1 前世は子爵令嬢でした。
「アダン。いつもありがとう。貴方のお陰で幸せだった」
「お嬢様!」
生まれた時から病弱で、風邪を引くたびに「死」を覚悟した。外なんてとんでも無くて庭に出るのも、1週間に1度だけ。
いつも室内でソファに腰掛けるか、部屋のベッドで横になってるか。
そんな生活でアダンは私に楽しみを、喜びを与えてくれた。
少し癖のある栗色の髪に茶色の瞳。さっぱりした整った顔。
私は、親不孝だけど意識がなくなる、その時まで彼を見ていた。
私は彼が好きだった。
最初で最期の恋。
13年という短い人生の中で、彼に出会えた事が一番の喜びだった。
✴
「サリタ!」
アダンが私を呼んでる。
あれ?私、死んでない?
しかも、アダン、ちょっと幼い?しかもなんか王子様っぽいかっこうしている。
「ああ、よかったわ。どうしたの?サリタ?貴女らしくないわよ?」
銀髪に紫色の瞳の美しい女性が、私を覗き込んでいた。
あ、ビビアナ王女様。
そんな、膝をついてしまったら、ドレスが汚れてしまいます。
ビビアナ殿下の隣では、アダン……違う。
第三王子のレジェス殿下が辛そうな顔をしている。ああ、あの時と同じ顔。
そんな顔させたくないのに。
――思い出した。
私、サリタ・コンデーロは、前世ではヘッセニア・カベーロという、子爵令嬢だった。体がとても弱くて、13歳で死んでしまった少女。
ああ、どうして、今思い出すのだろう。
いや、どうして思い出してしまったのだろう。
アダン、いいえ、レジェス殿下に、そんな顔させたくなかったのに。
前世で私はアダンに相当甘えてしまった。だからもう迷惑はかけたくなかったのに。
前世ヘッセニアと今のサリタの記憶が混じり合う。
そうして、私はあまりの情報の多さと混乱のため、意識を再び手放してしまった。