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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第三章 彼のものを呼ぶ声は
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第一話 危ない女と危ない男

□■□ リスドラゴン襲来の日から、ゲーム内時間でおよそ二週間後 □■□


□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 広場から離れたどこかの路地裏 □■□





 …………喧騒、笛の音、弾む空気や明るい光。


 そんな色々を遠くに感じる、暗く沈んだ路地の裏。


 陰気と影と闇の世界で、俺に跨る…………一人の女。




「……んふふ。誰か来ちゃうかなぁ?」


「や……めろ……てめぇ…………」


「ふぅん……?」




 まるで鼠を見つけた野良猫のように、深緑色の目を細めて顔色を伺ってくる。

 獲物を見つけた捕食者の瞳で……艶に塗れた色欲の目だ。




「そんな事言ってぇ……体は正直じゃねーかっ! ……なんてね」


「……男は……こうなるもんなんだよ……っ」


「わぁ! キミって意外と、男である事に誇りを持つんだね。んふふふ」




 無邪気で純粋なこの女は、それらでより一層に膨らむ狂気をあけすけに曝け出す。

 黒く滑らかな布で出来た戦闘装束は、防御効果はあるんだろうけど……とにかく()()()()()()んだ。

 つまり、コイツが俺に張り付けば――――。




「ねぇ……見える? 感じる? わかるかな? ボクの体が、キミに……サクリファクトくんの体に合わせて、柔らかく形を変えているところ」


「…………知るか」


「おぇ~、ひどい。ボクも一応、女の子やよ? …………ねぇ、触ってみる?」


「……触るか、クソ」


「いじわるなんだね、サクリファクトくん……ここは、こんなになっているのに」




 耳元に口を近づけ、息を吹きかけ甘く呟く。まるで脳を蝕む神経毒だ。

 ピンク色のショートボブが、頬をさらりと撫でながら、仄かな香りを置いて行く。

 そうして次は、俺の下腹部…………の辺りに手を舐めるように這わし…………。

 …………クソ、不快だ。

 痺れた体は言う事を聞かず、されるがままで居るしかない。




「や、めろ……」


「生理現象? 人の本能? う~ん? おかしいなぁ」


「なにを……」


「ここは『肉体を置き去りにして訪れる精神世界』。ゲーム内部で排泄は無いし、消化も無いのさ。内蔵が自律神経反射を行わない事は……全てすっかり……ほやほや、調べたもの」


「だから、なんだ……」


「だからね、キャラクターの表情・肉体変化は、キミのココロの写し鏡なの。キャラクターアバターの体に現れた明確な興奮は…………キミの心の興奮による物。んふふ、恥ずかしいけど、そういう事。ねぇ、体は素直やよ? 今度は心と、お口を素直にする番じゃない?」




 ふざけるな。そんな事が……あってたまるか。

 俺は……こんな奴に体を押し付けられて……。

 そんな気持ちになっていたりは、していない。


 と、思う。多分。自信は無いけど。




「大丈夫、キミだけじゃないんやよ。ボクもそう。ねぇ? 触れている所が、熱くなっているのは……わかるかな?」


「…………」


「ここは現実ではない世界やよ。何をしたって、()()()()。心のままに、ボクの体を……滅茶苦茶にしても……良いんだよ?」


「……誰が……っ」


「も~、いじっぱりぃ…………それじゃあ、こうしよっか?」




 そして取り出す、三つのダイス。

 魔宝石で作られたのか、仄かに光るピンク色の6面サイコロだ。

 無駄に金をかけていやがる……自分の二つ名を象徴するから、気合いを入れて作ってるのか? 馬鹿らしい。




「ダイス・ロールさ。偶数だったら、ボクは去る。奇数だったら、()()()()()


「…………」


「んふふ。【殺界(さっかい)】の二つ名を持つボクが振ったら、きっと()()()が……偶数が出ちゃうから……キミが振って?」




 ニ分の一。それで俺は……事なきを得る。

 だけど、本当にそうなのか? 偶奇が決まるのは、二つに一つか?


 …………【殺界(さっかい)】。悪い運気を示す二つ名。

 それを持つコイツに対峙してる今、俺に良い事は……幸運は、起きるのか?




「それともやっぱり……んふふ。振らずにこのまま、しちゃおっか? ダイスを振らない、流れるままの運勢を、キミはこの場に願うのかい?」




 動く所は、頭と指先。

 それ以外は、どこだって麻痺毒で動かせない。


 賽を振るのか、策を練るのか、何かを信じて待つべきなのか。

 麻痺は脳には影響が無いはずだけど……囁く声で頭の中が溶かされる。

 体を寄せるコイツの肉が、柔らかく形を変えて、判断能力を鈍らせる。

 腐って狂って捻じくれたって、女の子は女の子だ。

 女の子とこうまでぴたりと密着するなんて、俺の人生において初めての事だから……。


 クソ。もう全部わからん。頭が揺れる。

 顔が熱くて、体が言う事聞かなくて……とにもかくにも恥ずかしくって。

 どうする。どうしたらいい。俺は、何をするべきなんだ。


 ああ、頼れる先輩……マグリョウさん。

 どうして俺に、『すごくスケベな女に組み伏せられた時の対処法』を、教えておいてくれなかったんだ。




「"ダイスの目なら、仕方ない"、そういう言い訳をしてもいい。"仮想世界だから、思うがままに"、そういう考えも、ボクはとっても素敵だと思うんやよ」


「…………」


「男の子なら、こんなラッキー……あ、そうだ。据え膳食わぬは~って、知ってる?」


「……この場においては……毒入り膳、だろ」


「わぁ、上手に返されちゃった。ちょっと悔しいや…………えいっ」


「……っ!」


「んふふ、ごめんね? ほら……なで、なで」


「や、やめ…………」


「心と体が分離しているね? 体のほうは、撫でられるのも……嫌じゃ無さそう。嬉しそう。素直で良い子。よし、よし。いい子、いい子」


「…………っ」


「偉いね、がんばれ、おとこのこ」




 不幸だ、不運だ、災難だ。


 光が差してる()()()では、皆で『ドラゴン祭』を楽しんでるのに。


 俺はこんな闇の中、自身の毛色と同じ色……桃色の感情をむき出しにする、忍び装束の淫乱女……。



――――殺し屋、殺させ屋、"PK(プレイヤー・キラー)" 、"M・(メイク・)t・(ザ・プレ)P・(イヤー・)K(キル)"……そんな言葉で誰もが避けて、

――――【殺界(さっかい)】【汚忍(おしのび)】の二つ名を持つ、確かに名のある有名人。


――――【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】の一人、プレイヤーネーム『ジサツシマス』に、心と体を弄ばれている。




「運勢と呼ぶべき物は、結果の事だと思うんだ。明日がいい日であるように、じゃなくってね。今日がどういう日であったのか、確認する言葉やよ。

 …………んふふ。ごめんね? もう我慢が出来ないや。

 さぁ、いっぱいしよう? 何度も何度も求め合おう? 精神だけのこの世界で、お互いの心を重ね合おう? そうして交わり、全部が全部、終わったら――――」


「く……っ」




「――――今日のキミの運勢を……ボクに聞かせて欲しいんだ」




 誰か、助けてくれ。


 このままでは、俺の命と貞操が……危ない!





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