消えた武器
廊下に出た瞬間、鼻孔がくすぐられ自然とハヤト歩みが早くなる。目を輝けせ尻尾を思い切り振っているリル。
居間に着くと更にいい匂いが充満してる。今回の夕食はデミグラスソースで煮込まれたハンバーグだ。
「すみません。お待たせしました」
ハヤトは待たせたことを謝る。
「遅いですよ。……ハヤトさん、その犬は?」
配膳が終わり座って待っていたアンネは振り返りハヤトを見た際抱き上げていたリルに気づき尋ねた。
「こいつは……リル。さっき話した……神獣です」
「ええええええええ!」
子狼の正体を伝えるとアンネは盛大に驚いた。そりゃそうだ。神獣に会えるなんて普通はない。当然の反応だ。
アンネがが驚いていると突然ぐぅーという腹の音がリルから鳴る。
『我じゃないぞ!』
念話で否定しているが再び腹の音が鳴る。
『ぐぬぬ。我じゃないぞ!』
全力で否定しているリルが可愛く面白く笑ってはいけないと思いハヤトは我慢した。アンネも笑いを堪えている。どうやらアンネにも念話を使ったようだ。
『笑うな!』
笑いを堪えているのがばれてしまいリルはハヤトの腕を噛む。
「痛い!笑ってごめんって!」
そんなやり取りを見ていたアンネは笑いを我慢できず涙目なるまで笑っている。
「ブフッ!あはは!……もうなにやってるんですか」
痛がっていたハヤトも噛みついていたリルもそんなアンネを眺めていた。
「ほら早く食べましょう?今リルの分も用意しますね」
アンネに言われ軽い喧嘩を止めハヤトは椅子に座り、リルを床に下ろす。
『我を膝に乗せろ』
足元をぺちぺちと叩きながらリルが要求する。
ハヤトは仕方なくリルを膝に乗せる。
「お待たせしました」
丁度アンネが戻ってきた。リルの分もテーブルの上に置いてもらい漸く食事を始めた。
リルに食べさせながらハヤトは食事をした。そんな光景を微笑ましく眺めてるアンネ。
何事もなく食事を終わらせたハヤトは寝ているロイドの様子を見に部屋を訪れる。ロイドはぐっすり寝ていた。
「問題なさそうだな」
ロイドの頭を軽く撫でた後、【無限収納】から光芒の杖を出し念のために治癒魔法を使った。
その後自室に戻り先延ばしにしたことを質問する。
「じゃあ質問するよ」
ハヤトとリルはベットの上で向かい合わせで話始める。
『うぬ』
「まずはリルの武器が消えたことかな」
リルの武器――氷獄の手甲はリルが契約したときに消えた。【無限収納】にも無かった。
『お主の中にあるぞ』
「は?」
言っている意味が解らなくハヤトは間抜けな返事をする。そんなハヤトをみてリルが説明した。
『我と契約をしたときに我の武器はお主と同化したのだ』
「同化……一体になったこと?」
ハヤトは首を傾げながら聞いた。
『そうだ。実際にやってみろ。武器を想像しながら我の真名を呼べ』
ハヤトは目を瞑り氷獄の手甲を想像した。そしてリルの真名を呼んだ。
「フィンブルリル!」
すると両手を覆うほどの氷が纏まる。纏った氷が砕け両手には氷獄の手甲が装備されている。同時に【武器の達人】によって新たな知識を知る。
「同化ってそういうことか」
『ほう。理解したのか』
「スキルのおかげでな」
『お主……スキルいくつも持っているのか?』
「えっと、【自動翻訳】【世界地図】【無限収納】【武器の達人】【完全耐性】の五つだよ」
ハヤトは所持しているスキルと効果をリルに説明した。
『貰いすぎでは?』
「俺も言ったんだよ。でもクレアは「神域から安心して見守れますし、隼斗さんも危険を少なく旅が出来ます」って言われたから全部貰ったんだ」
『そうか、変わらぬなあの女神は』
リルは眠りに就く前の女神のこと思い出す。どこか懐かしく寂しそうな雰囲気を出している。
「あのさ」
『なんだ?』
「今じゃなくっていいんだけど、今度昔のクレアの事を聞いてもいい?」
『構わぬ』
リルと約束を交わし気が付いたら部屋の時計は零時を回っていた。ハヤトは窓近く移動し外を見ると猛吹雪になっている。その後をついていくリル。
「明日には止むといいな」
『?何かあるのか?』
「王都行の馬車が明日来るんだけどロイドの件もあるしで行くのが遅くなることをギルドマスターのグラルさんに相談したいから冒険者ギルドに行くんだけど雪だと面倒だなって思っただけだよ」
『なら問題ないぞ』
リルは自信満々に言う。なにか秘策があるのだろうとハヤトは思う。
「なにか考えがあるの?」
『我がお主を乗せて行けばよいのだ』
「それは、助かるけど……かなり距離あるよ?」
『平気だ。我を見くびるな』
「わかった。グラルさんと相談してから考えるよ。ありがとうな!」
リルを抱き上げてベットに戻る。ベットにリルを下ろしハヤトは仰向けに大の字で寝そべる。リルはハヤトの頭の近くに丸まった。
「そういえばさ、リルはなんで小さくなったの?」
寝返りしリルの方に身体を向ける。
『こちらの方が何かと便利だからだ』
ハヤトをちらりとみるとすぐ目を閉じる。
「そうなんだ……ふぁー……」
横になったことで一気に眠気が襲ってくるなかハヤトはリルの頭を優しく撫でる。
「おやすみ……」
と言ったあとハヤトは布団に包り眠りに就いた。
部屋は静寂が続き聞こえる音が強風によってガタガタと揺れる窓の音のみの中リルのうめき声が聞こえハヤトは目を覚ます。
「リル?」
心配になったハヤトは身体を揺する。
『な、なんだ!?』
「起こしちゃってごめん。リルが唸っていたから……大丈夫?」
『悪い……もう平気だ』
「そう」
ハヤトはリルを抱き寄せ一緒に布団に包まる。
『我を子供扱いするな』
「いいから」
リルの文句を無視し寝付くまで身体を撫でる。リルが眠ったのを確認してハヤトも眠り就いた。