表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十二闘士の継承者  作者: イヴ
第一章 炎の闘士・カオス
5/13

精霊・クゥ



―――炎の闘士・カオスの遺跡を守護する、大きな風車がシンボルの村、〈エレ・ブランカ〉。

自然と共に生き、平和に暮らすその村の西方に、何とも似合いがたい真っ黒い戦艦が浮かんでいた。

その船体には、薔薇を纏う黒き剣が深く刻まれていた。

その中では、兵士たちはただ作業をこなしていた。

ただ一人―――中央に腰を据えている男を除いては。


「―――ネオ様」


一人の兵士が、中央の男に話しかける。男はゆっくりと、その兵士に顔を向けた。


「状況は?」

「ハッ。未だに異常はありません」

「カオスの遺跡は?」

「変わりありません」

「そうか。作業を続けたまえ」


男がそう言うと、兵士は元の位置に戻る。

他の兵士たちも、必要なこと以外は何も話さず、ただ作業を行っている。

すると、男がすっと椅子から立ち上がり、数歩前に出た。

そして、右腕を前に出し、何かを掴むように拳を握る。

まるで、先に見据えているものを手に入れるかのように。


「ようやく会えるな―――カオスよ」


その小さな言葉は、他の者の耳には届かず、ただ静かに消えていった。

その手首にある金色の腕輪の黒き石が、不気味な光を放っていた。




       ✤




「ただいまー」


アレンは、そっと家の扉を開ける。何かこそこそするような、そんな様子で。

まぁ、ある意味こそこそしてはいるのだが。

だが、家の中からは返事がなかった。

父・ランディは家を空けているようだった。


「父さん、出かけているのか」


アレンはホッと息を吐くと、そのまま階段を上がり、自分の部屋に入る。

そして、机に荷物を置き、そのチャックを開ける。


「ぶっはー!」


すると、その中からものすごい勢いで何かが飛び出してきた。


「あーきっつ!お前、荷物多すぎ!」

「しょーがないだろ!大体、この中に生き物入れる予定なかったんだから!」


空中で飛び回るそれは、白いイタチのような姿。

胴体は白く、瞳は黄金色。そして首には碧色の数珠。

目の前にいるそれは、この世界に数多く存在している精霊だった。


それも、ただの精霊ではない。


本来、自然界の中で生まれるはずの精霊の中で、唯一 この世界の神より生まれし精霊の王・〈星天精霊(アスタリア)〉。

そう。今目の前にいるこの奇妙な白いイタチは、そのうちの一人である、〈大地と刹那〉を司る、クゥなのだ。

とは言っても、伝説ではその姿まで記録されていなかったので、出逢った時、すぐにクゥとは気づかなかったが。

・・・それに、白いイタチというのはなかなかパンチがありすぎる。


クゥと出会ったのは、つい先刻。この〈エレ・ブランカ〉が代々守り続けてきた東の森にある遺跡の中だった。

その遺跡とは、かつてこの世界を異界の闇から救った英雄、〈古代の十二闘士〉の一人である、炎の闘士・カオスの遺跡だ。

その遺跡が好きなアレンが、いつも通り遺跡に入ると、今まで見たことの無かった地下の部屋へと続く階段が現れ、その地下の部屋にあった水晶玉の中に、クゥは封印されていたらしい。

そしてそれが、つい先ほど目覚めた、ということらしいのだ。

そして、そのままクゥはこうして家まで一緒に来たというわけなのだが―――。


「ここがお前の部屋か~。せまいな」

「一言余計だな!」


部屋をきょろきょろしながら言うクゥに突っ込む。

だがよほど興味があるのか、クゥはその言葉を無視して部屋中を見回した。


「そんなに珍しいか?」

「珍しいっつーか、久しぶりだからな。この目でいろいろ見るのは」

「久しぶり・・・」


そういえば、クゥはかの〈聖魔大戦〉を終えた後、眠りについたと言われている。

それがいつ頃なのか定かではないが、少なくとも、千年単位の昔話だとされている。

つまり、クゥは千年単位で眠りに就いていたという事だ。


「なぁ、クゥはずっと眠ってたんだよな?」

「ん?ああ。さっきまでずーっとな」

「それが何で目覚たんだよ?」


アレンのその問いに、クゥは瞳を伏せる。

その一瞬の間に、クゥの周りの空気が変わる。


「・・・お前が現れた、からだよ」

「え?」

「なんでもねーよ」


小さく呟かれた言葉に首を傾げるが、クゥが他のものに夢中になったので、何も言わなかった。


「お?これは・・・」


すると、クゥは机の上にある一冊の本に目を向けた。


「これって・・・」

「ん?ああ、〈始祖の聖典〉だよ」

「〈始祖の聖典〉?これが・・・」

「知ってるのか?」

「まぁ、どんなもんくらいは・・・ちょっと見せろ」


クゥはそう言うと、食いつくようにその本に身体を向けた。

しかし、身体が小さいせいで、本の中に身体を埋めるような形になっている。


「ぶっ!」

その恰好がおかしくて、アレンはつい噴き出してしまう。

その声が聞こえたのか、クゥは物っ凄く不機嫌そうな表情を浮かべた。


「おい!いま笑ったか!?」

「だって、恰好がさ・・・!」

「お前・・・!」


眉をぴくぴくさせると、クゥは小さな人差し指を立てた。

するとその瞬間、赤紫色(レッド・パープル)の不思議な文字がクゥの身体を纏った。


「―――〈重力の楔(グラビティ・センス)〉」


クゥが何かを唱える。

―――その瞬間、部屋の中に置いてあった本、ペンなどが空中に浮き始めた。


「な、なんだ!?」


空中に浮かんでいる物を見つめながら、アレンは目を見開く。

それも、ただ浮かんでいるだけではない。空中であっちこっちに、まるで生き物のように浮かんでいる。


「これは、一体・・・」

「〈魔法〉だよ」

「魔法・・・これが・・・!」


始めて見るこの世界の〈奇跡〉に、アレンは驚く。

あらゆる自然現象や法則を実現、または利用する―――それが〈魔法〉だ。


「すげぇ・・・ってか何してんだよ!」

「お前が笑うからだろ!ほれほれ~!」


そう言って、クゥは指をくるくると回す。

すると、それに合わせるかのように浮いている物もくるくると回り始めた。

それも、狭い部屋の中でだ。


「あああ!ちょ、待った、ストップ!ごめん、謝るから!」


アレンが手を合わせながら謝る。


「ま、いいだろ」


そう言って、クゥは手を下ろす。

すると、クゥを纏う不思議な文字も消えた。

瞬間、浮いている物が一斉に落下してきた。


「うわあああ!」


大量の物が一斉に落ちてきたせいで、アレンは埋もれてしまった。

床一面に物が散らばり、その間からアレンの手がピクピクと動く。

そして、勢いをつけてその間から顔を上げた。


「はぁ、はぁ・・・何すんだよ!?」

「俺をバカにするからこうなるんだ」

「ったく・・・!」


何とか這い上がり、辺りを見回す。

これを片付けるのは、なかなか骨が折れそうだ。




       ✤




「―――はぁ、やっと片付いたー」


最後の本を棚に戻し、一息つく。

クゥの魔法のお蔭で、部屋の中はぐちゃぐちゃになった。

今しがた片付け終わったが、案の定クゥはずっと〈始祖の聖典〉を読み漁っていた。


「ったく、少しは手伝ってくれよなー」

「元はと言えば、お前が俺をバカにするからだろ!」


尻尾を揺らしながら言うクゥ。

それを見て、再び息を吐く。


「なぁアレン。この本なんだけど・・・」

「え?」

「この本、いつ頃に書かれたものなのか、分からないんだよな?」


クゥは本を閉じ、表紙を指しながら言う。

「ああ。〈始祖の聖典〉に関しては解明されてないことの方が多いんだ。

著者も不明だし・・・でも、原本の状態や使われている文字から、世界最古の本じゃないかって言われてる」

「世界最古の本・・・」


表紙を見つめ、何かを考えるようにするクゥ。


「ていうかクゥ。お前精霊なんだから、お前の方が詳しいんじゃないのかよ?」

「少なくともこれは、俺が眠りに就く前にはなかった。

いや、そもそも本自体が、俺が眠りに就く前には存在していなかった。

だけど、この内容は・・・」

「どうかしたのか?」

「・・・いや、別に。・・・これは写本なんだよな?」

「ああ。原本は〈アルタイル王国〉の王都・〈レヴェル〉にあるんだ。

と言っても、国王の許可がないと、閲覧はできないけど」

「ふーん・・・」

「それがなにか・・・」

「いや、何でもねぇ」


クゥはそう言うと、今度は本棚に行き、先程片付けた本に目を向けた。


「ていうか何で、自分が眠りに就いた後にできた本の事知ってるんだよ?」


先ほどの言葉だと、〈始祖の聖典〉はクゥが眠りに就いた後にできた本という事になる。

だが、クゥは〈始祖の聖典〉の存在は知っていた。


すると、クゥが「ああ、」と前置きして口を開く。


「俺たちにはこの世界の情報が蓄積されているから、ある程度の事なら知ってるぞ。もちろん、眠りに就く前の俺の記憶もしっかり残っている」

「要するに、ここ最近の歴史や、一般的なことは理解してるってことか?」

「そういうこと」

「なるほどな」


アレンはそう言って、腰に手を当てる。

―――その時、ぎゅるると言う音が聞こえた。


「え?」

「たぁー、腹減ったぁー!」


すると、クゥは本の上でぐったりとなる。

先ほどの音は、クゥの腹の虫の音だった。


「なぁー、なんか食いモンくれよー腹減ったよぉー」

「腹減ったって・・・お前、精霊のくせに腹なんか減るのかよ?」

「俺たち星天精霊(アスタリア)は特別な精霊なんだー。だから、人間みたいに腹も減るし、寝るし。まぁ、別段食わなくても死ぬってことはねーけど」

「そうなのか・・・」

「でも減るもんは減るし・・・なぁ、何か食いもんー!」

「わ、分かったよ。丁度昼時だし、なんか作るよ」


アレンはそう言って、下の階に降りる。

そして、そのまま台所に立ち、調理を始める。

野菜を細かく切り、肉も切る。

そして米をとぎ、一緒に炒める。

黄金色になるまで炒め、それを二つの皿に盛りつける。

クゥがどれほど食べるのか分からなかったが、とりあえず同じ皿に盛った。


「おおー!うまそー!」


すると、いつの間に降りてきたのか、すぐ横にクゥが浮かんでいた。


「これ、ピラフか?」

「ああ。簡単なものだけど」

「食えるなら何でもいいよ」


アレンは二つの皿をテーブルに置く。


「じゃ、いただきます」

「いっただきまーす!」


クゥはそう言うと、皿に身体を埋めるように食い漁る。

顔がパンパンになるほどにそれを口に入れ、頬張る。


「ひょれしゅぎょくひゅまいなぁ(これすごくうまいな)」

「お前、飲み込んでから話せよ」


アレンはそう言うも、クゥは止まることなくピラフにかぶりつく。

よほど腹が空いていたのだろう。まぁ、何千年もの間眠っていたのだから、仕方がないが。

そして約五分後、クゥはアレンと同じだけの量を食べきっていた。


「たぁー、食った食った!」

「早いな!もう少し味わって食べろよ!数千年ぶりの食事だろ!?」

「ちゃんと味わったよ。しかしお前、男のくせに料理できるんだな」


パンパンに膨れた腹をさすりながら言うクゥ。

その様子に呆れながら、アレンはため息を吐く。


「まぁ、父さんは家にいること少ないからな。俺が家のことをするしかないんだ」

「お前の親父さんは何してるんだ?」

「世界中を旅してるんだよ。なんで旅をしているのか、理由は分からないけど」

「何だそれ。なんで知らないんだ?」

「理由を聞いても、〝世界を見たい″ってしか言わないんだ。俺はそれだけじゃないと思うんだけどな」

「ふーん・・・」

「今は帰ってきてるけど、またどこか出かけてるみたいだな。たぶん村の皆に挨拶にでも行ってるんだろうけど」


「ほぉー」


そう説明するが、クゥは興味がないのかやる気のない返事をする。

その態度に、少し眉間をピクリとさせる。

だがその時、腰にあるはずの短剣(ナイフ)がないことに気が付く。


「あれ?短剣(ナイフ)が・・・」

「どした?」

「腰にあった短剣(ナイフ)がないんだ・・・もしかすると、遺跡に落としてきたのかも」

「お前、短剣(ナイフ)なんか持ってんのか?」

「ああ、父さんから教わっててな」


取りに行くか、と椅子から立ち上がる。

すると、クゥがアレンの首元に巻き付いてくる。


「わっ、何だよ?」

「俺も行く」

「え?別についてこなくても・・・」

「いいから、ほれ」

「ほれって・・・」


そう言って、首元から離れそうにないので、アレンはそのまま家を出た。




       ✤




「これは・・・」


〈エレ・ブランカ〉の東の森にある、カオスの遺跡。

その遺跡に、アレンの父・ランディがいた。

そして、いま目の前にあるのは、カオスの石像。

そして、地下へと続く階段。


「この階段・・・まさか・・・」


ランディは、その階段を見つめると、静かに降りていく。

その先にあったのは、一つの扉。

だがその扉は微かに開かれていた。ランディは、その中へと入って行く。

そこに広がるのは、台座が一つ静かに置かれている部屋。

その台座には、粉々砕かれた何か。

恐らく、水晶玉のような物。その色は濁った白のようだった。

ランディは、その欠片を一つ掴むと、目の前まで持ち上げる。


「・・・間違いない・・・だとしたら」


その時、足元でカシャンという金属音が鳴った。

目を向けると、そこには一本の短剣(ナイフ)があった。

「この短剣(ナイフ)は・・・」

拾い上げ、それを見つめる。

それは、紛れもなくアレンの物だった。

アレンの物がここに落ちている―――それだけで、ランディは全てを悟った。


「やはり、あいつの言ったことは・・・全て・・・」


ランディはそうつぶやくと、片方の拳を強く握りしめた―――。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ