決着
「やるしかない……氷獄と化せ、フィンブルリル!」
ハヤトは共鳴をする。するとハヤトを起点として空気中の水分が凍った。
マンティコアは左右に分かれハヤトを挟み撃ちにする。
「さっきよりも早い!」
とっさに上空に逃げるハヤト。すぐに空中に氷の足場を作る。すると一本の強靭な腕がハヤトに伸びてくるが、足場を壊す。
ハヤトは別の場所に足場を作り避ける。見下ろすと黄色いマンティコアは火の玉を口に溜めていた。
「ちっ!」
飛んでくる大量の火の玉を氷の足場を作りながら躱すハヤト。
「がああああああああああ」
黒いマンティコアは翼を生やす。火の玉に当たっても気にせづハヤトを襲い来る。
「くらえ!」
空気中の水分を凍らせ大量の氷柱を生成した後二体のマンティコアに向けて飛ばす。
直撃した黒いマンティコアは身体中が穴だらけになり地面に落ちる。黄色いマンティコアは逃げ回る。
「残り一体」
地面に降りたハヤトは【世界地図】を確認する。息絶えた黒いマンティコアは白の色に変わっている。黒いマンティコアの死体を通り過ぎ黄色いマンティコアに近づくハヤト。
すると、黒い腕が伸びハヤトを鷲掴みにする。
「なん、で……」
死んだと思っていたハヤトは驚愕する。再度【世界地図】を確認するがやはり白色を示していた。
逃げ回っていた黄色いマンティコアが近づいてくる。
「フハハハハハ! ようやく捕まえたぞ人間。やれ」
その合図で腕に力が込められハヤトを握り潰す。
「がはっ……」
肺の空気と共に吐血をするハヤトはマンティコアを睨む。
「貴様、なんだその目は!」
ハヤトを地面に叩きつき、黄色いマンティコアはハヤトの頭を掴み持ち上げる。
「うっ……」
「無様だな人間! だが我をここまで苦しめるとは……我の配下にしてもよいぞ?」
ハヤトは半目を開けマンティコアに告げる
「誰がお前の配下になんかに、なるかよ! ぺっ」
マンティコアの顔に唾を飛ばすハヤトはニヤっと口角上げた。
「なら、死ね人間」
ハヤトを噛み殺そうと鋭い牙がついた口を大きく開けるマンティコア。
『ハヤトおおおおおおおお!』
その時、マンティコアに並ぶ大きさになったリルがマンティコアに全力で体当たりをして吹き飛ばす。解放されたハヤトを咥えて戦線を離脱する。
黒いマンティコアの追撃もあったが特大の氷塊を頭上に落とし潰した。
「ハヤト無事か!?」
二十体の雪獅子を倒したヴェスナーがハヤトに駆け寄る。よく見ると至る所に怪我をしている。
「みんな無事?」
「なんとかな……リルが来なかったら危なかったけどな……」
苦笑してヴェスナーが答える。
「よかった……」
「がおおおおおおおおお!」
遠くからマンティコアの怒号が籠った雄叫びが聞こえる。未だに黒いマンティコアは動かない。
立ち上がるハヤトだが態勢を崩してしまいけどすかさずヴェスナーが支えた。
「ありがとう、ヴェスナー」
「俺にできることは無いか?」
ハヤトは考えヴェスナーに一つだけ頼みごとをした。
「俺が倒れた後のこと頼んだぜ」
「お、おい」
言い終わったと同時に走り出すハヤト。
「行くよ、リル!」
「わおーん!」
「氷獄の銀狼よ、我と一つとなりて具現せよ。フィンブルリル!」
リルは光の粒子に変わり両手の手甲に吸い込まれる。するとハヤトの容姿も変化する。黒よりの茶髪だったハヤトの髪がリルの毛色と同じく銀色に。瞳も黒から黄金に輝く金色に変わる。
目視が出来ない程の速さで駆け抜けるハヤトはすぐにマンティコアに近づいた。
「おりゃ!」
マンティコアの腹部にを一撃を加え浮き上がらせる。さらに一撃を入れ上空にまで打ち上げる。
上空に先回りしたハヤトは拳を合わせ飛んできたマンティコアに振り下ろした。ハヤトはその場で氷の足場を作り見下ろす。
「ゆ、許さぬ、ぞ……人間があああああああ!」
地面に叩きつけられたマンティコアは怒り狂った。
「これで終わりだ!」
マンティコアに手をかざし一瞬で太陽ぐらいの大きさ氷塊を作り出し放つ。
「我が、我が負けるわけが!」
潰されていた黒いマンティコアも復活し一緒に氷塊を受け止めに来たが纏めて潰れた。その衝撃でマンティコアを中心にすべての雪が吹き飛び。氷塊は粉々に壊れた。
地面に降り立つハヤトは【世界地図】を確認する。色は橙色。瀕死状態の示す。あれだけの攻撃を受けて耐えたことに信じられないと驚愕するハヤトは油断せずに近づく。
「我は……我は……負けぬ!」
最後の力を振り絞ったマンティコアは拳を振りかざす。だけどその拳は正面からハヤトは受け止めた。受け止めたところから徐々に凍てついていく。そしてマンティコアは凍り付いて氷の銅像になった。
「ふん!」
氷の銅像を殴り粉々に砕け魔核も砕け散った。
三位一体を解除しハヤト容姿も戻り、リルは大型犬の大きさに戻った。
「ふぅー……やっと終わった」
『よくやった、ハヤト』
リルがハヤトの名前を呼び、褒めたことに驚くハヤト。
『どうした?』
「ううん、なんでもない。そう言えばヴェスナーたちは……げっ!」
幌馬車はさっきの衝撃に見事に巻き込まれ雪に埋もれていた。すると雪はだんだんと解け始め土の壁が現れた。
「ハヤト! 俺たちを殺す気か!」
ヴェスナーたちが次々に現れホッとするハヤトは足に力が入らなくなり倒れ込むがリルが受け止める。
『我に乗れ』
「リル、ありがとう」
ハヤトはリルの背に乗せてもらい仲間たちが待っている幌馬車に戻るのだった。