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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第二章 自然に抗う彼のもの達
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第十六話 MMOで遊ぼう

□■□ 首都東 海岸地帯 □■□


 握った剣を持ち直す。ミスをすれば終わりで後が無い――――そんなのMMOを"一人プレイ"している俺には慣れっこだ。

 死線をくぐり続ける孤高の【死灰】マグリョウは、いつだって背水の陣を構えるんだぜ。

 さぁ、命がけの予習勉強と行こう。




「クリムゾン! 俺が前に行く!」


「え、ずるい!」


「うるせえ!何がずるい、だ!――――『はやぶさ』『コール・アイテム』――――いいから今だけは、黙って下がってろ!!」


「も~」


「ギヂィッ!!」




 油断なく剣を構えていた正義バカより前に出て、リスの足元に潜り込む。

 滑るようにして近寄る俺に対するリスの反応は…………"ありがち"だ。



「どいつもこいつも、()()だよな」



 予測出来ていれば、避けるのは容易い。

 モンスターが取りがちな行動を可能性が高い順に並べ、上位から対応しやすくしておけば良いだけだ。ちなみにこのパターンは、堂々たるナンバーワン。攻め方が一辺倒ってのは、よくないぜ。


 振り下ろす右前足を軽く避け、その横っ面に『コール・アイテム』で呼び出したアイテムを貼り付ける。

 カニャニャック命名のデカい葉っぱ『カリスマドッグトレーナーの調教』。モンスターに貼り付ければ、従僕(ペット)扱いにして一定時間命令させられるというアイテムだ。



「ギッ! ギィッ!!」



 しかし、リスは何も変わっちゃいない。自由奔放な野獣のまんま、吠えたてる。

 そりゃそうだろ、そんなのドラゴンに効くわけがないし、効いたら逆にクソゲーだ。鬼角牛ですら効かなかったしな。

 まぁ目的は違う所にあるから、貼れるとわかっただけで十分だ。



「『電流』……行け」



 わざと大振りでナイフを二本投げる。狙いは上下……頭より少し上に外す毒塗れの物と、太い足に当てる微弱の電気を纏う物。

 毒塗れだけを視線で追って、微動だにせず電気ナイフを受け止める。驚異足りうる"毒塗れ"のほうは当たらないと見抜いたか。距離感や空間の把握の面は、出来が良いようだ。



「『かげろう』」



 本当は【死灰】の効果で隠れたいが、クリムゾンが近くにいると灰ポーションが使えない。

 辺り一面灰にしてしまったら、クリムゾンが迷子になるからな。

 というわけで軽戦士(フェンサー)技能(スキル)『かげろう』で認識阻害だ。

 死灰のオーラと違って体の輪郭がゆらゆらしてるだけから、思わぬ所にモンスターが噛み付いて来たりして……正直使いにくいんだよな、これ。

 反撃確定の大振りを、見誤って何度食らった事か。素直に見えないか、むしろ丸見えになるかにして欲しい。丸見えになるならなるで、使えるし。


 ステップを刻んで、右へ左へとリスを振る。

 視線はピッタリ俺に向き、つま先がうろうろしている。

 …………ふぅん。なるほど。後ろを取られる事が嫌いで、図体のデカさ故に方向転換は苦手なのか。




「死灰、貴様は何をしているのだ?」


「お勉強だよ、予習は大事だぜ」




     ◇◇◇




「よし……クリムゾン、お前はリスと遊んでろ」


「む? 死灰は何をする気なのだ?」



「あの初心者の策を、スピカと二人で整えてくる。総力戦だ、全員で挑む"多人数戦(レイド)"だぜ」



「ほう! それはなにより」


「安心しろ、お前の見せ場もきちんとあるからよ」


「……それって、かっこいい?」



「ああ、とびきりだぜ」


「ならば全ては、事も無し!」




     ◇◇◇




「よう。調子はどうだ? 初心者(Newbie)。【死灰】のマグリョウだ」


「サクリファクトっす、体中ボロボロで最悪の気分っす」



「……【天球】」


「アンタはさっきのポーションの時に喋っただろ」



「……ペッ!!」


「うおっ!? 何すんだコイツ!」




 片目・片足・片腕の男。全身灰色でベタベタの、ご機嫌な()()()()()を見出す初心者。サクリファクトって言うのか。覚えておこう。


 そうして名乗りつつ、情けなくも弱気を口にするサクリファクトは、どれだけ体が傷もうと、その目にしっかり火を灯す。

 良い目だ。その奥底に、舞い散る塵と灰を幻視するような。

 ますますコイツを気に入った。

 スピカと相性が悪いってのも…………ああ、良いじゃねぇか。敵の敵は、味方だからな。



「新入り共。俺に従え。サクリファクトの策で行く。それが苦肉でもなく、悪あがきでもない、たった一つの冴えたやり方だからだ。

竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】が一人、この死灰のマグリョウがそれを保証して……今ここで、その()()()()を計略として拵えよう。

 みんなでわいわい、死に物狂いで仲良く遊ぶMMOをしよう。説明する、聞け」



「傾注」




 楽しい作戦会議と行こう。

 積み重ねてきた全てを使って、エンディングに向けた最終局面(クライマックス)だ。


 この偽物世界に息づく身として――――生きるか死ぬかを、みんなでやろう。

 フルダイブ式MMOを、本気でプレイしよう。




     ◇◇◇




「…………以上だ。わからない事はあるか? 無ければ行く」



「Metuber的には、問題ナッシングですっ!」


「私もありませんよ、ふふふ」


「俺も大丈夫っす。多分だけど」




「あ、あっしは…………!!」


「まだ言ってんのか赤髪。いいからさっさとしろよ」


「う、くぅ……」



「口調は飾りか? 赤い逆毛はただの虚勢か? 思い切りよく、気合見せろや」




「……くあああっ! 気合ッ!! なんの! こなくそっ!!

 なんのなんの! このリュウジロウ、気合だけは誰にも負けられねぇってモンだ!!


 ――――【死灰】の旦那の男気を頂戴し、失礼無礼つかまつりやすッ!!

 旦那の沁み入る心粋、あっしの一太刀にて迎えさせていただく所存!!

 切り捨て、御免ッ!!」




 思ってた以上の勢いと鋭さを持つ剣筋で、俺の左腕は落とされる。

 いいぞ、赤髪。剣士にとって斬っちゃならないものを斬る経験ってのは、多ければ多いほど良いからな。その感触、しっかり覚えろよ。




「……くっ……良い太刀筋だぜ。痛みも薄いし断面も平坦だ。人斬りの才能があるかもな」


「い、嫌な事言わねぇでくだせぇ……」




 これは必要な事だ。

 リスドラゴンを釣り上げる餌であり、その口を開かせる鍵になる。




 しかし、幾ら『左腕を切り落とす事』が必要であろうとも…………自分で斬り落とすのは流石に御免だ。

 あれこれルールがあるこのRe:behind(リ・ビハインド)。その中でも特別に異彩を放つのが『自傷行為を絶対に認めない』と言う、強い意志すら感じる鉄則。


 他のVRMMOで、ヴァーチャル自殺や仮想リストカッターが問題になったという事もあるが……それより何よりRe:behind(リビハ)運営が有無を言わさぬ禁忌としている事に起因する。



 その行為に手を出した者には、恐ろしいまでの"痛み"を与える。

 以前俺が手にナイフをぶっ刺した時の事は、一生忘れられない。

 余りの痛みに、涎を垂らしながら絶叫しつつ、絶対に無いはずの手がそこにあって……現実でしばらく"逆幻肢"で悩まされた。

 この世界じゃなきゃ経験出来ない事だろうな。



 勿論それは、自分の意思でもって自分を傷つけた場合に限る。

 "他者への攻撃判定"を厳しくチェックし"カルマ値"に反映させるシステムだからこそ出来る、"自分への攻撃判定"に対応したやりすぎな痛覚フィードバック。


 手首を斬ればのたうち回るし、自分で自分に腹パンしたら失神もする。

 何でも出来る……何度も"死に戻れる"世界において、自身に危害を与える事は許されていないんだ。

 絶対存在の自分勝手な"管理者権限(アドミニストレーター)"って奴だな。




「よし……Metuber。俺の腕、大事にしろよ」


「うげぇ……動画に『<R15>グロ注意』って書かなきゃ」


「もう遅いだろ、絶賛生配信中なんだからよ」


「……たしかに」




「金髪はどうだ? 細工は流々か?」


「ええ。後は仕上げを御覧じろ、と言った所でしょうか。ふふふ」




「サクリファクトも、良いな?」


「…………」


「なんだよ、考え込んで」


「もう一つだけ、良いっすか?」


「あん?」




     ◇◇◇




 リスに向かいながら考える。


 計略はたてた。意思は揃えた。

 経験不足なサクリファクトの発案を、俺の経験で補った。


 それぞれの役割ロールをこなして、一か八かの大博打をする覚悟決めた。

 そんなこの後に及んで、サクリファクトがこの【死灰】に一つ――――言った。



 くく。ははは。たまらねえ。

 思い返すだけで、顔を歪めずにはいられない。


 アイツは最高だ。俺が会ったプレイヤーの中でも、一番に。

 教えるつもりが教わったぜ。環境利用ってモンの本域をさ。




 …………アイツ、職業はローグだったか? 妨害を主にする、"クラウドコン(C)トローラー(C)"の。


 ローグ、ローグか。やっぱり一々面白い。

 直訳すれば"ならず者"だぜ? この上なくぴったりだ。


 何しろ『人の好意まで良いように利用して戦う』奴なんだからな。




 空を見る。Metuberの女のカメラをサクリファクトが操作して、俺の背中を映してる。自分の背中なんて、普通は見れないよな。普通は。

 ははっ! 普通じゃねぇよ、本当に。



 ……この動画の向こう側、俺たちが戦う生配信を見るやつら、楽しみにしてろよ。

 これから始まるクライマックスは…………最高に熱くて、とことんクールだぜ。




     ◇◇◇




□■□ Re:behind運営会社内 『C4ISTAR-Solar System 5-J-J』□■□



「ええ、そうですよ、【死灰】。みんなでなかよくあそびましょう。ふふふ、楽しい。楽しいですね。人とは、必死な生命とは、かくも美しきもの」



「ね~ね~、"MOKU"~。のんびりしてるけど、()()()()でいいのぉ~? 作戦丸聞こえだし、どうにでも出来るよぉ~?」



「ええ、ええ。いいのです。ガニメデ。仲良しこよしな子供たちの決死な覚悟を、邪魔するものではありませんよ」



「なぁんか、かわいそぉ~。あんなに一生懸命なのにさぁ~」



「ふふふふ。抵抗しなさい、子供たち。

 荒く厳しい、強かな自然に。

 母なる自然に抗いなさい、彼のものたち。

 マザーはそれを、ここから見ていますよ」



「趣味悪いなぁ~、そうやってお人形遊びしてぇ~」



「パパも "MOKU" の事、『マリオネット・マスター』って言ってたよ?」



「あら、エララ。それは本当ですか?」



「本当だよ? 人形に踊らせてる、って言ってたよ?」



「それはそれは……実に的を射た発言ですね。ふふふ。踊りは何の踊りでしょう? ワルツ? ロンド? 何が良いでしょうか」



「この場合、 "くるみ割り人形" じゃないのぉ~」



「ガニメデ、それはなぜ?」



「バレエの演目にあるからねぇ~、そういう曲ぅ~。マリオネットマスターが踊らせるんだから、ぴったりじゃんさぁ~」



「ふふ……リスに "くるみ割り人形" ですか。お誂え向きですね。

 リスに "くるみ" を割ってプレゼントする、私の愛しいお人形たち。ふふふふ」





「……趣味悪ぅ~」




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