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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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第十八話 種と仕掛けにまた明日




「俺は【死灰】の友達で…………痺れて何も出来ずにいるのが、くやしい!」




 ああ、サクリファクトくん。

 なんて愚直で素直なことば。キミのキミらしいところが溢れ出た、格好悪くておとこのこなセリフ。

 まるで純朴な少年のように澄んでいて……だからこそそんなキミを肉欲で汚す瞬間が、とても待ち遠しいよ。




 待っていてね。

 今キミの元へ行くからね。


 ボクらの逢瀬の邪魔をする……おじゃま虫を、排除して。




「んふ、ふふふ……諸事情によって、今すぐ終わらせたくなっちゃった。もういいかな? 【死灰】のマグリョウ」


「…………アイツ……サクリファクト……お前は、何を…………」


「せめて苦しみ無く逝けるよう、キミの明日の運勢が良いものであるよう。殺界の名の下、祈っているよ。ばいばい」




「――――『発憤はっぷん』んんッ!」


「うわわ」




 体のあちこちにシュリケンを生やし、背中は爆風で丸焦げの男。

 どう見たって満身創痍で "負けるのは確実(負け確)" な死灰が、仮初の元気を得る戦士ファイターのスキルで無理やり動く。


 ……暑苦しいし、無駄でしかない。

 死灰の生き様らしからぬ、余計なあがき。




「……時間の無駄やよ。ど根性だなんて、キミには似合わないぞぉ?」


「…………」


「治癒のポーションで回復したとして、キミがボクを見られないのは変わりないでしょ。続けたって仕方がないよぉ」


「……それはどうだかわからんぜ。()()()()がある限り」




 らしくない。

 この男――【死灰】のマグリョウは、自身の体を捨てながら、自身の誇りを守る人間だった筈なのにさ。


 だからこその、いつでもクライマックス。

 初めから持ちうる全てを使い、相手をねじ伏せようとする。

 それが思うように行かなければ、さっさと帰って不貞寝する。


 そんな自分勝手で短絡的な、出し切りタイプのプレイヤーなのがマグリョウだったと覚えていたのに。


 どう考えたって無理筋の、薄い勝ち目に食らいつくようなカッコ悪い事――――彼らしくないし、凄くセンスがないよ。




「粘り勝ちだなんて、キミの信条に合ってないでしょ」


「…………」


「隠れてないでさっさと出ておいでよぉ……めんどくさいなぁ」


「…………」


「ボクは早くサクリファクトくんとエッチしたいんだから」




 計画は狂っちゃったけど、する事に変更はない。

 本当は『決闘デュエル状態』じゃないとそういう事は出来ないと誤認させ、『接触防止バリア』が切れた後でも続けられる事実を突きつけ。

 そうして "彼が自分で快楽を求めている" というボクが作り上げた偽物のシステムで籠絡するつもりだったけど、きっとそろそろデュエル時間は切れるから。


 でも、けど、だからと言って……()()()()()をするという所に変更は無い。

 悪意や害意の引っ込め方は熟知しているし、何よりボクに酷い事をするつもりなんて一切ないから、ボクの愛撫はバリアでは防げないのさ。



 んふふ。サクリファクトくん。

 ボクがいっぱい、良くしてあげるからね。

 まるでイルカをなで上げるように、愛でもって心をほぐしてあげるんだ。



 ああ、躰が熱い。待ちきれないよ。

 さぁさぁ、女の子の気持ちも知らぬ無粋な乱入者を、さっさと退けなくっちゃね。




     ◇◇◇




――――カツン、と音がする。

 灰の煙で見えない路地裏に響く、ブーツの底が石畳を叩く、ぶっきらぼうで硬質な音。

 それはボクとマグリョウ以外に動く者は無いこの場所において、彼の位置を知らせる明確な不運。


 頭隠して尻隠さず、距離を取って死灰に紛れたつもりでも……遊びが下手っぴなマグリョウは『かくれんぼ』の何たるかを知らないみたい。

 これで終幕。ピエロは残り、ゲストは退場さ。



――――カツ、コココ、ココカッ、という不規則な音が背後に迫る。変なステップを踏んでるみたい。

 何をしようとしているのかはわからないけど、どう考えたってボクに土を付けるには足りないよ。


 灰のオーラを纏った影に、肢体を見せつけるようにして振り返り、苦無を突き出すファイナル・カーテン。

 努力が無駄になる不運を噛み締め、今日を後悔しながら……お別れしてね。




「――――うしろのしょうめん、だぁれ? なんてねっ」


「…………」


「んふ、バイバイ、マグリョ………………ふぇ?」


「……()()()()()ならず者(ハズレ)だ、ツシマ。不運だな」


「サ、サクリファ――――――」




 どうして。

 どうしてキミが、ここにいるの。

 どうしてキミが、灰のオーラを纏っているの。

 強力な麻痺毒で痺れた体で、どうしてしっかり立ててるの。




「――――『さみだれ』ぇぇぇっ!!」


「あ」




 致命の一撃、感じる熱さ。

 あらゆる方向から突き出された剣先は、見事にボクを穴だらけにした。

 まるで剣刺し箱のマジックみたいやよ。


 だけどそこには、種も仕掛けもすっかりなくて。


 あ~ぁ。

 終わっちゃった、負けちゃった。




     ◇◇◇




「……ケフッ……んふ……だめ、だったかぁ……」


「……あんたの負けだ、【殺界】」


「んふふぅ……そうだねぇ……」




 血がとめどなく流れて、心臓に傷がついている事がぼんやりわかる。

 死ぬのも殺すのも慣れっこだけど……志半ばで倒れるっていうのは、久しぶりのできごとな気がするや。

 頭がふわふわして、やきもきしちゃう。惜しかったし、口惜しいからさ。




「……でも……ケホ、どうして?……キミは麻痺毒で動けないはず、なのにさ……」


()()()()。俺がマグリョウさんに言ったセリフで……とあるアイテムの名前だ」


「…………あぁそう。カニャニャックの…………そっか、あったね。そんなの……」




 確か……『く、くやしい……っ! ビクンビクン』とかいう変な名前の物だったかな?

 マグリョウが持ち帰り、カニャニャックが保管する……虫の巣でよく出土する、ピーキーな力のダンジョン・アイテム。


 そんな変わった名前のアイテムは、もちろん効果もおかしくて――――




「『飲んだキャラクターがゲーム内で5時間勝手に動き続ける』。寝ててもダイブアウトしても動き続けるってアイテム。頭の中は痺れさせずに、キャラクターの動きだけを制限する "麻痺(操作不能)" って状態異常下なら……そのアイテム効果はきちんと働くと思ったんだ」


「……へぇ……そんな変なの、よく持ってたねぇ…………」


「……出掛けに無理やり持たされた。偶然だ。それがアンタにとっての不運であり――――ランダムに動くキャラクターが都合よくアンタの邪魔をするようなケースも、【殺界】に巻き起こる一つの不運であるだろうと踏んだ」


「……んふ…………よく出来ました……でもさ? ひとつ腑に落ちないなぁ……」




「何がだよ」


「キミは死を恐れていたのに……その身を戦いの場に晒し、ボクのクナイの切っ先へ躍り出た……。何で……? どうしてそんな事が出来るの? …………怖く、ないのかな?」


「……怖かったよ、死ぬほど」


「…………じゃあ、なんで……」




 PTSDが『聖女』と『ヒール』に起因する物だとしたって、きっとサクリファクトくんは "死" そのものにも怯えてる。

 それでも尚このRe:behind(リ・ビハインド)にダイブする事は、それはもう理解出来ない事だと言うのにさ。

 それに加えてこうまで明確な死の危険に自らの意思で立ち向かえるというのは…………とことんボクには、わからないや。




「そんなの、ひたすら信じただけだ」


「…………んぇ?」


「俺がああして言えば、俺の友達は――――マグリョウさんは、絶対わかってくれると信じてたからな。()()()()()()()に、必ず終わらせてくれると信頼してた」


「なぁに、それ……。青臭いセリフ。聞いてて恥ずかしぃ……」




「……それに」


「…………?」




「歴戦のP(プレイヤ)K(ー・キラー)、ジサツシマスは……俺を『もう刺さない』と、そう言ったから。灰が揺らめく視界の悪さの中でも、多くの修羅場をくぐり抜けたアンタなら――――瞬時に俺を認識し、必ず止まると思ってたから」


「…………んぅ~」




 ああ、サクリファクトくん。おとこのこ。

 友達を、死灰を。その力を信じてその身を危険に晒し。

 ボクを、殺界を。極悪非道のPKの『経験値』を信じて、クナイの前に躍り出たんだね。


 愚直だね。素直だね。それは、なんていじらしい事だろう。




「オトモダチだけじゃなくって、ボクの事も……信じたんだ? わる~いPKの、その手際を」


「……ああ、それと」


「……ん?」




「俺とそれなりに楽しく遊んだ "ツシマ" は、言った事はきちんと守るヤツだったしな」


「…………ぅあ~……」




 くやしい。とっても。

 やられちゃった事より、負けちゃった事より……この子と肌を重ねられなかった今日が、何より悔しいよ。


 人の心をかどわかし、手玉に取るのが道化師(ピエロ)の仕事なのに――――ボクの心をお手玉みたいにくるくるさせる、いじわるな男の子……サクリファクトくん。




 ああ、ボクはとびきり……不運だなぁ。

 こんなに今日の運勢を恨めしく思った事は他に無いや。

 最悪の日で、最低の運気で、最厄な巡りだったね。




 ……だけれど、心はとっても晴れやか。

 キミを手に入れられなかった事は不運だけれど……死線の中で確かに煌めくサクリファクトくんの生き様を、こうしてはっきりと見れた事が…………何より幸せ。

 多くの不幸と一緒くたにして、数えきれないほど沢山の素敵を味わえたから。



 ひねくれ者の男の子、サクリファクトくん。

 ボクは、キミを見つけたその時から……ずっとずっと幸運だったのかもね。それってとっても嬉しいな。




「はぁ……生きててよかったぁ……」


「…………いや、そろそろ死ぬだろ」


「んふ…………そういう事じゃ、ないんやよ~……」




「おい、殺界」


「ん……?」


「死ぬ前に一つ、聞いて逝け」


「なぁに……?」




「これが、俺とサクリファクトの――――友情パワーだぜ」







「うわ、ダッサ」

「……それはちょっと、無いっすよ。先輩」




「えっ」




 死灰がはしゃいで、恥をかく。

 んふふ。カッコつけたり、顔を赤らめたり、つまらない事言ってつっこまれたり。

 その姿はまるで、道化のようだね。


 この場の道化は彼に任せて……道化師(ピエロ)は退散、死に戻ろう。




 今日のボクの運勢は―――― 一から十までとっても不運。

 そして、だからこそ幸運だった。


 毎日厄日なボクに訪れた、特別な今日はとっても良い日で、おしまいさ。

 ばいばい、サクリファクトくん。




 また明日。



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