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メモリーカード / 前編

作者: 一日一説

僕はメモリーカードを拾った。たしかリビングに落ちていたのだ。家族の誰に聞いても知らないと答えるので、僕はそれを拝借した。家の中の物なので、もちろんお巡りさんに渡す気もなかった。


 それはなにかのテレビゲームのメモリーカードだと最初僕は思った。ただ自分の持っているゲームには使えないし、インターネットでいろいろ調べてみても市販のゲーム機に似たようなものは見当たらなかった。

 ではそもそもこれはメモリーカードなのかと疑い始めてみたけど、メモリーカード自体に英語で「Memory card」と書かれているので信じることにした。


 メモリーカードのことを忘れてたぶん二か月ぐらい経ったあとのこと。僕はある日突然そのメモリーカードを使えるようになった。


 朝起きたらいきなり、

「セーブしますか?」

 という声が聞こえてきたのだ。


 びっくりした。声と同時に、「はい」と「いいえ」の文字が頭の中に均等な大きさで均等に並んだ。僕は動揺しながらも「はい」だと思った。そしたら小さな矢印が「はい」の横にぴょこっと現れて、それっきりおかしな声とイメージは消えてなくなった。

 僕はその日一日学校でその不思議な現象について考えているうちに、以前拾ったメモリーカードへと思い当たった。しかし、帰ってそのメモリーカードを調べてみてもとくに使い方があるわけでもなく、触っても声が聞こえてくることはなかった。


 翌日。朝起きるとまた、

「セーブしますか?」という声。たぶん女の人の声だ。

 今度はいいえ、と声に出してみた。とくに変わったことは起きない。

 おかしいなと思っていると、また「はい」と「いいえ」の映像が浮かんだ。すると、矢印が「いいえ」を選択して、映像はきれいさっぱりなくなった。


 こんな日が二週間ほど毎日続いたある日。その日の朝も僕はセーブすることを選んだ。なんとなくセーブしたほうが得な気がしていたからだ。といってもセーブしたからといって、とくに変化を感じることもなかったけど。

 7月29日のこの日までは。


 僕はヒロシの家に遊びに行くため、朝からチャリを飛ばした。ヒロシの家は坂を下った先にあるので、行きはよかったが帰りが地獄だった。夏休みのカンカン照りの太陽もチャリで駆け抜ける下り坂の風には負けるみたいだ。頬を切るように吹き抜けていく風が気持ちいい。僕は目をつむって両足をペダルからできるだけ遠くへと離した。誰でもできる曲芸乗りみたいにして、僕はご満悦だった。

 ふと、目を開けた途端、僕はじゅっと身体じゅうに汗がにじむのを感じた。目の前にはチャリを押して歩くおばあちゃんがいたのだ。僕は迷う時間もなくすぐに自転車を右に切った。そして3段積みほどのレンガの花壇へと突っ込んだ。自転車は花壇を越えることができず、僕の体だけが人形みたいに前方へと投げ出された。


 車道に向かって吹っ飛ぶ僕の脳裏に声がよぎった。

「ロードしますか?」

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