旅立ち
意識がはっきり戻ってきたのを確認したハヤトはクレアに言われた通りに【無限収納】を開く。
ハヤトは驚き二度見をしたあと【無限収納】から取り出す。
「懐かしな……」
懐かしさと色んな思い出をハヤトは思い出す。
『なんだそれは?』
不思議そうな顔で覗き込むリルをハヤトは撮る。
「これはカメラだよ」
クレアが【無限収納】に入れていたのはハヤトが亡くなった時に持っていた愛用の一眼レフカメラだ。
撮ったものをリルに見せながら簡単にカメラの説明をするハヤト。
『ほう。そんなものがあるのだな』
「かっこよく撮れているだろ?」
『ふん』
そう言いつつリルの尻尾は大きく揺れている。
軽く操作すると、メニューの所に操作方法が記載されている。ハヤトは操作方法を読んだあと【無限収納】にカメラをしまいミンシアに挨拶をし教会を後にし、朝日が照らすカルト村の風景をみながらロイドの家に帰宅するハヤトたち。
帰宅したハヤトたちは居間に行くとちょうど朝食が並べられている所だ。
「ただいま、アンネさん」
「わふ!」
「二人ともお帰りなさい」
ハヤトは椅子に座り、リルは相変わらず膝の上に座る。すると、ドタドタと居間に向かって走る足音が聞こえてくる。
「いた!はぁ……はぁ……おはようございます」
息を荒げて居間に来たロイド。
「おはよう。そんなに慌ててどうした?」
「起きたら……居なかったからもう行ったのかと焦って……」
「あ、そういえば時間言ってなかったな。すまん」
手を合わせて謝るハヤト。
「ロイド、廊下は走らないの!早く顔を洗ってきなさい」
「は、はい」
アンネに怒られ洗面所に向かうロイド。
「あの子ったら……」
「ふふ」
ロイドが居間に戻ってから朝食を始める。食べ終わるとちょうど時間になり全員で門に向かう。
門には大型の四輪幌馬車が二台ある。幌馬車を眺めていると二人の男性と話をしているグラルを見つけハヤトは声を掛ける。
「おはようございます、グラルさん」
「おお、ハヤト殿か。それにロイドとアンネ殿も一緒か。見送りで?」
「えぇ」
「おいグラル、こいつが噂の?」
一人の男性がグラルに尋ねる。
「ああ、そうだ。今回の護衛を受けくれた竜殺しのハヤト殿だ」
「おおお、そうか。こいつは頼もしいな、弟よ!」
「そうだな、兄者!」
周囲がざわめく。既に馬車に乗っている人たちも顔だけだしてこちらを見てくる。
「よろしく頼むぜ、ハヤト殿!御者のガッツだ。こっちが弟の」
「バッツだ。」
「ハヤトです。よろしくお願いします」
「がっはっは!」
軽快に笑うガッツとバッツをよそにハヤトはグラルに問い詰める。
「グラルさん!竜殺しってなんですか!」
「ハヤト殿の二つ名だ」
「ええええええええ」
ハヤトは自分の二つ名を初めて聞いて驚く。そもそもハヤトの身近な者たちは二つ名で呼んではいないため無理もない。
「まだあるぞ?」
「え……まだあるんですか?」
「ああ。他には英雄があるぞ。儂は竜殺しを推してるぞ」
「はぁ……」
グラルから物凄くどうでもいいことを聞いて呆れてため息をつくハヤトにロイドは近づき小さい声で言う。
「俺はかっこいいと思います。俺も竜殺しを推しました」
「そ、そうなんだ……てか、知っていたなら教えてよ!うりゃ!」
両手グーにしてロイドの頭をぐりぐりと攻撃をするハヤト。
「痛い、痛いですよハヤトさん!」
その光景をみて周りは笑いだす。
「あんたが竜殺しか」
いきなり二つ名で呼ばれ恥ずかしくなるハヤトは声を掛けた人物にを見る。そこにはハヤトより少し身長が大きく太陽のようなオレンジ色の髪をし、背中には槍を担いでいる男性だった。
「えっと、どちら様?」
「俺は『銀の槍』のリーダー、ヴェスナーだ。よろしく。あっちにいるのが俺の仲間だ」
遠くからこちらを見ているヴェスナーの仲間の二人に会釈する。するとあちらも手を振り返事をする。
「ちょっとヴェスナー!先に声を掛けるなんてずるいわよ!」
全身漆黒の鎧や防具を纏った女性のパーティーがハヤトとヴェスナーの会話に割り込む。
よくみると鎧や防具にはワンポイントに蝶が彫られている。
「初めましてハヤトさん。私はソフィア。『暁の黒蝶』のリーダーをしておりますわ。順に紹介しますわ。斥候のミランダ。弓使いのアプリシア。魔法使いのアルミシア。治癒魔法使いのルージュですわ。パーティー共々よろしくお願いしますわ!」
『暁の黒蝶』のメンバーは全員が容姿端麗で紹介されるたびに握手をするハヤトだが、美女とめったに握手したことがないため無駄に緊張している。
それぞれの紹介が終わり二台ある馬車をどう乗るか相談をする。結果的に一台目に『暁の黒蝶』、二台目にハヤトと『銀の槍』になった。
「そろそろ出発するぞ!」
ガッツが出発の知らせを大声で叫ぶ。外にいた人たちも次々と幌馬車に乗り込む。
「ハヤトさん!」
呼ばれたハヤトは振り向く。
「俺、強くなります。ハヤトさんを追い越すぐらい強くなります!だからその時はまたパーティー組んでください!」
周りも聞いているなかロイドは今の気持ちをハヤトに伝える。
「おう、追いついてこい」
ハヤトとロイドは拳を作り互いに向ける。
「ハヤト殿!そんな熱いことしないでさっさと乗ってくれ!」
「は、はい」
ガッツに言われ少し恥ずかしくなるハヤトとロイド。
「じゃ行ってくる、リル!」
「わふ!」
アンネの足元で大人しくしていたリルを呼び二台目の幌馬車に乗るハヤト。
「出発するぞ!」
「おう、兄者!」
幌馬車はゆっくり動き始める。そして村の外を出て街道を進む。
「ハヤトさん!リル!いってらっしゃい!」
ロイドは大きく手を振りながら言う。【無限収納】がばれないように鞄に手を突っ込み急いでカメラを出すハヤト。カメラを見て周りの人たちが少しざわついたがは無視して一枚撮る。
そこにはロイド、アンネ、グラルと見送りにきてた村人たちが映った一枚の写真になった。
その写真を見たハヤトは涙がこみ上げて零れた。
「ハヤト、大丈夫か?」
泣いているハヤトを心配してヴェスナーが声を掛ける。
「ごめん。すぐ泣き止むから……」
そう言いつつも泣き止まないハヤト。
呆れてリルが近づきハヤト顔を舐める。
『だらしない顔をしおって』
「ごめん、リル。少しだけ身体貸して」
『……仕方ないのう』
「ありがとう……」
幌馬車がゆっくりと移動している中、ハヤトはリルの体毛に顔を埋め静かにまた泣き始めたのだった。