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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第二章 自然に抗う彼のもの達
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第四話 すげえヤバい

□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都 中央広場 □■□




「疲れた」


「ああ、俺っちも」


「私も」




『職業認定試験場』を出てすぐ、元・聖女の広場のベンチ。

 そこに座った俺たちは、言葉少なに疲労の比べ合いだ。




「……言えねぇけどよ。大変な事だったぜ、剣士のレベル4試験」


「狩人も、凄く凄かったんだよ」


「ローグも……凄く大変だったんだ」




 説明してはいけない、それがレベルを上げる職業試験の絶対なルール。

 そうなってくると、どうしたってこう語彙力に難がある会話になるんだ。


 だけど、伝えずにはいられない。

 レベル4だぞ? 序盤も良いところだろ? どうしてここまでややこしい試験内容なんだって話だろ。




「ロラロニーちゃんとキキョウ、大丈夫かなぁ?」


「キキョウは上手くやるだろう。ロラロニーは、まぁ、後3回もチャレンジすれば出来るんじゃないか」


「失敗前提かよぉ? 俺っちはロラロニーを信じているぜ?」




 信頼は良い事だけど、今回に至っては楽観が過ぎるだろ。

 あそこまで訳のわからん試験をロラロニーが一発合格なんて、それこそ語彙力も発揮出来ないほどに……ぽかんとアホ面で、 "すげえ" としか言えなくなるって。




「あ、二人が出てきたよ」


「おうおう、キキョウはいつものニヤけ顔に……ロラロニーのとびきりの笑顔を見ろよ!」


「嘘だろ?」





「わぁ~い! みんな~! レベル上がったよ~!」



 なんてこった。本当か?

 これはもう、言わざるを得ないぞ。




「……すげえ」




     ◇◇◇




「よぉし、とりあえずそこの店で祝賀会と行こうぜぇ!!」


「リュウ、今日はみんなで海に行く約束だったでしょ」


「試験の費用は一人20万ミツ……一月分の月額料金でしたからねぇ、ふふふ」




 当初の予定をすっかり忘れたリュウが、その場の勢いに任せて無理を言う。

 ロラロニーが一発合格なのも驚きだけど、そもそもコイツもよく合格出来たよな。

 剣士のレベル4試験の内容が、気になって気になって仕方がない。




「なんでぃ、せっかくだってのによ」


「でもでも、海で獲れた貝でバーベキューしたら楽しいよ」


「ふふふ、そうですね。思わぬ当たりもありますし」




 以前に海を訪れて、色々ありつつ結果的には良い出来事ばかりだったあの日から、俺たちは繰り返しそこへ足を運んでいる。

 レベルも低くろくな稼ぎが出来ない俺たちにとっては、海岸での『投網漁』は……生命線と言ってもいいだろう。


 それに、今日はみんなで試験を受けたんだ。使ったお金を取り戻さないと、明日の昼飯が買えなくなってしまう。それは勿論、現実リアルの話。


 という訳で、俺たちに遊んでいる時間は無い。貧乏暇なし。さっさと出稼ぎに向かわないとな。




     ◇◇◇




□■□ 首都東 海岸地帯 □■□




 海。仮想の世界の、ひたすらにリアルな大海原。

 首都を東に歩いて30分程度のこの場所は、灰色だらけの繊維補強セラミックス入りコンクリートだらけな現実世界とはまるで違うんだ。

 森の緑と砂浜の白、そして見渡す限りの真っ青な水。偽物の世界なのに、心と肺が洗われるようですらある。



「いやはや、いつ来てみても素晴らしい景色ですね」


「キキョウ的には、この海に値段をつけるとしたら、なんぼくれぇになるんだぁ?」



「プライスレス……と言いたい所ですが、ダイブして行ける観光地や行楽地として鑑みるとそう単純な話では収まりませんね。この海だけを売りにするVRシステムが存在するとして、そこに訪れるアバターを現実に準拠させるとすれば……いえ、その場合、違和感なく動作しながらも現実とは似て否なる――――」



「すまねぇ、俺っちが悪かった。だからもうやめてくれぇ」


「おや、興が乗ってきた所だと言うのに。ふふふ」


「キキョウさんは、凄いねぇ。難しくて私はよくわからないや~」




 そう言ってとぼけた笑いを零すロラロニー。

 何故かその腕には、白いタコが抱かれている。




「……いつもここに来る度ソイツを抱っこしてるけど、調教師としてのペットにはしないのか?」


「このタコさん? 仲良くしてくれるし出来ればそうしたいんだけど、やり方がわからなくって」



「私がコラボした調教師(テイマー)Metuberは、餌をあげてれば大体イケるって言ってたよ?」


「何も食べないんだよ、このタコさん」


「へぇ? そもそもタコって何食うんだ? イカか?」


「…………だとしたら、それは恐ろしい絵面になりますね」




 白と赤の触手がお互い食いつき合うとか、どんなモンスター映画だよ。

 そもそもこの世界に、イカとかいるのか?


 このタコだって、検索したって出てこないし。しかも白い。

 そして今だって意思を持つように動いて――――。




「ロラロニー、そいつ……いつも体に巻き付いてるよな?」


「え? ん~、そうかなぁ?」


「そうだろ。今だってうねうね体をまさぐってるぞ」



「なになに、サクちゃん? 羨ましいの?」


「……なんでだよ」


「サクリファクトくん、私の体をまさぐりたいの?」


「まさぐらねえよ!」



「サクの字ぃ……そういうのはちょっと控えろよぃ」


「サクリファクトくん、若さのままに暴走すると、身を滅ぼしますよ」



「やらねぇっつってんだろ! なんなんだお前らっ!」




     ◇◇◇




 何やかんやで、およそ2時間。

 網を投げたり引っ張ったり、そして要るもの要らないものを選別したり。


 やるべき事をやった俺たちは、今日の収穫物のホタテや牡蠣によくわからん貝類をまとめて焼く。


 以前は最下級のマイナーコクーンで"味"も"食べがい"も残念な物だったが、今日は中級のメジャーコクーンを使ったダイブだ。


 栄養素を取り入れる仕組みがある、フィードバック多めのコレなら、仮想の食べ物だって――――



「かーっ! うめぇっ!! このホタテのぷりっとした身はどうだよ!」


「身というか、貝柱だけどね~。でも本当、美味しいよ~! 海はおすすめ!」


「……食事中にもカメラをまわすのか」



「Metuberでは食事シーンは一定の需要があるからね。撮れ高になる食事・戦闘・大きなトラブルは、逃せないのさ」




 まめしばがカメラを操作しズームさせた金網の上には、今日の収穫物がごろごろ乗せられて。その殻が熱でこじ開けられると、ぷくぷくぐつぐつ煮立つ貝柱が目に入る。

 投げ網でこうして獲ったRe:behind(リビハ)の貝類は、美味しく食べられる事と、たまにもう一つの嬉しい事があるから良いんだ。




「……んっ! はいっへは!」


「ロラロニーさん、当たりですか? ふふふ」


「こえ、おおひいお!」



「飲んでから喋れよ……いや、魔宝石は飲むなよ?」



 ホタテや牡蠣などの二枚貝。

 その中にたまに入っている、魔力の増幅機……『魔宝石』。

 一個10万、欲張って13万くらいでも飛ぶように売れる、俺たち初心者にとっては十分過ぎるほどの稼ぎになる当たりくじだ。


 投げ網一回で大体一個、上手くいけば三個出たりもするから、この場所を独占している今の俺たちの財は増えるばかりでありがたい。

 そこまで期待せずに勢い任せで始めた投げ網漁だけど、今ではすっかり俺たちのメイン金策になっている。



「ふぅ……綺麗だし、凄く大きいよ~! みてみて」


「おおっ!! でかした、ロラロニー!!」


「いいねいいね~。相変わらず青く煌めいて……こんな画も動画の撮れ高だし」



「涎できたねぇから海で洗って来いよ」


「あっ! サクリファクトくん、酷い!」


「酷くねーよ。実際ベタベタじゃねーか」




 いつもより大分大きめの魔宝石に、思わず顔が緩む。

 これは20……25万くらいで売れるかもしれないな。

 需要はあるのに供給は少ない魔宝石。その理由は、産出地が酷く限られるって所にある。


 俺たちは海で見つけたが、魔宝石は基本『ダンジョン』でしか見つからないと言われている。

 例外的に大きな鉱石を割った中から出てきたり、モンスターの体内で生成されていたりもするらしいが、基本はダンジョンの奥に宝として祀られるように鎮座しているばかり。


 魔法スペルの威力を底上げする魔宝石は、魔法師なら誰も彼もが欲しがって――――少ない流通品を奪い合っているのが現状だ。


 しかし、そんな魔宝石を狙ってダンジョンに潜るのは、愚策と言う他ない。


 プレイヤーを殺す気まんまんのトラップに、アバターだけでなく精神まで殺しにかかる気持ちの悪いダンジョン専用の虫型モンスター共。

 ギチギチ蠢く巨大な虫モンスターに頭から齧られ、殺意全開のトラップで押しつぶされたプレイヤーは、このゲームを引退する事だって珍しくないんだ。



『痛み』のフィードバックは無いにしても、『恐怖』はしっかり記憶に残るからな。


 殺意をもった何かに食われる殺されるってのは、このリアル過ぎるほどの仮想世界において、ゲームのキャラクターが死ぬってだけじゃどう考えても処理出来ない。


 それほどまでに、単純に――――怖いんだ。




「タコさん、泳ぐ? ちょっと乾いてきてるし」


「ロラロニーちゃん、魔宝石を海に落とさないでよ~?」



「大丈夫だよ~、ちゃんとこうしてしっかり掴んで洗って――――」




 海の浅瀬に手を突っ込んでバシャバシャやっていたロラロニー。

 そんな彼女がこちらを振り向いた、その時。


 背後の海面が、なだらかな丘のように変化する。




 その水の丘はみるみる内に盛り上がり、遂には小山のようになりながら、流れに流れて『中』にあったモノの存在を露わにしていく。



 とんでもない量の水を押し上げ、海中から突如として出現したのは。



 ああ、割と最近見たぞ。


 クソデカいシマリス。




 見つめる先には、ほど近い所にいるロラロニー。

 ひたすらにヤバい予感しかしない。


 ヤバい、これは、とんでもなくヤバいぞ。とにかくすげえヤバいって。




 そんな言葉しか出てこない……現状の異常さと、俺の語彙力に泣けてくる。





『牡蠣』


 鉱物で出来た殻を持つ、固着動物。

 生まれてから殆ど動く事が無いため、筋肉を持たず殆どが内蔵で出来ている。


 古い時代の現実において、牡蠣は『あたる』と呼ばれる食中毒の危険性があるものとして知られていたが、全てが厳密な環境操作と徹底した水質管理で養殖される今の時代においては、その危険度は限りなく低い。


 また、Re:behind(リ・ビハインド)内に細菌は『原則、存在しない』事となっている為、ゲーム内に存在する牡蠣のようなものでも『あたる』事は無い。


 大きさや色・味などは現実に基づいた物になっており、そこに個体差は発生しない。

 持ちうる差は、魔宝石を有するかそうでないかのみである。

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