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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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第十六話 今日殺すきり

     ◇◇◇




「……道化師(ピエロ)かよ。つまんねぇモン取ってやがるな」


「んふふ、こんな事もあろうかと、って奴やよ」




 両手をパーの形にしておどけるように揺れる殺界のクソ女を見ながら、ストレージから治癒のポーションを取り出す。とりあえずは右手の怪我を治し、体勢を立て直すべく、だ。

 右手しかない状態で、右手の怪我にポーションをかけるのは中々難しいな……なんて考えながら何気なくポーションの蓋を噛み開けようとした所。



「えい」

「……っ」



 そのポーションは『接触防止バリア』によって、バチンと遠くへ弾き飛ばされる。

 …………ああ、そういう仕様だったな。ダメージ判定のある投擲物を感知し発動したバリアを、利用したのか。

 やっぱりコイツは対人における多くの状況……そしてそれの利用法を知っている。




「……バリアの特性か」


「んふふ。『守られるプレイヤーの一時的(インスタント)な所持品は、バリアによって弾かれる』……不平等なPvPだと、結構使える仕様なんだよね~」


「……チッ」


「色とりどりのアイテムを使う【死灰】にとっては、そのバリアも不運になるんじゃないかな?」




 コイツの言う事は理にかなっている。俺の得意とする戦法――飛び道具や爆発物なんかを手にした瞬間、このクサレ女が黒いナイフを投げれば、俺の手からソレは弾かれるだろう。

 ただでさえ隻腕の俺であるから、ストレージアイテムを封じられると尚更に分が悪い。


 そんな攻め手に欠け尽くす俺を道化師(ピエロ)のスキルで徐々に消耗させ、最後の最後にとっておきの()()で決めるつもりだったか。


 ……ここで俺を迎え撃つのは、全て考えた上なんだろうな。

 歴戦のP(プレイヤ)K(ー・キラー)は、伊達じゃないって所か。本当に嫌な女だ。




「……そうだな、全くだ」


「どうする? 続ける? ボクは良いけど……不毛じゃないかな?」


「ああ、このまま続けてても、しょうもねぇ時間を過ごす事になりそうだ」




 気が萎える。こちらの手札を覗き見て、ゲームを滅茶苦茶に壊すクソ道化師(ジョーカー)め。

 こんなクソゲー、やってられるかよ。

 相手にするだけ時間の無駄だ。さっさと帰って、ダンジョンに行こう。

 つまらねぇ戦いは御免こうむるし、道化にまんまとからかわれるようなダサい姿を晒すのは……嫌だから。


 

――――なんて。

 過去の俺なら、そんな言い訳をしながら逃げていただろうなぁ。




「"決闘デュエル"――受けろよ、クソ女」


「…………へぇ、意外。てっきり舌打ち一つ零して、どこかに行っちゃうのかと思った」


「……今までだったら、そうだろうな。だが今は違う。俺には引けない理由がある」


「死灰は後輩思いなんだねぇ。それともカッコつけたいのかな?」



「…………まぁ、そんな所だろうよ」




 知らなくていい。俺とサクリファクトだけが知っていればいい。

 誰かに言うつもりなんて毛頭ないし、知られたいとも思わねぇ。


 友達の為に戦うなんてセリフは、ダサいし【死灰】らしくないからな。

 ……口には出さず、心に決めるだけだ。


 …………まぁ、カニャニャックも知っているけど……。

 アイツは別枠。




「抜けよ、道化。てめえは正面から叩き潰してやる」

「んふふ……こういうのも、たまには良いかも。ゾクゾクするや――――"決闘デュエル"」




 ふわり、と互いの体から球が飛び出し、丁度真ん中でぶつかり弾ける。

 アドバンテージを失って……それと一緒に不慣れな舞台も消え去った。


 ここからが【死灰】の本領だ、燃えるぜ。




     ◇◇◇




「『ホーク・アイ』『錬金アルケミー』」



 狩人(ハンター)スキル、全てを見通す鷹の目を発動させながら、錬金で灰と黒鉄の粉末を混ぜ合わせる。灰のエリアの一部に黒いモヤを作り出し、視界を奪う目隠し(ブラインド)だ。


「ひひゃ~……『忍び足』『高飛び』」


 目がいいトンボ型なんかには抜群に効く物だったが、殺界は虫共よりかは頭が回るらしい。

 歩行音を消すスキルと、ジャンプ力をアホみたいに高めるスキルで空へと逃げて、視界をクリアにする退避を選んだ。



「――愚策だろ、死ね」

「『競争アゴン』『いろおに』……はいいろっ!」



 避けようのない空中のヤツに向け、ナイフを二本まとめて投げつけると……ピエロの『遊び』でナイフの動きを強制的に変えやがる。

 "その遊び(色鬼)"なら知ってるぞ。灰色と宣言した瞬間にこちらへ向かってきたナイフを見ても――俺の知るルールのようだ。

 そんな裏切り者のナイフ共……外套を盾にして勢いを殺せば、壁に直角で立つクソ女が目に入る。

 ……何のスキルだ? いくらなんでも、自由が過ぎる。




「ん~? んふふ」

「……んだよ」


「いろおに、知ってるんだ?」

「そんくらいならな」


「ん~。普通にRe:behind(リビハ)をしていたら、大体全部知ってるはずなんだけどね? ピエロの遊び」

「…………」

「だめだよ? たまにはオトモダチと遊ばなくっちゃ! ゲームは皆で遊ぶものやよ」


「そうかよ」

「ほやよ~」

「じゃあ死ねよ」

「うわぁ、話が通じないよ。とんでもないコミュ障だぁ」




 ぼっち、コミュ障、社会不適合者か。

 そんな悪評、大いに結構。それこそ俺の積み上げてきたもの。

 人を嫌って嫌われて、そうして生きた俺の証だ。


 教えてやるぞ、【殺界】。

 コミュ障が過ごした一人の日々は、だけれど決して……孤独では無かったと言う事を。




「……くたばれ」



 剣を握り締め、泥にまみれた体で三角跳びで駆け上がる。

 垂直の壁に直立するクソ女へ真っ直ぐ飛んで、素直に突くだけの単純な動作だ。当然、避けられるだろう。



「んふふ……変わり身の術ぅ~! なんてね」



 ……右でも左でも、好きに避けろ。死に場所くらいは選ばせてやる。



「……シッ! 『コール・アイテム』」

「この局面で、ただの剣での普通な斬り付け? 変なの」

「おう、なら変わった事をしてやる――よっ!」



 突きの姿勢から右へと薙ぐ横切り……と見せかけての、()()()



「ひゃぁっ」



 回転する刃はすんでの所で避けられるも、次いで『左手があったあたり』に呼び出されたクロスボウを中空で掴んで、三発装填済みのボルトの内のニ本を一気に打ち出す。

 予めセットされたそれは、ドリルのように抉り穿って遂には爆発する秘蔵のボルトだ。

 一発弾かれ、一発は逸れ。残った一つは、そのままクロスボウごとぶん投げる。



「――もったいな~い」

「代金代わりに、命を置いてけクソ女」

「それじゃあちょっと、安すぎるかな~? んふ」



 地面へと自由落下するクソ女へあれこれ投げつけながら勢いを付け、そのまま肉薄して腰に下げた灰色のアンプルを三つまとめて掴み割る。

 中の液体が俺の腕に染み込む感覚をしっかり確認しつつ、伸ばす右手で殺界の胸ぐらを捻り上げた。



「……片手で掴んで、どうするの?」

「言ったろ、てめぇは燃えて死ね――――『火』」



 二本のボルトとクロスボウが同時に爆発を起こすと共に、俺のスペルで手の内に炎が猛る。このアンプルはとっておき…… "よく燃える油(ガソリン)" 入りの特製品だ。



「わわ」



 俺の腕ごと火がまわる――その暖かさにつつまれて、俺の一人きりの日々が……そして共に過ごした愛しい虫モンスターとの苛烈な思い出が蘇るようだ。



「ん~……『ずらかり』っ!」

「……チッ」



 掴みや極め技から逃れるスキルで距離を取られるも、その身は炎に燃えるままだ。その "継続ダメージ(DoT)" は剥がし辛いはず、ここが攻め時だ。

 ストレージから新しい剣……ひねり曲がった灰色のシミターを取り出し、撫で斬る気持ちで一閃を放つ。



「んふ……多芸だねぇ」



 振り抜いたシミターを再度投げつけ、手斧を呼び出し蹴りつけ飛ばす。



「さっさと死ね」



 その間にも胸元のナイフを抜き放ち、二の矢三の矢と追いかけっこのようにしながら頭を狙い、百発一中の死をバラ撒きまくる。


――――武器にアイテム、己の身体でさえも、惜しくはない。

 ダンジョンに潜む死灰の信条は――――『生きるか死ぬか』なんかじゃねぇ。

『殺すか殺されるか』だけを求むる探求者。惜しむは一つの黒星で、殺し合った後のことなんざどうでもいいんだ。


 明日を生きるのではなく、()()()()()()。それが俺の、俺たちの…………ダンジョンに潜む生物に共通する、クールな生き様なんだぜ。




「『ピエロの遊び』をする暇なんざ、与えてやらんぞ。さっさと死んで灰になれ」


「や~だよっ……『スニーキング』」



 スニーキング……盗賊(シーフ)の18くらいのスキルだったか。

 クールダウンがクソ長いが、3秒間姿を完全に見えなくする……匂いで探るモンスター相手にはまるで意味のない物だが、こと対人においてはぶっ壊れた性能となる強スキル。

 それを早い内に使わせたっては益のある事だが……ここで決められなかったのは、惜しいな。




「はぁ……凄い事するねぇ。キミまで燃えてるよ?」


「灰は燃えねぇ。炎で生まれるからな」


「だからって、痛みが無い訳でもないでしょう? 自傷行為には該当してないみたいだけどさ」


「殺界……てめぇに一つ、良いことを教えてやろう――――『死ななきゃ安い』、至言だぜ」


「なぁにそれ……んぐ、んぐ……はぁ~生き返る」




 距離を取った殺界が、治癒のポーションを体にかけながら口にする。どこかで見たような灰色の瓶だ。

 それと合わせて自分もストレージからポーションを取り出し、口に含んで燃える右手に吹きかけて――――あれ? 残り三本あったはずが、もう一本しかないぞ。治癒のポーション、どこかで使ったか?




「ん~、甘くていいね。これ自作?」

「……おい、てめぇ……」


「不用意に盗賊(シーフ)の体に触ったら、いけないんやよ~。手癖が悪い子ばかりなんだから。んふふ」


「……こそ泥が」




 盗られたか。『ギる』だか『スる』だか言うスキルで。

 折角俺が甘いはちみつを集めて調味した物だってのに、まさかコイツに飲まれるとは……最悪だ。

 ダンジョンの蜂の巣で採れた物をふんだんに使った、死灰謹製の激レアハチミツポーションなんだぞ。売ったらいくらになることか。




「てめぇ、金払えよ」

盗賊(シーフ)が盗みをして、何が悪いのさ~」


「……間違っちゃいねぇが、相手を選べ。死灰の物に手を付けて、ただで済むとは思うなよ」


「……じゃあ、体で返すから――」


「俺の友達にツバを付けようとした事も、等しく大罪……極刑だ。『来い、死灰』」




 風通しの悪い路地に揺蕩う爆発ボルトの灰燼に紛れて、一度後ろに飛んでから前へ出る。

 道化師のスキルで余計な事をする前に、灰のオーラと煙に紛れて正鵠を射る殺しの一突き。俺を見失ってガラ空きの脇腹目掛けて、今度こそ決殺の一撃を放つ。



「――――終幕だぜ、死の輪をくぐれ……クソピエロ」




 手癖の悪い泥棒道化に、灰色の裁きをくれてやる。




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