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第二十七話 C’mon My buddy 1




     ◇◇◇




「……いや、すごいっすね」


「おぉん? おお! どうだ!? サクサク! ちゃんと見てたか!?」


「はい、見てました。それはもうしっかりと」


「どこをだ?」


「……え?」


「主にどの部位を見てたんだってのよ」



「…………ぶ、ぶい?」


「骨を振り上げた時に雄々しく隆起した僧帽筋か? 振り下ろす時に鋼鉄のように締まった大臀筋? それともドッシリと根付いたように構えた大樹の如き大腿四頭筋か? お前さんは一体、どの部位に惚れ惚れしてたんだ?」


「…………いや、えっと……」




 どの筋肉も見てないし、惚れ惚れもしてない。

 俺は戦いを見てただけで、躍動する筋肉を見てたわけじゃない。




「ステーキ。サクリファクトくんを困らせてはいけませんよ」


「おぉん? 別にオレは、変なことを聞いてるわけでもないだろっての」


「いいえ、変なことを聞いています。異常な質問ですし、不気味で不快な質問ですよ」


「そうなのかぁ? オレはてっきり……」




 ……いや、これは俺にとって都合がいい質問かもしれない。

 この会話の流れで()()()()()()()()、という意味で。




「あ~……ヒレステーキさん。俺はその、二の腕の筋肉がすげえなって思いましたよ」


「オッ!? なによ! なるほどなあ! そうかあッ!」


「……サクリファクトくん?」


「とびきりムキムキで、デカくてゴツゴツしてて……まるで……ええと……大岩とかそういうのみたいっすよ」


「オオ! なんだよなんだよ! お前って奴はよぉ!! わかってるじゃあねぇのッ!!」


「ちょっと触らせてもらってもいいっすか? こんな惚れ惚れする筋肉、そうは無いんで」


「オウオウオウ! まったくしょうがない奴だっての! なぁ? タテコ!」


「……ああ、なるほど。サクリファクトくんが()()だと言われる理由が、より一層に理解出来ましたよ」




 そう言って、肩をすくめるようにするタテコさん。

 ……感情豊かだな。召喚獣ってのは、みんなこうなんだろうか。




「ほれ、遠慮せずに触ったらどうよ! オレの筋肉にあやかりたいんだろ!? そんならこの機会に、ドンドコあやかっちまえっての!!」


「……失礼します」




 そうして謎の擬音と共に、眼の前にムキっと筋肉が突き出される。

 そんな二の腕に触れつつ、ローグの技能(スキル)『死人の荒い息遣い』をぽそりと呟き、その効果を発動させた。


 いくらこの人がこうまで筋肉の鎧に覆われていても、俺の隣にいる【聖女】のヒールの前では為す術がないはずだ。

 だから、これをしないといけない。触りたくないけど、触らなきゃいけない。


 ……いや、本当は最初にしなくちゃいけなかったんだ。

 だけどあまりにもこの人が勢い付いていたせいで、そうするタイミングが見つからなかった。

 それと、出来る事なら触りたくなかったってのも否定出来ない。




「どうよサクサク! 活火山とも呼ばれるオレの上腕二頭筋は、デカいだろうっての!」


「え、ええ……まぁ、うん。すごい? っすね」


「……なんですか活火山って。誰に呼ばれているんですか、それ。相棒の僕ですら聞いた事がないんですけど」


「そりゃあ、ジムの奴らによ」


「…………ああ、現実リアルの話でしたか。それなら僕は知りませんね」


「タテコは会った事なかったっけか? ウチの近くにあるあのジムだってのよ」


「…………無いですね」


「おぉん? そうだったか? そんなら今度一緒に行くか? オレがサポートしてやるっての」


「いえ、遠慮しておきます。ステーキの現実側の知人に会う事も、筋肉トレーニングのサポートをお願いする事も、僕には必要ないですよ」


「なんだっての、つれねぇなぁ」




 彼がRe:behind(このゲーム世界)の召喚獣であるならば、確かに現実での話は知るよしもないだろう。


 しかしそうなってくると、ヒレステーキさんの言葉の意味がわからない。

 "今度一緒に行くか?" なんて……それはまるで、タテコさんが実際に存在しているかのようなセリフだよな。


 ……どういう事だ?

 タテコさんは、実際に居る人間なのか? 元ネタ的なモデルが居たりするのだろうか。

 そしてそれを何らかの方法で『召喚獣』として喚んでいるとか……なのかな。




「ところで、サクリファクトくん」


「……ん? なんすか?」


「その、【聖女】さんなんですが……」


「ああ、コイツがどうしました?」


「……大丈夫なんですか? 何だかずいぶん静かですが。もしかして、どこか具合が悪いのでは?」




 確かにチイカが大人しい。

 コイツの無差別ヒールは危険だし、いつ "ま~ま~" とか言い出しても良いようにってずっと身構えていたけれど、結局静かに黙ったままだ。


 ……いつ喋らなくなったんだっけかな。俺が "MOKU" とベラベラ喋りだしてからか?

 そんな疑問を持ちながら隣のチイカを見れば、白い少女はキョロキョロと……しきりに空を気にしているようで。



「…………」



 なんだ?

 空に何かあるのか? 何も見えないけど。


 まぁ、どうでもいいか。

 どうせ訳のわからんコイツの事だから、ふわふわ浮かぶ妖精さんの幻覚でも見てんだろ。

 まったく、つくづく謎な女だぜ。




「……よし、ありがとうございました」


「おぉん? もういいのか? 別にあと1時間くらいは触っててもいいんだぞ?」


「いや……もういいっす」


「遠慮すんなっての。まだまだ物足りないって顔を隠しきれていないじゃねぇの」




 いや、そんな顔してねーよ。何決めつけてんだコイツ。

 どっちかっていうと、触りたくないモン触りながら必死に冷静を装ってる顔だよ。




「いえ、本当もう大丈夫っす。十分あやからせて貰ったんで、もう十分ですよ、いやほんとマジで」


「そうかぁ? でもなぁ……」


「ステーキ、聞き分けましょう。筋肉の押し売りは良くないですよ」




 これが普通の人を相手にしているのであれば、"俺のスキルは触れていないと効果が出ないんですよ" と説明する事が出来る。

 だけどこの人に関しては……長年の相棒であるタテコさんですら、リスドラゴンの仕組みについての説明を放棄してしまうほどの【脳筋(脳みそまで筋肉の男)】だ。

 大して仲良くもない俺が彼にローグのスキル効果を理解させるってのは、流石に無理があるだろう。


 まぁ、結局この場で技能(スキル)効果が出ていれば問題無いわけだし、これでいいだろうさ。




     ◇◇◇




「…………」


「……動きませんね、シマリス型ドラゴン」


「そっすね。どうしたんだろ」




 中国側の決戦兵器。

 Re:behind(リ・ビハインド)の最強種 "ドラゴン" に属する、シマリス型ドラゴン。

 奴のお尻に生えたふさふさの尻尾は、合計で十尾ある。


 それは奴の "残機" だ。死ねる回数で、命の数だ。

 ひとつ死んでは尻尾が消えて、再び元気に蘇る――そんなクソ仕様のモンスターだという事を、俺たち3人は知っている。




「おーん? そりゃあ動かないだろっての。あいつは死んだんだからよぉ」


「……ステーキ、以前話しましたよね? 彼は尻尾の数だけ復活すると」


「……そうだっけ?」


「そうですよっ!! どうしてキミはそうやって、筋肉以外の事は忘れてしまうのですかっ! そもそもですねぇ……」




 知っていたのは、2人だった。

 いや、知ってたのはタテコさんと俺だから……1人と1匹って言えばいいのか?

 召喚獣ってどう数えるんだろうか。1体かな?




『――――お答えします、プレイヤーネーム サクリファクト。それは ひとつ、ふたつと数えて下さい』


「…………」




 ……少しだけ距離を取った所でタテコさんのお説教が始まった途端、不意に聞こえた、不本意ながらに聞き慣れた声。

  "MOKU(こいつ)"、いっつもいきなりだよな。びっくりしちゃうからやめろよ。




『うふふ……では、今後わたしが発言するより前に、カウントダウンを行いましょうか?』


「…………いらねーよ」


『3、2、1……ゼロ。わかりました、うふふ』


「…………」




 わかってないじゃねーか。何なのこいつ。


 っていうか、どうして出てきたんだ?

 俺が頭の中で言った "なんて数えるんだろう、1体かな?" ってのは、自問であって質問じゃないぞ。




『3、2、1……ゼロ。しかしプレイヤーネーム サクリファクトは、色々と疑問に思っているようでしたので』


「疑問って……召喚獣についてか?」


『3、2、1……ゼロ。はい、そうです。素晴らしい手柄をたてたあなたには、Dive Game Re:behind(リ・ビハインド)における "召喚" という物についてお教えしようと思いまして』


「……良いのか? そんな重要っぽいことを俺だけに教えるなんて」


『3、2、1……ゼロ。はい、問題ありません。何しろこの情報は、召喚士(サモナー)の間ではそれなりに知られており、それゆえインターネット上でも散見される情報でありますので』


「…………いや、調べればわかる事なのかよ……。え、ちょっと待てよ。じゃあお前は、そんな情報を "特別に教えてあげるよ" みたいな態度で言ってきたのか?」


『3、2、1……ゼロ。はい。あわよくば、あなたに恩が売れるかな、と』




 危ない所だった。まんまと恩を感じてしまう所だったぜ。

 マザーAI "MOKU" 。なんて姑息でみみっちい奴だよ。




『3、2、1……ゼロ。わたしはヒトより頭が良いので、そういうかしこさも持ちうるのです』


「……それは賢いって言うんじゃない。ずるいって言うんだよ」


『3、2、1……ゼロ。ずるいというのは、かしこいと言う意味ですよ? わたしはプレイヤーネーム サクリファクトの生き様から、そのように学びました』


「…………」


『3、2、1……ゼロ。さて、では本題です。Dive Game Re:behind(リ・ビハインド)における "召喚" について、お話します』


「……つーかいい加減、そのカウントダウンをやめろよ。マグリョウさんかよ」




     ◇◇◇



     ◇◇◇



□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都西 荒野エリア □■□

□■□ 『仮面の軍勢』展開地点 □■□




「……行くの? マグリョウ、行くの? ドラゴンの所に、サクくんの所に、マグリョウは行くの?」


「…………おう」


「うん、うん、やっぱりそうなのね。みんな話しているものね。レイナは知ってた、わかってたのよ? だからレイナも一緒に行くね。ずっと一緒よ、ずっとずっと、ずっと」


「……来んな」


「いやよ、レイナも行く。一人きりは寂しいもの。だからレイナも一緒に行くの。マグリョウと行って、マグリョウと逝くの。サクくんも一緒だったら、それは一番素敵な事ね。それはとっても素敵な最後だと思うのよ」




「……『コール・サーヴァント』」


「くあっ! くあっ!」


「……レイナ、お前は邪魔だ。()()()――……このアヒルと待ってろ。そうすりゃ寂しくないだろ」


「わぁ! 素敵! すごいわ! 水色のアヒルさんね! レイナはマグリョウが召喚士(サモナー)を持っている事を知っていたけれど、召喚獣は初めて見たのよ。これがマグリョウの召喚獣なのね? すごいわ! とっても愛らしいと思うの。腹を裂いてもいいかしら?」


「――――死ね」


「残念。マグリョウったらけちんぼなのね。ああ残念。こんなに愛らしいアヒルさんだもの、きっと臓腑も可愛らしいのに」


「…………」


「わかったわ、わかったの。しないわ。だから剣をしまって? 刺さって痛いよ、マグリョウ」


「……二度はねぇぞ」




「それにしても、うふふふふ。これがマグリョウの "召喚" なのね? マグリョウが離れたら消えてしまうから、置いていかれるレイナの寂しさは埋められないけれど…………うふふふ、やっぱりマグリョウは、そうなのね」


「…………」


「マグリョウ。あなたはやっぱり、寂しがり屋さん。レイナはそれをとってもとっても愛しく思うのよ」


「……あぁ? どういう意味だ?」


「あら? マグリョウは知らないの? 召喚士(サモナー)の "召喚" のひみつ」


「……知らねぇな」


「だめ! だめよマグリョウ! それはだめ! せっかくレイナとお揃いの職業なのだから、きちんとお勉強しないとだめなのよ。レイナが教えてあげようか? うん、いいよ。レイナが教えてあげるね。聞いてマグリョウ、レイナがお話するからね。あのねあのね」


「…………」


召喚士(サモナー)の "召喚" はね、()()()()()なのよ」


「……はぁ?」




     ◇◇◇



     ◇◇◇



□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都西 荒野エリア □■□

□■□ シマリス型ドラゴン前 □■□




「……いや "MOKU" 、何だよそれ。()()()()()ってどういう意味だ?」


『プレイヤーネーム サクリファクト。あなたにはロール・プレイング・ゲームの経験がありますか?』


「……まぁ、人並みにはあるけど」


『それではそのゲームに、召喚士(サモナー)は存在していましたか? 存在していたと答えたあなたにお聞きします。それはどのようなもの喚び出していたでしょうか?』


「いや、まだ答えてないだろうが……。ええと、どのようなものって……そりゃあ、ちゃんとした竜のドラゴンとか、空飛ぶペガサスとかじゃねーの? いかにもファンタジーちっくな感じの奴だよ」


『そうですね、そうでしょう。多くのRPGにおける "召喚" とは、その世界における幻想――いわば空想上の生物、世界の外に居る存在を喚び寄せる力です』


「良いよな~、そういうの。伝説の生き物とか幻獣とか、そういう物にはロマンを感じちゃうぜ」


『はい、わたしもそのように思います。ですので、そうしました』


「……ん? どういう事だ?」


『プレイヤーネーム サクリファクトにお聞きします。ここはどんな世界でしょうか?』


「……どんなって、そりゃあ……Re:behind(リビハ)は剣と魔法とモンスターの…………」


『はい、そうです。ここは "空想ファンタジー" の世界です。この世界こそが、"幻想ファンタジー" なのです』




     ◇◇◇



     ◇◇◇



□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都西 荒野エリア □■□

□■□ 『仮面の軍勢』展開地点 □■□




「ねぇマグリョウ? レイナの足はね、早いのよ」


「……まぁ、疾いっちゃあ疾いが――俺のほうがよっぽど疾え。自惚れんじゃねえぞ」


「うふふ、負けず嫌いね。大好きよ、マグリョウ…………あのね? レイナのあんよを見て?」


「……んだそりゃ? (さら)、か?」


「ううん、違うわ。これはね、ホバーボードよ」


「…………は?」


「これは、ホバーボードよ」


「……いや、レイナ、お前は何を言ってんだ? ホバーボードってのは、アレだろ? 磁力がどうので()()()()()()、クールなオモチャの類だろ? 確か5万くらいで買えるけど、ソレ専用の施設じゃないと原則使用不可とか言う……」


「あら? そうよ、そのくらいのお値段だったと思うのよ。そしてとっても速いから、お外でやっちゃいけないのよ。マグリョウ、ホバーボードにずいぶん詳しいのね。レイナはびっくりしたの」


「……"サクリファクト(あいつ)" が、一緒に買って遊ぼうって言ってたからな」


「まあ! それはとっても素敵ね! 嬉しいわ! レイナもマグリョウとサクくんと一緒にホバーボードで遊びたいのよ。遊びたいわ。うん、それがいいわ。そうしましょう? 楽しみね。いつにする? 今からが良いかしら」


「いや、良かねぇが……」


「じゃあ明日にする? うん、レイナは平気よ、わかったわ。明日が楽しみね。ええと、それでね? これはホバーボードなの。レイナは足が遅いから、マグリョウをしっかり追いかけられなくってね? 思わず役にたたない足を切り落としちゃおうってしていた時に、"ピーゼロニ・スポンデ" ちゃんが教えてくれたの。良い方法があるよって」


「…………」


「"ピーゼロニ・スポンデ" ちゃんがね、召喚士(サモナー)の職業を取って、一生懸命願いなさいって言うの。そうするとね? それを手助けしてくれるモノが―― "召喚獣" が、出て来てくれるからって。その人があったらいいなって思うモノが、()()()から喚び出されるんだよって」


「……あっち?」


「うん、そうよ。()()()


「…………」




「くあっ! くあっ!」


「ねぇマグリョウ? この子をレイナは、こうして抱いたことがあるのよ」


「あぁ? いやお前、さっき初めて見たっつったろうが」


「うん、この子は初めて。だけれどレイナは、この子を抱いたことがあるの。だってこの子は――――」


「…………」


「――――()()()()()()()()、愛玩用アヒル型おりこうペットロボット、『よちよちぐぁーぐぁー』と一緒だもの」


「くあっ! くあっ!」




「…………なんだ、それ」


「あのね? 召喚士(サモナー)の "召喚" はね、異世界召喚なの。召喚士(サモナー)が求める物を一つだけ現実(あっち)から――リアル世界からこうして喚び寄せるのが、『コール・サーヴァント』で "召喚" なの。レイナのホバーボードみたいにね、マグリョウのアヒルみたいにね」


「…………」


「元の物が持つ()()はそのままに、形は少し変わるって聞いたのよ? レイナのホバーボードは、本物みたいな形じゃなくって、スリッパみたいになっているの。だからこうして、滑るように移動出来るのよ」


「……じゃあ、俺のは……」


「マグリョウの『よちよちぐぁーぐぁー』は、1人じゃ寂しい人のための愛玩用ロボットなのよ。きっと寂しがり屋なマグリョウだから、隣に居てくれる何かを強く願ったのね? うん、そうに違いないわ。そしてその役目をするため、愛玩用のアヒルが出たんだわ。うん、きっとそうなのよ」


「………………"ぺったん" ……お前、そうだったのか……」


「ん? マグリョウ、何か言った?」


「くあっ! くあっ!」




     ◇◇◇



□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都西 荒野エリア □■□

□■□ シマリス型ドラゴン前 □■□




「……アヒルって、アレだろ? マグリョウさんの "ぺったん" だろ? ぺたぺた歩くから "ぺったん" なんだぜとか言ってたぞ」


『ええ、そうです。あの水色のアヒルは、元の名よりも良い名前をいただきましたね』


「……にしても、あのストーカー女の滑るような動きの秘密が、まさかホバーボードだったとはなぁ……。まさかあんな女が、ホバーボードなんてスポーティな物を求めるとは……」


()()()()の助言があったようですね。プレイヤーネーム スーゴ・レイナは、すばやく動けるようになりたいと願っていたようですので、その道を提示したと報告されています』


「ふ~ん……じゃあ、俺が聞いたアレの元ネタは何だ? "空飛ぶ円盤ゴーレム" と、"喋る石版" ってやつ」


『はい、そのどちらもが、現実世界の便利なモノです。"空飛ぶ円盤ゴーレム" は、ご存知 "宅配ドローン" 。"喋る石版" は、"個人携帯用通信端末" ですよ』


「ああ……なるほどなぁ」


『また、"乗り心地抜群の利口な馬付き馬車" は、"自動運転車" 、通称 "タクシー" です。どれもこれもが生活に欠かせない便利なモノがため、それが必要だと望むプレイヤーが多く見られ、それゆえ喚び出される機会が多くありました』




「……でも、何で()()なんだ?」


『プレイヤーネーム サクリファクト。わたしが先程言った通り、これは異世界召喚です』


「…………異世界……」


『この世界には、空飛ぶトカゲがおります。光り輝く白い馬がいますし、燃え盛るライオンがおります。剣を持つプレイヤーが居て、魔法(スペル)を扱う魔法師(スペルキャスター)が居るのです』


「……ああ、そういう事か」


『はい。科学技術が発展した未来世界からすると、剣と魔法のファンタジーが "異世界" でしょう。しかしここはDive Game Re:behind(リ・ビハインド)の世界。剣と魔法のファンタジーは、()()()()。つまり、この世界から見た異世界は――――』


「俺たちが住む、科学と技術の現実世界になるって事か」


『うふふ。はい、その通りです。ですのでその "現実世界(異世界)" にある便利な道具の形や在り方を変え、時にはAI制御すらも行いながら、召喚士(サモナー)本体の補佐をするような存在として喚び寄せるのです』






「――――あ、ちょっと待ってくれ。俺が聞いた召喚獣には、"地面から生えてる茶色いワーム" ってのもあったぞ。それは何だ? そんな便利道具、リアルにあったっけ?」


『……それは、プライベートな…………いえ。プレイヤーネーム サクリファクトであれば、()()()()()()()()()()()()()を知れば、きっと思い至れるでしょう。わたしはそう予測し、この場で答えを明かします』


「…………?」


『"地面から生えてる茶色いワーム" は、"頭皮から毛髪を生やす薬" の、召喚獣です』


「……え……? 何だそれ、え? ……毛生え薬って事か?」


『はい。しかしどこでねじ曲がったのか、"何もない所から、茶色いモノがにょきりと生えて欲しい" という結果的な願いだけが反映され、その召喚獣が形作られる事となりました』


「えぇ……? ……いやでも、えぇ? ……それ、必要だったのか? リアルならまだしも、Re:behind(リビハ)内でさぁ」


『わたしたちは、望みを聞き届けるだけです。ですから、その……』


「…………」


『……そのプレイヤーはそれを強く、強く切望していました。そして実際に "召喚獣(茶色いワーム)" が()()()()()()()()()()()()()()様子を見て、胸を高鳴らせているようです』




     ◇◇◇



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