第五十六話 ロール・プレイング・ゲーム 5
◇◇◇
「あ、あの……サクリファクトくん、私は……」
「クリムゾンさん、ツシマに何て言われました?」
「えっ? あ、うん……その、マグリョウは私を…………あ、いや。ええと、そうじゃなくって…………サクリファクトくんを頼れ、って……」
「えぇ……じゃあ最初からそうしないと駄目じゃないっすか」
「あ……う、うん……」
ツシマ……?
あぁ、あの【殺界】の変態イカれ淫乱あばずれクソ女の事か。
それに【正義】が何かを聞いたって事は……やはりお前が何かを企てたのか、サクリファクト。
だが、それは無意味な事だ。
嘘を吐かない『誠実さ』を求めて腐ったこの俺は。
お手本みたいに『誠実』な良い子ちゃんとは、すでに一緒に居られない。
……残念だが、サクリファクト。
いくらお前の頼みだろうとも、聞けないモンってのはあるんだぞ。
俺が【正義】と馴れ合うビジョンは、未来永劫ありえねぇ。
「マグリョウさんとクリムゾンさんで話しても、こじれるだけですって。2人はシンプルに相性が悪いんですから」
「…………ご、ごめんなさい……」
「だから俺がここに居るんすよ」
……もし。
もしお前が俺に、"みんなで仲良く遊びましょう" なんて言うならば。
その時俺は、お前の側を離れよう。
【死灰】はそういう者じゃねぇ。
そうなりたいとも思わないし、人はすべからくそうあるべきだ なんて綺麗事なんざ、億千回死んだって言ってやらねぇ。
……だからもし、サクリファクトの狙いがそういう形だったなら。
その時は、訂正もせず、弁明もせず、昔みたいに他人に戻ろう。
そうして俺は、再び独りで冷たい灰に紛れながら、"また駄目だったな" と呟いて……『今まで通り』に戻るだけだ。
あぁ、そうだ。それがいい。
そういう結末には、慣れている。
「よし、それじゃあやりましょう」
「や、やる……? ……はっ! そ、それはもしかして……私とマグリョウの仲直りだろうか!?」
「え? いや、そんなんじゃないっすよ」
「え……ち、違うの?」
……だが、どうやら。
そういう事には、ならないらしい。
◇◇◇
「クリムゾンさん」
「あっ……は、はい」
「"このRe:behindに居る殆どの生物は、大体の場合容赦がねぇ。まだまだ駆け出しのお前にとっては、どいつもこいつも『格上』に見えるだろう。……だが実際の所この世界において、絶対敵わぬ『格上』なんてモンは存在しねぇ"」
「……へ……?」
「"お前の力が及ばない時、それはお前が知らないだけだ。『格上』なんじゃなく『未知』なだけだ。どれだけ硬い甲虫も、その甲殻のスキマはゆるい。がめつく生きるワームだって、焼けば一瞬で死に至る。どれほど完璧に見えるヤツでも、必ずどこかに致命は潜む。完璧なヤツはいねぇ。どうしようもねぇ壁だらけの現実と違って、Re:behindはそういう風に出来てるんだ。それは俺の経験を情報元にした、疑いようのない事実だぜ"」
「……え、え?」
「"……聞けよ、語るぜ。戦いってのはな、ドアを開ける作業なんだよ。なぁ、サクリファクト。ドアってのは力任せにぶち破るモンか? そうじゃねぇだろ? そんなやり方はクールじゃねぇよな。だからな、まずは――『鍵』を探せ"」
「…………う、うん? ええと、あのぉ……? いきなり何を言うのだ……?」
「……サクリファクト、お前……?」
……突然の長台詞を語りだしたサクリファクトの顔を見る。
乱暴な口調。独特の言い回し。コミュ障特有のわかりづらい話し方。
それと合わせて胸や太ももの辺りをペタペタと触りながら喋る姿は……見た事はないが、知っている。
…………俺だ。
口調も、言い回しも、コミュ障ぶりも……ベルトに付けた投げナイフに体のあちこちにある小瓶やらをチェックする仕草だって、どれもこれもが【死灰】の物だ。
それを見て、その内容を噛み締めてみれば理解する。
今語られた長い話は、俺が昔サクリファクトに教えた、俺流の『Re:behind攻略法』だと言う事を。
「"試せ。何でも、だ。槍で突け、剣で斬れ、足で潰せ、炎で焼け。それでも駄目なら爆発、溶解に服毒だって何でもいい。思いつく限りの手当たり次第で、何もかも全部をやれ。相手があくまで『リビハのモンスター』ならば、必ずどれかで死に至る"」
「あ、あの……」
「"『攻略法』という『鍵』を探せ。殺しのドアを開けるキーを。『未知』を諦めるな、『知らない』に怯えるな。『敗北』は受けるモンじゃねぇ、お前がソレを受け入れて初めて『敗北』をするんだ。なぁ、お前ならわかるだろ? あぁ、そうだ。何しろお前は――……いや、それは今はどうでもいいか"」
「……ええと……う、うむ……?」
「"とにかく、だ。この世界がどれほどリアルに見えるっつったって、結局の所はネットゲームだ。どれほど凶暴なモンスターでも、どんだけ無敵に見えるドラゴンだろうとも、俺たちプレイヤーに殺されるために作られてるんだぜ。……だから、試せ。探れ。見つけ出せ。勝利の答えは、殺せる鍵は、『攻略法』は必ずある。それさえ見つけりゃソイツにとって、お前が最初で最後の『格上』だ"」
「サ、サクリファクトくん……? 様子が変だぞ? それに、喋り方だって……」
いつだったか。それこそずっと昔の、俺とコイツが友達になれてすぐの事だったと思う。
何気ない会話の中で、サクリファクトに
"今度『燃えるライオン』を狩りに行くんすけど、明らか格上なんすよね。どう思います?"
とか聞かれて、俺なりの『Re:behind攻略法』を教えてやったんだ。
……あぁ、覚えてる。
だが、ぼんやりとだ。
ここまで詳しい内容は、言った俺ですら記憶していない。
「……これは俺がとある先輩から教えて貰った話なんすけどね。この言葉のおかげで俺は、強くもないパーティで、いい感じにモンスターを倒せたんすよ」
「そ、そうなんだ……?」
「ええ、そうなんです。……で、今。リスドラゴンに刺突と斬撃、爆発は試したんですけど……打撃で脳を揺らすとか、鞭でバチンと叩くとか、そういうのは試してないんすよ」
「う、うむ」
「――クリムゾンさん。"探り" をお願いします。その『色んな武器になるマント』と、『攻防バランス型の騎士』の力を使って、色々試して貰えますか? それはクリムゾンさんにしか出来ない事なんすよ」
「へ……? ええと……それは……」
「いいっすか? 今はとにかく、それをして下さい」
「あの、その……マグリョウと私は、どうなるのだ? 一緒に戦うのは……」
「いいから」
「で、でも…………う……」
「クリムゾンさん?」
「……………………んんっ! いや! うんっ! わかった! 理由は聞かないっ!! わかったっ!! うむ!! わかったぞっ!! その "サグリ" は私に任せるのだっ!!」
首を傾け、口をへの字に曲げた【正義】。
それは明らかに、頭の中を疑問符でギチギチにした顔だった。
だが、サクリファクトの名前呼びに何かを思い出したような顔をすると、迷いを振り払うように頭をぶんぶん振って、リスドラゴンへ歩み寄る。
……"理由は聞かない!" と宣言したのも嘘って訳じゃあなさそうだな。
「はは……なんか可愛いな」
「…………」
「……覚えてます? この話」
「まぁ……さわりだけな」
「マジっすか? じゃあこの話のオチも覚えてないんすか?」
「……ずっと昔の話だろ? 記憶にねぇな」
「マグリョウさん、この話の最後に "ちなみにだが、『鍵』って意味で言うのなら――――この【死灰】はすべての殺しのドアを開ける『マスターキー』だぜ" って言ったんすよ」
「……ほぉ」
「その言葉、俺は今でも印象に残ってて。あの時はゲームを始めたばっかりで、マグリョウさん特有の言い回しに慣れてなかったせいですかね」
「…………そうか」
俺はそんな事言ってたか。全く覚えてねぇな。
覚えてはいねぇが、中々クールな言い回しだと思う。あぁ、悪くない。
「…………」
……しかし、サクリファクトの目的は何だ?
正義の馬鹿に多少は役立つムーブをさせようとするってのは理解出来るが、わざわざ俺の言葉をそのまま伝える理由が不明だ。
自分で言うのも変な話だが、俺の喋りはわかりづらい。
無闇に長いし、いちいちクドいし、邪魔な言い回しだって多すぎる。会話が苦手な "コミュ障" の言葉なんだから、当たり前と言えば当たり前だが。
だが、サクリファクトは違うだろう。
コイツならもっと要点をまとめて、簡潔に伝える事だって出来るはずだ。
そうだと言うのに、何故そうしない?
「……よし、次は…………お~い、ヒレステーキさ~ん」
「オホオオオォンッ!?」
「あ、やべーな……すんません、タテコさん。ちょっといいっすか?」
『はい!? 何ですか!?』
そんなサクリファクトが次に声をかけたのは、押し合いに狂った脳筋――――しかし言葉が通じなそうだと早々に諦め、『鉄板入りAI』であるタテコに改めて向き直る。
「"知恵あるモンを相手にする時、壁役は使いモンにならねぇ――と、そう考えるのはまぁ、間違っちゃいねぇが……正解でもねぇ"」
『ん……? 何です? いきなり……』
「"使い方だ。それが違うんだぜ。一般的なパーティ戦、タンクが敵視を集め、アタッカーが後ろから殺すド安定戦術なんてのは、対マヌケなモンスター戦限定のやり方だ。対人戦のような知恵あるモンを相手にする時には、そんな手抜きじゃ通じねぇ。……だからな、サクリファクト。そういう時はタンクを『壁』として使うんだ"」
『何の話で…………いえ、ふむ。なるほど』
「"ただそこで耐えさせ、生き残らせて、一歩も動かず居させるだけでいい。盾をどっしりと構えさせ、魔法師やら狩人なんかの後衛共だけを守らせろ。トロくせぇ詠唱やら弓を引き絞る時間の間、近寄る敵の邪魔をして、突っ込んでくるアホをシールドバッシュで追い返してやるだけでいい"」
『……確かにそれは理に適う話です。敵視を上昇させる技能が通用しない相手の場合、タンクの役目は "邪魔な壁" 以外に選べない。しかしそれでは――……』
「"近接職はどうするか、だと? そんなん決まってんだろ。守って貰うんじゃなくて、守らせるんだよ。自陣に都合のいい『遮蔽物』があると考えりゃいい話だぜ。狙われたらそこに隠れて、魔法を撃たれたら『遮蔽物』を使って防げばいい。そんでもって隙を見つけて、ひといきに飛び出して一撃離脱でまた『遮蔽物』に隠れる。いいか? 守って貰おうとするんじゃなく、お前が動いて守らせろ"」
『……なるほど……ええ、はい。それは良いですね。タンクが守るのではなく、タンクに守らせる。その言い回しは冷たくもありながら、その戦法にすとんと落ちる』
「"……そうするとどうなるか知ってるか? 馬鹿な相手は躍起になって、邪魔な『壁』を潰しにかかるんだ。ははっ! 笑えるよな。ヘイトスキルが効かねぇってのに、ヘイトがまんまとタンクに集まるってんだからよ。本当のマヌケはモンスターじゃなく、知恵モノを自称するソイツってモンだぜ"」
『…………その言い方、それは【死灰】さんの言葉ですか? ちょうど現状からどう動こうか考えていた所です。教えてくれてありがとうございます…………ステーキ! 方針が決まりましたよ!』
…………それも覚えてる。
サクリファクトがリザードマン共に拉致されて、それを救出した後の話だ。
ストーカー女のレイナとデートをした話から、流れで
"パーティにタンクが居ればいいなって思ったんすけど、リザードマン相手のタンクって必要あるんすかね?"
と質問されて、その答えとして俺が語った話だ。
……しかし、それにしたってこの語り口。
俺自身から見ても、俺が喋っているのを聞いているかのようだ。
……まさか、コイツ。
俺が今まで教えた『Re:behind攻略法』を、一字一句まで記憶してるのか?
「マグリョウさん」
「……何だ?」
「馴れ合う必要はないんです。ただ、合えばいい。【竜殺しの七人】が今まで通りに仲良しチームじゃなくたって、意思と動きが合ったなら、共闘は出来るんです」
……どういう意味だ?
コイツは何を言っている?
俺が教えた『Re:behind攻略法』を奴らに伝え、その通りに動かして……それで何をしようとしてる?
「……サクリファクト、お前……?」
「…………"『強さ』ってのは、対応力だ。その戦場に適応し、そこにある物を利用する器用さだ。それが出来るヤツが『最強』なんだ。それは地形でも、モンスターの習性でも、殺した相手の死体でもいい。とにかくそこにある物を使いこなして自分の力にする事こそが、常に流動する戦地における『強さ』と言えるだろうよ"」
「…………ぁん?」
「"使える物は何でも使え。予定調和のアイテムも、不意に飛び出たトラップも、時には自分の肉体ですらも利用しろ。勝ちより価値のあるモンはねぇ。勝者は強い。強いから勝つ。そうして勝ちを重ねて行けば、自信と経験は強さを呼んで、お前はどんどん強くなる。……勝て。死んでも勝て。ぶっ殺されてもぶっ殺せ。そうして殺して勝ち続ける事こそが、一番早い『勝つための経験値稼ぎ』だ"」
あぁ……その言葉はしっかり覚えてる。
カニャニャックの店で、草原の片隅で、ダンジョンの入り口で。
そうしてサクリファクトと過ごした色んな場所で、それこそ一度どころじゃなく、繰り返し語った覚えがあるぜ。
そうまで俺がソレを語るのは、それが【死灰】のすべてだからだ。
"使える物は何でも使って、例え死んでもぶち殺す" 。
それこそが極意であり、俺の何よりの得意技だ。
「俺たちパーティはその教えを出来るだけ守って、ずっと勝って来ました。そのせいで稼ぎは毎回少なくて、いつだって金欠でしたけど……それでも『強さ』を育む速度は、まぁまぁ噂になるくらいには早かったんです」
……サクリファクトのPT、か。
猪突猛進の剣士。火力不足の魔法師。
見栄えばかりを気にする狩人に、きめぇタコを連れたゆるふわ調教師。
そしてリーダーを務めているのが、妨害メインの対人職、ならず者。
壁役がいねぇ。ヒーラーがいねぇ。
冒険者の探知もなければ、強化も弱体化も出来やしない。
それは正直言って出来が良いとは言えない面子の物だった。
しかし、それでも。
コイツらはそこそこ強かった。
そんなアンバランスでテンプレとはかけ離れた自由な構成で、初心者殺しの『燃えるライオン』に、因縁深い『鬼角牛』……その他『顔なしオオカミ』の群れやら『凍るアシカ』だって殺してみせた。
更にはとある日突然に、俺のホームであるダンジョンに行ってみたいと無茶を言い出して――――ベラベラきゃっきゃとお喋りしながら中層まで行き、お腹が空いたから帰るという余裕ぶりすらも見せつけた。
…………心配から、こっそり後を着いていった俺は……そんなコイツらの思わぬ強さに驚かされたんだ。
「……あぁ、確かに……お前らの伸びは、悪くなかった」
推奨されるキャラクタービルドを無視し、テンプレートのPT編成も気にかけず、好きなように選んだ職業で遊ぶ『ガチエンジョイPT』。
そんなコイツらがそこまで戦えていたのを見て、俺はそれがリーダーであるサクリファクトのセンスによる物だとばかり思っていた。
「はは……そんな【死灰】のお墨付きも、俺たちに付けられた二つ名も……そうして楽しく今日までやってこれたのも。そんな俺たちパーティのリビハの全部が、マグリョウさんの『攻略法』のおかげなんです」
だが、それだけじゃないとコイツは言う。
クソコミュ障の俺が教えた『Re:behind攻略法』を実践していたから、そうまで力を付けていた、と。
…………偽る訳がない。
サクリファクトが俺に嘘を言うはずがない。
だが、それでも僅かばかりに浮かんだ『本当にそうなのか?』という疑惑の思いも。
コイツが俺の言葉をこうまで記憶していて――――そこまで俺の言葉を大切にしていたってのを見せつけられる事で、吹き飛ばされる。
「……俺は」
「はい」
「俺はちゃんと、お前の先輩を出来ていたのか」
「俺だけの先輩じゃないっすよ。俺も、そして俺のパーティメンバーも、マグリョウさんのおかげでここまで来れたんです」
「……そうか」
「みんな楽しくやってます。リビハを始めて良かったぜ、って。俺たちがそうして楽しくやって来れたのは、マグリョウさんっていう先輩が――――友達が、居たからです」
……人によっては、それほどの事でもねぇんだろう。
それこそあの『新人教官 ウルヴ』のような、初心者育成クランの奴らだったら……こんな言葉も聞き飽きてんだろう。
だけど俺は。
リビハでも、現実でも――俺のクソな人生において、こんな事言われるのは……初めてだ。
「俺が出会えた先輩が、マグリョウさんで良かった。マグリョウさんと友達になれたから、良かった。俺は【死灰】のマグリョウと出会えて……本当に良かった」
「…………」
「いや、はは……言ってみたは良いものの、シビれるくらいクサいセリフっすね」
……たったひとりの友達は。
この俺を。【死灰】として生きて来た、この俺の生き方を。
"それで良かった" と言ってくれる。認めてくれる。わかってくれる。
俺がお前に救われた、と。
そうだとばかり思っていて、いくらかばかりの負い目を感じていた俺に。
お前が俺に救われた、と。
そう言って、笑ってくれている。
俺の駄目な所を理解し、言わなきゃわからねぇこのクズに、恥を忍んで "それで良い" と言ってくれているんだ。
…………。
…………俺は。
社会不適合者で良かった。
性格破綻のクソ陰キャで良かった。
どうしようもねぇコミュ障で良かった。
俺はこんな俺で居て――――本当に良かった。
「……サクリファクト」
「はい?」
「俺は…………」
……あぁ、ちくしょう。
つくづく俺はコミュ障だ。
こういう時なんて言えばいいか、全然わかんねぇ。
「……いや、何でもねぇ」
「はは、そっすか」
◇◇◇
「さて、先輩。やりましょう」
「…………」
「今からクリムゾンさんは、マグリョウさんが言った『Re:behind攻略法』通りに、色んな武器を試します」
「…………あぁ」
「ヒレステーキさんとタテコさんもそうっす。『Re:behind攻略法』通りに、都合のいい『壁』として、リス相手に耐えてくれるんすよ」
「……そうだな」
「それが済んだらまた次の、状況が変わったらその状況の『攻略法』を、俺がみんなに伝えます。このドラゴン戦は、【死灰】流の『Re:behind攻略法』で動くんです」
「…………」
「……マグリョウさんはその『攻略法』を知ってます。何しろそれを俺に教えた人なんだから」
「……あぁ」
「そしてマグリョウさんは、ヒレステーキさんとクリムゾンさんが、それをきっちりこなせるって事を知ってます。何しろ【死灰】のマグリョウは、すべてを『強さ』で語る男なんだから」
「……サクリファクト……お前…………」
「"『強さ』ってのは、対応力だ。その戦場に適応し、そこにある物を利用する器用さだ。それが出来るヤツが『最強』なんだ"。俺が知ってる『最強』は、他の誰でもない……【死灰】マグリョウさんです。だからアンタはその強さを発揮して…………」
「……戦場に適応し、周囲の物を利用して、クソドラゴンを…………殺せばいい」
「うっす。あくまで【死灰】のマグリョウらしく、孤高の軽戦士らしく、いつも通りにやればいい」
「…………」
「それがこの場の共闘です。それぞれが尖った一点を持つ竜殺したちで、自分の『得意』を発揮するだけの、全員身勝手なチームプレイっすよ」
「…………」
「心を通わせる必要はないんです。無理に合わない同士で喋る必要だってない。『役割』が違う他の人たちの『強さ』を認め、それを信頼するだけでいい。それさえ出来れば、【竜殺しの七人】は一緒に戦う事が出来る――――いや、そういう風に遊べる場所を、俺が作ります」
「…………」
「俺はそのために、ここに居るんすよ」
…………なぁ、クズ共。見ているか。
俺は、俺たちは……間違ってたけど、間違ってなかったぞ。
お前らがクズだったから俺が居る。
俺が居るからサクリファクトがここに居て……俺がコミュ障の【死灰】だったから、この戦場がここにある。
どれが欠けても成り立たず、どれもこれもが必要だった。
お前らが居たから、俺が居たから、サクリファクトが居たから。
全員がそういうヤツだったから、このプレイスタイルが生まれてるんだ。
俺たちクズの生き様は、このゲームの世界の片隅で、しっかり爪痕を残しているぞ。
「行きましょう、最強の男、マグリョウさん。
馴れ合いをしない孤高のまま、灰燼を歩く【迷宮探索者】のまま、すべてを見下す【死灰】のままで――――
――――ブレず、揺るがず、あのマグリョウらしいまま、いつも通りに "殺し" に行きましょう。
そうすれば世界は救われて、まだまだリビハが出来ますよ」
……感謝の気持ちは『殺し』で見せよう。
それしか出来ないのが俺だし、今はそればかりを期待されてるんだから。
あぁ、それがいい。
そういう『役割』に生きられるこの瞬間が、俺の心を再び燃やす。
―――― "死灰再燃" 、灼熱の刻だ。
◇◇◇




