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第六十三話 Dragon Slayers 5




     ◇◇◇




「チュゥァアアーッ!!」「ヂチューッ!」

「チチッ! チチチチッ!!」「フチチチィ!!」


「ここが決戦、互いの本気をぶつけ合う正念場っす。気合入れていきましょう、クリムゾンさん」


「……う、うん……! わかった!!」




 聞こえる無数の喚き声。空気が怒ったように荒ぶる気配。

 そしてぐるりと囲む全方位から襲いかかるのは、"殺してやる" という強い意思。


 ……()()()()ってのは、こういうのを言うんだろうか。

 戦場に居るネズミ頭――400? 500? の大群――その全部が、津波のような殺意でもって俺たちに向かって来る、強烈な重圧(プレッシャー)

 それを五感で体験させられる、ヴァーチャル・リアリティの迫力は、やっぱりとんでもない物で。




「フチィッ! フチチィィーッ!!」


「ォォオッ!! 来るってのよォッ!!」


「チ……チイカを中心に円陣を組むぞっ! 後衛は中へ入れっ!!」


「はぁい」


「…………しゃあねぇな」



「ヂュチュチュゥ~ン!!」


「スピカっ! 守護の陣をっ!!」


「……了解」




 ……そんな無数の敵と、それに吹き飛ばされそうな少数の自分たちを見て、ふと思った。

 これがコミックの英雄たちが見た景色なのかな、と。


 ならば。

 この場の()()は、紛れもなく……本物の英雄ってなんだろう。

 何しろ俺以外の全員が、こうまで気丈に振る舞って、あんなに堂々と敵を持つんだ。

 それは俺がフィクションやらゲームやらで見て来た通りの、世界を守る救世主に相応しい姿だと思う。


 ……だったらやっぱり、この俺は。

 ……『英雄』なんて、器じゃないな。



「…………うおぉ……」



 だってこんなに、超怖い。

 頬は引きつり、足は震えて、心臓はバックバクだ。自分でも笑えるくらいにビビってる。

 そんな自分は間違いなくただの一般人で、凡人らしいリアクションをするばっかりだ。




「構えろっ! ふんばれぇっ!!」


「ッパワァアォォン!!」


「フゥゥゥゥッチチィーッ!!」「チャチャァーッ!!」




 ……いや、まぁ、だからと言って逃げたりはしないし、やるべき事はやるけどさ。


 そりゃあこの人たちみたいに格好よく、背筋を伸ばして『いざ尋常に』なんて、とても言えたもんじゃないけど。

 それでもせめて、凡人は凡人なりに、必死で食いついてやるぜ。 


 ……あぁ、やってやる。

 それが例え、泥にまみれて、ビビり散らかしながらでも。




「……やってやる。来いよ、畜生」




 ……ただ、せめて。

 せめて俺の所には、少なめに来て欲しい。




     ◇◇◇




「指定……領域……守護…………星陣。 "大熊・小熊・獅子・猟犬……星空・天象…………『春空はるのそら』」


「ちゅぁーーっ!!」




 スピカのぽそぽそとした詠唱によって作られた、4つの星座が辺りを囲む。

 それが放った紫色の光は、俺たちを守る半透明のドーム――いわゆる一つのバリア的なアレになって守ってくれるようだ。



「フチャァーッ!!」



 そんな半球状のバリアにぶつかった全身鎧のラットマンが、間抜けなポーズで "ビターン!" と張り付く。

 ……進入不可のバリアだろうか?

 何だよ、いいやつあるじゃん、スピカ。




「ちゅちゅぁぁん!!」「ムチューッ!!」




 しかし、それでも奴らは止まらない。

 そんなバリアは知った事かと、勢いばかりで突っ込んでくる。


 びたんびたんと張り付くネズミの、血走った瞳がこちらを見据える。

 恐ろしい光景だ。B級パニック映画だな。"巨大ゾンビネズミの盆踊り" って感じの。




「…………"大熊"、限界リミット




 そんな観覧の時間も僅かな間だけだった。

 スピカの視線が向いた先、マグリョウさんの近くにあった『クマの形をした星座』にヒビが入り、バリアがみしみしと音を立て始める。


 強度の限界か、もしくは耐久値がなくなったのか。

 無敵のバリアなんて無いとはわかっていたけど、思っていたよりずっと脆い。


 ……ええと、どうすんだろう。




『お答えします。プレイヤーネーム スピカの過去の戦闘記録を参照した所、このような状況下で行われるのは、光球が破壊される前に一度 "光球星座陣" の解除をし――――』


「……解放レリーズ


「ちゅぁぁあっ!」


『――――再び陣を貼り直す、という行動です』




 耳に聞こえるスピカのか細い声と、頭に響く "MOKU" の鬱陶しい声が重なる。

 そして "MOKU" の言う通り、バリアは一瞬だけ解けたあと、すぐさま新たに貼り直された。


 ……一瞬。確かにそれはそうだった。

 だけど、その一瞬があれば……()()()()()()()()()()()()




「入り込んだぞっ! 5……7匹かっ!?」


「どう見ても9だろボケ正義、数も数えらんねぇのかよ」


「ん~ん? 違うよ? 全部で8やよ~」


「ぁあ?」


「んふ、もう1匹減らしちった~」


「…………」




 星座の陣が貼り直される一瞬の隙を突き、どささっとバリア内部になだれ込むネズミの一群。

 それをそれぞれ受け止める竜殺したちの会話を背中で聞きながら、目の前のネズミに集中をする。




「ギュヴゥ! ギュギュヴゥ!!」


「…………ぢ」


「よりによって……」




 俺の前に突っ込んできたのは、全身コゲ茶のフルプレート。頭の鉄兜には大きな羽根飾りまでつけて。

 その上いかにも高そうな短槍を持ち――――()()()()()()()から俺を見下ろすラットマンだった。




「乗り物つきかよ……」


「ギュヴゥ~ッ!!」


「……ぢ!!!」




 全身トゲトゲのデカいハリネズミが、俺に向けて吠え盛る。

 それに乗ったとびきり強そうなラットマンが、まるで武士のように短く唸る。


 ……何で俺の所に厄介な騎乗タイプだよ。

 "少なめで" ってだけじゃなく、"すっげぇ弱いやつ" とも願っておけばよかったな。




     ◇◇◇




「押せっ! 押し返すのだぁっ!!」


「あ~うぜぇ……おい、さっさとしやがれ、腐れゴールドォ……!」


「――やかましいッ! 外からだけではなく中からも魔法(スペル)技能(スキル)を通さない『春空はるのそら』の中にあっては、詠唱は繊細な時間調整を要するのだっ! ……"余こそが銭色の大魔道、余こそがアレクサンドロス。余の覇道を阻む小銭は、金の箒で掃かれ弾けよ" 」


「…………」




 切り抜け、押し潰し、強引に内側のスピカとチイカを狙うラットマン。

 その猛攻を受け止めて、何とか耐える外周の俺たち。


 この足元から後ろ側が、俺たちの最後の安全地帯(セーフゾーン)だ。

 この狭い領域を守らなければ、ひといきで蹴散らされる。

 だから、何がなんでもここだけは守る――――死守ってやつをしなくちゃいけない。




「ぢ!!」


「ぐほ……うおぉ……て、めぇ!」


「ぢ!!」


「やめっ、ろ、この!」


「ぢ!!!」


「うぉぉ……くっそ……この、ぼけぇ……!」


「ぢっ!!!!」




 槍で刺されて、槍で刺されて、再び刺された後に刺された。刺されまくりだ。

 そうして幾度も俺を突き刺す、フルプレートのラットマン。

 そいつの青に艶めく穂先の短槍は、早くて真っ直ぐ、丁寧に突いてくる。


 騎乗の強み、装備の強さ、腕前の強かさ。

 どれもこれもが完全に、いやになるほど俺よりウワテだ。

 避けようとしても避けられず、ギリギリ急所を守るだけで精一杯。反撃の暇さえありゃしない。




「ぢっ!! ぢっ!!」


「う……っ! ぐ……っ! う……っぜぇ……っ!!」




 ……はっきり言おう。

 俺は弱い。


 こんな晴れ舞台にはいるけれど、レベルも装備も、あくまで中堅。ごく一般レベルのプレイヤーだ。

 その上メインの戦闘法が『罠』なんだから、純粋な殴り合いにはめっぽう弱い。


 だからこうして、ある程度デキるやつと真っ向から向き合えば、大体の場合ボコボコだ。

 ……そりゃそうだよな。何しろこれはネットゲームで、ラットマン(こいつ)は中国から接続しているだけの『リビハプレイヤー』なんだから。


 それならコイツも条件は同じで、対等で公平な存在だ。

 こんなツラしてはいるけど、コイツにも職業があってレベルがあって、スキルや装備もあって当然で……俺と同じマスクデータのステータスを持っている。

 見たところ俺と同レベルか少し上くらいの装備だし、だったらそんな近いレベル帯の戦士(ファイター)ならず者(ローグ)で戦って、普通にローグが殴り勝てるゲームなんて、そんなのおかしいに決まってるんだ。


 そうだ。これは当然の結果なんだ。

 俺は負けるべくして負けている。

 ……だから。




「……ひーる」


「――……っし! 助かるぞ! チイカぁ……ぐっへぇ!」


「ぢ!」


「――『ヴァイヴァー』ッ! てめぇ! いい加減に……ぐっ……しろっ! クソがっ!!」


「ぢ……ぢ!?」


「ひーる」




 メインのダメージソースとするのは、反撃(カウンター)技能(スキル)の『ヴァイヴァー』だ。


『殺すヒール』をやめたチイカは、その分控えめな『ヒール』を連発してる。

 だったらきっと、それはほとんど無尽蔵であるはずだろう。

 範囲ヒールをガッパガパ撃ってたチイカなら、単体ヒールの魔力くらいは自然回復で事足りる。


 それを利用した、俺の『ゾンビ・カウンター』。

 B級映画の敵役は、俺のほうだったかもしれない。




「く……っ! ……死なない俺から反射食らってぇ……ぐぅ……! お……前だけ! 死ねっ!『ヴァイヴァー』ァァッ!!」


「ぢ……!?」




 ある意味無敵で、無限に戦える永久機関。

 この反射狩りの問題点は、ほんの些細なことしかない。




「ぢ!! ぢ……っ!! ……ぢ!!」


「――『ヴァイヴァー』ッ! ……くっ……そっ! 『ヴァイヴァー』ッ! ぐぅ……っ! だらぁ!『ヴァイヴァー』ッ!!」


「…………ひーる」


「『ヴァイヴァー』ッ!!……あぁもう! いってぇなぁもう! ぜってぇ許さねぇからなぁ!!」




 "普通に痛い" っていう、些細なことだけ。






「………………ひーる」




     ◇◇◇




「……ぢ! っ! ……ぢ!!」


「『ヴァイヴァー』ァァァ!! いい加減っ! 死にやがれぇぇぇ……っ!!」




 何度目かわからない、スキル発動のためにする『ヴァイヴァー』という発声と、それ以上言った恨み節。

 それがいよいよ口癖みたいになって来たタイミングで、不意にラットマンが動かなくなる。




「…………ぢ……」


「……はぁ……はぁ……っ……! お……おわった……か……?」


「……ひーる」




 スキル『ヴァイヴァー』の反撃ダメージは、およそ3割。

 それは具体的なダメージの数値が出ないリビハにおいて、なんともふんわりしたものだけど……まぁ単純に、『俺が10回死ぬくらいで相手が3回死ぬ』って具合だ。


 だから今こうしてラットマンが地面に倒れたって事は、俺が最低3回くらい死ぬダメージを負ったって事なんだろう。

 なんだかすげえ話だ。3回死ねるほど槍で突っつかれたなんてさ。

 何でそんな拷問みたいな事、自らすすんでやってるんだろう。いや、しょうがないんだけど。




「~~ッッッ!! ギュヴゥ~~ッ!!」


「うおっ!?」




 そんな主人の最後を看取ったハリネズミが、怒りの形相で噛み付いてくる。

 不意に顔をかばった腕に、前歯がしっかり食い込んで、骨がぼきぼきと音をたてた。




「……うおおっ!? 食べんなよ!」


「ギュギュヴゥ!! ギュヴヴヴゥ~ッッ!!」


「……へっじほっぐ…………」




 ……反撃の必要はない。

 主人の死亡判定、そして死体が消えていく光と共に、ハリネズミの体にもノイズが走って消え始めてるし。


 だからまぁ、消えるまで好きなだけ噛ませてやろう。

 ほっときゃ消える奴を殴っても、無駄に疲れるだけだし……痛いのなんて、もう慣れてきたし。




「ギュゥ! ギュギュ――――……」


「……あ~、いて~…………チイカ~、治してくれ~」


「……ひーる」




 そうしてチイカのヒールを浴びつつ、消え行くハリネズミを見る。

 大きな顔が徐々に透け、その胴体が透け、いよいよお尻まで消えて――――




「"チ、チ、チ、チ"」「"チュチュリリ・チュッチュー"」

「"ちちち・ちちーち・ちっち"」「"…………チゥ"」


「…………は……?」




――――その向こう側で、魔法(スペル)の光を手にみなぎらせる無数のラットマンが見えた。




「……"猟犬"、限界リミット(レリー)……」




 まずい。こいつら、()()()()()()()

 スピカはずっと上を見ていて、星座を緻密に管理するのに夢中だ。

 だから当然、気づけない。




「――――スピカ! 駄目だっ!!」


「……(ーズ)




 ひゅる、とバリアが解ける。

 それを待ち構えていた卑しいネズミ共が、一斉に魔法(スペル)を打ち出した。


 ……火球、水弾、雷撃、岩石。

 それに加えてかまいたちから黒いボール、それに草のつるっぽいのまで、ありとあらゆる超常の力が飛んでくる。


 みんなこっちは見ていない。自分の正面で精一杯だ。

 回避は無理。『シャッター』はすでに出た物には通用しない。

 ついでに言えば、スペルが飛ぶ方向はバラバラで、俺が顔面で受け止めきる事も出来ない。




「クソッ!!」




――――迷ってる暇はない。終わらせてたまるか。

 やりたくないけど、やるしかない。




「チイカっ! ヒールしろ! 連発で!」


「…………?」


「いいから頼むっ!【金王の好敵手】っ!『ヴァイヴァー』ァァァアアアッ!!」




 右手を前に突き出し、金色を弾けさせる。

 きらめく光は俺たち8人の全員を包み込み、技能(スキル)の効果が発動された。




「オォン!?」


「ぁん?」


「こ、これは……っ!?」


「おやぁ?」




 ならず者(ローグ)技能(スキル)、『ヴァイヴァー』。

 それは『体に見えないトゲを生やし、受けたダメージの一部を3回まで反撃ダメージにして返す』という効果を持つ。


 そして、俺の二つ名である【金王の好敵手】。

 それの二つ名スキルは、『カルマ値を全消費し、ローグのスキル効果を上昇させる』という効果を持つ。


 なら、それらを組み合わせた時、どうなるか?

 答えは『範囲化』。そして『効果上昇』。ついでにペナルティも大幅アップの3点盛りだ。




「チ、チチィ!?」「チュチュチュ!?」

「ちーっ!?」「……チゥ~」


「こ、これは……!? 私の体から、魔法(スペル)が飛び出て……!?」




【金王の好敵手】+『ヴァイヴァー』。

 その効果は、『3秒間、範囲内に居る味方が受けたダメージを肩代わりして受け、それを攻撃者に向けて5倍にして跳ね返す。また、その際の痛みは10倍になる』という、とびきりにヤバい代物だ。




「わぁ! すごいすご~い! 魔法ネズミが全滅やよ~」


「……ははっ! 悪くねぇ」


「オォ! やるじゃねぇっての、サクサクゥ!!」


『す、すごい……! これは是非ともタンクに欲しいスキルですねっ!!』


「……ふんっ! 余の名を使えばこの程度、出来て当然だなっ!」


「……上々」


「流石だっ! サクリファクトくん!!」




 連続使用が出来ないから、今まで温存しといたとっておき。

 それを最高のタイミングで使えた満足と、【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】に手放しで褒められた嬉しさで、頭の中が達成感で満たされる。


 ……これならきっと、耐えられる。




「まぁ、余裕、っすよ…………ぐぅっ!」


「…………!?」


「……ああぁぐぎぎぅぅうううううっ!!」


「ひっ……!? ひ、ひーる……!」




 熱い。冷たい。痺れる。折れる。

 斬られる。削られる。締め付けられる。

 さっき見た魔法(スペル)の全部の痛み(ダメージ)が、ひといきに俺の体を駆け巡る。


 ……だからどうした。知ってたろ。

 前に試しでやった時、キキョウの電撃4人分食らってのたうちまわっただろ。


 耐える。大丈夫だ。耐えろキノサク。

 もうさっきの幸福感なんて千切れ飛んじゃったけど、それでも耐えろ。俺ならいける。痛いのとか、よくあるし。




「ぐぅぅぅぅううう……っ! ……ぅぅぎぎぎぎぎぃぃっ!!」


「ひーる、ひーる……っ!」




 痛い。痛い。すげえ痛い。とにかく痛い。死ぬほど痛い。


 なんかエラー音が鳴ってる。

 視界の端で『警告』の赤い文字が点滅してる。

 "痛すぎ警報" みたいなアレだろうか。脳がイカれる寸前だって教えてくれる、死の宣告みたいなやつ。



 ……まぁ、そりゃそうだ。


 竜殺しの命7人分。

 ラットマンの命5匹分。

 それをまるごと背負ったんだ。

 

 だったらこの程度の痛み(ペナルティ)、あって当然に決まってる。



 ……そして、そうなら仕方ない。

 甘んじて受け入れ、全部飲み込もう。


 あぁそうだ。

 それでこそ、『公平』だ。




「ぐぎぃぃぃ……あっがぁぁぁあああっ!」


「ひっ、ひー……ひーる……ひーるっ!」




 7人を生かし、5匹を殺した。

 その全員がプレイヤー。全員平等な、ネットゲームの1キャラクター。


 なら、この『合わせて12人分の命』を望むがままにした、俺は。

 この程度の代償くらい、平気な顔して支払うべきであるはずなんだ。


 それでこそ平等。それこそバランス。それがMMOの『公平性』。

 何かを得るなら何かを払う。特別なやつがいない世界で当然のようにされるべき、閻魔の秤のような等価交換。


 だから、耐えろ。俺はそれほどの事をしたんだ。

 そうしてこのペナルティに耐えた先だったら、竜殺したちとも、リビハプレイヤーたちとも……そして中国勢(ラットマン)とも、対等だって思えるはずだから。




「はぁ……っ……はぁっ…………」


「っく……ふぅぅ……ひーる……!」


「…………あぁ……ちくしょう……いてぇ…………」




 ……しばらく、と言っても10秒にも満たない程度だろうか。

 ようやく すう……と遠くに消えて行く痛み。

 それが前よりずっと早いのは、チイカのヒールによるものなのかな。


 まぁ、とにかく……耐えた。

 ゲーム的な数値の判断による気絶もなく、精神の限界値を超えた事によるエラー落ちもせず――――チイカ以外の竜殺したちにこの痛みを気づかせる事もなく、きちんと全部を受け止めきった。


 ざまぁみろ。

 やってやったぞ。




「……ひーる……!」


「あぁ、助かったぜチイカ。でももうだいじょう…………」




 地面に大の字になった姿勢から、バキバキになった体を無理やり起こして、チイカの頭を撫でようと手を伸ばす。


 バリアはしっかり張り直されて、内部に入り込んだラットマンは全員みんなが倒してくれた。

 とりあえず今は一時の安心な時間。



 ……なんて事はなく。




「…………マジかよ……」




 空に浮かんだネズミが綺麗に列をなし、ドームの真上の空一面に、巨大な隕石を呼び寄せていた。




     ◇◇◇





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