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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第二章 自然に抗う彼のもの達
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第五話 アイ・アム・ヘルパー

□■□ 首都東 海岸地帯 □■□




「ロラロニーッ!! こっちに走れッ!!」



 突如として海から出現した『デカすぎるシマリス』。

 ふかふかの尻尾は片手じゃ数え切れないほど生えていて、手の爪はシミターのようにひねり曲がりながらも鋭く光る。

 

 そしてシマリスらしい無闇にくりっとした目は、しっかりとロラロニーを見据えていた。




「わわわ、なにこれ……リ、リス?」


「いいから逃げろ! ロラロニー!!」


「な、なにあれ!? あんなのMetubeでも見たことないよっ!!」


「…………『ドラゴン』ですか? となると、規約上では……非常にまずいですね」




 キキョウのやつ、何を言ってんだ。どこがドラゴンだよ。

 ドラゴンって言ったら火を吐くトカゲだし、シマリスって言ったら手のひらサイズの愛らしい愛玩動物。そんなの誰でも知ってる常識だ。

 ……いや、このリスに限っては常識なんてあてはまらないってのはわかるけど。


 それでも、ドラゴンってのは余りにぶっ飛んだ言い方だろう。

 こんなネズミがドラゴンな訳が――……




『プレイヤーの皆様に、運営からのお知らせです』




 突如として空が光り、クソデカい日本語が映し出される。

 それはこのRe:behind(リ・ビハインド)においては珍しい物だ。


 ……運営からのお知らせ?

 そんなの滅多な事では行われない筈だ。

 何しろ過去にこういう形で運営からの告知があったのは、2年の間で10回も無いくらいだって聞くし。



『首都東方向、海岸地帯に――――』



 そんな滅多にない運営のお知らせは、その内のほとんどが緊急メンテナンス告知だと聞いた。

 現実のお金と密接に繋がっているRe:behind(リ・ビハインド)だからこそ、サーバーダウンに伴うダイブアウトとその保証については丁寧に対応しなければならないからだ。


 ……あとは、そうだな……。 

 ……そんな滅多にない運営からのお知らせの、これまた滅多にないメンテナンス情報以外の告知っていうと…………。






『首都東方向、海岸地帯に"ドラゴン"の出現が確認されました』



 ……ああ。

 確かにそれは『ドラゴン出現警報』くらいだったとWikiに書いてあった気がする。


 …………え、マジかよ。

 ドラゴン?

 これが? このシマリスが?

 どういう事だ? トカゲでもないし、翼もないぞ。ドラゴン要素が欠片もないだろ。




『 "ドラゴン" に捕食されたアバターのデータは、消滅します。これはRe:behind(リ・ビハインド)サービス利用規約第51章2089条に明記されるものであり、プレイヤーの同意を得ている仕様になります。くれぐれもご注意下さい』




 何だそれ。そんなの知らない。

 いや、書いてあったのかもしれないけど、そこまで詳しく読んでない。

 VRMMOの規約なんて、誰も彼もがそんなもんだろ? 全部読んでたら丸一日かかるような長さだし、全306章とか全力でスクロールするに決まってる。




『 "ドラゴン" は、海岸地帯より首都へ侵攻します。アバターを失う用意がないプレイヤーは、荒野地帯や花畑地帯に避難する事をおすすめします。以上』




 そんな言葉を残して消えていく、空の文字。

 ひたすらな青さを静けさを取り戻した空の下では、ロラロニーが絶賛ピンチな砂浜だ。


 避難だって? したいに決まってるだろ。

 こんな状況じゃなきゃ、とっくに逃げ出してるって。




「ひ、ひゃ~!」


「走れッ! ロラロニーッ!! タコなんて良いから、早くこっちに来やがれッ!」


「ロラロニーちゃん! はやくぅっ!! うう、弓が効けばいいけどっ!」



「ひゃ――――わぁっ!」



 タコの足を一本持って引きずるように走っていたロラロニー。

 普段から異常なまでに足が遅い彼女は、砂に足を取られてドテっと転ぶ。

 まめしばは弓を番えて、射る構えだ。

 どうする? どうすればいい?




「わわわ、やめてぇ~」


「ロラロニーさんっ!!」




 リスが手を伸ばし、ロラロニーの胴をがっつりと器用に掴む。

 キキョウが珍しい大声をあげて、リュウは今にも飛び出しそうだ。

 ……作戦を考えるのは俺の仕事。焦るな、考えろ、何か打開策を。


 あのリスを、ロラロニーを、この状況をどうにかする手段――――わからん、落ち着け、クソッ! どうすりゃいいんだ? さっぱりわからない。




「てめえリス公ッ!! ロラロニーを食ったら許さねぇぞコラァッ!!」


「射るよっ!…………弾かれた!? 硬すぎでしょ!」


「リスさん、やめてぇ~」




 しっかり掴んだロラロニーを、ゆっくり口元に運ぶリス。

 まめしばが射った鬼角牛の皮膚にすら突き刺さる矢は、当然の事のように弾かれ何の効果も得られていない。



 そうして遂には、リスが大きく口を開け――――




「ロラロニーッ!! 脱出しろぃ!!」


「ロラロニーちゃんっ!!」


「クソッ!! どうすりゃいいんだっ!!」






「クルルルル…………」






 いよいよロラロニーの頭がリスの口内に入りかけた、その時。

 ぴたりと動きを止めたリスは、どこか心地よさそうに喉を鳴らして目を細める。


 ……なんだよ?




「ええと、ええと……喉を優しく撫でながら……指で掻くようにしたりして……」



「クルル……」





「……な、なに? あれ」


「ロラロニーが……撫でて、落ち着いてんのかぁ?」


「どうやらそのようですね。リスドラゴンが、気持ちよさそうな声を出していますよ」




 これって、アレか?

 ペットトリマーに教わったとかいう、獣の撫で方?

 プロ直伝の巧みな手付きで、仮想のデカいリスすら落ち着かせたのか?


 …………いやいや……どんな偶然で、どんな展開だよ。





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