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風邪

 しばらく馬車は進むと真ん中にベットの形が描かれて、上の部分には雪原の安らぎと書かれている看板の宿の前に停車する。


「皆様、宿屋に到着いたしました」


 フロストが扉をあける。


「ほらセゾン行くぞ」

「ハイっす……」


 立つのも辛そうなセゾンの肩をヴェスナーが持ち馬車を降りる。


「しっかり」

「サンキュっす……」


 セゾンの反対側の肩を今度はクシュが持ち宿屋に入っていく。そんな光景をみてディックはついて行きたそうな目でハヤトを見る。


「セゾンが心配なんだろう? 行ってきな」

「きゅ!」


 空中を泳ぐようにヴェスナーたちの後を追うディック。


「フロストさん、ここまで送ってくれてありがとうございました」

「いえいえ、お気になさらず。それよりも早くお仲間のもとに」

「わかりました。フロストさん本当にありがとうございました」


 フロストにお礼を言ったあとハヤトも宿屋に入る。後ろからリルもついてくる。

 中に入ったハヤトは階段を上るヴェスナーたちを見かけ追いかける。階段を登りきったところで漸くハヤトは追いつく。


「クシュ代わって」

「うん」


 クシュと交代してセゾンを部屋まで送る。浮くのが疲れたのかハヤトの頭に乗る。歩きにくいと感じていたが今は気にしない。

 部屋に着くとセゾンは濡れた装備を脱ぐが手元が定まっていないのか脱げない。


「手伝うぞ」

「お願い、します……ごほ、ごほ」


 見かねたヴェスナーが手伝う。

 頬も赤く喋るのも辛そうで咳が出始める。完全にセゾンは風邪を引いた。


「私、氷貰ってくる!」


 そう言いクシュが部屋を飛び出そうとするがハヤトが止める。


「待ってクシュ」

「ん?」


 鞄から桶を取り出すハヤト。そんな行動したハヤトの意図が分からず頭を傾げるクシュ。


「ディック、この桶に、ここまで水入れてくれる?」

「きゅ!」


 ディックが一鳴きすると桶にハヤトが指示したところまで水が張られた。


「ありがとう。次はっと……リル、氷お願いしてもいい」

「わふ!」


 リルが桶に触れると桶の中心に氷塊が出来上がる。ドヤ顔でハヤトを見る。


「ありがとリル、ディック」


 リルとディックを撫でた後部屋にあった布を水に浸す。すると隣にクシュが移動してくる。


「リルとディック……凄いね。こんな魔物、図鑑でも見たことない」

「そ、そう? 世界は広いからクシュが見たことない魔物なんていっぱいいると思うよ?」

「うん」


 そんな話をしているとセゾンも着替え終わりベットで横になる。ハヤトは水に浸けたタオルを絞りセゾンに近づく。


「額に布をのせるよ」

「冷た……サンキュっす、ハヤト……」


 そう言うとすぐに眠り就いたセゾン。ハヤトたちは静かに部屋を出る。そして隣の部屋に集まる。


「部屋二つとったんだね」

「一応な。それで部屋割りなんだけど……」


 ヴェスナーが言いきる前にハヤトが即答する。


「俺が面倒みるからセゾンと同じ部屋にするよ」

「了解。ハヤトも風邪がうつらないように対策しろよ。クシュもそれでいいか?」

「うん、今回はセゾンに譲る……」

「譲るって……まぁいいか。じゃ俺たちは薬とか買ってくるぜ。セゾンの事は任せた」

「おう」

「行ってくる」


 ヴェスナーとクシュは立ち上がり部屋を出ていく。ハヤトは手を振り見送る。


「じゃあ俺たちも行くか……その前に」


 鞄から布を取り出し鼻と口を隠すように巻いてからセゾンが寝ている部屋に行く。

 部屋に入るとセゾンは荒く息をしてうなされている。そんな様子を見たディックは寄り添い、ひんやりする身体を顔に当てる。


「うぅ……ディッ、ク?」

『大丈夫?』

「あはは……ディックが、話してる……夢か……でも、ディックと話せて、嬉しい」


 セゾンは夢だと勘違いするがディックを強く抱きしめる。


『気持ちいい?』

「うん……すっげぇ気持ち、いいよ……」


 ディックの抱き心地にセゾンは気持ちよさそうに再び眠り就いた。


『ハヤト、しばらくセゾンに寄り添ってもいい?』

「構わないよ。じゃ俺たち外に出てるね。なんかあったら念話……って遠くにいても使えるの?」


 足元にいるリルに視線を送り尋ねる。


『契約していたらどこにいても平気だ』

「了解。なんかあったら読んでくれ」

『うん、わかった』


 ハヤトはリルを連れて部屋を出る。セゾンにお粥を持っていくため宿と隣接している食堂に向かう。

 食堂は昼時なのかほぼ満席状態。特に待つこともないのですぐ列に並ぼうとするが遠くで手を振っているソフィアたち――『暁の黒蝶』を見つけ駆け寄る。


「皆さん、久しぶりですね」

「ハヤトさんもお元気でなによりですわ」


 ソフィアが挨拶し、ミランダとルージュは軽く会釈し、アプリシアとアルミシアの姉妹は手を振っている。

 席はソフィアの隣にアプリシアとアルミシア、反対側にルージュとミランダ。ミランダとルージュは詰めてのでルージュの隣にハヤトは座る。


「ハヤトさんお食事は?」


 ハヤトが食事を持っていないことにルージュが尋ねる。


「あ、ここに来たのはセゾンにお粥を作ってもらうためだよ」

「体調でも崩されたのですか?」

「うん、風邪引いちゃってね……あ、じゃ俺行きますね」

「ハヤトさん、私も行きます。これでも治癒魔法使いなのでなにか役に立てます!」

「ありがとうルージュさん。じゃお粥頼んでくるから待ってて」

「はい!」


 嬉しそうに返事をするルージュ。ハヤトは列に並びに歩き始める。後ろでは何故か騒がしくしている。

 店主に頼んでお粥を作ってもらいルージュと共に部屋に向かう。

 部屋ではディックを抱いて気持ちよさそうにセゾンとディックは寝ている。ハヤトは安堵する。


「大丈夫そうですね……一応治癒魔法をかけますね」

「頼む」

癒しの光(ハイヒーリング)


 光がセゾンを包む、光が消えるとセゾンの顔色がよくなった。


「助かったよルージュさん」

「役にたててよかったです。では私はこれで。なにかあったら一階の奥の部屋にいますので」

「宿一緒だったんだ」

「そうですよ?」


 ルージュは階段を降り部屋に戻っていく。見送った後部屋に戻りお粥が冷めないように別の容器に移し【無限収納】にしまう。

 ベットに座りセゾンを眺めていると眠くなりハヤトは横になる。するとリルがベットに上りハヤトの腕の中に入ってくる。


「どうした?」

『なんでもない……』

「ふふ、まだ昼だけど少し寝よっか」


 リルを抱きしめていると瞼が重くなり、ハヤトは逆らわずに目を閉じる。リルの心臓の音が心地よく感じすぐに眠り就くハヤトだった。

 

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