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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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閑話 ガールズ・ティー・パーティー

□■□ Re:behind 花畑エリア □■□




「私の計算では、今が好機です! 波状攻撃を!『ナンバー10、イグニッション』!」


「ぶった斬ってやるぜぇ!『大地の抱擁』!」


「『オデ、希う。敢然と終わりを齎す無節な炎よ、万物を根源から焦がし尽き果てを成す終の力よ。猛り、狂い、高鳴り、響け…… " カトレイアの緋炎 " 』


「…………『炎の槍(フレイム・ランス)』」


「ほっほっほ」



 久々のクラン活動。

『エンジョイ・マジック・サークル』の精鋭にして唯一のメンバーである五人と、私……【天球】のスピカによるパーティ狩りが、花咲き乱れるこの地で行われていた。


 そんな今日の主題は "とにかくお金を稼ぐこと" 。

 そのためにジョブ屋で受けた『太根っこの化け大木』の討伐クエスト。それの達成を目指す私たちは、季節を問わず色とりどりの花びらが揺れる常春の地……通称 "花畑エリア" を訪れている。




 簡単に言えば、それは動く木だ。プレイヤーを食べる、木々に紛れる人食い樹木。

 活動していない時は普通の木と変わらぬ見た目で静かにその時を待ち、ひとたび自身の領域に動くものが入った事を感知すれば、太い幹がばらばらとほどけて無数の触手となって襲いかかる。


 地面に伸びた根っこのような部分は、実は全てがただの触手で、地中に根を張ったりはしていない。それゆえ獲物を見つけたその瞬間に、思いもよらない速度で機敏に動き出す。


 目も鼻も無いというのに、的確に獲物を追い回し、縦横無尽に伸びる無数の触手で捉えようとする。それに捕まったが最後、体内にプレイヤーを飲み込みじっくり溶かすようにして捕食するモンスターだ。


 ……とは言っても、そこまで大したモンスターではなく、それ相応に弱点はある。

 例えばその生態による、決定力の無さ。捕えて飲み込み、じっくり食べる事しか出来ないので、捕まったとしても猶予は十分にある。

 一度に一人のプレイヤーしか飲み込めないから、その一人がすっかり消化される前に倒してしまえばいいだけの話。


 その他にも、 "触手の力は意外に弱くて、壁役などがいれば十分に対応出来る" だとか "木のような体に相応しく、燃えやすいし寒いのも苦手" などなど……初心者プレイヤーでない限りは、苦戦のしようがない程度のモンスター。



 しかし今ここ――――首都より北に位置する "花畑エリア" には、目に見えるだけで10匹もの『太根っこの化け大木』がうごめいている。


 いくら対応が楽だとは言っても、こうまで多いと簡単な話じゃない。

 1匹を見ている間に別の化け大木が背後に迫り、パーティメンバーを一人ずつ飲み込んで行ったら……中級者の5人パーティでも苦戦を強いられるだろう。


 まるで牢獄のようにプレイヤーを拘束するこのモンスターは、数が1増えるだけで強さがぐんと上がる。

 それが10匹ともなれば、プレイヤーによる討伐依頼が張り出されるのも納得と言うものだ。




     ◇◇◇




 このRe:behind(リ・ビハインド)における『クエスト』という存在は、ゲーム側が生み出すものではない。

 "初心者狩場に出現したユニークモンスター"

 "厄介なモンスターの大量発生"

 "とある素材の流通不足"

 などなどの、自分ではどうしようもない出来事に直面したプレイヤーが、誰かにどうにかして貰おうとする手段…………それが『Re:behind(リ・ビハインド)のクエスト』だ。

 言葉を変えて "要望(リクエスト)" と言っても良いかもしれない。




 そんなこんなで今回は、花畑エリアで花や草を摘み、それをポーション等に加工して日々の暮らしを営むプレイヤーたちによる『大量発生した太根っこの化け大木 討伐依頼』が発行された。

 ジョブ屋の掲示板に依頼書を張り出し、集めた依頼料をNPCに預けて成立したこの『討伐クエスト』。報酬は50万ミツと中々高額で、よっぽど多くの人々が花畑での生活に依存していた事が伺える。


 それを目にした私達『エンジョイ・マジック・サークル』の面々は、これ幸いとその依頼を受け、プレイヤーに害をなす不届き者を退治しにやってきたのだけれど……。




「ほう……これは……私の炎魔法で『太根っこ』が燃えている確率……100%ですね」


「俺の土魔法で、ぶった斬ってやったぜ!!」


「オデ、ハラ減った。焼いて、クウ」


「…………燃えよ」




 お気づきだろうか?

 今の惨状に。




「ほっほっほ、よく燃えとるわい」




     ◇◇◇




 そう。

 ここは "花畑エリア" である。


 瑞々しい草花が足の踏み場もないくらいに生い茂り、豊潤な香りで色とりどりのカーテンを揺らす、まるで天上の世界のような土地である。


 そこで『大地をめくりあげる土の魔法(スペル)』と、『全てを焼き尽くす炎の魔法(スペル)』を使用するという事は。




「ずいぶん歩きやすい場所になったのう。ほっほっほ」


「…………」




 それら全てを台無しにする、悪魔の所業だと言う事なのだ。




 ………………いやいやいや!

 何をしてるの!? 私の『光球』のような周囲に影響を及ぼさないスペルで一匹ずつ確実に仕留めていって、押し負けそうになった緊急時にだけ炎とか岩で攻撃する筈じゃなかったの!?


 何で開幕から思いっきり全開なの!? 関係ない可憐なお花も、木の実を揺らす大樹もまとめて焼いて、地面を滅茶苦茶にして薬草類も根こそぎ駄目にして……それで『花畑エリアに平和を取り戻すクエスト』の達成と言えるの!?


 惨状だよ。大惨事だよ。大事故だよ。

 まるで手のつけられない山火事のような、現在進行系で焦土と化して行く花畑だよ。

 危険なモンスターと一緒に草花も焼き尽くして……ジョブ屋でクエスト報告を受けたプレイヤーたちの複雑な表情が、目に浮かぶようだよ。




 ……っていうかそもそも、魔法師(スペルキャスター)が4人いるのに、そのうち3人が『炎のスペル』の使い手であるのもおかしいし。

 何でそこかぶっちゃうの? 氷に雷に風まで色々あるのに、どうしてこの狭い範囲で()()()が起きてるの?


 もっと色々しようよ。曲りなりにも『魔法師(スペルキャスター)と言えばエンジョイ・マジック・サークル』と呼ばれるほどには知名度があるのだから、工夫とか違いを持たせようよ。それが多彩な属性を操る魔法師(スペルキャスター)の強みであり、顧客を喜ばせる多様性ってものでしょ。

 こんな現状、セレクトショップに行ったら、全ての棚が違うブランドの赤いコートで埋め尽くされてるのを見た気分。そんなお店は誰も惹かれないし、だから新しい人が来ないんだ。

『スペルの腕は確かだけど、それを打ち消すほど残念な奴しかいないロールプレイヤークラン』という風評も、納得してしまうと言うもの。


 お願いだからもう少し、魅せる努力をしてほしい。

 それこそがRe:behind(リ・ビハインド)における強さになるし、その辺をもっときちんとすれば……メンバーが増えたり何かの宣伝を頼まれたりして、クラン活動が楽になるはずなのだから。




「これはワシも、負けてはおれんのう」


「…………」


「どれ、ひとつ編むとするかの」





『エンジョイ・マジック・サークル』リーダー。

 白髪に白ひげを携えた、ファンタジー然とした老魔法師。

 ヴィクトール・オステル。


 日々の行いは極めてクレイジーだけど、その魔法(スペル)の腕は保証されている。

 魔法師(スペルキャスター)のレベルは25を越え、紛うことなきトッププレイヤーの一人だ。


 そんな彼が、特大の魔宝石がついた深い茶色の杖を手にして念じ出す。



 そうだ、ヴィク爺。貴方が居たんだ。圧倒的な熟練を踏んだ、この世界の魔の極点が。

 貴方が居れば、その場は魔導の髄となる。Re:behind(リ・ビハインド)世界が力の長たる魔法師(スペルキャスター)とは何たるものか、その身を持って魅せ付けるのだ。

 深淵なる魔素を揺るがし、数多の属性元素を手足が如く振る舞う我らの、天地開闢の力の一端を――――――




――――あ。




「ほっほ……『核熱フレア』」




 ……ヴィク爺も、炎使いだった。


 赤いコートがまた増える。




 僅かばかりの報酬のために、恵みの花々を焼き尽くし。

 使うスペルはモロ被りで、見た目の華もありはしない。

 動く度に問題を起こし、幾億もの悪評をばら撒き続ける変人集団。

 その紅一点が、【マホサーの姫】の【天球】スピカ。奇人変人に担がれる、スペルオタクのお姫様。


 そんな『全部まるごと清々しいほどの真実』は、今日も元気に膨らんで、あちらこちらで大いに語られるのだろう。


 もうやだ。こんな事なら今日はインせず……クラン活動をズル休みしちゃえばよかったよ。




     ◇◇◇



□■□ Re:behind 首都 □■□




「…………はぁ」




 "花畑に近い街" を出て、首都の大通りを一人で歩く。歩くと言っても魔法(スペル)『光球』を大きくさせた『天球』に座ってふわふわ移動するだけだけど。


 クエストを達成し、報告と報酬受け取りを済ませた私達は、一同解散となった。何やら他の面々は、一仕事終えた打ち上げだだのなんだの言って近くのレストランへ向かったようだけど……お金を稼ぐための事をした打ち上げで、お金を使ってしまうというのは如何なものかと私は思う。

 そんな事をしているから、クラン資金が火の車なのだ。もっとちゃんと考えた行動を――――――。




「…………」




 なんてぼーっと考えている内に、目的の場所に着いたようだ。

 私のジト目に映る看板。カタカナで大きく書かれた『カニャニャック・クリニック』の文字。

 ここの所はしばらくずっと、ひとまずここで羽を休める事が習慣となっている。


 何しろここの店主カニャニャックは、私の個性的な喋り方でも十分に意思疎通のなせる、気兼ねなく同じ時間を過ごせる存在なのだ。

 自分で選んだこのキャラ作りではあるけれど、割と心労もたまるロールプレイな毎日……そんな中で一緒にいて楽なカニャニャックは、貴重な存在。大切な友人だ。




□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 『よろず屋 カニャニャック・クリニック』 □■□




「……参上」


「やぁ、【天球】のスピカ。今日もジト目だね」


「…………」


「どうぞ、かけてくれたまえ。何か飲むかい? 丁度よくここに、ワタシが新たに開発した『体力が100減るくらいの雰囲気になるけど、そのあと200くらい回復する感じの薬』があるんだけど」


「……不要」


「そうかい、じゃあハーブティにしよう」




 そう言ってゴソゴソやりだすカニャニャックを尻目に、お店の端っこに腰をおろす。

 なんとなく『それっぽい』かなと思って初めたこの私の定位置は、椅子にも座らない私のお尻に配慮したカニャニャックが、やわらかいクッションを置いてくれている。


 ぽふり、とその上に座って、何の気なしに近くにあったカサカサの棒を手にとった。

 これは一体なんだろう? カニャニャックの実験素材だと言うのはわかるけど。




「おまたせ……おや、スピカ。それに興味があるのかい?」


「…………」


「それはマグリョウが持ち帰ってきた、ムカデ型モンスターの毒生成器官と思われる物だよ。どうにかしてその機能を再現したいと思って――――」


「…………ッ」


「おっと……投げないでおくれよ。虫、嫌いなのかい?」




 触ってしまった。きもちわるい。

 嫌いに決まってるでしょ、虫なんて。

 しかも、よりにもよってムカデだなんて。映像でしか見たことはないけど、あんなに足がいっぱいある生き物…………想像しただけでさぶいぼが立っちゃうよ。




「……嫌忌」


「つくづく乙女だねぇ。たまに私はわからなくなるよ、キミのキャラクター性は一体どこから演技で――――」


「こ、こんにちは~」


「――――っ!?」


「おや? いらっしゃい。先日ぶりかな?」




 体が硬直する。ムカデの内蔵を触ったその時より、ずっと機敏に瞬発的に。

 見慣れた顔に、見慣れた服装。きょろきょろしながらお店に入り、そうしておずおず出す声は…………耳に覚えのある可愛い声。




「確か……ロラロニーちゃんだったかな? どうしたんだい?」




 どうしよう、 "柊木ことり(ロラロニー)" ちゃんだ。




     ◇◇◇




「あの、先日ご迷惑をおかけしちゃったので……そのお詫びに……」


「なんだ、そんな事かい。気を回す必要は無いというのに」


「これ、課金アイテムの『お芋のマカロン』です……。まめしばさんにお小遣いが貰えたので、それで、その……」


「おやおや、これは良いね。マカロンのような複雑な甘味はRe:behind(リ・ビハインド)では見られないから、ことさらにありがたいよ。お茶を入れよう、かけてくれたまえ」




 ああ、ロラロニーちゃん。今日もふわふわの栗毛を揺らして。

 くりくりのお目めで店内を無遠慮に見渡す姿は、現実のことりちゃんのような小動物感。きっとあなたに『ロールプレイ』という概念は、ありはしないんだろうね。


 でも、そこが素敵。ありのままに可愛い貴女が好き。

 数多くある課金スウィーツの中から『お芋のマカロン』とかいう変なものをチョイスするそのセンスが好き。

 いつまでも見ていたいよ。私の理想の女の子。




「あ、あの」


「――ぴっ!?」


「えっ、あの……ご、ごめんなさい」


「…………」




 心臓が飛び出るかと思った。いきなり声をかけてくるんだもの。

 てっきり私に気付いていないのかと思って、安心しつつも少し落胆していた所だったから、よりいっそうに驚いた。

 思わず変な声を出してしまって、申し訳なさそうな顔をするロラロニーちゃん……ああ、そんな顔をしないで。貴女はいつだって、何一つ悪くないんだから。




「……あの、【天球】のスピカさんです……よね?」


「……左様」


「リスドラゴンの時、助けてくれたって聞きました。本当にありがとうございます。……ずっとお礼が言いたくって」


「…………」


「よかったら、スピカさんもお菓子食べて下さい。すごく美味しそうですよ」


「…………」




 コクーンハウスではお話出来るけど、Re:behind(リビハ)では他人同士の私たち。

 幾度も間接的な繋がりはあったけど、こうして面と向かってお話するのは初めてだ。


 ああ、ロラロニーちゃん、ことりちゃん。

 いつも首都で見かけるたびに、こっそり後ろから見ていたよ。

 ふらふらしながら自由に歩いて、お腹が空いたらベリーを採ったり、唐突に草むらに寝転んだりするロラロニーちゃん。

 貴女を害しようとする赤ネームや、プレイヤーを狙うモンスターだって、私が密かに退けてたんだよ。


 それもこれも貴女の日々が、何より麗らかであるようにという、私の願いによるもので。

 貴女は幸せでいてくれればいい。私が願った理想のままで、夢と希望の塊のような女の子のままで生きていてくれればいい。

 私はそれを願っているだけで、見返りなんて何もいらない。



――――そういう日々を過ごしながら、じっとジト目で見つめ続けた彼女が……今目の前で、色とりどりのマカロンをすすめてくる。


 ……どうしよう、言葉が出ない。

 首を振ったり頷いたりするのが精一杯で、きちんと会話を繋ぐことが出来ない。私は元社会人で、飛び込み営業だって得意の筈なのに。


 これじゃあまるで、首都を歩くと時折現れる、スピカに夢中になるファンみたい。顔を赤くして、口をぱくぱくさせるだけの、みっともない姿はすっかりソレと一緒だ。


 恥ずかしい。色々お話したいのに。

 最近の事とか、この前の事とか、聞きたい事はいっぱいあるのに。




「私はこの水色のが一番美味しいと思うんですよ~。スピカさんはどれがいいですか?」


「…………これ」


「あ、ピンクですか~。それもいいですね~」


「さぁ、準備が出来たよ。皆でお茶にしようじゃないか」




     ◇◇◇




「美味しいですね~、やっぱりコレにしてよかったです」


「確かに、味と良い食感といい……中々の物だ。さつまいものペーストがねっとりと甘さを伝えて、紅茶とよく合うよ」


「カニャニャックさんのはサツマイモなんですか? 私の水色は、山芋の味ですよ」


「……山芋」




 何故山芋のマカロンがあるのか。それはスウィーツと呼べるのか。そもそも何故そんな食材にピンと来ているのか。


 色々疑問はあるけれど、幸せそうに食べるロラロニーちゃんの笑顔が全部を吹き飛ばす。持ち込んだ本人が一番に楽しんでいるのがおかしくて、笑いをこらえながらピンクのマカロンを口にする。




「……それで、キミのパーティメンバーたちは元気かい?」


「はい! みんな毎日、元気いっぱいでRe:behind(リビハ)してますよ~。またみんなで遊べて、私もとっても嬉しいです」


「それは良かった。最近は何をしているのかな?」


「たまに海に行く事もありますけど、近頃は荒野地帯で鉱石を集める事が多いかもしれないです。キキョウさんの『磁力魔法』で、鉄っぽいのが引き寄せられるんですよ~」


「……ふむ、なるほど。面白い話だ」


「たまにサクリファクトくんとリュウくんの剣がくっついて、二人でわちゃわちゃしたりして……えへへ」




 そう言って頭の中で記憶を再生するように上を見るロラロニーちゃんは、その映像を思い返して笑いを零す。

 おひさまのように朗らかな笑顔はとても可愛いものだけど…………それを生み出したのが "サクリファクト(あの男)" だと思うと……何だか気に入らない。




「上手く行っているようで、何よりだよ。スピカもそう思うだろう?」


「…………」


「……今日はことさらに無口だね。どうしたんだい?」


「…………」


「も、もしかして知らない子が……私が、いるから――――」


「否定」




 首を必死に振ってアピールする。

 違う、違うんだよロラロニーちゃん。貴女は何も悪くないの。私が勝手に緊張しているだけだから。


 ああ……コクーンハウスであれば、もっとすらすらお話出来るのに。

 スピカと言う仮面越しに見る貴女は、いつもよりとっても眩しく見えて、それに照らされる自分が余計に醜く見えてしまって……上手く言葉を紡げないんだ。


 貴女の前では素直のまんま、現実の『乙女』でいたいのかもしれない。

 仮面を被った偽物の繋がりじゃなくって、ありのままで交流したいのかもしれない。




「…………あれ?」


「……?」


「スピカさんの胸のブローチ……私、見たことありますよ」


「…………あ」


「知り合いのお姉さんのデザイン画と、一緒です!」




 そう言って私の胸の装飾品……乙女座を模したミスリル製の特注品を指差すロラロニーちゃん。

 確かにこれは私のデザインノートに描かれたサインを参考にして、知り合いの鍛冶師に作って貰ったものだけど…………あんなに小さいサインを、そんなにしっかり見ていたなんて。


 そんなに細かく私のノートを覚えている事が嬉しい半面、これはまずいかもしれない。

 私は『光球が得意だ』という事をこの子に説明しているし、魔法師(スペルキャスター)女司教プリエステスである事も知られている。


 ブローチ、スペル、職業と――――全ての要素が揃ったスピカが、今ここにいる。

 ああ、とうとう『粕光(かこう) 乙女(おとめ)』がスピカの中の人だと言う事が、ロラロニーちゃんに気づかれて――――




「もしかしてスピカさんって……」


「……いや、あの」


「乙女さんと、お知り合いなんですか? いいなぁ~」


「…………」


「私も乙女さんと、Re:behind(リビハ)で会いたいなぁ~」




 …………そうだよね。

 ロラロニーちゃんは、ことりちゃんは……そういう子だもんね。


 ほっと安心。ちょっとだけ残念。そしてやっぱり、ロラロニーちゃんは可愛い。

 ()()()()のリアルネームを思いっきり口にしちゃってるけど……そんな所も、この子らしい。




「……へぇ、リアルの知り合いかぁ…………。ロラロニーくんにとって、その『乙女さん』とやらは……どんな人なんだい?」


「乙女さんですか? そうですねぇ……」


「…………」




 ……カニャニャック。この顔はきっと気付いてる。

 気付いた上でわざと聞いてる。そういう所があるんだ、カニャニャックは。




「う~ん……とっても美人で、センスがよくて、魔法みたいに素敵な服のデザインをどんどん生み出す……凄い人なんです」


「それは素晴らしい。ロラロニーちゃんはその『乙女さん』の事を、ずいぶん好いているんだね」




「はいっ! 大好きですよ! 私の理想のお姉さんなんです!」




 ザ・魔法少女と言った感じのつば広とんがり帽子を引っ張って、精一杯に顔を隠す。

 隠れ際、ニヤつくカニャニャックと……不思議そうに首を傾げるロラロニーちゃんが、ちらっと見えた。


 恥ずかしくって、嬉しくって、もどかしい。

 色々あったし、複雑だけど…………とりあえず。


 "今日ダイブインして、良かったな" って思った。




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