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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第二章 自然に抗う彼のもの達
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第三話 ヘルプミー・トリマー

□■□ 宮城県仙台市  □■□

□■□  Dive Game『Re:behind(リ・ビハインド) 専用コクーンハウス Sendai Colony □■□




「あっ、乙女さんっ」


「……ことりちゃん。偶然ね」


「そうですね~! これからダイブインですか?」




  Dive Game Re:behindリ・ビハインド専用コクーンハウス Sendai Colonyの入り口でばったり会った、茶色いくるくる髪の女の子。

 幾度かこの場で出会い、僅かながらも楽しい会話をした私と同じRe:behind(リビハ)プレイヤーの、柊木ことりちゃんだ。




「うん。今日はクィーンでダイブするの」


「わぁ! すご~い! 私は今日、ジョブの試験をするのでメジャーですよ~」




 先日この子はお金がなくて稼ぐ方法を聞いて来たんだっけ?

 無料期間も終わったみたいだし、何か安定した金策が見つかったのかな?




「メジャーでダイブ出来るならもう一人前のRe:behind(リビハ)プレイヤーだね。金策は見つかったの?」


「はいっ! 海にいる貝を獲ると、中に水の魔宝石が入ってて……私たちだけの秘密のお金稼ぎなんです!」




 …………秘密? 秘密なの? 思いっきり言っちゃってるけど……?

 やっぱり変わった子。面白いなぁ。




「そ、そうなの……よかったわね」


「今日は試験の予習もしてきたし、やる気満々なんですよ~」




 お金を稼いで、浮いたお金で試験を受けて。

 そうして徐々に階段を上がるように、上を目指しているんだね。

 私みたいな『キャラ作り』で急加速せずに、自然な自分で無理の無い速さで。


 のんびりマイペースなこの子みたいにしていれば――――

――――今の私が持つ『取り返しのつかない悩み』なんて、生まれなかったのかな。




「ふふふ、そうなんだ。予習って、調教師の試験の予習? 何を勉強したの?」


「親戚の"獣の美容師ペットトリマー"のおばさんに、ペットの上手な洗い方を教わりました!」


「そ、そう。よかったねぇ」


「はいっ! とっても楽しかったんです!」




 …………それは、調教師の試験の予習なのかな?

 いくらランダムで変わった内容が多い職業認定試験と言っても、ペットを洗う試験とか、あるとは思えないんだけど。




     ◇◇◇




□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 花畑に近い街 □■□

□■□ 『エンジョイ・マジック・サークル』クランハウス前 □■□




 【正義】のクリムゾンを見て、私だって出来るぞって始めた『Re:behind(リ・ビハインド)』。


 キャラ作りをして、コツコツ力を付けながら出会った人の記憶に潜り込む日々。

 徐々に知名度も上がって来て、順風満帆だと思ってた。




 そう、思っていたのに。

 まさかこんな事になるとは、思ってもみなかった。




 現状を冷静に考える。

 今確かに理解しているミスは――――三つだ。




 一つ目、仮面を被る生活は結局会社員時代と変わらないと言う事。

 もうちょっと頭を働かせれば最初の段階で気づけていた筈なのに、新しい世界へ旅立つ事でいっぱいだった私はそれに気付く事が出来なかった。


 ただ、それはもうしょうがない事。

 取引先や上司にニコニコ愛想を振りまくよりは、ギリギリ人付き合いの内に入るやり取りをしている今のほうがよっぽどマシだから、いい。

 そういう風に生きようと自分で選んだ分、納得はしやすいから、いいのだ。




 二つ目、ナイスアイディアだと思っていた『常に魔法スペルで作った光球に乗って移動する』という個性がの維持費が、とんでもないという事。

 貯金があるからとアイテム課金の魔力ポーションを湯水の如く消費していたら、余裕があった筈の貯金はすぐ底を付きた。


 ただ、それも今はさしたる問題じゃない。

 スポンサーやクラン活動での収入が安定した今、魔力ポーション代なんて些細な物だし、単純に収入と支出のランクが上がっただけとも言えるから、いいのだ。




 三つ目、これが一番問題。どうしようもない、今の私には抗いようのない事。

 私が招いた、私の災難。自業自得の業の禊。


 そうなんだけど、それにしたって。

 いくらなんでも――【天球】スピカを取り巻くこの現状は、酷すぎると思うんだ。




     ◇◇◇




「スピカちゃ~ん! 僕の悪口言ってぇ~! デュフフゥ~」


「スピカ氏は今日も麗しいですなぁ! それがし、興奮! かっこはなぢ~」




 これである。この有様なのである。

 これが私の、自分で招いた大惨事。今となっては避けられない、忌まわしき呪い。

『スピカ』について回る、実力と名声と二つ名に付随する、見るに耐えない悪しきもの。




「今日こそはその天球の代わりに、僕に座って貰うんだぁい! デュフッホ~ッ!」


「むむむっ、それは聞き捨てなりませんぞ、キムォータ殿! それがしもその役目には興味津々! かっここうふん」



 いや、そりゃそうなるだろうけどさぁ。こういう無口でジト目のキャラって、()()()()()がメインで集まって来るんだろうし。

 でも、けど、だって。愛が重いとかじゃない。想いがどうのじゃない。キモい。おぞましいとすら言えるほどだよ。超気持ち悪い。


 どこに行っても現れて、座ってくれだの悪口言ってくれだの……本当に気持ちが悪い。

 キャラクターの設定に沿うように出来るだけ無表情でいると、余計に調子に乗ってくるし。我慢できずに嫌な顔すると、それはそれで喜ぶし。

 "ついてこないで" って一回言ったら、"ス、スピカちゃんが話しかけてくれたッフゥ~!" とか言っておおはしゃぎしたし。


 逃げ場がない。もう、どうしたらいいの?




「ふむ……私の計算によれば、彼らがオタクの確率……75%ですね」


「ったく、うるせぇ奴らだぜ……ぶった斬っちまうか?」


「オデ、はらへった。アイツラ、食いたい」


「…………」




 それに加えて問題なのは、私の追っかけだけじゃない。

 スピカの知り合いは知り合いで、これまた変なのしかいないのだ。


 確かに有名になる土台作りに『何かのキャラクターになりきる魔法師の人』を集めるようにしたけど、求めてたのは断じてこんな感じではない。



 なんなの、 "オタクの確率75%" って。何を計算してるの? っていうか100%に決まってるでしょ。あの子たち、どこからどう見てもオタクだよ。

 変なインテリキャラにするのは良いけど、『計算を外しがちなお馬鹿キャラ』なのか『99%で勝てると言いつつ負けてメガネがズレるキャラ』なのか、きちんと定めてからロールプレイして欲しい。



 なんなの、ぶった斬っちまうかって。あなた魔法師でしょ。何を使ってどう斬るの? 腰に刺さってる武器だって、魔宝石のついた古木の長杖でしょ。なりきりとジョブがすれ違ってるよ。

 それならせめて "氷のスペル" とかで切断したりするならまだわかるのに、使うのだって "土のスペル" だし。斬るとは真逆で、まるで合ってない。ロールプレイ下手すぎでしょ。



 なんなの、頭の悪い食いしん坊デブみたいなキャラして。実際見た目はデブだけど、ゴリゴリに魔法組み立てる理論派じゃん。詠唱の時の『オデ、願う。万物を灼け、原初の焔。焚べろよ静謐なる~』とか、冒頭の『オデ』だけ異物すぎるでしょ。何で魔法師(スペルキャスター)を選んだの? 格好つけたいのかおデブキャラやりたいのか、ちゃんとその辺をまとめてからロールプレイして欲しい。



 なんなの、『…………』って。一歩前に出て『…………』って。無言って。何も喋らないくせに自己主張激しいし、何故か黒い全身鎧だしさ。何で魔法師(スペルキャスター)なのに鎧着るの? しかも体力なくてすぐ休憩するし……。もう滅茶苦茶だよ! ロールプレイ下手すぎでしょ!




「ひ、ひえ~っ! スピカちゃんの従者は、怖いデュフゥ~」


「それがし、退散! かっことうそう~」




 いつもいつもそうやって近づいてきて、必ず私の知り合いに追い返されるのに、何で近づいてくるんだろう。

 知り合いも、ファンも、まるでまともじゃないよ。

 どうしてこんな事に……。




     ◇◇◇




 こんなはずじゃなかったのに。

 可愛い後衛の子とイケメンな前衛に囲まれて、アハハウフフってして。


『スピカちゃんは本当に無口だね』


『…………』


『イケメンが格好いいから照れてるんだよ~うふふ~』


『えっ!? …………そ、そうなのかい?』


『…………』




 みたいなさぁ。そういうあま~いやり取りをする予定だったのにさぁ。



「……カ、……ピカ」



 夢中でジョブレベルを上げて、あっちこっちで変わった奴だとか"あざとい"とか言われても、私なりに頑張ってさぁ~。

 一心不乱に高い所まで登り続けて、流れでとは言えドラゴン討伐の立役者になったりもしてさぁ~。

 これから、無口で無表情だけど心は誰より乙女なスピカちゃんの富と名声と甘酸っぱい恋模様なんかを綴る冒険日誌の1ページが始まるはずだったのにさぁ~。



「……ピカ、……これ、スピカや」



 蓋を開けたら、こんなのだもん。

 オタク全開の人に追いかけ回されるわ、クランメンバーは噛ませ犬四天王みたいのだわ…………。

 も~! 本当に、どうしてこうなっちゃったの!!



「こぉれ! スピカ! 聞いとるのか!」


「……拝聴」


「寝ておったのか? ……全く、いつにも増して静かじゃと思ったら……」




 ……怒られてしまった。なんだよもう。拗ねる暇すら貰えないなんて、とんだブラッククランだ。




 私の所属するクラン『エンジョイ・マジック・サークル』。

 トップにギリギリ届くくらいの危うい立場のここには、入る条件が二つだけある。


 一つ目は、 "熟練した魔法師(スペルキャスター)である事" 。

 そしてもう一つが…… "なりきりプレイヤーである事" 。


 その甲斐あってか、その所為か。

 集まったのは、個性的すぎる……異常者ばかり。




「ふむ。私の計算によれば、1時間で10万ミツ稼ぐのを5時間続けると、50万ミツになりますね」


「へっ! ミツなんて、俺がぶった斬ってやるぜ」


「ミツってなんだぁ? 食えるのかぁ?」


「…………」




 なんなのこの人たち。

 単純な計算でキャラ付けする人。

 とりあえず『ぶった斬る』って言ってキャラ付けした気になる人。

 デブキャラもやりたい、格好いい詠唱もしたいとか言う謎の二刀流を発揮する人。

 ひたすら無言で全身鎧の、一番意味のわかんない人。


 そして、クランリーダーの…………。




「さっさとミツを荒稼ぎして、自由に魔法スペル実験をしたいわい。今度のは傑作じゃぞ? 指定座標に炎の球を生み出すスペルじゃ。アバターの肺の中に生み出せば、どんな声をあげるのじゃろうなぁ……クソ興奮するわい。勿論、性的な意味で。ほっほっほ」




『エンジョイ・マジック・サークル』リーダー。

 白髪に白ひげを携えた、ファンタジー然とした老魔法師。

 ヴィクトール・オステル。


 様々な『異常なスペル』を考案し、道行くプレイヤーで実験を繰り返す、マッドマジカリストのド変態。



 ねぇ。

 どうして私のクランは、駄目な感じのしかいないの?

 何がいけなかったと言うの?




「スピカ。金稼ぎの案はあるかの?」


「…………皆無」


「ふぅむ……弱ったのう。早く実験したいのう。もうビンビンじゃよ」




 ……私はとっくに弱ってるよ。ドスケベ・マッドマジカリスト・ヒゲジジイとか……もうよくわかんなすぎる。



 …………お金稼ぎ、か。ことりちゃん…………Re:behind(リビハ)ではロラロニーちゃん。

 彼女は今頃、貝を探して海で潮干狩りでもしているのかな?

 ああ、自然な笑顔で楽しい仲間と日々をエンジョイするあなたが羨ましいよ。




「私の計算では、山に行って鉱石を探すと、およそ59%の確率で何かが起こりますね」


 何かって、なに。そりゃあ何かはあるでしょ。



「10万ミツ金貨を二つにぶった斬りゃあ、20万ミツ金貨になるんじゃねぇか!?」


 なる訳ないでしょ。誰か突っ込んでよ。



「ミツってなんだぁ? 食えるのかぁ?」


 それさっきも言ってた。語彙力鍛えて。



「…………」


 ……いや、何か言いなさいよ。




「肺じゃなくて、胃でもいいのう。火球を飲んだ人間は、どんな苦痛を感じ、どんな表情を見せるのじゃろうか…………。ああっ! もう辛抱たまらんぞいっ!!」




 ああ、もういや。

 助けて、ロラロニーちゃん。





『花畑に近い街』


 Re:behind(リ・ビハインド)の首都から北へしばらく進むと存在する、プレイヤーより大きな植物が群生する場所。通称『花畑エリア』。

 そこからほど近い所にある、ユーザーによって作られた街。


 花畑エリアの様々な植物を使った薬品の研究が盛んなこの地には、調合を行うアルケミストたちと、彼らによって作られる魔力のポーションを目当てにする魔法師が多く集まる。

 植物モンスターには斬撃や打撃がダメージを通し辛く、魔法を使用する事で有利に立ち回れるという所も、それに拍車をかけ、今ではすっかり魔法使いの街として知られている。

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