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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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第十五話 道化と遊ぼ

□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 『よろず屋 カニャニャック・クリニック』 □■□




「あぁ? スピカと二人でピクニック?」


「うん、【天球】スピカの熱心なお誘いによってね」


「……どういうつもりだ? アイツ」


「さぁ、どうだろう。ワタシには()()()はわからないなぁ。勿論キミ――マグリョウには、余計に知り得ぬ所であろうけどね」




 カニャニャックとひとしきり話した所で何となく腹が減った気がした俺は、とりあえずダイブアウトした。

 ダイブインの制限時間も迫っていたし、一息ついた後で首都で行われる祭をサクリファクトと巡ろうというご機嫌なプランの為でもあった。


 ……だけど、アレだな。

 アイツと出店を冷やかすなら、リアルの唐揚げ弁当で腹を満たしたのは……失敗だったな。

 どうせなら首都を賑わす祭のコンテンツで、軽いものを二人で買って――ダベったりしながらむしゃむしゃとやるべきだったかもしれない。


 過去の祭なんて、孤高の軽戦士フェンサーである俺にはまるで関わりの無い物だったから、油断しちまったぜ。

 ああいうのは友達がいてこそ楽しめる物だし、それは過去の俺には無かった物で……今の俺には確かにある物だ。サクリファクトと祭に行きたい。




「……どこにいるんだ、アイツ」


「もう帰って来ても良い頃だとは思うけれど……ドラゴン祭でも見ているんじゃないかな? スピカと二人でさ」


「……なんだと?」


「二人で一緒に楽しい時間を過ごし、良い思い出を作っているのかもしれないね。ややもすれば、人混みではぐれないように手を繋いだりしているかもしれない」


「…………」


「『カラフルベリーの果汁を凍らせたやつ』も売っていたね。スピカの小さいお口では、一人でいくつも食べる事は叶わず……サクリファクトくんの購入した味に興味を持った彼女は、それを一口いただいてるかもしれない」


「……それは、ねぇだろ」



「『ん』『おい、なんだよ。一口くれってか? しょうがないやつだな』

 『あ~ん……』『全く、甘えん坊な魔法少女だぜ――ほら』

 『……美味』『どうせなら、スピカのも一口くれよ』

 『……完食』『もう食べちゃったのか?……仕方ない、その口の周りについた物を、このサクリファクトが舐め取らせて貰うとするぜ』

 『赤面』

 みたいなやりとりを、しているかもしれないね」




 カニャニャックめ、妄想が過ぎていやがるぞ。

 サクリファクトに限ってそんな、すけこましのような行いは――――しないはずだ。なんと言っても、アイツは俺と同じなんだから。

 ああ、しないさ。出来ないはずだ。


 …………しないよな。多分。




「ピクニックへと出かけた男女の距離は、それはもう激的に縮まっているだろうから…………おや? 【死灰】、マグリョウ、【迷宮探索者】。どこへ行くんだい?」


「……ちょっと、探してくる」


「…………くふふふ、がんばって」


「……うるせえ」




 ……サクリファクト。街にいるだろうか。

 スピカは男をかどわかす、アイドル気取りのクソッタレだぞ。交友関係のレクチャーもしてやらないといけない。




     ◇◇◇




『Re:behind 雑談スレ 2908832【もうすぐ300万】』






――――――――――――――――――――――――――


1.『半自動スレ建てAI乙子ちゃん』

 リビハについての話題なら何でもOKのスレです。


 長過ぎる個人の話題は専用スレへ、晒しは別スレへ。


 為替の話題は荒れやすいため程々に。荒らしはスルー。



 P.S. けんかしないで なかよくつかってね!! 乙子


==========(中略)============




192.名も無きリビハプレイヤーさん

戦士レベル8試験、駄目だったぜ

マジクソゲー、運営は自分で一回クリアしろ



193.名も無きリビハプレイヤーさん

火のスペルで炎の魔人みたいの作りたいんだけど、どうやってイメージすればいいの



194.名も無きリビハプレイヤーさん

ドラゴン祭の賑わいに紛れて全裸になってもいい?



195.名も無きリビハプレイヤーさん

>>193

古い漫画とかアニメ見れるなら、それの真似すると割と出しやすい



196.名も無きリビハプレイヤーさん

誰かが出したスペル見るのも良いな

そういう事が出来るって思い込む事が大事



197.名も無きリビハプレイヤーさん

道化師連中は祭で稼ぎ時だから張り切ってんな

「紐渡り」とか言うお遊びで、下にトゲの山の幻覚見せられてびびった



198.名も無きリビハプレイヤーさん

道化師の「お遊び」はペナルティに人間性出るからな

輪投げ失敗でキャラクターの顔にしばらく消えないバツ印つけられたw



199.名も無きリビハプレイヤーさん

【天球】スピカがリス型ドラゴンの時の初心者と浜辺でデートしてたのって既出?



200.名も無きリビハプレイヤーさん

>>199

詳細よろ




――――――――――――――――――――――――――



□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 大通り □■□



 システムで外部ネットを利用し、匿名掲示板にアクセスすれば、ずらりと並ぶ名無しの書き込み。

 首都をぶらりと歩きながらにそれをチェックしていると、都合の良い事にスピカとアイツの話が出ている所だった。

 ピクニックは海岸へ行ったのか……しかし、デートってのはどういう事だ? 気に入らねぇな。




――――――――――――――――――――――――――




201.名も無きリビハプレイヤーさん

たまたま海岸近くの草刈りしてたら、スピカと初心者が水かけあったり砂で山作ったりしてた。

そのあと光球を空に浮かべて、二人で幸せな空間作ってイチャコラしてたよ。



202.名も無きリビハプレイヤーさん

マジかよスピカ

俺と言うものがありながら、浮気かよ



203.名も無きリビハプレイヤーさん

なんてこった

俺の娘のスピカがそんな馬の骨と? お父さん許さんぞ



204.伝承を語るジジイ

おお……ワシの孫娘のスピカ……

色を覚える歳になっておったか……



205.名も無きリビハプレイヤーさん

スピカの関係者どんだけいるんだ



206.名も無きリビハプレイヤーさん

スピカと初心者が首都東口で一緒だったのは見たな

スピカが光球を初心者に飛ばして追いかけっこして、満足そうにダイブアウトしてた



207.名も無きリビハプレイヤーさん

何かガチで仲良さそうだな~

初心者ってサクリングファクターとか言ったっけ?

二つ名スレでいくつか認定されて拡散されてたよな



208.名も無きリビハプレイヤーさん

二つ名は確か

【七色策謀】と【死灰の片腕】と【新しい蜂】だっけ



209.名も無きリビハプレイヤーさん

新しい蜂ってなんだよw




――――――――――――――――――――――――――




 スクロールする指がピクリと止まる。

 確かにアイツはドラゴン戦で名が売れたし、そろそろ2525ちゃんねる辺りから二つ名が出るだろうとは思っていたが……【死灰の片腕】だと?


 ……そういえばダンジョンに向かう途中で、アイツにそんな事を言っていた気がする。

 あの時の俺の発言が野次馬に聞かれていて、それが拡散されたか? それともそれ以前から、俺に関わる二つ名がついていたのか?


 …………理由はよくわからんが……ああ、悪くねぇ。クールだぜ。

 アイツの呼び名に俺の名が入る――――こんなにゴキゲンな事はない。


 だってそんなの……周知の仲良しって事だろ? そんなの、最高にイカしてるじゃねぇか。俺とアイツは親友だからな。




――――――――――――――――――――――――――




210.名も無きリビハプレイヤーさん

サクリファクトだっけ? そいつは露店でアイスキャンディみたいの買って食べてたよ



211.名も無きリビハプレイヤーさん

一人でか? 寂しいやつだな。ざまあみろよ



212.名も無きリビハプレイヤーさん

帽子かぶった茶色いローブのちっこいのと一緒に「トゲ当て」やってたな

そのツレ、めっちゃ声低かった。ボイスチェンジャー通してるみたいな、異常な声



213.名も無きリビハプレイヤーさん

道化師のお遊びのペナルティで低くなってんのかな?

もしくは……ミミクリだっけ? 模倣のスキル



214.名も無きリビハプレイヤーさん

お祭りだからペナルティじゃねーの

自由にミミクリ出来るほど真剣に道化師上げてるのなんて、【殺界】くらいしかおらんし

道化師みたいな変則的な職業の試験って、意味わからん難易度らしいじゃん



215.名も無きリビハプレイヤーさん

殺界って、おにんにんちゃんの事?

俺あの子好き、エロいから



216.名も無きリビハプレイヤーさん

汚忍忍ちゃんって道化師持ってるんだっけ

盗賊のイメージが強いなぁ



217.名も無きリビハプレイヤーさん

流石におにんにんまで関わってたら、サクリファクトとやらの運命力がヤバすぎだろ



218.名も無きリビハプレイヤーさん

僕のおにんにんもおにんにんちゃんにおにんにんされたい



219.名も無きリビハプレイヤーさん

ちゃんと【汚忍】おしのびって言ってやれよw

おにんにんなんつー卑猥な呼び名、ここでしか言われてねーぞw



220.名も無きリビハプレイヤーさん

ジョブ屋の試験バランスマジで見直してほしい

要望出してくるわ




――――――――――――――――――――――――――




 違和感がある。

 汚忍忍……『ジサツシマス』。【殺界】。

 時折変な形で真を付く匿名の奴らの言葉と、そして俺の第六感。

 薄っすらと俺に絡みつく死灰のオーラが、俺を引っ張るようにして()()()へ伸びる。


 焦燥感がある。

 何か、まずい事が起こっていそうな……そんな感覚。

 歩みが早まり、薄っすらと導かれるようにして進む。


 蟻走感。虚無感の中で確かに萌ゆる、存在感

 失ったはずの左腕がムズムズする。何も無いのに確かに感じる、微小の幻肢痛。

 幻の左腕が、何かを主張する。




 ――――()()()()が、【死灰の片腕】が、呼んでいる気がする。

 虫の知らせだ。死灰のオーラが導きを得ている。



 早歩きだった足は、いつの間にか駆け足となった。


 灰がどこかへ俺を呼ぶ。


 そこにいるのか、初心者(Newbie)。俺の友人よ。




     ◇◇◇


□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 路地裏 □■□




「よう」

「……ん? ……ありゃ」


「調子良さそうだな、"初心者(Newbie)"」

「マ、マグリョウさ……ん」




 平静を装え。クールであれ。

 灰のオーラの先導するままに、薄暗い路地へと辿り着けば……そこで見たのは、明らかな()()

 完全にスケベな事をしている図であり、俺の専門外もいい所で、正直逃げ出したい。


 しかしよくよく見てみれば、サクリファクトの上に乗る女は【殺界】で――――俺はアイツの先輩、頼れる友人……マグリョウさんだ。


 冷静に、いつも通りの俺でいるままに声をかける。

 服の乱れた女を視界にいれるのは中々気恥ずかしい物があるが、サクリファクトの為だ、頑張るしかない。ああ、恥ずかしい。




「サクリファクト……言っちゃアレだが……女の趣味が悪いんじゃないか?」


「おぇ~、ひどい。ボクだって女の子、そんな事言われたら……傷ついちゃうよ」


「そいつは何よりだ。傷つけようとしているからな」




 確かあれは……『くのいちドレス』だとか言ったかな。

 ミニスカートの浴衣のような、よくわからん和風っぽい服装で……古い時代の架空の存在『女のニンジャ』とやらを意識した物だと見た気がする。2525ちゃんねるで。


 所々がすけすけになっているその服装は、路地裏に差し込む光でぬらりぬらりと控えめに反射する。

 恐らく何らかの特殊な素材で出来てるな。虫共の甲殻のように、刃を退ける質感に見える。




「ああ、今日はなんて不運なんだ。お楽しみが始まるその瞬間に……人を人とも思わぬこの男によって、まんまと見つかってしまうなんて」


「【殺界】の面目躍如だろ。ついでに【死灰】の効果も味わえよ、変態クソ女」




 ストレージから取り出した『灰ポーション』を二つ割り、死灰のエリアを作り出す。

 正義の "PKK" だなんてモン、寒々しくて名乗るつもりは毛頭ないが――――




「――――てめぇとは何時か決着をつけようと思ってたんだ。今日はいい日だ、大安だな」


「ボクは殺界。不運の象徴。毎日厄日で、毎日いい日さ」


「『来い、死灰』」


「んふふ、キミの運勢、教えてくれる?」




 友人の為だ。悪い変態クソPK女を、ここで殺して燃やしてやろう。

 俺は正義の味方じゃないが、友人の為であるなら……どんな存在にだって、なれるんだぜ。




     ◇◇◇




「『きょっこう』」




 幻影を呼び出し、ゆらりと左右に揺れながら突っ込む。

 つま先の向きで動きを悟られぬようにしながら、全力でフェイントをかける突撃だ。並の雑魚なら、これで終わる。




「ていっ!」


「ははっ! そっちは()()()だ! 不運が過ぎるな【殺界】よぉ!」




 幻に向かってクナイを振るった腐れ女の横腹に向かって、思い切り貫く勢いの突きを放つ。

 死灰の愛用するとことんノーマルなロングソードは、特殊な効果も何もなく……ただひたすら、俺の手のひらに馴染むだけ。

 それでいい、それがいい。振れば風の刃が出るなんて、そんなおまけは不要なんだ。

 刺さって、抉って、殺せればいい。色気は不要で、俺にはまっすぐな殺意だけあればいい。




「ハズれる事がわかっていたから、準備もきちんと……してあるよっ」




 突きの着地点……予め置くようにしてそこに構えた雪の結晶のような鉄のナニカで、俺の刺突を防ぐ殺界。そんなコイツの言っている事は、決してウソや強がりじゃない。


 不運を呼び寄せる【殺界】は、二つに一つなら()()()()

 運によらない、確実な不運。確率論に唾を吐く、暴力的なまでのアンラッキー。

 それを呪いだと憐れむ声もあるが、俺にはそうは思えない。


 だって、そうだろ。

 必ず逆の目が出るとわかっているなら……そのサイコロは、使()()()だろう?




「うぜぇよ」

「ちょれぃ」




 逆手に持ったロングソードを持ち直し、間合いを取り直す。

 牽制のクロスボウや投げナイフが使えないってのは、少し辛いな…………。


 だけど、まぁ。

 そもそもこれは……勝ち戦だ。

 負ける要因が存在しない、消化試合。




「殺界よぉ……わかってんだろ? ここはセーフエリアで、俺は "良い子ちゃん" だぜ? この【死灰】には、接触防止バリアがあるんだぞ」


「……んふふ、知ってるよぉ」


「……決着をつける気でいたが、弱い者いじめは趣味じゃねぇ。アイツに近づかないって約束すんなら、見逃してやるよ。さっさと消えな変態女」


「……ん~、やだ」


「あぁ?」


「『競争アゴン』『だるまさんがころんだ』」




 クソ女がそう呟くと、この路地裏に びゅう、と風が吹く。

 いや……死灰が揺らず留まっている情景から、実際に風が吹いた訳ではないようだが――――何かが広がったような、場が変化したような感覚だ。

 コイツ、何をした?




「だ・る・ま・さんがぁ~……」




 それと同時に、こちらに背を向け歌のような物を口ずさむ。

 意味がわからんが……俺に背を向け、刃を受け入れる体勢である事には間違いはない。

 ああ、死にたいのなら、殺してやるぞ。俺は優しいから、死にたがりはきちんとトドメを刺す事にしてるんだ。




「……ころんだっ!」




 そんな俺の剣が肉薄し、いよいよクソ女の心臓を貫こうと言ったタイミングで……急にこちらを振り向いた。

 何がしたい? 意味がわからん。とりあえず殺そう、とそのまま踏み込む俺の顔面に――――硬いナニカが、思い切りぶつかった。クソいてぇ。何が起きた。




「いってぇ……ぐっ……!?」


「ああ~、だめやよぉ~、ルール違反~」




 思い切り鼻っ面を打ちのめされ、思わず尻もちをついたそこには……尖った刃物がエグい角度で落ちていて。

 地面に着いた俺の右手を、深々と貫いた。


 何でこんな所にこんなモンが……なんて、馬鹿げた問いだ。それをしたのが誰かなんて、わかりきってる事だからな。

 殺界、クソ女。盗賊(シーフ)冒険者(アドベンチャラー)の職業を持つコイツが、そうなるようにしてたのだろう。

 不運を撒き散らす死神が。バリアの特性を理解しきっていやがる。虫唾が走るぜ。




「『眩暈イリンクス』『けんけんぱ』」




 まんまと大凶を押し付けた俺をニヤニヤ見つめながら、片足立ちで余裕を見せるクソ女。

 俺の心もいよいよ本腰だ。とうとうムカっ腹が立ってきた。

 ありったけを使って、消し炭にしてやる。そのニヤけ面に俺の剣をブチ込んでやるぞ。




「『闘心とうしん』『裂帛れっぱく』『かげろう』『はやぶさ』『コール・アイテム』……笑顔のまんまで焼けて死ね、クサれ女――――」


「あ、いけないんだぁ」




 両の足に気合いを込め、思い切りよく突っ込む。戦士のスキルで力を底上げし、軽戦士フェンサーのすばやさでソレを活かした高機動高火力戦闘、と意気込む俺の頭の上から――――泥の塊が降ってくる。




「ベッ……! ん、だよコレ」


「けん、けん、ぱっ! んふふ、死灰は『お遊び』が下手っぴだねぇ~」




 意味がわからねぇ。コイツは何してる? 俺は何をされてるんだ?

 コイツが何かの行動を取るたび、俺に不運が巻き起こる。


 以前コイツとやりあった時は……盗賊(シーフ)の技能で、小賢しくもわかりやすい殺意の戦い方だった筈だ。

 だけど今日にあっては、とにかく意味がわからねえ。

『接触防止バリア』も働かない謎の攻撃は……一体どういう理屈なんだ。こんな戦い、聞いた事がないぞ。




「下手っぴですねぇ、お客様~。ルールはきちんと守らなくっちゃ」


「マ、マグリョウさん……っ!!」


「……あん?」



「ソイツ……多分、道化師(ピエロ)のスキル、使ってます!

 ぼっちなマグリョウさんは知らないかもしれないけど……『だるまさんがころんだ』も、『けんけんぱ』も……全部が全部、子供の遊びで! 首都で道化師(ピエロ)がやってた物だ!」



「……そういう事かよ、くだらねぇ」


「あ~、サクリファクトくん、ネタバレは禁止やよ~? お仕置きしちゃうぞぉ?」




 灰の向こうから聞こえた声。体の自由を奪われているであろう、俺の友人、サクリファクトの。

 ……そうか、これは道化師か。普段もたまに目にするし、今日のドラゴン祭に至ってはあちらこちらで開かれる『お遊びコーナー』の、主催者になれるスキルの。


 その場に遊びの空間を作り出し、失敗したものやルール違反した者にペナルティを与える……遊びのスキル。

 そのペナルティにはバリアは働かず、タライが落ちてきたり泥を被ったりして『あははうふふ』とか笑う、普通の奴らが楽しむコンテンツ。


 だから俺が知らないのか。だからバリアを貫通するのか。

 だからコイツは……そのルールを知らぬ俺を、手玉に取れる算段があってこその、逃げずに迎え撃つ姿勢を取ったのか。




 まずいな。対人戦の経験値は、圧倒的に殺界が上で……ついでにこっちは隻腕の、まるで十全じゃない状態だ。

 被った泥も普段なら笑い飛ばせるかもしれないが……今この場においては致命的、軽戦士(フェンサー)の早足を潰されている。


 下手に動けばペナルティ。知らないルールは守れねぇ。


 十中八九の勝ち筋が、いつの間にか五分五分となり……遂には逆の目、分が悪ぃ。

 ……攻めあぐねるぜ、燃えてくる。




 …………。




 …………それにしても…… "サクリファクト(あいつ)"……。

 "ぼっちなマグリョウさん" って……ちょっと酷くないか?




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