたのは、見覚えのない男たちだった。
数は十人程度で、ほとんどの者は黒い兵士のような恰好をしていた。
だが、中央に位置する長髪の男だけは、少し派手な格好をし、目元には仮面を着けていた。
「まさか生き残っている者がいるとはね」
長髪の男が口を開く。その瞬間、アレンは目を見開いた。
「お前らが・・・やったのか!?」
恐る恐る聞いたアレンの口は、震えていた。
すると、男は少し不思議そうな表情を浮かべた。
「おや?君たちはここにいたのではないのか?我々がこの村を爆撃した時に」
冷たく、だが笑みを含んだその時に、アレンは怒りに露わにした。
「―――っこの!」
アレンは掴みかかろうとしたが、ランディが後ろからその腕を押さえる。
「アレン、落ち着け!」
「落ち着いていられるか!あいつら、村の人たちを・・・!」
腕を振り払おうとするが、ランディは更に強く握りながら一歩前へと出た。
「―――なるほど、親子か。美しいね」
「それはどうも。お前らにもそんな感性があるとは知らなかったがな。―――〈黒き薔薇の剣〉さん?」
挑発的な言葉に、兵士たちは持っていた銃を構えた。
「ほぉ・・・気づいていたのか」
「気づくも何も、今この世界でこんなことやらかすのはお前らだけだろ」
ランディがそう言うと、男はすっと右手袋を外し、手の甲をこちらに向ける。
そこには、二つの剣が交差し、更に薔薇を纏っているようなタトゥーが刻まれていた。
「いかにも。我らは世界を統治する者―――〈黒き薔薇の剣〉だ」
丁寧に挨拶をするその男に、ランディは目を細めた。
だが、アレンは相手のことがよく分かっていなかった。
「〈黒き薔薇の剣〉って、なに・・・」
そうつぶやくと、いつの間にかアレンの肩に乗っていたクゥが驚きの表情を浮かべる。
「おま・・・知らないのか?」
「え?クゥは知っているのか?」
「って、俺には今を生きるお前が知らない事の方が驚きだよ!」
激しく突っ込まれるが、知らないものは知らない。
すると、隣にいるランディが頭を振った。
「知らないのは当たり前だ。この村は他の街との交流を絶っていたし、それに子供たちには伏せておいていたからな」
ランディの言う通り、この村は他の街との交流を絶ち独立―――正確に言えば孤立していた。
全ては、この先にあるカオスの遺跡を守るためである。
すると、長髪の男が再び笑みを浮かべる。
「なるほど。カオスの遺跡を守るために、 交流を絶っていたのか」
「なっ・・・!」
その言葉に、アレンは目を見開く。
「お前、どうして遺跡の事・・・」
「―――知っていて当然だ。あいつらは遺跡欲しさにこの村を襲ったんだから」
「な・・・!」
「いや、正確には遺跡欲しさじゃない。あの遺跡にあるものが欲しいんだ」
ランディがはっきりとそう言った瞬間、男と、そしてクゥが表情を変えた。
すると、男がゆっくりと口を開いた。
「貴様、何者だ?」
先程の笑みを含んだ口調と違った冷たい言葉に、アレンは寒気のようなものを感じる。
「何者、とは?」
「そのままの意味だ。貴様、何者だ?」
「お前たちには関係のないことだ」
ランディはそう言うと、男を睨み付ける。
その時、ランディの背後の木材大きな音を立てて崩れる。
「危ない!」
アレンは叫ぶと、ランディを押し倒して身体ごと突っ込む。
その瞬間、背中から焼け付く痛みが全身を襲った。
「ぐわあ!」
「アレン!」
ランディは慌てて木材を退ける。アレンの背中の服は焦げ、背中が丸見えになっていた。
そしてその肌には、痛々しい火傷が刻まれていた。
「しっかりしろ、アレン!」
「おい、大丈夫か!?」
クゥも慌ててアレンの元に近寄る。
「し、白いイタチ・・・!?」
「まさか、あれは―――!」
クゥの姿を見て〈黒き薔薇の剣〉の兵士少し驚く。
だが男は逆に笑みを深めた。
「ほぅ・・・貴様は〈大地と刹那〉のクゥか?」
「―――お前も俺の事を知ってるのな」
キッと睨み付けながら言うクゥに、男は更に笑みを深める。
「貴様がここにいるということは―――」
クゥから視線を移すと、今度はアレンを見つめる。
アレンは火傷の痛みに耐えながらその目を睨み返した。
「おい」
「はっ」
一人の兵士が男に呼ばれ、そっと近づく。
「ここに来るまで、カオスの遺跡に変化はなかったか?」
「はい。何も異常はありませんでした」
「そうか・・・」
男はそう言いながら、目元のマスクに手をやる。
「―――遺跡には何の変化もない。しかし星天精霊は目覚めている。
ということは―――」
マスクから見える銀色の瞳が、アレンを捉える。
「なるほど。君が〈継承者〉ということか。―――まぁ、まだ目覚めていないようだが」
すると、周りの兵士たちが持っていた銃を一斉に向けてきた。
「な、なに言ってんだ・・・お前・・・!」
背中の火傷に耐えながら、アレンは立ち上がる。
「皮肉なものだな。標的である君を殺すために、この村ごと破壊したというのに。その君が、まだこうして生きているとは」
「え・・・」
紡がれた言葉に目を見開く。
ランディは男を睨み返すと、腰にある短剣を取り出した。
「だが、これは運がいいと言うべきかな。―――君をこの手で殺せるのだから」
そう言って、男は右腕を前に突き出す。
その手首には、禍々しい黒い石が埋め込まれた腕輪が嵌められていた。
「―――それは・・・!?」
その石を見た瞬間、クゥが顔色を変える。
黒い光線は、真っ直ぐにアレンを向かっていく。
アレンは避けようとするが、背中に痛みが走り動けなかった。
「アレン!」
その場に座り込むアレンを、ランディは思い切り押し倒す。
押し倒されたアレンは、地面に転ぶと、急いで顔を上げた。
そこには映っていたのは、黒い光線で胸を貫かれたランディだった。
「が・・・はっ・・・!」
「―――父さん!」
アレンは倒れこむ前にランディを受け止める。クゥもしまったと声を漏らして近寄る。
「父さん!しっかりしろ!父さん!」
軽く揺すって声をかける。すると、痛々しく表情歪ませながら、ランディはゆっくりと瞳は向けた。
「アレン・・・怪我・・・は・・・」
「俺の事より父さんだ!いま手当を―――」
「無理だ・・・もう・・・身体の、感・・・覚が・・・ない・・・」
「そ、そんな・・・!」
「おい、おっちゃん!しっかりしろ!」
クゥが傷口に手を当てる。ほのかな光が傷口を覆って行く。
だが、その光は黒い何かを阻まれてすぐ消えてしまった。
「な!」
「ど、どうしたんだクゥ?」
「―――治癒魔法が効かない!バカな、どうして・・・!」
そう言って、クゥは男の方を向く。その手首は嵌められている金色の腕輪―――。
「まさか・・・あれは・・・!」
ぐっと悔しそうに唇を結ぶクゥ。
その表情から、クゥにもこの傷は治せないのだと悟った。
「アレン・・・よく・・・聞け・・・!」
「父さん、もうしゃべるな!」
「っこれ、を・・・!」
すると、ランディは痛む身体を押さえながら、アレンに手を突き出した。
そこには、碧い輝晶のペンダントがあった。
「これって・・・」
「・・・母さんの・・・形見・・・だ」
渡されたペンダントを見つめる。
それは傷一つない、美しい輝昌だった。
「アレン・・・お前は・・・生きろ・・・!
お前は・・・ここで・・・死んでいい人間じゃない・・・!」
「そんな・・・父さんだって、この村の人たちだって、死んでいい人間じゃない!なのにどうして・・・こんな・・・!」
自然に溢れてくる涙を、アレンを堪えることが出来なかった。
すると、ランディが血だらけになった大きな手を、そっと顔に当ててきた。
「アレン・・・お前がこれから歩む道は、辛く険しいものだ・・・。けれど・・・絶対に諦めるな・・・何があっても・・・。そして、本当の意味で、優しい心を持って、生きてくれ・・・。
例え・・・お前が何者で・・・どんな力を持っていたとしても・・・!」
「え・・・」
ランディはそう言うと、そっとクゥに視線を移した。
「・・・クゥよ。どうかアレンを・・・息子を頼む・・・」
クゥはその言葉に目を見開くが、何も言わずにそっと頷いた。
ランディは満足そうに微笑むと、アレンを真っ直ぐ見つめる。
「生き続けろ・・・アレ・・・ン・・・」
一筋の涙が、ランディの頬を伝う。
それと同時に、ランディの瞳は閉ざされ、手もそっと地面に落ちていった。
「・・・父さん?」
静かに声をかける。しかし、もはや返事はなかった。
胸も上下していなく、口も堅く閉ざされていた。
―――その瞬間、父が死んだことを理解した。
「っ・・・父さ――――ん!」
ランディの胸に顔を埋めながら、アレンは号泣した。紅い瞳から、とめどなく涙が溢れてくる。
クゥも静かに息を引き取ったランディから目を逸らし、悔しそうな表情を浮かべた。
瞬間、再び黒い光線がアレンたちを狙う。
「くそ!」
クゥは即反応すると、渾身の力を込めて結界魔法を発動する。
当たった瞬間、結界に罅が生えたが、それだけで何とか留まった。
「ハァ、ハァ・・・!」
そっと魔法を解くと、右腕を前に出した男が笑みを浮かべていた。
「すぐに父親と同じ場所に逝かせてあげようと思ったのだが」
「ふざけるな!このイカレ野郎が!」
村人全員を殺した男は、まるで楽しそうに笑っていた。
「親子愛、と言うんだろうね。羨ましいな。私にはそんなものは存在しなかったから」
「だろうな。普通の家庭で生まれた野郎が、こんな風に育つわけねーだろ」
皮肉を込めてクゥは吐き捨てる。目の前にいるのが本当の人間なのかも疑う程だった。
その時、クゥの後ろにいたアレンがふらりと立ち上がる。
「アレン?」
そっと振り向いてアレンを見つめる。だが、その瞳にクゥは息を呑んだ。
「どうした、少年?何か言いたいことでもあるのか?」
男はわざと挑発するように問いかける。クゥは耳が腐るとさえ思った。
「―――よくも・・・よくも、父さんを・・・!それに・・・村のみんなも・・・!」
ふらりと前に歩き出す。その瞳に映るのは、怒りと憎しみだけだった。
そしてアレンは、凄まじい咆哮を上げて男には襲い掛かった。
「アレン!」
クゥが声を上げるが、アレンは既に男の近くまで攻めていた。
すると、一人の兵士が杖を取り出し、ブツブツと何かを唱え始めた。
その瞬間、炎の中から赤色の鎖に現れ、アレンの身体を拘束した。
「ぐ・・・な、なに・・・!」
「あれは、魔法・・・!」
炎の鎖を見つめながら、クゥが呟く。
「そう。自然の力を借り、自然の力を具現化する力―――」
すると、男が言い終わらないうちにアレンは完全に跪いてしまった。
「このっ!」
クゥが片手を〈黒き薔薇の剣〉たちに翳す。だがそれよりも早く、不思議な七色の光を帯びた檻のような物がクゥを捕らえた。
「な、なんだこりゃ!?」
「〈精霊の牢獄〉・・・我が組織を開発した、対精霊捕獲用の〈魔導器〉だ」
「精霊捕獲用・・・だとぉ⁉」
クゥは檻に向かって頭突きをするが、その檻はびくともしなかった。
「クゥ・・・!」
「その様子だと、つい先程目覚めた・・・という所か。それではその檻は破れまい」
「てめぇ・・・!」
アレンは何とかクゥの下に向かおうとするが、赤い鎖に捕らわれて力が入らなかった。
その上、熱を帯びているのか、鎖が巻き付いている部分が熱かった。
「くそ・・・!」
じわじわと迫りくるその熱に、アレンは顔をしかめる。
すると、仮面の男がそっとこちらに歩み寄ってきた。
「ほぉ・・・選ばれた子供が、こんな表情を浮かべるとはな・・・。これは、素質があるかもしれん」
「お前・・・これを外せ!」
男に向かってそう吠えるが、男はそれを無視し、不敵な笑みを浮かべる。
「―――全員、戦艦に帰還。この少年と星天精霊は拘束し、連行する」
仮面の男は、マントを翻しながらそう言う。
だがその言葉に、兵士たちは驚いたような表情を浮かべる。
「しかし、こいつはおそらく我々の標的です」
「標的は全員始末するというのが、本部からの命ですが・・・」
「この少年は〝こちら側〟の素質があるかもしれん。
何もせずただ殺すのは勿体ない・・・そうは思わないか?」
仮面の男がそう言うと、兵士は戸惑いながらも敬礼をする。
その敬礼を確認すると、男は再びアレンに向き合い、うずくまっているアレンの前髪を掴み、そのまま顔を上げさせる。
「ぐ・・・!」
「さぁ・・・来てもらうぞ少年。我らの船へ」
その言葉に合わせるように、燃え盛る村の上空に、一隻の戦艦が現れる。
その黒い戦艦は、まるで世界の終りの象徴に見えた―――。