ダンジョン
「うへ……人多い」
「だな……」
ハヤトたちは何事もなく無事にバラス村に昼頃に到着したのだが、右を見ても、左を見ても、前を見ても溢れる冒険者たちでいっぱいだ。
「よし、ダンジョンに行くぞ!」
「「「おう!」」」
「の、前に飯にしねぇ?」
「……」
何か言いたげな瞳でヴェスナーをみるハヤト、セゾン、クシュ。ヴェスナーに言われお腹が空いた気がし始めたハヤトは言う。
「そうだね。よし、飯にしよ」
ハヤトたちは食事処を探しに村を巡るがどこもかしこも満席。
「もう屋台でよくない?」
ヴェスナーの一言で屋台に決まったことで、さっそく近くの肉と野菜の串焼き屋に並ぶ。
「いらっしゃい!何本で?」
筋骨隆々の店主が尋ねる。
「えっと、大量に買いたいのですが、何本まで買えますか?」
「うーんそうだな……」
あっという間に材料の確認する店主は言う。
「何本でも構わないぜ! むしろ今日分、全部買っていっても構わないぜ!」
豪快ににかっと言う店主。ハヤトは遠慮なく言う。
「じゃ全部ください!」
「毎度あり! 少し待ってろ」
そう言い次々に串に肉、野菜を交互に刺し焼いていく店主。するとセゾンとクシュが尋ねる。
「ハヤト、お腹空いているっすけど……そんなに食えないっすよ?」
「私も食べきれないよ?」
セゾンとクシュにスキルの話をしていない事を思い出すハヤト。
「そういえば二人には言ってなかったな。俺のスキルの一つで【無限収納】ってものがあって、しまったものの時間を止めれるんだ。だから大量に買って、ダンジョン内で出来立てほやほやで食べれるよ」
説明が終わると丁度全部焼き終わった。店主に代金を支払うと食べるようの分だけ残し次々に鞄にしまう。
「おじさん、ありがとうございます」
「おう! おめぇらも気を付け行ってこいよ! ガッハッハ!」
冒険者たちの流れに沿ってハヤトたちは串を食べながら向かう。一時間程歩くと神殿のような建物が見えてくる。
ハヤトは鞄からカメラを取り出し撮り始める。満足のいく写真が撮れてすぐ鞄にしまう。そして、ダンジョンに入るための列に並ぶ。あっという間にハヤトたちの順番になる。
「パーティーのリーダーのギルドカードのご提示を」
入り口の前に立っている衛兵が言う。ヴェスナーは言われた通りにギルドカードを出す。
「パーティー『銀の槍』だな。四人と、そいつらは仲間か?」
歩くのが面倒になってハヤトに抱き上げられているリルとセゾンの頭の上にいるディックの事を衛兵が尋ねる。
「あ、はい。俺の契約した魔物です」
「そうか。……特に問題ないようだな。よし、通れ!」
ハヤトたちは入り口を通りいよいよダンジョンに突入する。
中に入ると仕組みが分からないが所々が光っていてダンジョン内を照らしている。
更に進むと道がかなり細かく分かれ冒険者たちはパーティー毎にバラバラに進む。
「どの道にするかな……」
ハヤトたちもどんどん奥に進む。途中で氷小鬼に遭遇したが無傷で倒した。そして目の前に三つの道が現れヴェスナーが悩んでいる所だ。
「真ん中っす!」
「私は左!」
「俺は右がいい!」
ハヤト、セゾン、クシュは別々の道を選ぶ。誰も譲らないず睨み合う。
「なら、あれしかないっすね!」
「あれだね!」
「負けない!」
「「「勝負!」」」
ダンジョン内で唐突に始まったじゃんけん大会。ヴェスナーは近くにあった岩に座り見守ることする。リルが珍しくヴェスナーの足元に近づく。
「お? どうした、見てるの飽きたか?」
「わふ」
するとディックもセゾンから離れヴェスナーの頭に乗る。
「一緒に眺めてようぜ」
「きゅー」
あれからあいこが続き、漸くハヤトが勝利して終わった。
「やっと終わったか」
「わふ」
「きゅ!」
ヴェスナーは立ち上がりハヤトたちに近づく。後ろからリルが、ディックを頭に乗せて。
「あそこでパーを出してれば……」
「悔しい……」
「ほら、そこで落ち込まない。一応ここダンジョン内なんだからもう少し緊張感持てよな」
ヴェスナーが注意するとセゾンとクシュはすぐに立ち上がる。
「よし、右に出発するぞ」
ハヤトたちは漸く歩き出す。歩いているとヴェスナーの隣にハヤトが来て話しかける。
「どうした?」
「さっきのヴェスナー、かっこいいなって思って」
「ちょ、恥ずかしいから、からかうなよ」
照れ隠しをするヴェスナーにハヤトは言う。
「ヴェスナー、ダンジョンクリアしよう!」
「おう!」
ハヤトとヴェスナーは拳と拳を合わせる。すると前を歩いているセゾンが言う。
「この先、魔物反応があるっす。数は……一体みたいっす」
セゾンの持っているスキル【反響】。セゾンにしか聞こえな音を発し、跳ね返ってきた音により相手の数と位置がわかるスキル。
「了解、慎重に近づくぞ」
気配を消すようにゆっくりと近づくと広い場所に出る。中央に三メートルぐらいの魔物が片手に剣のような物を持って立っていた。
「あれは、冷酷大鬼」
魔物の名を告げるハヤト。続いてクシュが淡々と説明をする
「危険度はB。敵と判断した相手には容赦しない。そして既に死んでいても形がなくなるまで切り刻む危険な魔物……だっけ?」
「うん。それであっている。見たことあるの?」
「図鑑に載っていた」
自分の説明が間違っていないことにほっとするクシュ。
「さて、どうしますかな……」
「俺っちは一旦引き返えって別の道に行くっす」
「セゾンの意見と一緒。できるなら避けたい」
「二人の意見は分かった。ハヤトは?」
ヴェスナーに尋ねられ色々と考えるハヤト。
「ここは引き返そう」
「了解。ゆっくり戻るぞ」
ハヤトたちは音を立てずに引き返し始める。
ハヤトたちある程度引き返した所で、反対側の通路から四人組のパーティーが入ってくる。四人組に気づき冷酷大鬼が四人を見据える。
「おい! そこの冷酷大鬼! 俺たち『聖天の星』がお前を倒してやる」
先頭行く盾持ち剣士が高らかに告げた。
「さぁ、ぶっ飛ばすぞ!」
両手に手甲をはめている格闘士が駆け抜けて一発入れる。だが、冷酷大鬼は片手で防ぐ。
「抜け駆けはずるい!」
杖を持った女性が魔法を詠唱したあと、炎の槍が作られ冷酷大鬼に向けて撃つ。
「援護するわ」
弓使いの女性が矢を放つと炎が纏われ冷酷大鬼を襲う。二人の攻撃が当たり煙が発生する。やがて煙が晴れるとそこには無傷の冷酷大鬼が立っていた。
「なかなかやるな! なら、今度は俺様の番だ!」
そう言うと目で追えない速さで突っ込み角に攻撃して片角が折れる。
「があああああああああああああ!」
すると冷酷大鬼は怒声が籠った雄叫びをする。静かになると冷酷大鬼の目は真っ赤になっていた。
「ふん! まだ挑んでくるか。 なら、次で決めてや――」
冷酷大鬼は一瞬で盾持ち剣士の背後に周り背中を剣で切る。
「がはっ!」
盾持ち剣士は地面に倒れる。
「よくもアレスを!」
「許さない!」
魔法使いと弓使いは再度攻撃するも効いていない。徐々に近づく冷酷大鬼。
「なんで氷系の魔物なのに炎が効かないのよ!」
「わからないわよ!」
「避けろ!」
冷酷大鬼は剣を飛ばし弓使いが貫かれる。
「いやあああああああああ」
「この!」
格闘士が気合を溜め光の光線のように放つ。冷酷大鬼はギリギリで躱し格闘士に近づき殴り飛ばす。格闘士は壁に突き刺さる。
「あ、あ、ああああ来ないで、来ないでえええええ!」
一瞬で仲間がやられ残り一人になった魔法使いは腰が抜け立てずにいる。目を真っ赤にした冷酷大鬼はどこから出したか分からない剣を持ってニヤリと笑い魔法使いに近づく。
冷酷大鬼は剣を振り上げ、重力に任せておろす。魔法使いは思わず目を瞑る。
だが、いくら待てども剣は魔法使いを襲わなかった。ゆっくり目を開けると見知らぬ男性が剣を盾で防いでいた。
「だ、大丈夫?」
その言葉を聞いて安心したのか魔法使いは意識を失い倒れた。