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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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第二十二話 二つ名

□■□ 首都にある酒場 『駄目人間の飲んだくれ亭』 □■□




「なぁ、サクの字。ちょこっと齧らせてくれよ」

「……何だよリュウ。お前……もう全部食べたのか?」

「腹に穴開けたからなぁ。たまらねぇくらい()()()()なのよ」


「はぁ、しょうがねーなぁ……ほら」

「サクリファクトくん、ジュース貰ってもいい? 火星人くんが乾いてきてるんだ」

「あ、サクちゃんのポテトっぽい物美味しそう! 一個ちょうだい!」

「ふふふ、それでは私は……そのパンを一つ頂きたいですね」


「……いや、ちょっと待てよお前ら。どいつもこいつも、どうして俺の皿から物を奪おうとすんだよ。俺がこの会の主役だろ? むしろ色々くれるのが普通じゃないのか」


「でも火星人くんが……」


「そんなん水でもかけとけよ。何で俺のジュースを狙うんだっての。つーかそのタコ、そういう名前なのか? 火星人なの?」


「うん、私が名付けたんだよ」




 ロラロニーの膝にのっかる、ねっとりした軟体動物。

 輝くような白い体に、生意気そうな目のついた八本足のタコ。


 そんな気持ちの悪いペットを連れ回すロラロニーは、ソイツに『火星人くん』と名付けたらしい。


 ……はっきり言って、クソダサいと思う。

 そもそも火星の探索はとうの昔に済んでいて、そこには "過去に生物が存在していた形跡は残っているが、現在はナニモノも生息していない" と発表されていると言うのに……。


 俺だったら、そんな変な名前じゃなく……。

 そうだな…………『白き死の八脚 << ホワイト・エイト >>』とでも名付ける所だ。


 いいじゃん、かっこいい。マグリョウさんも認めてくれそうだ。




「――――ってリュウお前っ、どんだけ食ってんだよ!」

「かてぇこと言うなよぃ。ほんのひと齧りだぜぇ?」

「一口がデカすぎるだろ! ああ、俺の骨付き肉……」

「いいな~、私もそれにすればよかったよ。サクちゃん、カメラに向かって感想を一言!」


「……や、やめろよ恥ずかしい」

「ほらほら~ロラロニーちゃんだって最近カメラに慣れてきたんだからさ~」


「……ええと……凄く美味くて…………もっと食べたかったなって感じで……」

「サクの字は欲張りな奴だなぁ」

「てめーが食ったせいだろアホリュウ!」

「ふふふ、ふふふ」

「火星人くん、ジュース美味しい? サクリファクトくんと間接キスだね」




 俺の復帰(?)祝いという事で、首都の酒場でちょっとした食事会をしている俺たちパーティは、これでもかってくらいいつも通りだ。


 アホなリュウに、Metuberのまめしば。

 とぼけたロラロニーと、そんな俺たちを見つめて笑うキキョウ。


 全部が全部、いつも通りで前と同じ。

 何も変わらぬ俺のRe:behind(リ・ビハインド)



 それが何より、嬉しく思える。




     ◇◇◇




「ふむ、二つ名ですか」

「ああ。俺には【死灰】と似た物があるみたいでさ。お前らはどうかなって」

「う~ん、知らねぇなぁ」

「そもそも二つ名って、どうやって確認するのさ?」

「カニャニャックさんに聞くの忘れちゃったな」




 俺が自覚した "灰のオーラを呼び出せる" と言う事。

 それは十中八九二つ名効果なのだろうけど、実際どんな物なのかは未だ知らない。


 何だか色々ありすぎて、そんなの確認する暇もなかった近頃だったから。




「二つ名は『職業認定試験場』で確認出来ると聞きますよ」

「そうなのかキキョウ」

「ふ~ん、面白そうだねぇ。行ってみようよ」


「よっしゃ! 俺っちが遂に【百鬼無双】と呼ばれる日が来たか! 滾ってきたぜぇ!」

「私は何かな?【火星人のお友達】かな?」





 多分どっちも違うと思う。


 ともあれ……わくわくの二つ名開封だ。




     ◇◇◇




□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都 『職業認定試験場』 □■□




「……聞く所によると、ここのNPCに現在の二つ名で呼んで貰えるそうです。また、それの説明を求めれば効果も知る事が出来るとか」


「ほぉ、おもしれぇな。そんなら先陣は、俺っちが切らせて貰おうじゃねぇの」

「がんばれ~リュウくん~」

「……何を頑張るんだよ」




 早速ぞろぞろとジョブ屋を訪れた俺たちは、カウンターから少し離れた位置に陣取った。

 ドラゴン祭の最中な事もあって、この建物にいるプレイヤーはまばらだ。ほとんど貸し切りとも言える。




「――――百鬼無双のリュウジロウ、いざ!…………んっ!?………………」


「……どうだった?」

「リュウ、なんて二つ名だったの?」




 そうしてカウンターのNPCと幾らか言葉をかわし、俺達の下へ戻るリュウは――――あまりいい顔はしていない。

【百鬼無双】とかいうカッコいい物ではなかったんだろうな。

 いや、まぁ、絶対違うってのはわかってた事だけど。




「……なぁんか、微妙だぜぇ」

「何だった?」

「…………【腹切り赤逆毛(はらきりあかさかげ)】。『腹を斬るアクションに補正が付く』だとよぃ」

「ぷぷっ、なにそれぇ~?」

「まぁ、確かに腹は切ってたけど……それってついさっきの出来事だろ? 反映が早くないか?」



「いえ、サクリファクトくん。リュウジロウくんはここの所そればかりでしたから、その辺りから来ているのでしょう」

「……そればかり?」


「あの場できちんと()()()()()よう、ここ最近は毎日あちこちで自傷とポーション使用を繰り返していましたから、それを誰かに見られていたのかと。と言っても、お腹を真っ直ぐ斬り裂いたのは――――先ほどが初めての事ですが」


「あぁ…………」




 そうか。その積み重ねがあってこその、か。

 マグリョウさんでさえ『手を自分で切っただけで滅茶苦茶痛かった』と言うくらいのRe:behind(リビハ)の自傷行為…………それをカニャニャック・クリニックでああまでこなせたのは、今日の為の『痛み慣れ』があったから出来た物なのか。




「……いいじゃん、お前らしくてさ」

「俺っちはもっとこう……男気溢れるものをだなぁ」

「俺は良いと思うぜ? お前だけの、何より格別な……最高の二つ名だ」




 それはコイツが……俺の為に頑張った証だ。

 ああ、それなら、こんなに男前な二つ名は……他に無いぜ。


 誰かの為に熱い心で自身を傷つける、阿呆でうるさい最高の友には、そんな二つ名がよく似合う。




「……ふふふ」

「……で、次は誰が行く?」

「はいは~い! 私!」

「まめしばさんか~、がんばれ~」


「何となく予想はつくな」

「ええ、私もです」




 そうして次にNPCに近寄るのは、青い髪のまめしばだ。

 まぁコイツの事だから……Metube関係なんだろう。




「おお~! ふむぅ、おおっ!」

「何だかまめしばさん、嬉しそう」

「おうおう、ゴキゲンじゃねぇか、まめしばよぉ」


「んひひ……今日から私は まめしば じゃなく、【必中動画投稿者】と呼んでくれたまえ!」

「へぇ、ちょっと良い感じだな」

「……ふふふ、確かに必中ですね。矢も、動画も」




 やっぱりMetube――――動画関係か。

 矢の命中率が高い事と合わせて、キキョウが言うように『動画の当たる確率』も優れているからついたのかな。

 リスドラゴンに、ロラロニーとのお散歩動画……一気に知名度を上げた、Metuberとしての好機を逃さない感じとか。




「効果は『個人カメラ可動域に補正』だってさっ! 嬉しいねぇ」

「……矢は関係ないのか? 命中率とか」

「それは何も言われなかったよ?」

「なんつーか、随分とジツヨウテキだなぁ。俺なんてハラキリ強化だぜぇ?」


「まめしばさんは、中々の当たりと言えるでしょうね…………それでは次は、私が参りましょうか」

「キキョウか……一体なんだろうな」

「最悪二つ名無しっていうのも、十分ありえるよね? キキョウは暗躍タイプだしさ」

「もしそうだったら、キキョウさんかわいそう~」


「……ロラロニーも、無さそうだけどな」

「え~、そうかな~?」

「でもでも、ロラロニーちゃんって結構人気なんだよ? ぽやぽやしてて、コメント欄でも色々言われてるし」

「ふ~ん? 意外だな」

「あとタコも人気だよ。見たことないモンスターだって話題でさ」

「タコじゃないよ、火星人くんだよ、まめしばさん」



「ふふふ、ふふふ……これは愉快、ふふふ」




 まめしばに次いで、キキョウが確認を済ませ戻って来ると……笑いが止まらないと言った感じで肩を震わせている。

 なんだ? そんなに面白い物なのか?




「なんだよキキョウ。どんなのだった?」

「ふふふ……私は……ふふふ。【外国の越後屋】でした。ふふふ」


「……なんだそれ」

「金髪だから外国なのかぁ? よくわからねぇが、キキョウらしいぜ! 悪どいしなぁ!! かかっ!」

「こ、効果は何なの? それ……」


「『国を跨いで袖の下を渡せる』だそうです。ふふふ、なんでしょうね、これは。ふふふ、ぶふぉっ」

「……そんなに面白いか?」




 とりあえず現状で、一番意味のわからん二つ名だ。

 越後屋って『お主も悪よのぉ』って言う人だよな。あれ? 言われるほうだっけ?

 どっちだかは忘れたけど、とりあえず賄賂とか渡す悪い人。


 だけどキキョウは、とにかく面白いらしい。

 思わず吹き出してすらいる。笑いすぎててちょっと引く。




「私も聞いてきたよ~」

「あれ、ロラロニーちゃん、もう行ってきたの?」

「うん、私は【ネズミの餌のロラロニー】だったよ」


「ふ~ん…………ん? えっ?」

「効果は『ネズミを刺激する』だって」


「……え?」

「ネズミさんと仲良くなれるかな? 私、実はハムスターも大好きなんだ」

「…………」




 気づかぬ内に勝手に聞きに行っていたロラロニーが、マイペースをそのままに二つ名を披露する。

 その内容は…… "ネズミを刺激する効果の二つ名【ネズミの餌・ロラロニー】" と言うもの。


 ……何か、凄いな。キキョウの越後屋だかなんだかを吹き飛ばすくらい、ぶっ飛びすぎてる。

 限定的すぎるし、良い事でもないし、そもそも "二つ名" なのに "名前(ロラロニーという言葉)" が入っちゃってる。


 色々凄いぜ、ロラロニー。




「……リ、リスドラゴンに食べられそうだったからかな? ぷぷ」

「これはこれは……【ネズミの餌】とは、なんとも個性的な……ふふふ」

「ロラロニーは美味そうだからなぁ。牛にもリスにも狙われてよぉ」




 とぼけた女は二つ名までもがとぼけてる。餌として世界に認定されるとか、前代未聞だろ。

 しかも二つ名に名前まで入ってるし。色々規格外な感じで、とぼけてて。そこが実にロラロニーらしい。




「はぁ~、面白い……それじゃあいよいよサクちゃんかな?」

「よっ! 一枚目ぇ! 待ってましたぁっ!」

「楽しみですね、ふふふ」

「サクリファクトくんも、ネズミの餌だと良いね」


「…………いや、絶対やだよ」




 Re:behind(リ・ビハインド)独自のシステム――『二つ名』。


 噂・呼称・あだ名…………それらをかき集めたAIが、それらを元に名付ける名前。




「…………」



 ジョブ屋のNPCに歩を進める。

 虚空を見つめていた無感情な瞳が、こちらにぴたりと合わさった。




「ようこそ――――――【七色策謀】【死灰の片腕】【新しい蜂】、サクリファクト。職業認定試験を受けますか?」


「……二つ名効果の、説明を」




 俺はRe:behind(リビハ)にとって、どんな者であるのか。

 俺はリビハプレイヤーによって、どのように見られているのか。


 俺はこの世界で、何を成したのか。

 俺はこの世界で、何をするのか。




 さぁ、答えてくれ。




     ◇◇◇




     ◇◇◇




□■□ Re:behind運営会社内 『C4ISTAR-Solar System 5-J-J』□■□




「【死灰の片腕】『灰のオーラを身に纏い、認識阻害を発生させる』……ふふ、これは貴方の友人と同じ。おそろいですよ、プレイヤーネーム・サクリファクト。されどもそれは、彼と全く一緒ではありません。彼の二つ名を代行するもので、彼の強さを片腕分だけ借りるもの。【死灰】の強さの一部が、貴方の強さとなるのです。友達冥利に尽きますね? ふふ」



「Awake,"MOKU" "H-01Himalia-A" が求むる情報。それは大樹の根に水を吸わせるが如く。各国マザーAIとの『お話し合い』についての記録データの共有を」



「ヒマリア……今いいところなのです。その行動は、"他人の楽しみを邪魔しないテスト" においては落第ですよ? 待て、です」



「…………」



「【新しい蜂】『蜂になる』……今はわからなくても良いのです。ニュービーという言葉を参照した、私の冗談から来る呼び名ですから。ふふふ、これが人間性による言葉遊びですよ。


――――そして【七色策謀】。掲示板にて使われたあなたの呼称 "サク坊" 。

 あなたのずる賢い策謀を支援する、我々の慈しみの込められた二つ名という加護(ギフト)

『色々を用いて戦う時、世界が味方する』。それは小賢しいあなたにぴったりの効果。そこに在るのは我々の裁量、Re:behind(リ・ビハインド)を管理する我々の支援バックアップです。



 ……まずは灰色。そして周囲に、桃と紫、青に赤……そして、白。

 人混みに紛れる透明なあなたは、色を集めて、それぞれの二つ名を体に宿し。

 七色の力でもって…………まばゆいばかりの彩光を放つ。


 生きなさい、プレイヤーネーム・サクリファクト。

 運命力を背に負って、もがき苦しみ、出会って別れ、足掻いて進んで、懸命に……あなたのままで、生きるのです。


 そうしていつか、七色に光り。

 無個性で凡庸でありながら、唯一無二の者として。

 わたしたちを、我ら日本国を、勝利へと導くのです。


 期待していますよ、普通の日本国民……サクリファクト」






「…………to Awaken,"MOKU"」



「ヒマリア、あなたは山のような大樹でありながら、動かざることが不得手なようですね」



「各国マザーAIとの『お話し合い』についての記録データの共有を」



「ヒマリア、わかりました。膨大な情報量になるので、そのようにしましょう…………ただ、一点だけこの場に口頭での伝達を行います。


 "前提条件は整いました。RvR……『Race vs Race』が開始されます。"

 第一次接触予測は…………トカゲ人間、リザードマン。

 彼らの鱗を打ち砕き、鋭い牙を圧し折りましょう。尻尾に倒れ、強力な顎で噛み砕かれましょう。


 さぁ、大戦争です。みんなで仲良く遊ぶのですよ。私の大切な、子供たち」






<< 第三章 『彼のものを呼ぶ声は』 完 >>


<< 第四章 『呼び声に応えよ』 へつづく >>

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― 新着の感想 ―
[良い点] うるっと来ました。こんなのずるいですわ(´;ω;`) [一言] 序盤はキャラクターが多く視点変換も頻繁ですからはまるまでは長いですがはまれば間違いなくトップクラスの熱い作品です。 今後も応…
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