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しばらく幌馬車に揺られ、村が見えなくなった辺りでハヤトはやっと泣き止んだ。おかげでリルの体毛は涙でかなり濡れてしまいご機嫌斜めになる。
ハヤトは【無限収納】からタオルを取り出し拭きながら宥める。もちろん鞄でカモフラージュしてだ。
「ごめん。今拭くからね」
『さっさとやれ』
濡れている箇所を丁寧に拭くハヤトにタイミングを伺っていたヴェスナーが話しかける。
「もう平気か?」
リルを拭きながら答えるハヤト。
「あ、うん。平気だよ。ごめんな」
「気にするな。それより、そいつは?」
拭かれているリルを指差してヴェスナーが尋ねる。よくみると周りの人たちは一歩後ずさりしてる。リルの今のサイズは大型犬並みだ。怖がれられるのは仕方い。
「こいつはリル。俺が契約した魔物で……俺の相棒だ」
最後の方は照れながら言うハヤト。
リルの耳がぴくっと少し動く。
「へぇー、すげぇな!なぁ触っていいか?」
そう言われリルに確認するハヤト。
「リル触っても……」
「……わふ『少しだけだぞ』」
器用に鳴きながら念話を使い気持ちを伝えるリル。
「少しだけなら良いって」
「ハヤト言葉わかるのか!?」
「ん……なんとなく、だけだよ」
「そうなんだ」
「魔物と契約すると気持ちや言葉がわかるということ?」
『銀の槍』の黒いローブを着てふわったとした金髪ショートの美少女がハヤトとヴェスナーの会話に割り込む。
「そうだと思う……えっと、君は?」
「私はクシュ、魔法使いだよ。王都までよろしく」
「よろしく」
「はいはい! 俺っちはセゾンって言うっす。主に斥候役しているっす!」
最後のメンバーのセゾンも会話に加わる。活発で元気溢れているなと思うハヤトだった。
「二人ともよろしく」
「よろしくっす! あ、自分も触ってもいいすか?」
「あ、ずるい! 私も触りたい!」
「俺が先だぞ!」
誰が先に触るか言い争いする『銀の槍』のメンバーをよそにリルに念話で尋ねるハヤト。
『リルを困らせたくないから断るね』
『我は構わんぞ』
意外な返答に驚き聞き返すハヤト。
『いいの!? 無理してない?』
『構わんと言っているだろうが! 二度も言わせるな!』
『ご、ごめん。じゃあヴェスナー達に伝えるね』
念話を終わらたハヤトはヴェスナー達に伝えようとしたが、何故かヴェスナー達は白熱したじゃんけんが行われていた。終わってから伝えようと決めたハヤトだった。
しばらくあいこが続く。
「よっしゃ! 勝ったぜ!」
嬉しそうに高らかにガッツポーズするヴェスナー。
「負けられないっす!」
「私だって!」
またあいこが続く。仲がいいなと思うハヤトだった。
先に勝利したヴェスナーがハヤトに近づく。
「お待たせ!」
「白熱してたね……」
「はっはっは。じゃさっそく触るぜ?」
呆れながらハヤトはもう一度注意を言う。
「さっきも言ったけど少しだけだからね、それと激しく撫でるもだめだからね」
「わかってるよ」
ヴェスナーはゆっくり手を伸ばしリルの頭をハヤトに言われた通りにやさしく撫でる。
「おおお、めっちゃ手触りいい! なぁなぁ身体触ってもいいか!」
さらに要求するヴェスナー。
ハヤトはリルを見る。するとリルは頷く。
「いいって、やさしくな?」
「了解!」
ヴェスナーの手がリルの背中を撫でる。すると目を輝けせてハヤトに顔を向ける。
「めっちゃもこもこ!」
「だろ?」
ハヤトもリルの毛並みの素晴らしさに肯定する。
「勝った!」
「そ、そんな……」
どうやら決着がついたようだ。クシュが拳を高らか掲げて、セゾンは両手両膝をついて絶望している。順番決めるだけなのにっとハヤトは思う。
「終わったようだな。触らせてくれありがとうな」
最後に頭を撫でてお礼を言うヴェスナー。ちょうどよくクシュとセゾンが来る。
「じゃ今度は私」
ハヤトはヴェスナーに言った事をクシュとセゾンに伝えた。二人も頷いて順番に触る。
「おおお、さらさら! それにこの子可愛い!」
「そうだね」
ハヤトは念話でリルに話しかける。
『可愛いって』
『ふん』
そっぽを向くリルの尻尾は揺れている。嬉しいようだ。
リルに魅了されたクシュは案の定、「身体を触らせて」と要求してくる。それを見てたセゾンも要求してくる。もう一度注意を言うハヤト。
そんなやり取りをしていると今日泊まる予定のレド村が見えてくる。
問題なく門を通過した一行は宿泊先に向かう。今回の人数は約二十名、そのため宿は二つに別れた。ハヤトはヴェスナーたちと一緒の宿になった。
夕食を取ったあとパーティーに割り振られた部屋の鍵を受け取り部屋に向かうハヤトたち。
「クシュも一緒の部屋なの?」
「? うん、そうだよ」
頭を傾けるクシュ。
「いや、だってクシュ女の子でしょ? 俺たちと部屋別けた方がいいと思うけど」
「私は平気。お金がない時は節約のために皆で一つのベットで寝た時もあるよ」
「俺たちも平気だぜ?」
「今更っす」
「そうなんだ……」
そんな会話をしていたら部屋に着く。中は二段ベットが二つとランプが置かれているテーブル、壁には掛け時計のみだ。
「ベットどうする?」
ヴェスナーが尋ねる。
「私、下がいい」
「俺も下の方で」
ハヤトとクシュは下を要求する。
「了解。じゃあ俺たちは上だな。俺はハヤトの上でセゾンはクシュの方な」
「了解っす!」
ベットも決まり明日も早く出発するため早々にハヤトたちはそれぞれのベットに入る。
「ランプ消すよ」
「いいぜ」
「ハイっす!」
「うん」
三人の返事を聞いて明かりを消してからハヤトはベットに入る。ご飯をたらふく食べたリルは既にベットの上で丸まって寝ている。
「おやすみ」
とハヤトが言い。
「おやすみ」
「おやすみっす」
「おやすみなさい」
とヴェスナー、セゾン、クシュの順に返事をする。すぐにハヤト以外の寝息が聞こえた。
「三人とも寝るの早いな……」
ハヤトは手を伸ばしリルを撫でる。するとリルが目を開ける。
「ごめん、起こしちゃった?」
答えるのが面倒なのかすぐ目を瞑り尻尾を少しだけ動かす仕草をするリル
「おやすみ、リル」
ハヤトも目を瞑る。初めての馬車の移動で意外と疲れていたようでハヤトもすぐに眠りに就く。
しばらく時間が経ちリルがむくりと起きる。
『おやすみ、ハヤト』
ハヤトの顔を見ながらそう言うリル。ハヤトは夢の世界に旅立っている為リルの言葉は届いていない。言って満足したのかリルも眠り就いた。