到着
「おおお! すっげえええ!」
王都中央にそびえ立つクリスタルタワーを街道から見たたハヤトは感動している。
マンティコアとの戦いから三日経ち、ハヤトたちを乗せた幌馬車はもう間もなく王都クロウカシスに着くところだ。
「カメラはっと」
鞄からカメラを取り出して全体図を撮ったり、拡大したりしてクリスタルタワーを周りの視線も気にせずに夢中で撮り始める。
「なぁ、ハヤト」
「……」
ハヤトは自分の世界に入り込んでいる様でヴェスナーが呼び掛けても反応をしなかった。
「なぁ、ハヤトってば!」
「わあ!」
「「あっ」」
驚いたハヤトはうっかり手を滑らしてカメラを落とす。
慌ててカメラを拾うハヤト。どこも壊れていないのを確認して安堵する。
「わ、わりい……平気だった?」
「うん。ところでなんかよう?」
「ああ。ハヤトが持ってるそれの事なんだけど」
ヴェスナーはカメラを指さして尋ねる。
「カメラのこと?」
「カメラっていうんだ。カルト村を出てハヤトが泣いたときから気になってんだけど。なんかの魔道具なの?」
あの日の事を思い出し恥ずかしくなるハヤトは話題を逸らすため簡単にカメラの説明をする。
「これは風景や人物なんかを記録して、残すことができる魔道具……みたいなものかな?」
言い終わるとハヤトはヴェスナーを撮る。撮った写真をヴェスナーにみせると驚いた。
「すっげえ!」
ヴェスナーの一言でセゾンとクシュが近寄る。ハヤトは二人にも同じことを説明する。
「私も撮って!」
「俺も、俺も!」
セゾンとクシュは色んなポーズをしだした。途中でヴェスナーも加わる。
「あの、私たちもいいですか?」
楽しそうに撮影していると乗客からも撮ってほしいと頼まれた。
「いいですよ。じゃ撮りますよ」
ちょっとした撮影会になってしまい、気づいたら五十枚近く撮っていた。ハヤトは一枚一枚を選別してカメラに魔力を流し写真にしていく。記念としてそれぞれに渡すハヤト。
「ありがとうございます。大切にしますね」
最後の一枚を渡した辺りで漸く王都の到着。入るために検問待ちの列に並ぶ。
「一時間ぐらいで順番が来る。冒険者はギルドカードを準備しておけよ。それと依頼完了の紙を渡すぞ」
バッツから紙を受けったハヤトは無くさないように鞄にしまう。
「冒険者ギルドで報告終わったあと、ハヤトはどうするんだ?」
「俺は氷帝様に劫火竜の件で呼ばれているから、クリスタルタワーに行く予定だよ。ヴェスナーたちは?」
「俺たちはしばらく王都で滞在するけど、今日は観光しようと思っているぜ」
「クリスタルタワーに行くなら一緒に行くっす!」
「うん、行こう」
そんな話をしていると順番が来る。ハヤトたちは衛兵にギルドカードを見せた。
「貴方が竜殺しのハヤト様ですね。お話は伺っております。氷帝様にご連絡いたしますので少々お待ちください」
そう言い衛兵の一人が離れていく。他の人たちは問題なく終わり門をくぐっていく。
「ハヤトさん、時間かかりそうです?」
一部始終を見ていたソフィアが尋ねる。
「どうですかね? あ、そうだ。ソフィアさんパーティー全員集めてもらってもいいですか」
「? いいですけど、皆さん!」
続々と来るソフィアのパーティー『暁の黒蝶』のメンバー。ハヤトは邪魔にならない所に移動させて簡単な説明をした後、それぞれに指示を出す。
ハヤトはカメラを構える。
「よし、撮りますね! ……はい、動いていいですよ」
どんな風に撮れたか気になりソフィアたちはハヤトの周りに集まった。
「まぁ、素敵だこと! 皆さまも思いますでしょう?」
「「「「はい!」」」」
「よかったらこれを」
ハヤトは人数分の写真をソフィアたちに渡す。
「まぁまぁ! こんな素敵な贈り物なんて初めてですわ! 一生大切にしますわ。それとこれは私からのお礼ですわ」
ソフィアはハヤトの頬に口付けし微笑む。ハヤトは何が起こったのか分からず、一瞬固まったあと顔が真っ赤になった。
「ソ、ソフィアさん!」
「ふふふ。ではお先に失礼しますわ」
そう言い門を潜るソフィアたちは去っていく。その時、衛兵が戻ってきた。
「ハヤト様、お待たせして申し訳ございません。本日は多忙とのことで明日に来てほしいとの事です」
「わかりました。明日は直接、クリスタルタワーに行けばいいですか?」
「いえ、馬車を手配しますで……本日はどちらの宿をご利用でしょうか?」
宿の事をすっかり忘れていたハヤトはヴェスナーに尋ねる。
「ヴェスナー、宿泊先とか決めてる?」
「いんや、まだ決めてないぜ」
「まだ決めていらっしゃらないでしたら、こちらを」
衛兵から赤い蝋に狼の印が押された一枚の紙を渡されたハヤト。そこにはの宿泊先の案内と、右下の方に氷帝の名が記されている。ハヤトはヴェスナーたちと相談することになった。
「宿泊費は氷帝様が持ってくれるって。ここにする?」
「ハヤトはいいが……俺たちは無理じゃね?」
ハヤトは衛兵に尋ねた。
「ヴェスナーたちも可能ですか?」
「はい、構いません」
「だって」
「まじか! ならそこでいいぜ。セゾンとクシュもいいよな?」
「ハイっす!」
「どこでもいい」
特に反対の意見はなかったが最後にハヤトはもう一つ確認した。
「こいつなんですが、平気ですか?」
眠そうなリルを見せながら確認するハヤト。
「それでしたら大丈夫かと。そちらの宿には獣舎がありますので」
「よかった……」
「直ぐに宿に向かわれますか?」
「後にします」
「わかりました。では私はこれで」
綺麗に一礼して衛兵は去っていく。
「よし、先ずは冒険者ギルドに行って完了の報告してから観光しようぜ!」
「「「おう!」」」
「わふ!」
目的を再確認したハヤトたちは王都クロウカシスの門を潜るのだった。