お世話になっています。
グラムさんにお礼を言いギルドを出る。結局おっさんには会えなかった。
やるべきことは全て終わったが時間が余ってしまった。どうしようかな。
「ハヤトさんこの後どこか行きたいところありますか?」
俺の考えを読んだのかロイドが尋ねる。
「特にないかな。ロイドは行きたいところとかない?」
「あります! 武器屋に行きたいです!」
吹雪熊に襲われたときに武器も失って今は予備の弓を使ってここ数日依頼を受けているそうだ。ある程度お金がたまり下見に行きたいとのこと。予定も決まり武器屋に向けて歩き始めた。冒険者ギルドから五分ぐらいで剣と金槌が交差した看板が特徴の武器屋が見えてくる。入り口近くに剣やら槍やらいろんな武器が置かれていた。店内に入ると所狭しと武器が置かれている。雑のように思わせてちゃんと種類ごとに並んでた。目的の弓を見つけロイドは吟味している。
目が赤くなっている……【鑑定】を使っているのか。しかし、便利だよな、あのスキル。
長くなると思った俺は別の棚の武器を見始める。すると店内の奥からロイドと同じ身長だけど筋骨隆々で髭が似合っている男性が出てきた。ドワーフだ。
「坊主、なんのようだ?」
「俺はハヤト。ロイドの付き添いで」
「なに! ハヤトだと!」
「は、はい!」
いきなり大声で名前を呼ばれた。それに睨んでくる。この人とは初対面なのに俺、なにかしたっけ!?
「ふーん、こいつがねえ」
「あ、あの俺がなにか?」
「なぁにロイドがおめえのことを話していたからなぁ気になっただけだ」
ロイドが俺の事を? 何を話したんだろう……
「あの、ちなみにどんな話を聞いたんですか?」
「そりゃあ……」
「レギンさん言っちゃダメです!」
その時凄い勢いでロイドが駆け寄り店主の口を手で塞ぐ。
「ふごふごごふご」
「ハヤトさん、弓決めたんでこっち来てください!」
「お、おう」
半ば強引に手を引かれる。なに話したかは気になったが聞ける雰囲気じゃない。悶々とするが諦めた。後ろから店主のレギンさんが付いてくる。
「これがいいんですが、どうでしょうか?」
ロイドが選んだのは翠色のショートボウ。どことなく颶風の弓に似ている。
「それは風の階層世界で手に入れた奴だ」
風の階層世界――
基本属性の一種、風属性を中心に成り立っている世界。
ここの魔物は全て風系統に進化している為、土属性が弱点である。また俊敏な魔物が多い。
この世界は魔物と共存している珍しい階層世界である。危険とみなした魔物以外は狩ることが禁止されている。
気候は常に安定しており自然豊。
この世界の王都ベーチェルには、世界一の大きさを誇る風車がある。
俺はロイドが選んだ弓を持ってみる。羽のように軽くて驚いた。レギンさんが説明してくれた。風の階層世界の木材を使いそこに微風鳥のが落とした羽と翡翠石というこの階層でしか取れない鉱石を特殊な製法で作られた弓だそうだ。
「これにするのか?」
「はい。レギンさん。この弓いくらですか?」
「おう。銀貨二十枚だ」
「二十枚……」
ロイドの表情が暗くなっている。どうしたんだろう。俺はロイドに聞いてみたがどうやらお金がわずかに足りないとのこと。
「なら、俺が買うよ」
「え」
呆然としているロイドを無視してお金を払い弓を買う。弓を受け取りそのままロイドに渡した。
「なんで」
「ロイドには色々とお世話になってるからいつかお返ししたいと思ってな。受け取ってくれるか?」
若干無理矢理な感じだが……て、泣いてる!
「う、嬉しいです……ありがとうございます! 一生大事にします!」
「そ、そうか」
俺たちは武器屋を出て帰路に就く。
次の日。武器の性能を試すため俺たちはギルドで依頼を受けに行く。今回受けたのは危険度Dのアイスゴブリンの討伐。
村から一時間程歩き【世界地図】に反応が出た。色は白。敵対してない魔物を示す。俺はロイドに場所を教え気づかれないように近づく。
「ハヤトさん、四体います」
「ロイド、行けるか?」
「行けます!」
ロイドをその場で待機させ俺は反対の場所まで移動する。アイスゴブリンたちは夢中で食事をしているようだ。ロイドに目で合図をし俺はアイスゴブリンたちの前にゆっくり歩き姿を現す。俺に気づいたのか食事を止め警戒を始めたが俺が何も武器を持っていないのを確認するや気持ち悪い笑みになりのこのと俺に近づいてきた。すると、ヒューンと音がして一体のアイスゴブリンの頭が矢に貫かれた。
「ぐぎゃあ……」
仲間の悲鳴が聞こえ後ろを振り向くアイスゴブリンたち。その隙を見逃さず【無限収納】から炎天の剣を取り出し一体を切り捨てる。続けざまに更に一体。残りの一体は逃げ出そうとしたがロイドの放った矢で仕留められた。アイスゴブリンの死体を回収終わるとロイドがすっごくキラキラした目で見てくる。
「ど、どうかした?」
「ハヤトさんって剣も使えるんですね!」
「あ、ああ使えるよ」
「おおお。弓と盾だけじゃなく剣も使えるなんてすごいです!」
「ロイドもすごかったよ」
「へへへ、ありがとうございます」
「よし、帰るか」
「うん!」
何事もなく一時間程歩き村に帰った俺たちは冒険者ギルドに向かう。すると冒険者ギルドの周りには人だかりができていた。