王都
門を潜り王都――クロウカシスに入るハヤトたち。
目に映るのは溢れるほどの多種族な人々や各階層世界の物品だ。冒険者ギルドに行く途中にある市場でハヤトは初めて見るものだらけで目を輝かせ興奮しながらキョロキョロと見る。
「ハヤトこっち」
「えっ」
周りに視線が行き危うくぶつかりそうになるハヤトをクシュが手を引き避ける。
「ごめん、クシュ。」
「気を付けて」
一部始終を見ていたセゾンが言う。
「なんか、手を繋いでいると姉弟に見えるっすね」
ハヤトとクシュは固まり、自然と手を離した。
「クシュが面倒見がいい姉で、ハヤトがやんちゃな弟すかね」
「私が姉……」
そう言った後クシュはぶつぶつ独り言を言う。
「俺、これでも二十歳なんだけど……」
「「「えええ!」」」
ハヤトの年齢を聞き驚くヴェスナーとセゾン。さっきまでぶつぶつ独り言を言っていたクシュも一緒に驚いた。
「ハヤト、二十歳だったのか!」
「俺たちよりも上だったんすね!」
「全然見えない」
「……どうせ、ちびで童顔ですよ」
気にしていることを言われハヤトは子供のように頬を膨らませ拗ね始めた。
「あはは……あ、あっちに美味しそうな食べ物があるみたいだぜ」
「行くっすよ、ハヤト」
ハヤトの腕も引っ張り屋台に連れていくヴェスナーとセゾン。クシュとリルは後からついてくる。
なんかの肉を串に刺した屋台に連れていかれたハヤト。肉はじゅうじゅうと焼かれて美味しい匂いが漂っている。
「美味しいそう……」
「おっさん、五本くれ!」
「まいど!」
屋台の店主は熱々出来立てほやほやの串を渡され、それぞれ受け取った。
ハヤトたちはさっそく齧り付いた。
「あっ……美味い!」
「ああ、めっちゃ美味いな、これ」
「もう最高っす!」
「わふ!」
「うん、美味しい」
美味しいのを食べてハヤトは機嫌を直す。皆あっという間に食べきりハヤトたちはすぐ移動した。
それから二十分ほど歩くと冒険者ギルドが見えてくる。外観は青みがかった黒いレンガとカルト村支部とほとんど似ているがその大きさは二、三倍大きく、沢山の冒険者たちが行き来している。
中に入ると世話しなく職員たちが動いて冒険者たちを対応している。受付は全部で十個あるけど、どれも長蛇の列になっていた。
「うへ……あれ並ぶのかよ」
「ほら、並ぶぞ、ヴェスナー」
それからしばらく経ち、やっと順番が訪れる。
「冒険者ギルド本部にようこそ。本日はどのようなご用件で?」
受付嬢は微笑みながら用件を聞いてくる。
「今日は依頼完了の報告に」
ハヤトが答えようとしたが代わりにヴェスナーが答えた。
「かしこまりました。では、依頼完了の紙を提示お願いいたします」
ハヤトとヴェスナーはそれぞれ紙を受付に出し、受付嬢は受け取る。
「はい、確かに受け取りました。それでは『銀の槍』の皆様はランク昇格がありますでこちらに」
受付嬢はヴェスナーたちを応接室に案内する。
「おめでとう、みんな」
「サンキューな。よし、行ってくる!」
「行ってくるっす!」
「うん」
「じゃあ、俺はここで待ってるよ」
「おう」
そう言いヴェスナーたちは冒険者ギルドの奥に消えていった。
残されたハヤトはリルと一緒に壁側で待っていたが、リルが珍しいのかちらちらと冒険者たちに見られてる。
『リル、平気か?』
『何がだ?』
『気にしてないならいいけど』
リルは床に伏せて目を閉じた。リルは本当に寝てしまい、ハヤトが念話で話しても返事が返ってこなかった。本格的にやることがなくなりどうしよか悩んでいた。
「ハヤトさん?」
聞き覚えのある声の方向に顔をむけると、そこには肩まで伸びた透き通る水色の髪に整った顔立ちでお淑やかな女性――ルージュがいた。
「ルージュさん、一人なの?」
「ええ。本日は自由行動になりまして、私も行きたかったお菓子店に行ったのですが……定休日でした」
よっぽど楽しみにしていたのかルージュはかなり落ち込んでいる。
「そっか、残念だったね……」
「はい……」
「そ、それでなんでここに?」
気を紛らわせるために話を広げるハヤト。
「気分転換に依頼でも見ようかなってなりまして。そしたらハヤトさんを見つけたので声を掛けました。お邪魔でしたでしょうか?」
「ううん、全然」
「よかった」
ハヤトとルージュは開いた席に座り談笑する。その際リルを起こして移動させたがまたすぐに寝た。
「たっだいま!」
ようやくランク昇格が終わったようでセゾンがご機嫌になって戻ってくる。
「お待たせってなんでルージュがいんの?」
「お、ほんとだ!」
最初に戻ってきたセゾンはルージュが見えてなく、ヴェスナーの言葉で漸く気づくのだった。
ハヤトはこれまでの事を戻ってきたヴェスナーたちに話す。
「その店知ってる。私も行きたかったの……」
ハヤトの話を聞いて落ち込むクシュ。
「クシュさん、今度一緒に行きませんか?」
「うん! 行こう!」
ルージュとクシュは熱く握手を交わして焼く約束をする。おかげでクシュの機嫌も直った。
ルージュも交え席に座るヴェスナーたち。
「それで、この後観光って思ってたんだけど、予想以上に時間がかかっちまってもうすぐ暗くなるんだよな……」
「そうだね。明日にしようか」
「異議なしっす!」
「うん」
「ルージュさん、明日よければソフィアさんたちも誘って観光しない?」
ハヤトは全員と回れたら楽しそうだと思い誘う。
「ごめんなさい。明日は依頼を受けることになっていて……いつ終わるか分からないんです」
「わかった。これそうだったらでいいから、無理はしないで」
「はい……」
冒険者ギルドを出るとルージュたちの宿泊先はハヤトたちの宿と反対側にあり、ここでルージュとお別れになる。一礼してルージュは人混みの中に消えた。
そして、ハヤトたちも宿泊先を目指し歩き始める。【世界地図】を頼りながらどうにか暗くなる前に辿り着くハヤトたち。
「ここで、合ってるの?」
「え……ここに、泊まるの?」
「マジすか!」
「わー」
その宿はとてつもなく大きく、白い壁に青いレンガの屋根。外周は鉄の策に囲まれていた。入り口らしき所には全身鎧姿の槍を持った兵が二人も立っていた。そう、ハヤトたちが紹介された宿は王都でも有名な高級宿だったのだ。
ハヤトたちは自分たちの場違いぷりに困惑していたがクシュだけはワクワクしていた。