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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第二章 自然に抗う彼のもの達
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第一話 『寝ろ』と命令している

□■□ 東京都江戸川区  □■□

□■□  Dive Game『Re:behind(リ・ビハインド) 専用コクーンハウス Edogawa Colony □■□





 Dive Game『Re:behind(リ・ビハインド)』専用コクーンハウス Edogawa(エドガワ) Colony(コロニー)


 今やすっかり常連となったここに入れば、案内AIが何時も通り…………それこそ抑揚もリズムもいつもと同じ調子で声をかけてくる。



「ようこそ、プレイヤー。プレイヤーネームとIDを入力して下さい」



 プレイヤーネームは『サクリファクト』。

 IDは『J50901ハチ854333331』。

 始めは長いし意味わからんから覚えきれる訳ないと思ったものだけど、意外と記憶出来るもんだ。

 3がいくつも並んでいるのは、便利かと思いきや実は入力がしづらかったって所ではあるけど。



「認証成功。プレイ可能残日数は13日です。

 ダイブインのコースを選んで下さい。

 問い合わせ等は左上のメニューよりどうぞ」



 今日は狩りをする予定だったっけ? それならメジャーだな。

 マイナーだと体が重くて話にならない。



「あなたの部屋は『Mj-21号』です。いってらっしゃい、プレイヤー」



 いつもの定型文にいつもの作業。全くご苦労さまだ。

 AI相手に本気で語るような趣味は無いから、何も言わずに行くけどさ。




     ◇◇◇




『Mj-21』と書かれた部屋に入れば、まず初めに堂々と鎮座するメジャーコクーンが目に入る。

 部屋の真ん中に置かれた楕円の黒い球体は、何度見たって異風堂々とした非現実感がある。

 継ぎ目もなく、つるりとした謎の材質で出来たソレは、チキチキと刻むような機械音を鳴らして俺をRe:behind(リビハ)に送る準備も万端って感じだ。


 早速準備を…………服を脱ぐのはまだ良いが、ビニールのようなオムツを履くのは未だに気恥ずかしい。

 常識の中ではこんなもの身に着けるのは赤ん坊かおじいちゃんだけだ。もしくはそういう趣味の変態くらいか。

 もしこの部屋にカメラでもついていて、どこぞで生配信なんてされていたら……精神的P(プレイヤ)K(ー・キル)だな。



 準備を終えてコクーンに寄れば、ぷしゅうとため息のような音を漏らして全面が開く。

 中にあるのは肉を失ったソファのような、骨組みだけで出来た椅子だ。

 座るのにはコツがいる。お尻を乗せて、次に首を当て――――バランスを確認しながら足をコクーン内部に引き込むんだ。


 最初の頃は上手く座れず、椅子から転げ落ちてコクーンの内壁に頭をぶつけたりしていたな。あれも撮られていたら、勿論精神PK。



 コクーンの天井にある大きな画面をタッチして、準備完了の文字をタップ。

 内部が明滅して、ゆっくりと蓋が閉まっていく。現実世界とはしばらくのお別れだ。


 きっちり全て締まりきれば、感じるのは少しの寒気。気圧がどうとか聞いたけど、詳しくはわからない。

 姿勢の指示が前面に表示される。



「画像を確認し、姿勢を固定してください。ヘッドギアが降下します」



 続いて聞こえた音声指示と共に、音もなく降りてくるヘルメットのような物。

 鼻より上をすっぽり覆うそれは、少しだけひんやりとする。



「安らぎの音と映像が流れます。深呼吸しながらリラックスしてください」



 今日のメニューは、どこぞの川と鳥の鳴き声。さわさわチチチと目にも耳にもひたすら優しい。

 こんな世界は現実じゃあとっくに失くなったっていうのに、何故か朧気な望郷の念を感じてしまう。

 人の心に根深く残る、原始的に求める風景なのだろうか。不思議な物だ。



「あなたは今から眠りに落ちます。次に目を覚ませば、そこはRe:behind(リ・ビハインド)の世界。

 あなたは今から眠りに落ちます。体はすでに休息に入っています。

 あなたは今から眠りに落ちます。本当はもう、眠っています」



 まるで催眠術だよな。

 脳に働きかけて錯覚を起こさせるとか言う、胡散臭いおまじない。


 だけど、実際意識が飛んでいく。

 頭の中に光が弾ける。

 体が浮いたような感覚に、自分の手足がどこにあるかわからなくなって行く。


 自分で寝ようとしているのか? 機械が体に『寝ろ』って命令しているのか?

 どっちだか知らんが、もし後者なら…………ちょっと怖いよな………………。




     ◇◇◇



□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都 『ゲート』付近 □■□




「おぉい、"サクリファクト(サクの字)"よ~ぃ!」


 ダイブインした『ゲート』の上、寝起きのようなぼやけた意識の中で、面倒な予定のある日の目覚まし時計のように耳障りな声がする。

 燃えるような髪に、それと同じような瞳の親友、"リュウジロウ(リュウ)"の声だ。



「なんだよリュウ、わざわざ待ってたのか?」


「いやよ、そこの『元・聖女の広場』で出店巡りをしてたらそろそろ時間かと思ってなぁ」



「いや、現実(リアル)の時間が10倍に伸ばされてるんだぞ。リアルで10分遅刻したら、1時間40分ズレるんだぞ。待つなよ」


「たまたまだって。サクの字の臭いがしたんでよ」




 気持ち悪いことを言う。寒気がしたし、自分の体臭が気になってしまう。

 俺にとってはまるで良い事がない言葉だ。




「待ち遠しくってよぉ! 何しろ今日は、待ちに待ったジョブ試験の日だからなぁ!」


「いよいよ俺たちもレベル4か。初心者脱出も近いな」


「そろそろ俺っちの二つ名……【天下無双】が浸透してもいい頃合いってもんだよなぁ」


「【赤くてうるせー奴】くらいが丁度いいだろ」


「【黒くて地味な奴】に言われたかねぇなぁ! かかかっ!」




 何笑ってんだよ。地味でいいだろ、地味で。そもそも皆が特徴的過ぎるんだよな。

 いくら『個性的であればそういう呼称が自然について、その呼称が【二つ名】と呼ばれる様々な効果を持つオリジナル称号になる』ってシステムだからって、うちのパーティは些か個性が過ぎるぜ。




「むおおおッ! アヒェェェエエエッ!!」


「いいぞ嬢ちゃん! かっこめかっこめ!!」


「Metuber魂見せてみろよ! ダハハハッ!!」



「何だか随分盛り上がってるな? 何かやってんのか?」


「ああ、一緒に回ってたまめしばが『ハバネロミート』の一気食いしてんのよ」




 いや、どういう事だよ。さらりと何を言ってるんだ。




「…………なんでそんな事を?」


「売ってたから。食ったら動画のネタになるから。Metuberってのは、それっきりよ」




 それにしたって……体張るなぁ。女の子なのに。

 まぁそんな所がウケてるのかもしれないけど。




「水っ! 水っ!!――――っはぁ~」


「よく食ったなぁ! 動画アップしたら見てやるよ!」


「まめしばちゃんだろ? 頑張れよ~応援してるぞ~」




「ひぃ~、ありがとうございまひたっ! チャンネル登録、よろひくぅ!」




 すっかり肉を失った太い骨をぶんぶん振りながら、ギャラリーに挨拶する彼女。

 俺たちのパーティメンバーの一人で、動画投稿サイトにアップするのが趣味の女。

 ちょっと知られた中堅Metuberである彼女は――――"さやえんどうまめしば"と言う。




「まめしばぁ。あんなの食い切ったのか? すげぇなぁ」


「リュウ! どこ行って……あら、サクちゃんも。私の勇姿、見てくれたかな!?」


「勇姿っつーか愚行っつーか」


「撮れ高になるなら、どんな事でもやるのがMetuberなのさっ」




 Dive GameRe:behind(リ・ビハインド)。決められた遊び方が存在しないゲーム。

 モンスターを狩ってもいいし、街で店を開いてもいい。

 ポーションを作ったり剣を打ったり…………変わり種では回復魔法で小銭を稼ぐ人や、依頼を受けてPKする殺し屋みたいなヤツもいるらしい。

 勿論、日々のアレコレを動画にして、Metubeの広告収入で生きるのも立派なプレイスタイルだ。

 そうして皆が皆、この世界を食い扶持にしてる。

 何しろ『公式RMT(リアルマネートレード)』のお蔭で、ゲーム内クレジットがそのまま現実の(キャッシュ)になるからな。




「で、後の二人は?」


「ロラロニーとキキョウは遅れるらしいぜ? 先に試験受けててくれってさ」


「うんうん、キキョウは知らないけど、ロラロニーちゃんはお稽古だって」



「稽古? 何を学ぶっつーんだよ」


「だめだよ~サクちゃん。現実の詮索は、禁止ぃ~」


「いや、詮索っつーか、疑問で…………」


「調教師としてのスキルアップの為に、トリミングを勉強するとか言ってたなぁ」


「…………マジかよ」




 トリミングって、獣の体毛をカットしたりするアレだろう? どういう方向から成長しようとしてんだよ。

 そもそも現実じゃペットが超高級品の今、それの専門店なんて滅多に無いのに。


 …………調教師としてやるべき事は他に色々ありそうなもんだけどなぁ。

 まぁいいか。




「ともあれ、さっさと "ジョブ屋" に行くか」


「応ッ! 滾るぜぇ!!」


「サクちゃんはローグ、リュウは剣士、私は狩人のレベル4試験だねっ!」



「全員しっかり合格して、1段階上のRe:behind(リビハ)プレイヤーになろうぜ」


「このリュウジロウ様の剣さばきで、シュシュッと一発(パツイチ)合格よぉ!」


「Metuberが持つ鋭く流行を追う瞳なら、どんな獲物も逃さないよっ」





『職業認定試験場』


 Re:behind(リ・ビハインド)において、レベルアップを行う唯一の方法がこの『職業認定試験場』通称『ジョブ屋』である。


 Re:behind(リ・ビハインド)世界においては珍しい、プレイヤーによって建てられた物ではない施設であり、プレイヤー達が最も頻繁に利用する所でもある。


 中に入ると、まず正面に丸く輪の形になったテーブルがあり、周囲の壁には無数の扉が存在する。

 その扉は素材が違う木・銅・銀・黄金の四種類があり、素材が価値のある物になる程扉の数も少なくなっている。


 輪になったテーブル内には受付NPCがおり、その正面に立てば様々な手続きを取る事が可能。

 現実のAI同様、フレキシブルな応対によって、口語で申請を出せる。


 NPCによって呼び出されたプレイヤーが所持するジョブのカード、その中からレベルアップ試験に挑む物を手に取って『試験を受けたい』と発声すれば、案内可能な扉の番号をNPCが知らせると共にカードが光る。

 ちなみに、カードと扉の素材はリンクしており、ジョブのレベルに応じて木から銅、銀や黄金へと変化して行く。

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