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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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閑話 PKするプレイヤーの金稼ぎ




 俺はプレイヤーネーム『グヒンシュレッダー』。

 最近ツキがないRe:behind(リ・ビハインド)プレイヤーだ。



 そんな俺が信条とする、リビハのプレイスタイルは――――至極単純で最も正しい遊び方。

『弱肉強食』、それだけだ。


 大した力も無いくせに羽振りの良さを見せびらかす課金プレイヤーを見つけては、暴力やプレイヤーキルを匂わせ脅し、金やアイテムを奪い取る。

 頭が悪そうなカモを探し出しては、良い儲け話があると誘い、ろくでもねぇアイテムを高値で売りつける。

 臨時のパーティを組んだ奴を事故に見せかけて殺し、ドロップした装備を売って――――その金で食う美味いもんは格別だ。


 ()()()()()()()()()()()()()()

 幸いここは "道徳的じゃなくても平気な世界" で、逆に言うなら "そうやって賢く生きるべき世界" だ。

 仲良しこよしで二つ名を売って~……なんて、クソくらえ。

 何でもアリのこの仮想世界で、何をぬるい事言ってやがるんだと反吐が出る。


 他人を蹴落とし奪い取り、自分がしたい事を欲望のままにヤってもいいのがこのRe:behind(リ・ビハインド)だ。

 この世界の中で、俺が最も()()()()()()()と言ってもいいだろう。




     ◇◇◇



□■□ 首都南の森 中部 □■□




「おい、早くしろポーター!!」


「は、はいぃ~」


「ケッ、ナヨナヨしすぎっしょ~」




 そんな上等な日々を過ごしていた俺だったが、ここの所はとにかくツキがない。 

 街を歩けば躓いて転ぶし、どこかで盗み聞きした儲け話だってパっとしねぇ。

 丁度いいカモはまるで見当たらず、女を最後に抱いたのだっていつだったかわからねぇほどだ。


 今日だって、首都の広場でパーティ募集と言う名の獲物探しに時間をかけたのにも関わらず、一人も来やしない。

 以前だったら一人か二人のヒーラーなり魔法師スペルキャスターなりの女が来るモンだってのに、一体どうなってやがるんだ。


 それに加えて、長い時間広場で座り込んでいた俺たちの元へ、ようやく来たのが運びポーター役しか出来ないような、弱っちい奴だってんだから……ツイてねぇにも程がある。

 ジョブ屋で一部の職業札を確認したら、冒険者アドベンチャラーが8だったから迎え入れたが……戦闘系は一つも無いビルドエラー野郎だ。

 気配を探ったり、方向を確認したりするしか出来ない足手まといで、何度も転んでは物を落としたりばかりしている……キャラクタークリエイトのセンスもなければ、体を動かす才能も無いと来たもんだ。


 そんな雑魚プレイヤー、名前は『ツシマ』とか言ったか? まぁ雑魚だからポーターでいいだろ。

 ソレと俺の旧知の相棒、プレイヤーネーム『ショッショ』の3人パーティとなった俺たちは、『金稼ぎ』って名目で募集したいた事もあり、普通の狩りをしに森に来る羽目になっちまった。


 いくら不運続きとは言え、こんな下らん方法で金を稼がなければならんとは。

 とことん最近、ツイてない。




「……ったく、やってらんねーなぁ」


「どうせ使えないのが来るなら、女に来て欲しかったっしょ~」


「ああ……()()()()だからなぁ」




 女を首都でパーティに誘う、森へ行く、睡眠効果の針を突き刺し、秘密の洞窟で『お楽しみ』。

 これが俺たちの盤石なスタイルで、最も正しいRe:behind(リ・ビハインド)の遊び方だ。


 全てが終われば気分は爽快、起きた女に撮影した動画を見せて口止めし、さくっと()()してドロップした装備なんかを売り払ったら、首都に帰って飯食ってダイブアウト。

『接触防止バリア』とかいう温い仕様にかまけた馬鹿は、御しやすくて大助かりってもんだ。そんなシステムの庇護に頼る軟弱者は、強者に食われる運命だからな。


 しかし最近、そうも行かない。

 ロールプレイだの、小銭稼ぎだの、そんな遊び方をしている奴等を鼻で笑って、仮想世界らしくある非道徳的な強者の暮らし――――難点を無理やり言うなら『正義の旗』の【正義】のクソ女に気をつけないとならないくらい。そんなノン・ストレスな毎日だったと言うのに。

 ここの所は、どうにもおかしいぜ。悪い流れに飲まれるように、全てが上手くいきやがらねぇ。




「あ~ぁ、だりぃなぁ…………さっさと『木登りモグラ』を探して殺して、ついでに『輝く白木の枝』の数本採って帰ろうぜぇ」


「こんな真っ当な遊び方、久しぶりっしょ」


「全くだぜ……はぁ~」


「こんな真っ当な遊び方なんてしてたら、カルマ値も上がっちゃうっしょ」


「ケッ、良い子ちゃんプレイってか?気分悪ぃぜ…………うおっ!?」


「おわぁ、びっくりしたっ! いきなりどうしたっしょ――――ってコレ『中和のヘビ』っしょ!?」




 駄弁りながら歩く俺たちの真上から突然降ってきた、毒蛇。

 体長は1mも無い程度だが、水色の体にデカい二つ首を持つ難敵。

 片方が『酸性』、もう片方が『アルカリ性』の毒を持ち、片方に噛まれたらもう片方にも噛まれないと死に至る…………本来は首都北の花畑奥地辺りに生息してるはずの、危険なモンスターだ。少なくともこんな所に居ていい奴じゃねぇ。




「おいっ! てめぇポーター! 気配探知はどうしたっ!?」


「ご、ごめんなさい……ぼーっとしてましたぁ」


「マジで使えないっしょ~!」




 注意不足で唯一のメリットも失って、いよいよ喋る荷車以下に成り下がるクソポーター。

 帽子を目深に被って陰気なやつで、声だけはまるで大男のように野太い……気味が悪くて使えないカス野郎め。


 つーか…………あいつ、何で俺たちの()にいたんだ?

 さっきまで後ろでひぃひぃ言ってたよな? いつの間に追い抜いたんだ?




「で、で、どうするっしょ!?」


「やってられるかっ! さっさと逃げるぞ!」


「逃げるって、どこに行くっしょ!?」


「決まってんだろ…………秘密の洞窟だっ」


「ま、待ってください~」




     ◇◇◇




□■□ 森林中部 洞窟内部 □■□




「はぁ……はぁ……クソッ……」


「な、なんで『中和のヘビ』がこんな所にいるっしょ……」


「おい、ポーター! 水出せ水!」


「は、はいぃ」




 ゴソゴソ、ゴソゴソとストレージに手を突っ込むゴミ野郎。一々動作が遅くてイライラさせやがる。

 こんなウスノロですら平気で生きていられるこの世界の優しさに、反吐が出るぜ。




「…………」


「…………」


「ええと、ええと……」




 おせぇ。どんだけ探すんだよ、うざってぇ。細い体でちょこんと座って、だらだらといつまでも探していやがる。

 いくら何でもここまで使えないグズは、この世界ですら久々に見るってもんだ。




「おい、まだかよ!」


「あ、あれぇ? おかしいなぁ……あ! ありましたぁ!」


「貸せっ!」


「俺も飲むっしょ~」




 ようやく差し出された水瓶を受け取り、蓋を開けて口につける、その直前。

 ぴくり、と俺の勘が働く。


 コイツ……何かやってねーだろうな。




「……おい」


「は、はい?」


「まずお前が一口飲め」


「え、えぇ!?」


「……飲めないのか? 何か思う所でもあんのかよ」


「いえ、あの、喉が乾いていないので……」




 怪しい、怪しすぎる。

 あの長い時間ゴソゴソしていた中で、俺たちが見えないストレージ内で何かをやっていたんじゃないか? 例えば、この瓶の中にあった水と……毒を入れ替えたりだとか。

 恨みを持たれる事に関しちゃ、検討が付きすぎる俺だ。ここの所の不運も重なり、警戒心が留まらない。




「……飲め」


「そ、そんな」


「いいから飲めっ!!」


「わわ……んぷっ」




 無理やりに口に突っ込むと、喉がこくこくと動き出す。

 男のくせに真っ白で細い首に、口から溢れた水が線となって流れ落ちる。


 …………なんか、むらっと来るな。


 ………………いやいや、ご無沙汰すぎておかしくなってるぞ。

 いくら華奢で女みたいだからって、こんな野太い声の男に興奮するとか……俺は馬鹿か。




「……ケホッ……これでいいですかぁ?」


「…………毒では、ねぇみてぇだなぁ」


「あ、あたりまえじゃないですかっ!」


「俺もう全部飲んじゃったっしょ~」




 気のせいだったか。

 最近の不幸続きで、どうにもマイナス思考が過ぎるみたいだ。

 これは駄目だな。さくっと女を言いなりにして、プラス方向にブチ上げないといけない。




「オラ、よこせ」


「は、はいぃ~…………あっ!」



「おいおい、何してんだよお前はよぉ~」


「あ~あ、瓶も割れたし、水もこぼれちゃったっしょ」




 ぱきん、と瓶が落ち、水が洞窟の地面を濡らす。

 どれだけ鈍くさい木偶なのかと、最早怒りを通り越して呆れが来るぞ。



「はぁ……本当、どうしようもねぇなてめぇ」


「ご、ごめんなさ――――――わっ! 熱っ!」



 そんな水を見つめながら、ため息を吐く俺と、必死で謝るゴミポーターのツシマ。

 そんな俺達の間を縫うように、ぶわ と熱風が吹いて来た。


 何だ? 洞窟の……奥からか? なんだってんだよ、一体。




「熱っ! なになに!? サウナより熱いっしょ!」


「なんだっつーんだ?」


「あ、あの」


「ああん?」


「……こ、ここって……()()()()なんですか?」


「知るかよ、いつも入り口までしか入らねーし。ここまで奥に来たのも初めてなんだからよ」




『中和のヘビ』に追いかけられて、急いで洞窟に逃げ込んだ俺たちは……その勢いのままに、いつも以上に洞窟の奥へと入って来ている。

 だがそれ以外はいつも通りだ。どこか焚き火のような、そんな匂いを感じながらも、休憩の為に腰を下ろしているだけだ。特別な事をしている訳じゃない。


 そうした中での……高温の風。

 それは徐々に勢いを増し、遂にはまるで燃え盛る咆哮のように、俺達の身を熱く打ち付ける。




「この熱さは、一体なにが――――」


「ゴルルル……」




「――――ッ!?」


「は…………はぁっ!? 『燃えるライオン』!?」


「ここは……そ、そうか…………洞窟を好む、彼の巣ですよぉ……!」




 燃えるライオン。またの名を、火葬ライオン。

 メラメラ燃える鬣と尻尾を持つ……ここら一帯の王者であり、出会った者を火葬する、不運の象徴。

 この洞窟は、コイツの巣だったのかよ。やっぱりツイてねぇ。




「で、でも! いつもここで()()してたけど、コイツが出てきた事なんて無かったっしょ!!」




 そうだ。この洞窟は俺たちが幾度も利用した、安定の秘密の場所なんだ。

 今まで何度も使ってきたし、その度何も危ない事はなかったんだ。


 それが、どうして今日に限ってこんな事になる。

 女も連れずに静かにしてたし、他に変わった事なんて何もなかったはずだ。

 強いて言うなら、水を零したくらいで………………あ。




「……クソッ、水だろ! 水のせいだ!」


「えっ?」


「アイツって水が嫌いなんだろ!? お前が水をぶちまけたせいだ! だからアイツは、今日に限って出てきたんだ! 自分の巣の床を水で濡らすクソ野郎を噛み殺しに来たんだッ!」


「ええっ!? そんな! ボクのせいですかぁ!?」


「今まで一度も出てこなかったのに、今日に限って出てくるっつーのは……そういう事だろ!! クソッ! ふざけんなよ! ツイてねぇ!」




 とにかく……ここの所はとにかくツイてない。

 道を歩けば意味のわからん窪みで転んだりするし、空飛ぶ鳥のフンが何度も頭に降って来たりもした。

 首都では目当てのアイテムがことごとく売り切れ、誰かが零した毒薬の水たまりを踏み治療の為にヒール屋に行かされ、高い金をふんだくられた事もある。

 パーティ募集をすれば一向に女は来ないし、以前に約束を取り付けた尻の軽そうな馬鹿女も約束をすっぽかしやがる。


 それに加えて、『中和のヘビ』と『火葬ライオン』の挟み撃ちとか……本当になんだって言うんだ。

 こんなに不運が続いてばかりで、とにかく最近つまらねぇ。




「とにかく、逃げるぞ!」


「で、でも! 入り口辺りは、『中和のヘビ』がまだいるかもしれないっしょ!」


「ライオンよりはマシだろ! さっさと逃げて……」




 そんな会話をする間の一瞬で、ライオンは俺たちのすぐ傍に姿を現す。

 明らかな攻撃範囲内。王者が持つ素早さで、あっという間に距離を詰めやがったんだ。


 そしてライオンは、鬣をメラメラ揺らしながらも、水で濡れた地面を忌々しそうに見つめた後に、こちらをギロリと睨んで……怒りの咆哮をあげる。




「ガルォオオッ!!」


「ひ、ひぃっ! やばすぎっしょ!」


「う、うわぁ~っ」


「クソ、こんな距離、逃げられる訳が――――」




 ふと、目に留まる、クソポーターの後ろ姿。


 …………なんだよ、コイツがいるじゃねーか。

 不運続きかと思っていたが、コイツがいた事はラッキーだ。

 そもそもコイツの所為だしな。少しくらいは、役に立って貰おう。




「おい、ポーター……」


「は、はいっ?」


「――オラァッ!!」


「わぶっ」



「へへっ! てめぇが餌になって時間を稼げ! そんくらいは役に立てよな!」


「おお! それは名案っしょ!」


「ええっ、そんなぁ! 酷いですよぉ!!」




 思い切り背中を蹴りつけてやれば、濡れた地面にベチャリと顔から倒れるポーター。

 軽いから結構な勢いで飛び、そこはライオンの手が届く距離だ。




「何の役にも立たなかったんだ、俺たちを安全に逃がす為の囮をさせてやるよぉ!」


「ウヒョヒョヒョ、頑張ってゆっくり食われるっしょ、ポーター!」



「ひ、ひどいっ! パーティのメンバーなのにっ!」


「うるせえ! 役立たずがよぉ! 死ねっ! クソポーター!!」


「あばよっしょ~!」



「ああ、あ…………」




『火葬ライオン』よりは『中和のヘビ』のほうがよっぽど格下、あっちのほうがずっとマシだ。

 さっさと逃げて、首都に帰って……()()()()()()で、女でも買おう。

 幸いまだ蓄えはある。厄を落として運を呼ぶ為の、景気づけだ。



「ああ…………ボクは、なんて不運なんだ…………んふ」



 背後でポーターの声が聞こえる。

 …………アイツ、あんなに高い声だったか?




     ◇◇◇




□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 裏通り □■□




「クソッ、どうして一人もいやがらねぇ。ツイてねぇな」




 首都の裏通り。怪しい色香が立ち上るこの場所を一人で歩く。

 何の事もない小銭稼ぎに出たはずが、『中和のヘビ』と『燃えるライオン』のせいで、1ミツの稼ぎにもなりゃしねぇ。

 制限のあるダイブ時間の無駄遣いで、道中使用したアイテムやらはドブに捨てたようなもんだ。


 ソレに加えて、景気づけにやってきたこの『色通り』。

 食い詰めた女共がその身一つでミツを得るために、あっちこっちで客引きをしてるのがこの裏路地だと言うのに、今日に限っては閑古鳥が鳴いていやがる。


 一体なんだってんだ。ここ最近の行き過ぎた不運続きは。

 お蔭でRe:behind(リビハ)が、全然面白くない。




「……お?」


「やぁ、お兄さん。どうかな?」




 薄暗い路地裏に、一人ぽつんと佇むローブの女。

 湿っぽく艶のある声でこちらに声をかけながら、その全身をすっぽり覆う茶色いローブの隙間、すらりと足を出して見せつけて来る。

 肉付きは足りないが、その艶めかしい動きは『そういう事』への慣れを感じさせてくれる、これからする事への期待感を煽るには十分なものだ。




「……へぇ、悪くねぇ。いくらだ?」


「本当は3万ミツだけど……お兄さんカッコいいから、2万でいいよ」


「へぇ? 随分なことだな」


「ボクも、持て余しているからね。んふふ」




 ストレージに手を突っ込んで、ゴソゴソとミツを実体化させる。

 " 10k "と書かれた黄金色の硬貨に変えて、それを2枚ばかり女に投げると……パクっと口でキャッチした。エロい。




「で、宿はあるのか?」


「ううん、ここで。汚れちゃうから」


「おいおい、どんな事する気だよ」


「んふふ……どんな事を、したいのかな……?」




 そう言って、俺に纏わりつきながら、丁寧に鎧の留め具を外す女。

 その手慣れた手付きと、男を惑わす甘い色香は――――ああ、やっぱりコイツ、コッチ方面では相当な手練だな。




「――――んふふ、お兄さんは、剣士なの?」


「あ? どうでもいいだろそんなの。お前も早く脱げよ」


「――――剣、見せて欲しいなぁ? ボク、刃物を見ると……とっても興奮しちゃうんだ」


「……なんだそりゃ。とんでもねぇ変態女だな」


「ねぇ……おねがぁい……」




 そう言ってローブの下で太ももをモゾモゾ擦り合わせる女の姿は、俺の劣情を強く刺激する。

 光り物を見て発情するなんて、相当に変わった性癖だが……この後を盛り上げるって言うのなら、まぁいいかな。




「……ほら、こんなもんよ」


「…………振ってみて?」


「ああ? ったく…………そらっ!」


「んっ……もっと」


「なんだよ、変態女がよ……ほれ」


「んふっ…………もっともっとぉ……がんばれがんばれ~」




 俺が剣を振るうたび、艶っぽい声を出す変態女。

 一体どういう人生を送ってきたら、こんな倒錯した趣味を持つに至るんだか。

 そんな俺の混乱を他所に、女は幾度も斬撃を見せつけた俺に、更に更にと焚き付けてくる。




「……ったく、しょうがねぇなぁ――――オラァッ!!」




 そして興が乗り始め、とうとう一番に大振りを繰り出す。


 そんな俺の、力強く振られる剣の軌道上に…………。




「――――カフッ」




 女が、するりと入り込んだ。





「…………はっ? はぁ!? 何してんだてめぇ!!」


「クフッ……んふ……いたぁい…………いたいよぉ…………」



「じ、自分から斬られに来て……っ!」


「……んふふふ…………斬られちゃったぁ……いたぁい…………んふふ」


「な、何なんだよ! お前っ!!」


「死んじゃう、死んじゃうよぉ……ざくりと斬られたぁ……えへへぇ……んふふぅ……」




 意味が、わからない。何だコイツは。なんなんだよ。頭おかしいだろ。

 理解が出来ず、狂気を感じて、自然と顔が引きつるのがわかる。

 この女は、完全に…………イカれてやがる。




「ひどいや、ひどいや……何の罪もない商売女を、突然斬り殺すだなんて」


「お、俺じゃねぇだろっ! てめぇが勝手にっ!!」


「カルマ値減少は、免れないねぇ……んふふ……んふふふ」




 カルマ値。Re:behind(リ・ビハインド)内での行動によって、細かく上下するらしいそれは、一定以上になれば様々な優遇が成され、一定を下回ると様々な不遇がもたらされる。


 その中でも特に有名なのが――――『カルマ値が一定以下になると、接触防止バリアが働かなくなる』と言うものだ。


 だから、そうならないギリギリの日々を過ごしているってのに…………このPK(プレイヤー・キル)で、バリアは切れたか? もうちょい猶予があるのか? わからねぇ。わからねぇけど、コイツはそれを狙ってやがる。

 自分を守るバリアが発動しないほどにカルマ値が低いこの女は、俺にプレイヤーキルをさせようとしている。

 何なんだ、コイツは。何がしたいんだ。




「ああ、痛い……血が流れるよぉ……ボク、死んじゃうよぉ……」


「て、てめぇ……何なんだよ……イカれ野郎が……」


「パーティに入れば追放されて、街に戻ればいきなり殺され…………ああっ! ボクはなんて不運なんだぁ……」


「…………クソッ! 知るか、ボケッ!!」




 逃げ出すようにして、その場を去る。

『中和のヘビ』に『燃えるライオン』、『使えないポーター』に『自殺志願の商売女』。

 最近のツキのなさは、一体なんだって言うんだ。




「――――不幸続きにPK続き。度重なるカルマ値減少は、いよいよもって危険域……今のキミに『接触防止バリア』は、機能するのかな? 今日のキミの運勢は、どうだったかなぁ……? んふふ」




 背後からかすれた声が聞こえる。

 今日だけじゃない、どう考えてもここの所、ずっと終わらぬ大凶の日々だ。


 何もかもが上手く行かず……Re:behind(リ・ビハインド)が楽しめねぇ。なんだってんだよクソッタレ。



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