異変
人だかりをかいくぐって冒険者ギルドを入るとおっさんが怪我をしている。おっさんだけじゃなくアースさんや仲間の人たちも怪我をしていた。俺は近くにいたカレンさんに事情を聞く。
「カレンさん、何があったんですか?」
「ハヤトさんお帰りなさいにゃ。実は……」
おっさんのパーティ『ストーム戦士団』は吹雪熊の調査依頼を受けていた。森奥を散策中に真っ赤なドラゴンに遭遇しどうにか撃退は出来たが、幸い死者は出なかったが負傷者が多数出るほどの被害を受け一旦調査を中断し帰還したそうだ。カレンさんと話しているとおっさんに呼ばれた。
「ハヤト、もう平気なのか?」
「俺よりも自分の身体を気にしてください」
「ガッハハハ! ただの掠り傷だ」
そう言われても掠り傷には見えないんだが……
「カレンさん。治癒魔法使える人はいないんですか?」
「今、奥の治療室で三人いるけど……人手が足りないにゃ……」
他にもいるそうだが依頼に出かけているためいない。カレンさんは申し訳なさそう顔をしている。
「俺様なら平気だ! あとでも構わん」
「ごめんなさいにゃ……」
「なら俺がやります」
グラムさんから貰った鞄に手を突っ込み【無限収納】と唱え、鞄から取り出たように光芒の杖を出す。
「ハヤトさんは治癒魔法使えるにゃ!?」
「どんだけ多才なんだ、お前は」
カレンさんは驚き、おっさんは呆れていた。そして後ろのロイドはまた目をキラキラさせている。
「中級までしか使えないですが」
そう言い杖を地面をトントンと二回叩く。すると魔法陣が浮かび上がり、おっさんやアースさんや仲間の人たちを範囲内に入れ無詠唱で唱えた。
「癒しの光」
光はおっさんたちを包み、みるみるうちに傷が治っていく。光が収まると同時に魔法陣も消え、おっさんたちの傷は治った。よし、上手くいった。
「おめえすげぇな!」
「痛い!」
アースさんが背中を叩く。地味に痛い!
その後仲間の人たちからも感謝された。
「感謝するぞハヤト! ガッハハハ。これであいつと心起きなく戦える!」
「あんま無理しないでください」
「さすがだなハヤト殿」
後ろを振り返るとギルドマスターのグラルさんがいつの間にか来ていた。
「おう、グラル。あいつのこと分かったのか?」
「ああ。ローウェルたちが遭遇したのは劫火竜だ。しかも大きさ的に幼体の可能性がある」
劫火竜。
炎の階層世界に生息している危険度Sのドラゴン。頭に二本の角。全身を千度近くの炎を纏い、口からは一瞬で街一つを燃やしつくす程の息吹を放つ。幼体の場合は炎のコントロールが不完全のためランクは一つ下のAランクになるが脅威の存在には変わらない。
「なんでそいつが氷の階層世界に来てんだ?」
「それは分からない……が早めに討伐しないとこの世界の生態系が壊れてしまう」
「そうだな。おし、おめえら! 明日早朝に討伐に行くぞ! 準備しろ」
「「「「おう!」」」」
おっさんたちは準備を始める。俺も行こうと思いおっさんに声をかけた。
「おめえがいたら心強い! 明日早朝門前に集合だ。しっかり準備をしとけよ」
「わかった」
おっさんたちと別れロイドの案内で道具屋に寄ったが【無限収納】に大体揃っているのを確認したので買わずにロイドの家に帰宅する。夕食を食べ終え早めに寝た。
静まり返った村に突然と爆発音が鳴り響いた。
爆発音で起こされ窓から外を眺める。村の壁が壊されいくつかの家から火が上がっている。俺は部屋を出る。また爆発音がする。先ほどより大きい爆発音だ。
「なにがあったんだ?」
扉が開く音が聞こえ振り返るとロイドとアンネさんだ。
「今の爆発音はいったい……」
「わかりません。ちょっと様子を見てきます」
「気をつけてくださいね」
「わかってます」
「ハヤトさん、気を付けて……」
「おう」
心配そうなロイドの髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き回す。目線の高さを合わせ俺は小指を出した。
「心配するな。絶対無茶なことはしないし、帰ってくるさ。約束するよ」
「うん……」
ロイドは泣きそうになりながらも指切りをする。
「行ってきます」
「いってらっしゃい!」
外は逃げる人で溢れている。俺はなかなか進めずにいた。すると遠くから生き物の咆哮とともに火の玉が飛んできて屋根に当たりる。
「瓦礫が落ちて来るぞ!」
「逃げろ!」
村人たちは我先に逃げより一層に混沌としてる。
「お母さん!」
「ああああ! マリア! マリア逃げて! 誰か! 誰か娘を!」
娘さんと落ちてくる瓦礫の間に入り黄金の盾で防ぐ。娘さんに怪我無くってよかった俺は安心した。その後母親にお礼を言われ先を急いだ。