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第八話 彼ららしさ




「ピャァーッ!」


「んんっ!?――――熱っ! 金色トカゲが火を吹いたっ!?」




 石製の矢は体に弾かれ、矢じりを金属製の物に変えてちくちく射っていたまめしばを鬱陶しく思ったのか、金色トカゲが炎を吐き出す。

 口をすぼめての飛ぶ火球と、大きく開けての垂れ流すような火炎。それらによって、まめしばは炎の檻に囚われる形となる。


 スキルで敵視(ヘイト)を弄って俺に目を向けさせるか、まめしばに反撃ダメージを持たせるか――――後者は『地面に点いた火』で効果が出るかどうか疑問が残るし、それに何より…………男だろうと女だろうと、パーティメンバーが火だるまになっている姿は見たい物じゃないな。

 そこまで思考し、胸ぐらを掴んで無理やりこっちを見させるような悪辣なローグスキルを発動させようとした所で…………ロラロニーが声をあげる。



「あっ――――火星人くんっ! 消してっ!」



 紐を器用に手繰り寄せ、その先のタコを空中で踊らせ。

 そんな大道芸のような主人の乱暴を受けたタコは、ピンポイントで局地的な豪雨のように水をばら撒いた。


 ……ロラロニーって、こういうのが妙に上手いよな。

 鬼角牛(オニツノギュウ)の時に虫網で魚を投げるのもやたらと正確だったし、よくわからん事の才能がある。

 一体どんな経験による物なんだろう。




「いいぞ、ロラロニー。そっちは任せるからな」


「うん~」


「ロラロニーちゃん、ナイスぅ~!」




 白いタコ。水を吐くキモい軟体生物。

 その皮膚は、ロラロニーに沢山水を貰ったおかげで、とってもぷるぷるだ。


 ――――そして、何より。

 いつもの2倍は、大きい。



『水を飲めば飲んだだけ、天井知らずで体が膨らむ』

 そういう特性を持つ、モンスターだからな。




 様々な生き物が生息するこの世界。

 Re:behind(リ・ビハインド)に息づくプレイヤー以外の生物――――それらは全て、『モンスター』と呼ばれている。

 強い弱いは関係なく、そしてこっちに害意があろうとなかろうと無条件に、とにかく一緒くたにしてそう呼ぶのが、この世界のルール。


『動物ではない』という乱暴な詭弁を罷り通らせるための、強行手段だ。




     ◇◇◇




『まるで現実のような世界』が売りの仮想空間において、人間でない生物の扱いは非常に難しい。

 宗教的な問題から決して触れてはならぬ存在であったり…………考え方の違いから、殺してもいい物と駄目な物がはっきりわかれていたり。

 今では少ないものの確かに存在する『犬をペットとして飼っている人』にとって、オオカミなどを殺すゲームは『現実世界の自分の隣人が "敵" として扱われている』感覚になるらしいし、一部の動物を守る愛護団体なんかもいたりするから。


 そういう訳で、"動物じゃない化物(モンスター)"。

 見た目がどれだけ犬っぽかろうと、このRe:behind(リ・ビハインド)での区分は、動物ではなくモンスターなんだ。




「火星人くん、これ飲んで…………出来る? ……うん、頑張ってね」


「んん~……当たりはするけど、ズラされちゃうなぁ。矢は普通に()()っぽいんだけど」


「まめしばさん、火星人くんがトカゲの目隠しをするよ。目に悪い『ハバネロジュース』を飲ませたから」


「ん! 心得た!」




「それじゃあ行くよ~……よいしょ~」


「ピッ!? ピャアァーッ!?」


「――――ナイス、ロラロニー&タコっ! そしてその目隠しされた金トカゲをぉ~……Metuberが! カメラと矢でっ、射抜いたぁっ!!」


「ノリノリだね~、まめしばさん」




 そんな

『現実の動物とは違うんですよ?』

『動物ではなくモンスターですよ?』

『だから殺しても問題無いんですよ?』

 という強引な主張を押し通すため、Re:behind(リビハ)運営もそれなりに努力をする。


 それが――――現実の動物との差異。

 カエルは伸びるし、ウサギは白い羽根を持つ。ライオンは燃え、カマキリには足が無くって、牛は目が光って体に光が走り抜ける。

 そんな物現実にいる訳がないだろう、という明確な()()()()を持つのが、Re:behind(リビハ)における動物っぽい怪物たちだ。


 そして、そんな怪物の内の1匹…………"火星人くん(タコ)" も、きちんと異常さを持っている。


 まず一つ。一定間隔で水を飲ませないと干からびてしまうが、その容量は無限。

 水を吸えば吸うほど、無制限にデカくなるという滅茶苦茶な生態。

 そして二つ。人間プレイヤーの言葉を理解して、確かな意思を主人に伝えるという、タコの身に似合わぬ確かな知能。

 どちらもありえない特徴で、このRe:behind(リビハ)に生きるものの中でも特段におかしい生き物ってものだけど…………この謎のタコにはまだまだ秘密がある。



 斬撃を受けてもまるで動じず、殴打の威力はその軟体でぼよんと流し…………矢もスペルも爆風も効かず、押しつぶしも引っ張りを受けても平気な顔でうねうねとする、無敵とすら思えるほどの防御力。

 毒を飲んだら毒を吐き、ハバネロエキスを飲んだらそれを吐くという、水袋のような謎の生態。


 サイズは無限。知能は抜群。飲んだままを吐き出す勢いは高圧で、大きな石くらいなら綺麗に切り分けられるほど。


 現実にあるはずのない要素をぶち込みまくった、ハチャメチャで力ある存在だ。



 …………ロラロニーは調教師(テイマー)だ。

 彼女自体が有する戦闘力は、皆無に等しい。


 だけれど彼女が連れるペットは、それはもう十分に強力で――――だから彼女は()()()()()()



 ここは現実では無いし、タコは実際のタコとは違うけど。

 米国で『デビル・フィッシュ』と呼ばれる存在は、Re:behind(リビハ)内でもしっかり悪魔的だ。


 敵じゃなくてよかった、と常々思う。

 攻撃が一切効かず、隙を見て『吸盤吸い付きからゼロ距離"口から出る高圧の水(ウォーターカッター)"』をしてくるだとか…………そんな恐ろしいモンスターも、そうはいないからな。




     ◇◇◇




「おうおう! あっちは良い調子じゃねぇの! 俺っちも負けてらんねぇなァッ!!」


「ビャァーッ!」


「オラァッ!!」




「……ふふふ。それでは私も、そろそろ動く事としましょう」




 こちらを忌々しそうして様子を伺うリザードマンと対峙する俺の隣では、キキョウがストレージをごそごそまさぐる。

 そうして取り出すのは――――沢山の屑鉄や小石だ。




「『魔法(スペル)は電雷、コイルを喚びだし……回し流して磁気となし、天下に回る金を捉へし――――』




 鉄分を多く保有するものの、『天然のインゴット』がある世界では製鉄の手間がかかるばかりのゴミアイテム――――鉄鉱石。

 そして、何かの製作の失敗や素材の余りなどで見捨てられた、屑鉄。


 そんな『金にならない物』を集めるのが大好きなキキョウが、それらを広範囲に投げてバラ撒き、詠唱を始める。

 ヤツが言うには、これは『投資』らしい。




「…………『"引き寄せのイベリス"』」




 そしてリュウと戦う銀色トカゲが目当ての位置に来た瞬間に、磁力魔法の『"引き寄せのイベリス"』を発現させる。


 心なしか手に持つ俺の剣が引っ張られるような気持ちになりながら、キキョウの視線を追って銀色トカゲを見れば…………ばらばらと散らばっていた鉄鉱石と屑鉄が、とんでもない勢いで収束するように飛びかかった。

 全方向からのイシツブテ。磔にされた憎き罪人への投石のようだ。

 ……タコも怖いけど、これはこれですげえ怖い。




「ビャビャァーッ!?」


「『"離別のアネモネ"』」




 そんなキキョウが続けて発現するのは、反発力を持たせる力だ。

 一点に集まり岩石のような形状となっていた屑鉄やらが、帰路へつくように元のばらばらな位置に戻る。


 あそこがキキョウの展開する、稼ぎ場だ。

 本来カネになりえぬゴミを投資して、大きなカネを得る一つの商売。




「さぁ、遠慮なさらずもう一度――――『"引き寄せのイベリス"』」




 そして繰り返される、無数の鉄のカケラによる連続攻撃。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、ミスリルで出来た杖で地面を叩いて上機嫌にトカゲをいじめ続ける。

 …………小銭を使って勝ちを得て、そこから金を作り出す。『投資』とはよく言った物だ。



「ビャァ……ビャーッ!」



 そんなキキョウを目ざとく見つけたトカゲは、恐らくこの謎の攻撃がソイツによる物だと気づいたのだろう。

 目を細めてニヤニヤしている金髪男に怒りを燃やし、噛み砕いてやろうという殺意で持って一目散に駆け出した。


 …………キキョウのやつ。

 敵視ヘイト稼ぐの、上手いじゃん。




「おやおや、いけませんよトカゲさん。沙汰はその場で粛々と待って頂かないと――――『"離別のアネモネ"』」




 溜め。

 キキョウの魔法(スペル)には、ソレが効く。


 一つの物への重ねがけ。詠唱破棄の連続魔。

 反発の力と引き寄せの力を同時に発現させ、そのどちらをも均衡させて溜め込む力。


 自身の隣に浮かべた大きな鉄球に、『"引き寄せのイベリス"』と『"離別のアネモネ"』を幾度となくかけ続け…………溜まりに溜まった『イベリス』だけを、解除する。



 そうした結果は――――幾重にも上乗せがされた、反発力でもってその場から離れる、とてもとても大きなちからだ。



 ちなみに、これはどうでもいい事だけど。

 金銭を貯め込むのが大好きなキキョウに言わせれば『貯蓄とは、無限の可能を生み出せる、何よりも素晴らしい至上の趣味ですよ』と言う事らしい。

 銀行口座とか、凄いニヤニヤしながら見てそうだと思う。




――――キュンッ!




「ビャッ!!」




 そして遂に解き放たれた鉄球は、全力で離脱を試み、それでも尚回避に至らなかったトカゲの左前足辺りを撃ち抜く。

 空気を斬り裂くような音を出しながら飛んだ鉄球は、地面に大きな穴を開け――――更にそこから、余りのスペル効果を吐き出した。


 そう、そこにあるのは『反発力』。

 周囲の物体を、拒絶するちから。


 それに押された形となったトカゲの向かって左側。

 鉄球の着弾点の反対側にいるのは――――腰を落として大上段に大太刀を構え、瞳を爛々と燃え上がらせる…………赤い漢。



「ここがてめぇの土壇場でぃ!

 漢一匹リュウジロウ、盗人トカゲをここに処す! 南無……三ッ!!」



―――― 一閃。


 回避行動の小さなジャンプと、それを後押しするような『反発力』で、()()()()にリュウの前にその横っ腹を晒した哀れな銀色トカゲは、リュウの大太刀で綺麗さっぱり両断される。


 トカゲから見て若干左に逸れていた鉄球。

 リュウらしい、最短距離で敵を追うルート。

 命を奪うまでには至らないキキョウのスペルが、致命の状況を作り上げる。


 それぞれを整え、決着への道筋をしたためるキキョウの判断力は、中々真似出来る物じゃないと思う。

 まるでお手本のようなチームプレーで、惚れ惚れするような鮮やかさ。




 …………だけどさ。




「……スペルの名付けを花の名前と花言葉にするっていうのは、いささか気障(キザ)すぎないか?」


「ふふふ、そうですか?」


「いくらなんでも、ナルシストすぎるって言うかさぁ……」


「ふふ、ふふふふ……ぶふぉっ」




「な、なんだよ。急に吹き出して」


「いえ……ふふふ……相も変わらずサクリファクトくんは、かけ言葉がお好きだな……と」


「えぇ?」


「そんな小粋な言葉遊びが、私は何より楽しくて……ふふふ、ふふふ」




「……ちょっと待てよ。言葉遊びなんてした覚えはないぞ。少なくとも、今この場では」


「ナルシストの語源は『水仙スイセンの花』ですよ? 今この場では、()にかかった……何より的確で、かつユーモラスな表現かと。ふふふ」




 マジかよ。知らなかったぜ。

 知らなかった事だから、そんなつもりもなかったぜ。




「気障も冗談も、言葉をかけると言う意味では同じでしょう。やはり私たちは気が合いますね」


「……一緒にするなよ。そんなつもりじゃないんだって」


「ふふふ」


「本当だぞ」


「ふふふ」




 何笑ってんだよ。

 誤解だってのに。


 粗暴者(ローグ)が花とか、知ってる訳ないだろ。





・イベリス

白くて小さい可愛らしい花。花言葉は『(心を)引き寄せる』。


・アネモネ

真っ赤な花弁のイメージが強い、八重咲きの花。花言葉は『見捨てられる』『見放される』。


・土壇場

土を盛り、その上に罪人をおいて処刑する場所の事。




スペルの名前は自分で好きに決められます。

定められた魔法の名というのが無い世界なので、自身が最も強く思い込める言葉をキーにするのが主流です。

もちろん『ファイア』と言って火を出す魔法師(スペルキャスター)も多くいます。


キキョウが花の名前を使っているのは、自身のキャラクターネームに合わせた個性のアピールです。

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