驚かれる
次の日の朝。
ハヤトたちは朝食を取るため宿にある食堂に向かう。この世界に来てからほとんどがアンネの手料理を食べるか屋台のを食べるかしなかったハヤトはわくわくして列に並ぶ。リルは先に取っておい席で待ってもらっている。
「皆さん、おはようございます」
食べ始めようとしたときソフィアが声を掛けてくる。後ろには『暁の黒蝶』のメンバー全員がいた。
「ソフィアさん、おはようございます。どうしたんですか?」
朝食はそれぞれの宿泊先で取ることになっているのでハヤトは尋ねた。
「特にはないのですが……私たちも朝食に混ぜても構いませんか?」
とりあえずハヤトはヴェスナーに視線を送る。頬を膨らめせ大量に口に含んだヴェスナーは視線に気づき頷く。
「ええ、構いませんよ」
そう言い席を空けるためにハヤトは横に移動する。それに合わせて隣に座っているクシュも移動した。
「ありがとございます。では、皆さん列に並びましょう」
「「「「はい!」」」」
統一された動きで列に並ぶ『暁の黒蝶』メンバーを見送ってハヤトは食べ始めた。
「美味しい……」
掻き込むように次々とお腹に入れるハヤト。するとリルの視線に気づき念話を使う。
『どうしたのリル?』
『物足りない……』
大盛りにしてあったのだがリルには物足りなかったようだ。ハヤトは【無限収納】から氷柱猪の肉を取りだしリルの皿にのせる。
目をキラキラと輝かせ肉に齧り付くリル。
『足りなかったら言ってね』
『うぬ』
念話を終わらせた時ソフィアたちが戻ってきた。ハヤトの隣にソフィアが座り、更にミランダとルージュが順番に座り、向かい側にアプリシアとアルミシアが座る。
「何か私の顔についてますの?」
ハヤトの視線を感じて尋ねるアプリシア。その言葉につられて皆の視線がハヤトに集まる。
「あ……えっと、アプリシアさんとアルミシアさんって似ているなぁって思って……不快な思いさせちゃったよね。ごめんなさい」
素直に告げ謝るハヤト。それをみてアプリシアとアルミシアは互いを見たと笑い合う。
「ふふふ。不快だなんて……そういえば言ってませんわね。私たち双子なんですの」
「そうですの」
交流が深まった楽しい食事も終わり、出発の時間になりそれぞれの幌馬車に乗り込む。メンバー別けは前回と同じだが、今回はハヤトたちは一台目の方を乗り込んだ。
ゆっくりと流れる変わり映えのない一面の雪景色を見ながらハヤトたちは周囲を警戒する。リルはハヤトの近くで眠ている。
「そういえば、ハヤトって魔物使いなんだよね? そうすると……後衛になるのか?」
反対側に座って警戒しているヴェスナーが配置のことでハヤトに尋ねる。セゾンとクシュも気になったのか顔を向けた。
「後衛でも前衛でもどちらでも平気だよ」
「え、そうなの? ハヤトなんも武器持っていないからてっきり戦闘はリル任せかと思っていたわ」
「武器は鞄の中にしまってるだけだよ」
「その鞄、やっぱり魔法の鞄だったんだ」
ハヤト同じ方向を警戒しているクシュが尋ねる。
「うん、そうだよ。貰い物だけど」
ちゃんとカモフラージュ出来ている事実を知ったが、だましていることに罪悪感を感じたハヤトだった。
「で、何の武器扱えるんだ?」
少し脱線した話をヴェスナーが戻す。
何を出すか考えたハヤトは一度使った事のある炎天の剣、海嘯の短剣、颶風の弓、黄金の盾を取り出し並べる。その数をみたヴェスナーたちや話を聞いていた周囲の人たちもそれぞれ違った驚をする。
「そんなに扱えるのかよ!」
「凄い…」
「ハヤトは凄いっすね!」
「あともう一つあるんだ。ちょっと離れてね」
そう言うと皆は少し距離を取る。離れたのを確認したハヤトは心の中で「フィンブルリル」と呟く。すると両手を覆うほどの氷が纏まる。纏った氷が砕け両手には氷獄の手甲が装備される。
「とりあえずは……これで全部かな。うん? どうしたの皆?」
周囲を見渡すと皆口を開けて放心状態になっている。
「なんだ今のは! どうなってんだよ!」
先に意識が戻ったヴェスナーはハヤトの両肩を掴み、激しく揺らしながら質問攻めをする。
「え、えっと。と、とりあえずおち、ついて」
噛みそうになりながらも話すハヤト。すると急に幌馬車が止まり、ハヤトたち以外の人たちはバランスを崩し倒れる。
「ガッツさん、なんかあったんですか?」
「それが……あそこに人が倒れているんだ」
すかさずヴェスナーが尋ねる。するとガッツの指の先にはボロボロの布に巻かれて倒れている人が見える。
「助けに行かなきゃ!俺、いってくるっす!」
「待ってセゾン」
行こうとするセゾンを止め、ハヤトは【世界地図】を発動する。すると倒れている人の色の表記は赤。敵意もしくは害意が有るもだった。