6 踊らされていた私。
翌朝、私はいつも通り、レジェス殿下の部屋に向かう。
王子には同性の従者が付くのが通常だ。
従者は常に王子の傍に付き、部屋はその隣であることが多い。
私がビビアナ殿下の従者の時はそうであった。
しかし、異性ということで、私の部屋はレジェス殿下の部屋より少し遠く、しかも役目も日中だけで、私が付いていないときは他の者が従者としてつく。
気持ち的にやっぱりお飾り従者の気がするが、日中はレジェス殿下の傍に控え、がんばってきたつもりだ。
だが、今朝行くとレジェス殿下は不在で、私の休暇が申し渡された。
休暇、解雇なのだろうか。
2週間ほど休暇を取るようにと、レジェス殿下のお言葉ということ。
私は自室に戻ると身支度を整えて、実家に戻った。
これでもうここには戻らないかもしれないと、結構大きな荷物になってしまった。
実家に戻るとなぜかすでに知らせが届いていたようで、休暇のことで驚かれることはなかった。だけど、私の大きな荷物を見て、母上が悲しそうな顔をしていた。
休暇といわれても何をしていいかわからなかった。
ここぞとばかり、母上が私の嫌いな裁縫などを教えにきてくださったが、指を刺すわで大変なことになった。
前世では、部屋にこもっていることが多かったので、裁縫が得意だったのに、本当に可笑しいと思う。
そうして裁縫で呆れられて、庭先でぼんやりしていると、非番の兄上が話しかけてきた。
「サリタ。久々に俺と稽古つけるか?」
「はい!」
待ってました!
ヘッサニアと違って、私サリタは、体を動かすことが好きだ。
だから、こうして兄上と練習稽古するのはとても好きだった。
「鈍ってるなあ」
数分稽古をつけてもらっただけで、私は息が上がり、自身にがっかりしてしまった。
従者と言っても実際に剣を振る場はない。お飾りに過ぎない。そんなの存在価値があるのかな。
「兄上。従者以外に女の身で剣を振るう機会はないのでしょうか?」
「サリタ……」
「あの、ごめんなさい。ないとはわかってますが」
「サリタ。実は、王女の従者の話がある前に、女性だけの騎士団に入れる話もあったんだ。それが、王命があってな」
「王命?」
「あ、まず」
「兄上どういうことですか?」
王命で従者になったなんてしらない。
私は150名の候補者を抑えて従者になったんじゃないの?
私は兄上に頼み込んで、聞きだす。
ビビアナ殿下の従者選びは、最初から私に決まっていたこと。
最初はレジェス殿下の従者という話であったが、女性の従者では問題があると、ビビアナ殿下付きになったということ。
私の知らない話、聞きたくない話ばかりだった。
結局、私はレジェス殿下の手の平で踊らされていたんだ。
最初から殿下は私を妃にするつもりで。
私には選択肢がないんだ。
ヘッサニアの過去、私はアダンに償うべきだろう。
だけど、ヘッサニア(私)はそんなこと望んでいない。
アダン(レジェス殿下)は、もう忘れるべきだ。私はそんなこと望んでないのだから。ヘッサニアもそんな気持ちで、最期までアダンを見つめていたわけじゃない。
ただ、最期の最期まで、彼の顔を記憶していたかっただけ。
「兄上。私を、その女性だけの騎士団に入団させてもらえませんか?」
「本気か?」
「はい」
「それなら父上と、それからレジェス殿下に直接お伝えしろ。そうして殿下が納得すれば、お前は騎士団の入団試験を受けられるだろう」
「入団試験があるのですか?」
「お前なら大丈夫だ。それより、レジェス殿下にどう話すか、考えたほうがいいぞ。父上は、お前の希望なら反対しないだろう」
「ありがとうございます」
私は、ヘッサニアじゃない。
レジェス殿下もアダンじゃない。
過去にとらわれることはないのだから。
今度こそ、レジェス殿下に話して納得してもらう。
私はそう決め、まず父上に相談することにした。