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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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第十一話 ピクニック

□■□  Dive Game『Re:behind(リ・ビハインド) 専用コクーンハウス Edogawa Colony □■□



「ようこそ、プレイヤー。プレイヤーネームとIDを入力して下さい」




 ……こうしてこの受付AIの声を聞くのは、何度目だろう。

 招待チケットの指定日から殆ど毎日、学校へ通っていた頃よりずっと真面目に、ここへと通いつめている。


 何もせずただ毎日ぼーっと過ごしていた時は、インターネットにあるRe:behind(リ・ビハインド)の広告の『新しい生き方、選択できる自由、もう一つのあなたの生業』なんて文句を鼻で笑って見てたけど、こうまで通っていたらまさしく生業……職業だ。


 あの時の自分が今の俺を見たら、どんな風に思うだろうか。


『ゲームにマジになって、馬鹿じゃないか』かな。

『夢中になれる事が出来て、良かったな』と言ってくれるかもしれない。



 それとも。


『そんな恐ろしい思いをしてまで、どうしてそのゲームを続けているんだ?』だろうか。

『怖いんだろう? ダイブインの手続きをする手が、震えているぞ』と続けるかもしれない。



 さもありなん。なにせ、自分の事だ。

 俺の事は俺が一番よくわかってる。


 "どうしてそのゲームを続けているんだ?" なんて問いも、今の俺が考えている事と全く同じ。

 その疑問の答えが見つからないのも、今の俺とまるっきり一緒だ。




 Re:behind(リ・ビハインド)が、すっかり生活の一部となってしまったからだろうか。

 マグリョウさんが、新しく友達となった人が、そこにいるからだろうか。

 一ヶ月単位で払う月額利用料を払ってしまったから、もったいないという気持ちもあるのかもしれない。



 何に期待して、何を求めてRe:behind(リビハ)にダイブするんだろう。


 ……あいつらが、パーティメンバーの4人が、俺を引き止めに来るのを……待っているのかな。

 ああ、馬鹿らしい。女々しくて、弱々しくて、清々しいほど図々しい。


 自分で勝手に距離を置いて、そのくせ迎えに来てくれるのを期待するなんて……情けない上に傲慢で、死ぬほどみっともない生き様だ。




 …………月額料金の有効期限まで、あと4日。

 マグリョウさんの為に、無理をしてでも続けるべきだろうか。

 俺の友人は、そんな事をされて……素直に喜べるような人間なのだろうか。



 今の俺にも、過去の俺にも、わからない事はわからない。

 難しい。色々と。




     ◇◇◇




「え? マグリョウさん、落ちちゃったんすか?」

「その言葉は正しくないよ、サクリファクトくん」

「はぁ、というと?」



「"いつまでもいつまでも語りに語って語り尽くして、とうとう、ようやく、やっとの事で消え失せた" が正解だよ」


「それはまた随分な恨み節で……それにしても、珍しいっすね。マグリョウさんがそこまで喋るの」

「…………そうだよ。おかげさまでね」

「ん? どういう事っすか?」




「マグリョウが語った内容は、全てキミに関する事だったんだ。だからワタシは、 "おかげさまで" と皮肉を言うのさ」


「えぇ……?」



「晴れて友人となったサクリファクトくんが如何に素晴らしいか。

 自分と彼はどのような共通点があり、どのような相違があるか。

 そしてそんな友人と、今後どのように過ごすつもりであるのか。

 過去の振り返りとこれからの抱負。友達とやりたいアレやコレ。

 自身が思う理想的な友人関係のあり方と、それを構成するために一生懸命考えたToDoリストを熱心に語るマグリョウを――――ああ、キミにも見せてあげたかったよ」




 マジかよ、マグリョウさん。

 何してんだよ、マグリョウさん。

 大はしゃぎじゃないか。何だか俺が恥ずかしい。




「見てごらん? 聞き始めた時に入れた飲み物のカップの底が、すっかり乾いてしまったんだ。それほどに長い時だったという物的証拠だよ」


「なんか……すいません」


「……くふふ、ごめんよ。八つ当たりさ……それと、少しの嫉妬も含まれているかもね」




 そう言いながら鉄っぽいカップをくるくる回すカニャニャックさんは、疲れた困り顔と、だけれどとても満足そうな、温かい笑みを浮かべて見せる。

 その顔は『これぞ【ドクターママ】である』と言った所だろうか。母性が溢れ出ているぜ。




「まぁ、つまる所……キミにはお礼を言いたいんだ」

「いらないっすよ、そういうつもりじゃないですし」

「それでもさ、ありがとう。サクリファクトくん」

「……礼を言われる事じゃないですし、言われたくもないですね」


「くく……ごめんごめん」




 なんとなく、ぼんやりとだけど。

『マグリョウと友達になってくれて、ありがとう』って言う言葉は、まるでマグリョウさんと友達になるのが大変な事のように聞こえるから……なんとなく、嫌だ。


 俺は俺が仲良くしたいと思ったからこうしているんだし、そこには同情も気遣いもありはしないんだ。

 礼を言われる事で、俺達の関係を歪なものにされているようで……少しだけ、面白くない。




 だけど、そんな俺の思いはきっと、カニャニャックさんにはお見通しなんだろうな。

 全てをわかった上で礼を言い、俺の反応を見て楽しそうにする彼女は、いたずらっ子のような声で笑う。

 心の内まで丸裸にされているようで、悔しかったり恥ずかしかったり。




「礼を言うなら、めぐり合わせに感謝でもして下さい」

「それはいい案だ。キミのご先祖代々と、この世界にしかと在るマザーAIに感謝をしよう」

「……普通こういう時って、お天道様に礼をするもんじゃないんすか?」


「それは出来ない、何故ならワタシは科学者なのだから。天には惑星こそあれど、そこに意思や超常の力は存在しえないよ」


「……ロマンもへったくれもないですね」

「何を言うんだい。0と1からなる三千世界には、ロマンしか無いと言うのに」




 なんて夢のない人だ。

 この人に向けて "君の瞳は100万ボルト" なんて言った日には、その電流と電圧から死に至るまでの仕組みをみっちり語られてしまうかもしれない。


 カニャニャックさんとそういう関係になる人は、きっと大変だなぁなんて思いながら見つめていると、少しむくれたカニャニャックさんが口を開く。




「……これはまるで関係のない話なんだけれど」

「はい?」

「ワタシは、独身だよ」




 "でしょうね" 、とは言わない。

 俺がそう思った事をカニャニャックさんはわかっているだろうし、それが俺にはわかっているから。




「……追加で八つ当たり、してもいいかい?」

「勘弁してくださいよ」




     ◇◇◇




「……ん」

「おや、スピカ。起きたのかい?」

「……起床」




 そんな会話をしていたカニャニャック・クリニックの片隅で、紫色の塊がもぞりと動いた。スピカが丸まって寝ていたらしい。

 っていうか居たのかよ、スピカ。まるで気が付かなかったぞ。




「……何でここで寝てるんだ」

「長話」

「なんだっけ?『エンジョイ・マジック・サークル』だったっけ? そのクランハウスに帰ってゆっくりすればいいだろ」


「…………」

「……なんだよ」




 俺の明らかな正論に対し、地面に横になったままでこちらを指差す魔法少女。

 ……なんだ? とうとう俺にスペルをぶつけて来る気か?

『接触防止バリア』があるから絶対に大丈夫とは言え、少しびくっとしてしまう。




「……準備」

「……なんの?」

「回遊」

「かいゆう?」

「旅行」




 旅行……?

 スピカが唐突なのは何時もの事だし、わかりにくいのも何時も通りだけど、それにしたって意味がわからない。

 俺と、旅行? 何でだ? そんな約束とかしてたっけ?




「いや、意味がわから――――」

「ふんふん、なるほどなるほど。あいわかった! サクリファクトくん、行ってきたまえ」


「えぇ……? 何でですか。嫌ですよ」

「いいからいいから。ワタシが独り身である事を嘲笑した罰と言う事でさ。行くべきだよ」

「いや、笑ってないですけど」




「【天球】、スピカ、どこへ向かう予定なんだい?」

「……未定」

「なるほど。何をするつもりなんだい?」

「……検討」

「ふむ、それは素晴らしいね」




 いや、全然素晴らしくないだろ。何も決まってないし。行き当たりばったりもいいとこだ。

 行き先もやる事も考えてない旅行って……本当に、意味がわからない。




「よぉし、それじゃあ……サクリファクトくん。念の為、ワタシの秘蔵のアイテムを持たせてあげよう」

「……いや、別に俺は」


「いいからいいから。ええと……まずは『害獣アライグマの逆襲』と……」

「そんな変なの要りませんし、そもそも行きませんって。危なそうだし――――って、何だ?」




 何時ものように俺を除け者にして俺の行動を決められてしまう前に、強めに拒否の言葉を言おうとすると……いつの間にか背後に立っていたスピカに服を掴まれる。


 端っこをちょこんと摘み、上目遣いで見つめてくる様子は……何と言うか、もの凄く、辛抱たまらないほどに――――あざとい。

 角度、表情、服のひっぱり具合の全てが計算された感じがして、そこはかとなくあざといぞ。




「……あざとすぎるぞ」

「旅行」

「何で俺だよ。カニャニャックさんと行けばいいだろ」

「……駄目」


「何でそこまで……」

「…………」


「……はぁ。もういいよ。もうわかったから」

「ん」




 駄目だ。

 いくら計算づくだとわかっていても、こうして女の子に見つめられると――断りきれる物じゃない。

 目的が不明だし、何だか危ない予感しかしないから、とにかく行きたくなかったけど……スピカのどうしても譲れない空気を前にして、さくっと根負けしてしまう俺なんだ。


 俺もマグリョウさんのように、揺らぐ事のない強い心を持っていられたら良かったのにな。

 あの人だったらきっと、どれだけ上目遣いで見つめられても『何見てんだテメェ、行くわけねぇだろ気持ちわりいな死ね』くらいは言うのだろうから。




「ああ、後はこれもいいね。このアイテムは緊急時に最適だ。それと……あ、二人共お腹は空いているかい? ワタシがその辺に生えてた草を適当にむしり、乾燥させた後にモンスターの血液で固めて火薬を少しだけ入れたお団子が20個ばかりあるのだけれど……よかったら、出先で食べるかい?」




 カニャニャックさんはカニャニャックさんで、意味のわからないアイテムをどんどんテーブルに並べている。その姿は、まるでピクニックの準備をするお母さんだ。

 と言っても、取り出すアイテム類はろくなものじゃないんだけど。


 一定時間キャラクターの動きに限界を超えさせるが、副作用がヤバすぎる劇物『害獣アライグマの逆襲』。

 飲んだら寝てても勝手に動き出してしまう『く、くやしい……っ!』とか言う変な名前の使えないアイテム。

 更には子供の悪ふざけのような原材料の団子までを出している。こぶし大に緑色のその団子は、ドクロマークまで書かれているぞ。絶対食べちゃだめなやつだろ。




「……なんすか、その食べ物は」

「『やがて死に至る激烈スパイシーバクダンゴ』という名前の、オリジナルアイテムさ。美味しいよ」




 はっきり死に至るって言っちゃってるし。

 本当に、変な物しか持ってないよな、この人は。


 全てがいつ使えばいいかわからない物ばかりだ。




あとがき


何となく、マグリョウのデータをここに置いておきます。そのうち活動報告とかに移動させるかもしれません。


ちなみにRe:behindの世界において、取れる職業数の制限などは今の所確認されていません。

お金がかかる事と、時間が取られる事、そして何よりメイン職業のレベルを上げるのが一番良いというのが常識なので、広く浅く職業を取る人は限られています。

一人で全部やろうとするソロ思考の人は、複数職業を取る事が多い、という感じです。



・間黒 亮二 : マグロ リョウジ

・21歳


・PC名 : マグリョウ


・二つ名


【死灰】 しはい

【迷宮探索者】ダンジョンシーカー

 /

サブ二つ名


【灰色の殺戮者】グレイスローター カッコいいと思って自称していたが、全然浸透しなかった。


【まぐまぐ】ストーカーのスーゴ・レイナ命名。誰も呼んでいない。レイナ本人も呼んでいない。




・様々な武器・罠・アイテムを使いこなすダンジョン大好きマン。別に虫が好きな訳ではないけど、嫌いでもない。



□■□□■□□■□



・職業レベル


ファイター

戦士10 身体能力向上と、基礎的な戦闘用スキルの為(『活力』や『闘心』などだが、余り使用しない(何かダサいと思ってるから)


フェンサー

軽戦士15 メインで一番好き(フェンサーのスキル名は全てリビハがある世界で発射に成功した人工衛星の名前。その内に一部は、現代の人工衛星と同じ名前)


ハンター

狩人4 クロスボウの熟練度を補正 夜目を効かせる効果もある(ダンジョン内は薄暗いので、その対策で4まで上げた)


サモナー

召喚士4 アイテムを直接手元に出す「コール・アイテム」と、ストレージ容量の拡張(レベル1の「コール・サーヴァント」で呼べる召喚獣は、パステルブルーでアニメ調の可愛いアヒル。何も出来ないので、滅多な事では呼ばない(危ない目にあうとかわいそうなので)

       

レンジャー

野伏3 アイテムを使う時の効果上昇 ダンジョンの感知


アルケミスト

錬金術師3 様々なポーションを使う時の効果上昇、カニャニャックと仲良くしてたからなんとなく取った。灰ポーションの保存量増加


スペルキャスター

魔法師2 火種を出す、スペル自体は嫌い(『火出ろ、出ろよ。おいおい、スペル出せないとかクソゲーすぎだろ。素直に出とけよ』と呟き続けてたらシステムが根負けして出るようになったが、ライター程度の火しか出ない)




○【死灰】の二つ名効果は『灰のオーラを身に纏い、認識阻害が発生する』

役にたたなそうだが、ソロ専門の彼にはもっぱら有用

二つ名の新解釈をAIは待ち望んでいるが、本人にその気がないので今は灰のオーラのみであり、竜殺しの中では一番しょぼい

常にストレージにダンジョンモンスターを燃やして作った『灰ポーション』を入れており、それを撒き散らして戦う

灰と炎の舞い散る中にいると、テンションが上がって中二病な独り言が増えてヤバい


最初期の二つ名は【死灰中毒変態虫フェチ野郎】

徐々に簡略され、【死灰】と呼ばれるに至る



○【迷宮探索者】の二つ名効果は『ダンジョン内でキャラクター性能が上昇』

本人が言うには「ダンジョンにいると凄く爽快な気分」

その場合のダンジョンとは、システム側の判断によるもの

獣の巣などの洞窟に入っても効果は表れない


初期の二つ名は【殺され依存のイキリダンジョン攻略勢筆頭】

徐々に簡略され、【迷宮探索者】と呼ばれるに至る



☆二つ名についての補足☆


二つ名は、人から呼ばれるあだ名のようなものです。

その殆どが、最初は長ったらしく一人の個人を形容する呼び方(黄金の鉄の塊で出来ているナイト、など)から始まります。

その後、あちこちで何度も呼ばれる内に短くなって行き、2~5文字程度に収まるくらいになって行く感じです。

システム上は二つ名に文字数の制限などはありませんが、短いほうが呼ばれやすく、広義な意味を持つ言葉で呼ばれるほどRe:behindへの影響力が強いと判断され、二つ名効果もより上昇します。


『そのプレイヤーを表現する言葉』から、『その言葉は一人のプレイヤーを指す』に変わって行くのが、二つ名です。

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