打ち明ける
外はすっかり暗くなり雪も降り始めている。風も強く、窓を何度もカタカタと叩く音に気が付きハヤトは目を覚ます。
腕の中で眠っているリルを起こさないようにゆっくりと腕をどけるがリルは目を覚ます。
「おはようリル」
『ふぁ……』
「まだ寝てていいよ?」
優しく撫でながらハヤトは言う。
『どこに行く?』
「ちょっとお腹空いたから食堂に行こっと思って」
『我も行くぞ』
ハヤトが下りてからリルを床に降ろす。ベットを見るとセゾンは未だに寝ている。ヴェスナーとクシュはいなかった。きっと食堂に行っているのだろうとハヤトは思う。
部屋を出て食堂に向かうとヴェスナーとクシュが食事をしていた。他の人はいなくほぼ貸切状態だ。
「おっす、やっと起きたか」
「おはよう、もぐもぐ」
「おはよう、リルここで待ってて」
そう言いハヤトは食事をとり行くが、リルは後からついてくる。
「あら、起きたのね?」
トレーもってカウンターに行くとそこには恰幅のよい穏やかな女性――この宿の女将がいた。
「定食とこいつの分をお願いします」
「あらあら、可愛いわねその子」
女将が足元にいるリルの事を言うので抱き上げて紹介する。
「俺の相棒のリルです」
「よろしくね。撫でてもいいかしら?」
リルを見ると頷いていた。女将にそのことを言いうと優しく撫でる。
「ふかふか! ありがとうリルちゃん。撫でさせてくれたお礼に大盛りにしてあげるわよ」
「あ、ありがとうございます」
「わふ!」
女将お礼を言い、食事を受け取り離れる。
テーブルに戻ると、ヴェスナーとクシュは食べ終わっていた。リルのご飯を横に長い椅子に置き凄い勢いで食べる。そんなリルを一撫でしてからハヤトも食べ始める。
「……美味しい」
「だろ! 食事も美味く、雰囲気も良くってこの宿は最高だぜ」
「私も思う」
「あら~嬉しいこと言うんじゃないの! もう!」
「痛っ!」
後ろから女将が声を掛け、嬉しさのあまり近くにいたヴェスナーの背中を叩く。ヴェスナーは涙目になりクシュが背中をさすっている。
「あら、ごめんなさいね。ふふふ。あ、そうだわ!」
女将はカウンターの奥に行き、戻ってくる時には手に何かを持っていた。
「はいこれ、さっき作ったお菓子。よかったら食べてね」
手を振り女将は自室に戻っていく。
テーブルに置かれたのはドーナツみたいなものだった。ゴマがかかっているだけのシンプルなものだ。皆一つずつ取り食べる。
「「「美味い!!」」」
「わふ!」
あまりの美味しさにハヤトたちはどんどん食べていき気が付いたら残り一つになっていた。その時足音が聞こえ振り向くとセゾンがいる。
「皆おはようっす……ふぁぁ」
のこのことテーブルに着くと突っ伏す。
「まだ眠いなら寝てればいいのに」
「体調どう?」
残った一つをクシュが食べる前にハヤトは没収しセゾンの前に置く。セゾンは手を伸ばし幸せそうに噛みしめて食べる。
「美味しいっす……。まだ、疲れが取れてないっすけど大分平気っすよ」
まだ食べ足りないのかセゾンは腹の音をたてる。
「もう食堂終わっちゃったすか?」
「さっき終わったなぁ」
ハヤトはダンジョンに行く前で屋台で買った串焼きを空になった皿に乗せてからセゾンに渡す。
「これでも食べて」
「わあ! いただきまっす!」
勢いよく食べる為すぐに空になった。クシュが羨ましそうに見ているのにハヤトは気づく。
「クシュも食べる?」
「いいの! 食べる!」
更に一本を【無限収納】から取り出し渡す。
「クシュ、太るぞー」
ヴェスナーを睨んだ後クシュは言う。
「串焼きは別腹!」
「初めて聞いたぞ!」
「ふん。もぐもぐ」
ヴェスナーは呆れてため息をつく。ハヤトは苦笑いをする。そんなやり取りをしていると食堂の置時計
がゴーン、ゴーンと鳴る。時計を見ると十時を指していた。
「よし、そろそろ部屋に戻ろうぜ」
「ハイっす」
「うん」
ハヤトたちは食器を下げてから部屋に戻る。
部屋に戻るとセゾンはベットに横になり、そのベットにヴェスナーが座る。ハヤトとクシュは反対側のベットに。
そして覚悟を決めたハヤトが最初に口を開く。
「皆に聞いてほしいことがあるんだ」
三人は真剣な表情でハヤトの言葉に耳を傾ける。
「ディックはもうわかっていると思うけど、俺はこの世界の住人じゃない。別の世界で死ぬとき女神クレアート――俺はクレアて呼んでるけど――にこの世界に転生させてくれたんだ」
「本当のことなのか?」
「こんな時に冗談は言わないよ」
思わず苦笑いをするハヤト。
「俺もハヤトと記憶を覗いたときは驚いたっす!」
「記憶を覗く?」
クシュが疑問に思ったことをハヤトは説明する。
「冷酷大鬼の戦いの時に俺とセゾンが魔法陣に囲まれてたでしょ?」
「……うん」
「あの時、セゾンと血の盟約を交わしてその時にお互いの記憶を覗いたんだ」
そして、血の盟約の事も聞かれたのでセゾンに説明したことを二人にも説明する。
「セゾン、力の使い方わかる?」
「なんとなくわかるっすけど、やってみるっす」
そう言いセゾンは目を閉じ、掌に乗るぐらいの水球を想像してから「タイダルディック」っと言うと、想像通りに水球を作り出す。
「すっげぇ……」
「すごい!」
「他にもできるのか?」
「出来るっすけど……」
セゾンは同じ大きさの水球を十個作り動かす。ある程度動かしてから水球は消えた。
「こんなもんすかねー」
「違和感とかある?」
「ないっす! むしろ力を使うとディックが傍にいるみたいで安心するっす」
「そっか」
ちゃんと力が馴染んでいることにハヤトは満足する。
「ディックが神獣ならリルも神獣なのか?」
ハヤトが説明しようとすると床で大人しくしていたリルが割り込む。
『我は氷の神獣フィンブルリルだ』
ドヤ顔で言うリルを抱き上げハヤトは膝に乗せる。
「「リルがしゃっべった!」」
案の定、驚くヴェスナーとクシュにハヤトは言う。
「実際は口で喋ってなくて直接頭に語りかけているんだ。これが念話だよ」
そしてハヤトはあと言ってないことがないか考える。
「あとは、俺の武器かな?」
ハヤトは簡単に神獣武器の事を伝える。
「ハヤトのスキルもそうだし色々と規格外すぎだろ……」
ヴェスナーとクシュは色んな話を聞いて少し疲れている様子だ。ハヤトは話さない方がよかったと心中で思う。
「ごめん、こんな話しちゃって……」
「なに言ってんだよ。聞かせてくれって言ったのもこっちだし、ハヤトは俺たちを信じて話してくれたんだろ。お前が謝る必要はない」
「そうっすよ!」
「ハヤト、話してくれありがとう」
「みんな……」
「それに、ハヤトがどんな存在でもハヤトはハヤトだ。俺たちの仲間だ」
「ヴェスナー……」
ハヤトは涙がこみ上げ流す。
『我も忘れるな』
静かに見守っていたリルが割り込む。
「忘れてないって、リルも俺たちの仲間だよ」
『ふむ、ならよいのだ』
「リルも仲間」
クシュはそう言いリルの頭を優しく撫でる。
「ありがとう、みんな。改めてよろしくな、ヴェスナー、クシュ、セゾン」
涙を流しながらハヤトは笑顔で言う。
「おう!」
「ハイっす!」
「うん!」
それからしばらく談笑するハヤトたちは自然と明日からの予定に話題が変わった。
「セゾン、明日には体力は回復してそうか?」
「多分、問題ないっすね!」
「よし、明日は再挑戦しにダンジョンに行くぞ!」
「了解!」
「ハイっす!」
「わかった!」
「わふ!」
ハヤトたちは万全の状態で挑むため早めに眠りに就くのだった。