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十二闘士の継承者  作者: イヴ
第一章 炎の闘士・カオス
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出逢い


古代の十二闘士、〈灼熱と混沌〉を司る炎の闘士・カオスの遺跡。

その遺跡の扉の前には、炎を纏った二頭の獣人の像が、お互いを睨み合っていた。

これらは古代の人々の創造で造られたもので、扉の上にはサラマンダーの輝晶(クリアス)が輝いていた。

アレンは慣れた手つきで扉を開ける。外見に比べ中はとても広く、広々とした空間がそこにはあった。

壁には多くの装飾やステンドグラスが飾られており、〈聖魔大戦〉のレリーフも描かれていた。

そして何より目につくのは、部屋の中央に聳え立つ一つの石像―――。


「これがカオス、なんだよな」


目の前にある石像――それこそが、古代の人々が創り上げた、カオスの石像だった。

石像なので灰色だが、〈始祖の聖典〉によれば紅い装甲に鋭い青い瞳、背中には燃え盛る炎の翼があったと書かれていた。この石像も、背中に羽を生やした獣人のような姿をしていた。

そしてその右手にあるのが、カオスの武器、〈紅蓮を纏う剣ブレイズ・ファルシオン〉だった。

カオスは勇猛果敢な闘士であり、十二闘士最強の存在だったらしい。


アレンは石像の前に座ると、見上げるようにカオスの石像を見つめた。

異世界より現れ、世界を救ってくれた救世主。

〈古代の十二闘士〉がいなかったら、今頃この世界は存在しいていなかっただろう。

アレンの村は、この遺跡を守る役目を持っており、この森の精霊たちも村人以外はほとんど近づけないようにしてくれていた。その礼として、毎年決まった日に精霊に供物を奉納しているのだ。

それによって、この遺跡の存在は守られていた。カオスの遺跡のことを知っているのは、文字通り〈エレ・ブランカ〉の者たちだけだった。

もちろん、世界に既に知られている十二闘士の遺跡はいくつかある。

けれど昔、村の人たちが遺跡を見つけた時、世界では遺跡を荒らし、眠っている宝を奪う盗賊が多発していた。

そういう者たちから守るために、村の人たちは遺跡の存在を隠すことを選んだのだと、村長から聞いたことがあった。

アレンは上半身を起こすと、再び遺跡の中を見通した。

するとその時、後ろで何かの気配を感じた。


「誰だ?」


振り向くが、そこには誰もいなかった。


「気のせい・・・か?」


そう思った瞬間、肩に、何かが触れたような感覚がした。

それに驚き、バッと振り返る。


「え・・?」


目の前の光景に、アレンは目を見開く。

そこには一人の女性が立っていた。

だがその女性は、何かがおかしかった。

その身体は光に包まれ、そして本来、人が立っていれば見えないはずの後ろの光景が透けて見えていた。


「え、あ、な、なに・・・!?」


目の前の出来事にあたふたするアレン。

だが、女性はゆっくりと後ろにあるカオスの石像を指差す。

否。正確にはカオスの石像の土台になっている部分を指差していた。


「え、なに・・・?」


恐る恐る、指さす方向を見る。

その時、目の前に小さな紅い光が輝いた。


「・・・何だ?」


不思議に思い、その紅い光に近づく。

それは、カオスの石像の土台に嵌っている小さな紅い石だった。


「こんな所に・・・」


驚きの声を漏らしながら、まじまじと見つめる。


『それに・・・触れて・・・』


その時、透き通った美しい女性の声が響く。

その声に驚き、再び勢いよく振り返る。

だが、そこには先程の女性はいなかった。


「消えた・・・?・・・て、いうか・・・今のは・・・」


突如現れ、消えた。しかも、身体は光っていて透けていた。

もしかして、もしかしなくても、今のは―――。

そこまで考えると、アレンはさぁーっと顔を青くした。


「なななななんだよ!?今のはマジで!」


幽霊とか生まれてこの方見たことがない。

いきなりの出来事にあたふたしていると、再びあの紅い石の光が視界を掠める。


「・・・これに触れって、言ってたよ・・・な?」


恐る恐る手を伸ばし、息を呑む。

そして、深呼吸をすると、そっと紅い石に触れる。

すると、カオスの瞳が紅く輝き、遺跡全体に地響きが起こった。


「―――え?な、何だ!?」


突然の地響きに驚愕する。すると、目の前にあるカオスの石像が突然後ろに移動し始めた。


「なっ―――」


その時、目の前に小さな紅い光が輝いた。

今まで起こらなかった現象にアレンは驚く。

何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。

しばらくすると、移動した石像は止まり、遺跡の地響きも収まった。


「何なんだ・・・一体・・・」


石像のあった場所まで近づくと、そこには地下へと通じる階段があった。


「これは・・・」


ぐっと拳を握ると、アレンは地下へと続く階段に足を踏み入れた。

大人一人が入れるほどの広さを慎重に進む。

不思議と中は明るかったので、転ぶこともなかった。

階段を終えた先に、大きな扉が見えた。一度扉の前で立ち止まり、息を呑んでから扉に手をかける。

古びた音を立てながら、扉は開いていく。そこには少しだけ広い空間があり、その中央には虹色の水晶玉が置かれている台座があった。


「何だ?この部屋は・・・」


古代文字でびっしり埋め尽くされている壁を見回しながら、中央の台座に近づく。

考古学者ではないアレンには、この失われた文字を読むことは出来なかった。

目の前の水晶玉に目をやる。よく見ると、小さな青い炎が水晶玉の中で燃えていた。


「これ、何だ?」


興味本位でその水晶玉に触れる。

―――その瞬間、水晶玉が虹色の光を放ち始めた。


「うわっ!」


あまりの眩しさに、アレンは目をつむる。部屋全体が光に包まれ、それに呼応するかのように、壁の古代文字も輝きだし、その文字が水晶玉に吸い込まれていった。


「な・・・!」


壁の文字が全て吸い込まれていく。すると、右手に触れている水晶玉に小さな罅が生じた。

そして光がさらに強まった瞬間、水晶玉は激しい音を立てて砕け散った。


「うわっ!」


小さな衝撃により、アレンは後ろに倒れこむ。

そして、割れた水晶玉から何か別の物体が現れた。


「なっ・・・!」


光に包まれた物体は、徐々にその姿を現し始めた。

長い胴体に、小さな頭と腕―――。


「ななな・・・!」


アレンはあんぐり口を開いたまま、その物体を見つめる。

そこに現れたのは、首に碧い数珠をつけた白いイタチの姿をした生き物だった。


「・・・ん・・・ふぁ・・・?」


白いイタチは、浮かんだまま目を開けた。その瞳は、キラキラとした金色だった。


「・・・ふわぁー、よく寝たぁー!」


ん――っと大きく胴体を反らしながら、イタチは眠たそうな目をこする。


「今いつだ?つーかなんで目覚めたんだ俺?ていうかここどこだっけ?」


きょろきょろと辺りを見回していると、イタチに目が座り込んでいるアレンを捉えた。


「人間のガキ?何でこんなトコに・・・まさか・・・お前が俺を目覚めさせたのか!?」


イタチは金色の瞳をぱちくりさせる。だがアレンは、その呼びかけに応えられなかった。


「そうかお前が・・・つーかどうしたんだお前?そんな死にかけのフナみたいなツラしやがって」


そう言ってアレンの目の前まで来ると、不思議そうな顔をイタチは浮かべる。

だが、アレンはもう我慢できなくなった。


「イ・・・イタチがしゃべった――!」


アレンはイタチに向かってあらん限りの声をあげた。

この世界、人間の言葉を話す幻獣や魔獣はいくらでもいるが、しゃべる白いイタチなど聞いたことがない。

だが、目の前にいるイタチは小さな身体をわなわなと奮わせていた。


「誰がイタチじゃこら!俺は〈星天精霊(アスタリア)〉のクゥだ!そんな気色悪いみたいな目つきで見るのは止めやがれ!」

頭から煙が出る勢いで怒っているが、身体が小さいのでイマイチ迫力がなかった。

だがアレンは、その名前を聞いて目を見開く。


「クゥ・・・?クゥってあの〈古代の十二闘士〉と一緒に戦った、精霊の・・・!」

目の前にいる小さなイタチを指さしながら驚く。


星天精霊(アスタリア)〉―――それは二大天使から生み出された高位の精霊。

研究者によると、一般的に精霊とは、自然界の中で生まれる存在であるらしい。

しかし星天精霊(アスタリア)は、唯一二大天使から生み出された特別な精霊だと言われている。

〈古代の十二闘士〉たちと共に〈聖魔大戦〉を勝ち抜き、多種多様な魔法を使って多くの精霊を導いたことから、〝精霊の王″とも呼ばれている。

星天精霊(アスタリア)と総称されている精霊は、〈アダム〉から生み出されたという、〈天空と楼閣〉を司るレンと、〈イヴ〉から生み出されたという、〈大地と刹那〉を司るクゥがいる。

確かに目の前にいるのが精霊ならば、この白いイタチの姿にも納得がいく。

精霊は様々な姿をしているが、その姿を見ることはほとんど出来ない。

しかし、目の前にいるイタチが、あの〈聖魔大戦〉を勝ち抜いた伝説の精霊だとは思えなかった。

なんというか・・・そんな覇気が全く感じられなかった。


「お前、本当にあのクゥ・・・なのか?」


あからさまに疑ってますという瞳でクゥを見つめる。


「ほ・ん・も・のだ!なんならここで魔法をぶっ放してもいいんだぞ?」


すると、ガチ本気の瞳でクゥが言う。


その殺気に、アレンは慌てて言い直す。


「わ、悪かった!信じる、信じるよ!」


参ったと言うように、アレンは両手をあげた。

本物のクゥでなかったとしても、目の前にいるのは間違いなく精霊だ。

こんな地下室で暴れられたら一溜りもない。


「分かればいいんだ」


立てていた小さな指を下しながら、クゥは胸を張る。

とりあえずホッと胸を撫で下ろしながら、アレンはクゥを見つめる。


「でも、なんで伝説の精霊がイタチの姿なんだよ?」

「これは俺の本当の姿じゃない。俺の本当の姿は、この〈封印珠(シープ・ジュエリー)〉で封じ込まれている」

封印珠(シープ・ジュエリー)?それって〈始祖の聖典〉に載っている〈古代魔装具(アーティファクト)〉・・・」

「〈始祖の聖典〉を読んでるのか?まぁ、読んでいない方がこの時代では珍しいのか」

「・・・ていうか普通に話してるけど、なんで伝説の精霊がこんなところにいるんだ?

確かクゥとレンも眠りに就いたって書いてあったけど・・・」


アレンは顎に手を当てながら首をかしげる。クゥは腕を組みながらはぁーっとため息を吐いた。


「だからここで眠ってたんだよ。何千年もな」

「ここで!?」


しれっと言われた爆弾発言に、思わず声をあげる。

まさか村が守り続けてきた遺跡に、伝説の精霊が眠っていたなんて思ってもいなかった。

すると、クゥがじぃーっとアレンを見つめる。


「な、何だよ?」

「お前・・・いや、何でもない」


首をかしげながらもクゥは顔を反らした。その行動にアレンも首を傾げる。

その時、アレンは先程、上の階で見た女性の幽霊のことを思い出した。


(あの人の言った通り、あの紅い石に触れたら、地下の階段が現れて、その地下室には星天精霊(アスタリア)がいた・・・なんだ?一体何がどうなって・・・)


そもそも、先程の女性は何者なのか。幽霊なのか、それとも何か・・・。

アレンは目の前で欠伸をしている一瞥すると、再び首を傾げた。


だがアレンのその様子を、星天精霊アスタリアのクゥは見つめ、そして考えていた。

この少年に秘められた、大いなる力について―――。




       ✤




―――同時刻。

「ネオ様。見えて参りました」

「あれが・・・」

「はい。炎の闘士・カオスの遺跡を守護する村、〈エレ・ブランカ〉です」

〈エレ・ブランカ〉の西方に、大きな黒い戦艦が空を覆っていた。

その船体には、薔薇を纏った黒き剣のマークが刻まれていた。

「美しき村、〈エレ・ブランカ〉―――悪いが消えてもらうぞ」

黒い長髪の男が、不敵な笑みを浮かべた。

仮面の下に見える瞳は、驚くほど冷たいものだった。







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