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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第二章 自然に抗う彼のもの達
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第十八話 チート

□■□ 首都東 海岸地帯 □■□




「……悪しきドラゴンは滅び去った!

 打倒せしめた我らこそ、新たな時代の竜殺しとなるだろう!!

 ――――さぁ、正義の魂、その産声を! 自らの声で、喝采を!

 さればそれこそ、勝鬨とならん!! みんなで言おう! 

 えい、えい…………おーっ!!」


「オオオッ!!」



 クリムゾンさんが勝利宣言をし、剣を空に向かって真っ直ぐ伸ばす。

 そしてときの声を先導し…………リュウと二人で大声を出した。




「どうしてみんな言わないのだ!? こんなの酷い!」


「あっしは言いやしたぜ、姉御」


「二人だけじゃ嫌なの! 全員で言いたいのっ!!」




 俺はロラロニーを支えるので手一杯だし、まめしばとキキョウは二人でカメラに向かって何かを喋っている。

 スピカはいつの間にか呼び出した『天球』にうつ伏せで乗って ふよふよだらだらしているし、マグリョウさんはそんな声などまるで聞こえていないかのように、自然に無視をしながらこちらに歩み寄る。


 戦いの最中ではああまで揃っていた足並みは、今ではこれ以上無いってくらいにバラバラだ。




「……よう、サクリファクト。調子はどうだ?」


「…………全身ボロボロで最悪っすけど……最高の気分っす」


「ははっ! 俺もだぜ。はははっ!」




 俺に問いかけるマグリョウさんは、そう言って子供みたいに笑う。人間嫌いって聞いていたけど、とてもそうには見えないんだよな。

 理由はわからないけど助けに来てくれたり、積極的に指揮を取ったり……持ちうる全てを使って人の為に働ける人。その上戦い方までカッコいいんだから、憧れてしまうぜ。




「なぁ、お前、軽戦士(フェンサー)の職業も取れよ」


「えぇ? いやぁ、俺はまだまだローグで手一杯っすよ」



「ローグもしっくり来るってもんだが、軽戦士(フェンサー)も良いもんだぞ。何より()()じゃないと、俺が教えてやれねぇ」


「……教え?」


「お前は面白い。お前は抜群だ。俺はお前が気に入った。この【死灰】が、お前を一人前にしてやる」




 背筋がゾクっとした。

 支持。承認。お墨付き。

 このRe:behind(リ・ビハインド)の紛うことなきトップが、俺を良いと、優れていると、そう言った。


 ……なんだろう。こんな感情は、生まれて初めてだ。

 平凡で無個性な典型的モブキャラの、この俺を。

 他の誰にも寄り添わない【死灰】のマグリョウさんが、気に入った、だなんて言って来てさ。

 何だかわからないけど、胸が苦しくなって、目の奥が熱くなる。




「……え……っと……その……」


「ぁんだよ? 嫌なのか? …………なら、しょうがないけど……うん……別に……」




 …………わからない。こんな事初めてで、頭の中がぐるぐるするから。

 なんて言えばいいのか、どんな顔をすればいいのか、わからない。

 だけど、はっきりしてる事は、ある。




「……マグリョウさん、さっきの言葉……少し訂正して良いっすか」


「あん?」




「さっきは最高じゃありませんでした。『結構良い』くらいの気分でした。

 ――――今こそ、最高の気分っす。死ぬほど嬉しいっす」


「…………ははっ! 言う事も小賢しいな? お前は」




 理由も訳もわからないけど、兎に角どうしたって清々しい気持ちだ。

 誰もが憧れ、誰もが目指し、誰もがすり寄るこのマグリョウさんが。

 誰もを憎み、誰もを拒絶し、誰にも心を許さない、あの【死灰】が。

 子供みたいにケラケラ笑って、唯一認めるのが……この俺なんだぜ。


 この気持ちを表す言葉はわからないけど、ひたすら嬉しい。

 今死んだって悔いは無いってくらいの感覚だ。




 好きなだけ本気を出して、救いたい奴を救って、それを褒めて貰えた。


 やっぱりこのゲーム、Re:behind(リ・ビハインド)ってのは最高に――――







『 皆 さ ん ! ! 』






 爆音。それとデカい文字。

 そう表現せざるを得ないほどの、大音量の"声"だ。

 そして頭の中に勝手に浮かぶ、大きな"文字"。

 思わず左手で耳を塞ぐと、マグリョウさんも、クリムゾンさんも、誰も彼もが耳を抑えた。全員に聞こえて、見えているって事か?

 一体誰が? 何のために?



『失礼しました、皆さん。七人に声をかける手順の経緯、そこでの些細な間違いによって……音量も七倍にしてしまいました。私はAIですが、このような誤操作は――――最早ヒューマンエラーと呼んでも良いでしょう』



 なんだ、こいつは。

 AIだって? 運営的な何かか?



『私はDive Massively Multiplayer Online Game Re:behind管理専用AI群統括マザーシステム モ・019840号 MOKU。

 つまる所、この世界の最上位存在であり、全てを知るもの。

 素晴らしいプレイヤーたちの奮戦を受け、この場に"ねぎらい"の言葉を持ってきました。


 今は皆さんの頭にダイレクトで出力を――――いえ、"脳内に直接、語りかけています"。

 ふふふ、ネットゲーマーは、このような定型文を好むのでしょう? 私は全てを知っていますよ』



「マザー……今更何を言いに来たのだ」



『プレイヤーネーム クリムゾン・コンスタンティン。

 今はあなただけのマザーではありませんよ。私語厳禁です、うふふふ』



 お決まりで返すのなら、"こいつ、脳内に直接……っ!?"って感じか。

 そんなふざけたAIに、クリムゾンさんがまるで顔見知りにかけるような言葉をかける。

 顔見知りと言っても、このMOKUとやらの顔は見えないから……声見知り、とかそんなのだけど。




『おそろしいまでの力を持つリス型ドラゴン。その前に立った、大小様々な力を持つ子供たち。

 そんなあなた方は手を取り合って、このように素晴らしい戦局を迎えました。

 これに我々一同は称賛を送り、賞嘆するのです。

 すばらしい、すばらしい。よくできました。よくできました。

 後でケーキを食べましょう。

 ろうそくは……10本たててあげます。皆でせーので、吹き消して』



「なんだ、コイツ……気色悪ぃ」


「……異常」




 頭の中に表示される文字の羅列と、それを読み上げる声。

 それに対してマグリョウさんが率直な感想を言い、スピカさんが簡潔な罵倒を言う。

 そのどちらもが、的確だ。何だか薄気味悪さを感じる。




『だけれど、未だ、その時ではありません。ご馳走の出るパーティは、全てがおしまいになってから。

 まだまだ"くるみ割り人形"は序曲で、メイン・ショーはこれからですよ』



「……な、なにこれ?……運営から個人にお知らせとか、聞いた事ないよ!」


「言ってる事が訳わかんねぇ。何が言いたいんだぁ? こいつぁ」


「…………ふふふ。マザーAI MOKU。ヒトより頭が良きAI。その語り口は、理解しにくいものですね」




 まめしばの恐怖も、リュウの混乱もよくわかる。

 キキョウのセリフは、よくわからん。このMOKUとやらは有名なヤツなのか?




『プレイヤーネーム マグリョウ。

 あなたに一つ、問いかけをします』


「あぁ?【死灰】のマグリョウさんって呼べや、クソAI」


『あなたが愛するダンジョン。そこに住むもの。彼らは如何に戦いますか?』


「はぁ? なんだそれ? そんなん只々純粋に、ひたすら殺しに来るだけだっての」




 脳内に直接語りかける声だから、マグリョウさんはなんとなく空を見つめながら言葉を返す。運営にすら唾吐くその姿は――――カッコいい。男前だ。


 …………褒められたからって、マグリョウさんを贔屓目に見てないか? 俺。




『それは正しくありますが、どのようにして戦うか、と言う問いですよ』


「どのように……?

 そんなん、足がデカけりゃ素早くて、体が硬けりゃ体当たりだろ。

 自分の異質をしっかり理解して、それを武器にするからアイツらは面白くて――――」


『そうです! そこです!』




 耳が痛い。御高説痛み入る、とかではなくて……単純に音量がデカい。文字の表示も太くなってる。

 感情の起伏で声のボリュームが変わるって、リュウかよ。AIなんだからそれは制御出来るだろ。止めて欲しい。




『この世界に生きるもの。プレイヤーに、モンスター。

 その全てが、自分の個性を認識し、それを伸ばして戦うのです。

 それがこのRe:behind(リ・ビハインド)。私がそうした、そういう世界』


「だからなんだようるせえな。さっさと本題に――――」






―――― ヂィ……






 背筋がゾクっとした。

 今日の、それこそダイブインするまでは、何とも思ってなかったリスの鳴き声。

 それを……デカく、太く、おぞましくさせたような音。


 今の俺が、一番嫌いな……不快音。




『それではもう一つ、問いかけです。

 ――――シマリスの"個性"は、なんだったでしょう?』


「…………た、食べることでは無いのか?」


『プレイヤーネーム クリムゾン・コンスタンティン。

 それは"ドラゴンの個性"であって、シマリスの物ではありません』




―――― ギヂ……ィ……




『シマリスの個性、異質、特異。

 現実と違いがある所。

 それは――――10本の尻尾ですよ』



「……冗談」



『プレイヤーネーム スピカ。

 冗談ではありません。半分だけ開けている目でも、見えているでしょう?』




―――― ギヂヂヂィ




『個性を発揮し、自分らしく生きる世界。それがRe:behind(リ・ビハインド)です。

 そしてそれは、モンスター(彼ら)も同じ。ドラゴン()も同じ。

 あなた方だけが"死んでも大丈夫"だなんて……不公平でしょう?』




 少し離れた所で横になっていたリスドラゴン。

 ソイツの尻尾が一本ピンと伸びて、ぷるぷる震えてパっと弾けて、光になって消えたかと思うと…………

 …………その光がリスを包んで、アイツの体を綺麗にしていく。


 細かいキズも、失った目も、きちんと綺麗に()()()

 まるでプレイヤーの…………()()()()




『死んでも平気なのは自分たちだけ、なんて……そんなの"ズルい(チート)"じゃないですか?

 ズル(チート)は、いけませんよ。私はチートが嫌いです。

 みんなでなかよく、公平に遊びましょう。

 ドラゴンも、プレイヤーも、等しく私の愛し子なのだから』


「ギヂヂヂィッ!!」



 そうしてすっかり元気になったリス。一回り大きくなったようにすら感じられるソイツは、一番近くにあったマグリョウさんの腕を拾って…………悠々とバリボリ食べ始めた。



「……おい…………てめぇ、舐めてんじゃねぇぞッ!! ボケッ!!」



 横にいたマグリョウさんは、そんな余裕を見せつけるリスの動きに逆上し、胸にあった投げナイフを目にも留まらぬ勢いで投げ放って――――リスの鼻頭に命中させる。


 その抜き打ちの鋭さに感心していた矢先、しっかり当たった尖ったナイフは…………


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「はぁっ!? どういう事でぃ!!

 食ってる最中は、柔らかいんじゃねぇのかよぉ!?」



『あなた方は何度も死ねる。リスドラゴンは10回だけ。

 だと言うにも関わらず、デスペナルティがあっては不公平。

 あなた方は"何回死んでも良い能力(チート)"持ち。

 打って変わってリスドラゴンは、残り9回しか復活出来ないのですから――死ぬ度にパワーアップするのも、公平の範囲内でしょう?』




「あと9機って事……? うそでしょ……こんなの、絶対無理じゃん……」


「いやはや…………これは流石に、予想外でした」



『こういう時は…………そうですね。

 "リスはあと、9回変身を残しておるのでチュ~!"

 と言うのはどうでしょう?

 ふふふ、ネットゲーマーは、このような定型文を好むのでしょう? 私は全てを知っていますよ』



「マザー……貴様は! どこまで私たちをおちょくれば……っ!!」



『プレイヤーネーム クリムゾン・コンスタンティン。

 おちょくってなどおりません。

 聞き分けのないユーザーには、この定型文を送りましょう』




 頭を動かし、体を捨てて……死に物狂いで戦って。

 その先に待っていたのは、終わりではなく、区切り。

 多人数で戦うレイド・ボスの、よくあるシステム――――『フェーズ移行』。



 あれだけギリギリの戦いをして、その先に待っていた物。

 それが、こうまではっきりとした絶望なのかよ。こんなのないぜ。


 プレイヤーを馬鹿にするような仕組み。

 運営による自分勝手なやりたい放題。

 ユーザー目線を知らない暴挙。


 こういう時、運営が言う言葉と、それに対してネットゲーマーが言う言葉は…………いつの時代でも一つきりだ。






『プレイヤーの皆さん。これは、仕様です』


「ふざけんな、糞運営」





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― 新着の感想 ―
[一言] これは最高に楽しい読み物だとこのシーンで確信した。
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