執事
「みんな、おはよう」
ハヤト、ヴェスナー、セゾンは談笑しているとクシュが部屋を訪れ挨拶をする。既に着替え終わっていていつもの防具を装備している。
「はよっ」
「おはよっす」
「お、おはよう」
それぞれも挨拶を返すが、クシュの顔をみたハヤトは昨晩の事と今朝の夢の事を思い出して一泊遅れる。
その時廊下に続いている扉からノック音が聞こえる。扉に近いクシュが開けに行く。
「おはようございます。朝食をお持ち致しました」
オーロラと共にメイドが数人朝食を運んでくる。部屋にあるテーブルに料理を置いた後メイドが先に部屋を出る。
「食事が済みましたらベルを鳴らして頂ければ食器を回収に参りますので」
「わかりました。あ、オーロラさん」
立ち去ろうとするオーロラを引き留めるハヤト。
「何か御用でしょうか?」
「あの俺たち迎えの馬車が来るタイミングで出ようと思いまして」
「どうしてでしょうか?」
不安そうな顔のオーロラにハヤトは慌てて理由を言う。
「あ、ここが悪いってことじゃないです。朝食も普段食べないような豪華さで。それで俺たち、やっぱり落ち着かなくてですね……ここまでしてもらってるのにごめんなさい……」
ハヤトが謝罪するとヴェスナーたちも続いて謝罪をする。
「ふふ、気にしないでください皆様。では後程」
一礼して立ち去るオーロラ。ドアが閉まるとハヤトたちは盛大な溜息をした。
「緊張した……」
「だな……」
ぐぅーとお腹が空く音が聞こえハヤトとヴェスナーはセゾンを見る。
「お、俺じゃないっすよ!」
またぐぅーと音が鳴る。クシュが恥ずかしそうにお腹を押さえている。
「お腹、空いた」
「ふふ、食べよっか」
「ちょっと二人とも俺に言うことないっすか?」
「疑って悪うございました。ほら行くぞ」
皆でテーブルを囲い豪華な朝食を食べる。リルの分は床に置いてあったが今のサイズは子狼だ。もちろんハヤトの膝に乗せるよう要求してハヤトが食べさせるのだった。
それから時間が経ち時計を見るとそろそろだなとハヤトが思っていたらタイミングよく扉がノックされる。ハヤトが開けに行くため立ち上がる。
扉を開けると白髪の片眼鏡が似合う老紳士とオーロラが立ち並んでいる。
「お初にお目にかかりますハヤト様。私はフロストと申します。氷帝様の執事をしております」
「初めましてハヤトです。よろしくお願いします」
「ご準備の方はよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「では、こちらに」
執事のフロストの後を追うハヤトたち。廊下を通りあっという間にフロントも抜け豪華な馬車の前で行く。ヴェスナーたちもチェックアウトを終わらせハヤトの周りに集まる。
「ハヤトあとでな」
「いってらっしゃいっす」
「気を付けて」
「うん」
ヴェスナーたちとハヤトはハイタッチを交わし見送りをする。ハヤトが馬車に乗り込む。リルは抱きかかえている。最後にフロストも乗り込むと御者に出すように指示をし、王都中心にあるクリスタルタワーに向けて馬車はゆっくりと動き出す。
活気あふれる王都の街並みを、窓越しで眺めるながら片手でリルの頭を撫でるハヤト。リルは気持ちよさそうにしている。
「氷狼……いや、でもその毛並みは……」
リルを見ながらぶつぶつ独り言を言うフロスト。
「ハヤト様、その子狼に関して質問をしてもよろしいでしょうか?」
「いいですけど……」
「ありがとうございます。ではさっそくですがそちらの子狼は霜狼で間違い?」
「うーん、どうですかね? こいつとは弱っている所を助けたのが出会いでした。それから面倒みていたら懐かれてしまって契約したので種類とかはわかりません」
ハヤトはリルの正体を隠すために大体合っているような、合ってないような嘘の回答を言う。
「そうですか……」
明らかに残念がるフロストにハヤトは少し罪悪感を感じる。
そんなこんなでフロストと話していると徐々にクリスタルタワーが大きくなってくる。そして馬車を止める場所でフロストに言われハヤトとリルは降りる。
「近くで見ると凄いや……」
目の前に天まで届きそうなクリスタルタワーをみたハヤトはカメラを取り出そうとする鞄に手を突っ込む時にフロストが声を掛ける。
「では、ハヤト様こちらに」
そう言われハヤトは観光客とは違う道に案内される。
「うわー!外も凄かったけど、中も凄くて綺麗だ!」
内装が予想以上に凄く目移りし、子供のようにはしゃぐハヤト。気づけばフロストとの距離が離れる。
「すいません……」
「いえいえ、お気になさらず」
フロストはハヤトことを生暖かく見守る目線に、ハヤトは恥ずかしくなり頭を掻きながら離れないようにフロストの後を追う。
そして長い氷結晶で出来た廊下をしばらく歩くと応接室に案内される。
「では、氷帝様をお呼びしますのでしばらくお待ちくださいませ」
そう言いフロストは出ていく。入れ替わりにメイドが入ってきてお茶を出す。
「ありがとうございます。……美味しいです」
メイドは一礼した後壁側に移動した。
ハヤトはゆっくりお茶を楽しみながらリルと念話で話す。
『リルも飲む?』
『要らぬ』
『えー美味しいのに……』
そして出されたお茶を飲み終わる時に扉が勢いよく開く。ハヤトとリルは振り向く。
「やぁ、君がハヤトだね。初めまして。僕が氷帝のノヴァだよ。よろしく!」
元気いっぱいなリルと同じ銀色の髪に黄金な瞳の少女が高らかに名前を述べた。