久しぶり。
「お父さん遊ぼうよ!」
「もう少しだけ待ってくれるか?」
そう言って父さんは向日葵の写真を撮るのを続けた。折角、家族揃ってのお出掛けなのに父さんはカメラばっかで遊んでくれない。俺は母さんに泣きついた。母さんに注意されてようやく撮るのをやめてくれた。再び遊んでとせがんだがカメラを渡され一緒に写真を撮ることに。より一層不機嫌になった。父さんに宥められ試しに撮ることにした。その時は何が楽しいのかが理解出来なかったが、翌日初めて撮った写真を見せてもらった。父さんと同じく向日葵を撮ったのだが肉眼で見るよりも綺麗で心が踊った。俺が父さんを憧れるきっかけになった幼い頃の夏の思い出の夢を見ていた。
気がつくとまず視界に映ったのは知らない木目柄の天井。体を起こし辺りを見回す。俺は知らない一室のベットで寝ていたようだ。すると一つしかない扉が開く。ロイドが花瓶を持って部屋に入って来た。
「ハヤトさん! やっと気がついたんですね、よかった……」
「心配かけてごめんな」
ロイドから倒れた後の事を聞いた。ここはロイドの家の一室でおっさんがここまで運んでくれたこと。吹雪熊の件はロイドが代わりに話してくれいて、俺が気が付いたらギルドに来て欲しいとのこと。倒れた日からすでに三日が経っていること。そんなに寝ていたのかっと思っているとぐぅーーっとお腹の音が部屋に鳴り響いた。
「今食事持ってきますね」
そう言ってロイドは部屋から出ていく。俺は横になり倒れた原因を考えた。考えられるのは共鳴を二回したことだよな……
世界の知識にもなかったこと。俺の持っている【武器の達人】のスキルでもわからない。クレアに聞くしかないかと考えているとロイドと母親のアンネさんが入ってきた。いい匂いがしてきてまたお腹の音が鳴った。お盆の上には一人用の土鍋がのってる。蓋を開けたらお粥だった。それも卵りだ!
「美味しい……」
アンネさんに熱いから気を付けてと注意されていたが無我夢中で食べる。二回ほどおかわりをし満腹になった。アンネさんにお礼を言って俺はこの村に教会があるか尋ねた。
「あるけど、もう閉まっている時間よ」
外をみると日は沈み夜になりかけている。
「そうなんですね。わかりました、明日にします」
「はいはーい、僕が案内します」
「じゃ案内頼むよ」
二人は部屋を出ていき明日の予定を確認して眠りに就いた。
翌日朝食を食べ終えロイドと一緒に教会に向かった。徒歩で十分程で教会が見えてくる。周りの家とは異なり白を強調した建物。神聖な雰囲気を醸し出していて別の世界に来たような感覚がする。そうまるでクレアと出会った神域のように。入り口の前には一人の女性が箒を片手に掃除をしている。顔立ちは整っており綺麗な女性だ。こちらに気づき挨拶された。
「ロイド君、おはようございます。そちらは方は?」
「おはようございますミンシアさん。こちらはハヤトさん」
「ハヤトです。今日はお祈りに来ました」
シスターのミンシアさんに女神像がある場所まで案内された。俺だけ祈りに来たのだがロイドもしていくことになり一緒に女神像の前で祈りを捧げた。すると魂だけが飛ばされる感覚に襲われ気がつくと一面白色の神域に来ていた。
「隼斗さん!」
後ろから呼ばれ振り向いたらクレアが凄い勢いで駆け寄る。勢いを受け止めれずにクレアに押し倒される形になってしまった。頬に水滴がかかり見上げるとクレアの瞳からぽろぽろと大きい雨粒のような涙を落していた。
「とても……心配……しました……」
そう言ったあとクレアは俺の胸に顔を寄せて息短くすすり泣き始めた。ごめんと言いつつクレアを安心させるように優しく頭を撫でた。しばらくしてクレアは落ち着きを取り戻した。クレアが泣いていた訳を聞くと俺の魂が突然衰弱した状態になっていた。何かしてあげたかったが無事を祈ることしかできない。祈りが通じ元の状態に戻り一安心したのだが俺の姿をみて感情を抑えきれなくなってあの状況になったそうだ。心配かけてしまったのは悪いと思ったが正直嬉しかった。
「心の声聞こえてますよ」
「そうだった……じゃあ今度は口で伝えるね。心配かけてしまったのは悪かったでも俺の事心配してくれてありがとう」
「……隼斗さんの……バカ」
お互いしばらく黙ってしまったが静寂に堪え切れずに二人して笑いあった。それから本題に入った。その時の事をクレアに事細かく説明した。倒れた原因がわかるといいんだが……
「多分ですが原因は別々の神獣武器で共鳴してまったと思います」
詳しく聞くと神獣武器は神獣から認められた者に与えられる武器のため一柱につき一人となっている。だが俺は全てをクレアから貰った。この世界では本来あり得ないことだ。共鳴とは神獣の一部の力を行使することができる現象。その際、神獣と半同化状態になるため体が共鳴した神獣の属性に変わる。属性にも相性がある。今回だと風属性と金属性。相性が悪い組み合わせをしてしまった為、反発が起こり体への負担が大きくなり倒れてしまったそうだ。
「私のせいで隼斗さんに危険な思いをさせてしまってごめんなさい」
クレアが謝ってきた。クレアのせいじゃないのに……
「クレア、俺の顔を見てくれないかな?」
そういいクレアはゆっくり俺の顔をみる。俺は渾身の変顔をした。
「ブフッーー。なんて顔しているんですか。あはは」
「やっと笑ってくれた。クレアは笑っている顔が似合っているよ」
「隼斗さん……」
「俺はクレアのせいだとは思っていない。俺がやりすぎただけだから気にしないで。それに原因も分かったし俺が気を付ければいいだけだよ」
「隼斗さん……ありがとう、ございます……」
また泣きそうになるクレアを抱擁した。すると俺の体が光りだした。
「もう時間のようですね……」
「また来るよ」
「約束ですよ?」
クレアと約束の指切りをし体が光に包まれた。