新しい世界へ
眩しかった光が収まりハヤトたちは目を開けると白くて、かなり広い場所に飛ばされた。
「みんな無事か?」
各々身体を確認する。
「問題ないかな」
「右に同じっす」
「特にない」
「わふ」
無事を確認し辺りを見回すと中心に台座があるだけで、外に繋がる道が見当たらない。
「まだ罠があるかわからないから慎重にな」
三人は頷き四方に散開して壁沿いに探索する。リルはクシュに付いてもらっている。
「何かあったか?」
「何もなかったっす!」
「こっちもなかったよ!」
「こっちも何もない!」
大声でやり取りをするハヤトたち。残る中心にある台座を調べに集まる。
「後はこの台座だけど……」
「ここなんかあるよ?」
クシュが変な窪みを二つ見つける。
「なんだこれ?」
「なんだろう……」
「これに合いそうなものあるっすかね?」
窪みに合いそうな物を想像するが誰も思いつかない。
「おっ、これ腕が入るっすよ」
「あ、本当だ」
セゾンが腕が入るのを確認して、ハヤトも入れるが何も起きない。
念のためヴェスナーとクシュもやるが何も起きなかった。
「ダメだー分かんねぇ!」
「一生ここから出られないんすね……」
「どうしよう……」
「リルなんか思いつかない?」
行き詰り全員床に座る。ハヤトは一縷の希望を持ってリルに尋ねる。
『……我の武器を窪みに入れてみろ』
ハヤトは言われた通りに氷獄の手甲を嵌める。すると台座が下に動き出し入れ替わりに扉が現れた。
「あ、俺の武器!」
氷獄の手甲を嵌めたままだったことを思い出し、慌てるハヤトにリルが言う。
『慌てるな。あの武器はお主の一部だ。念じれば戻ってくるぞ』
早速武器を想像し念じると氷獄の手甲はハヤトの両手に装着された。
「戻ってきた……よかった……」
一安心するハヤト。
その時、ゆっくりと扉が開く。覗くと光の粒子が渦巻いているだけだ。
「! これ……転移の扉!」
クシュが扉の正体を口に出す。
『ほう、よくわかったな?』
「図鑑でみたことあるだけ、実際に見たのは初めて」
「じゃあこの扉の先には別の階層世界に繋がっているんすか!?」
早く水の階層世界に行きたいセゾンは興奮気味に言う。
『うむ。ただ、何処の階層世界に繋がっているのか我でも分からん』
「そ、そうすか……でも、水の階層世界に繋がっている可能もあるんすよね!」
食い気味にセゾンはリルに尋ねる。思わずリルは引いてしまう。
『う、うむ』
「そうと決まれば早く行くっす!」
「と、とりあえず落ち着けよ、てい」
「痛っ!」
セゾンを落ち着かせるために頭にチョップするヴェスナー。おかげでセゾンは落ち着いた。
「痛いっすよ……」
「悪い悪い。お前の気持ちもわかるがみんなに聞かないと、な?」
「そうすよね……ごめんなさい」
ヴェスナーは一人一人に尋ねる。
「クシュは?」
「私も早く別の階層世界に行きたい」
「ハヤトも行くんだろ?」
「うん。そう言うヴェスナーは?」
「俺はみんなに合わせるさ」
「じゃあ決まりっすね!」
「いざ、新しい階層世界へ!」
「「「おう!」」」
意気揚々と扉に向かっているとリルが動かないことにハヤトは気付く。
「リル?」
『……我は行かないぞ』
リルは顔を下に向け言う。
「なんでなん――ハヤト?」
セゾンを手で静止させハヤトはリルの前まで歩くとしゃがむ。
「どうしてか聞いていい?」
ハヤトはリルの目を見て尋ねる。
『……ディックを見て思ったのだ。本来のディックならあんな魔物にはやられない、我ら神獣は各々の階層世界でしか力が発揮されないのでは、と』
ハヤトは静かに聞く。
『それだと、我はお主を――ハヤトを守れないのだ……』
ハヤトは笑顔で優しくリルの頭を撫でる。
「リルにそんなこと言ってもらえて、俺は嬉しいよ。リルが安心できるように俺強くなるから。リルを守れるぐらいには強くなるから信じて!」
『ハヤトが我を?』
「ハヤトだけじゃないぜ!」
いつのまにか近づいていたヴェスナーはハヤトの肩と組みながら言う。
「俺たちも強くなってリルを守るぜ!」
「そうっすよ!」
「だから行こう?」
『……』
ハヤトは右手を差し出して笑顔で言う。
「リル、一緒に行こう?」
リルはハヤトの顔と差し出された右手を交互に見たあと口を開く。
『…….信じていいんだな? ハヤト、ヴェスナー、クシュ、セゾン』
ハヤトたちはお互いの顔を見た後リルに向けて言う。
「「「「おう!」」」」
『お主たちを信じて我も行く』
ハヤトはリルの首に抱きつく。
「ありがとリル」
『ふん』
リルの尻尾は激しく揺れている。
「じゃあ新しい階層世界に!」
「行こう!」
「ハイっす!」
「うん!」
『うぬ』
ハヤトたちは今度こそ扉に向けて歩き出す。
未知なる階層世界へ不安と新しい出会いへの期待を抱いて、ハヤトたちは扉を通るのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。まだまだハヤトたちの旅は続きますが一旦、この作品はここで完結にします。
本当にありがとうございました!




