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第二十四話 Contact 1




『お美事にございまする』


「……何だよその口調」


『うふふ……失礼しました。平静を保っていられないほど、わたしの "コア()" に強く伝わるものがありましたので』




 疲れた。ずいぶんと長く喋ってしまったせいで。


 最初は首都にいる奴らに軽く現状の説明をして―― "今ならすげえ格好いい感じになるぞ!" ってだけ言おうと思っていた。


 だけど、そうしてトラウマに怯える奴らが……顔も見えない首都の一般プレイヤーたちの姿が、以前の俺とつくづく重なって見えてしまって。

 そしてその上で、俺が感じた事を伝えたくなってしまったんだ。


――――たかがゲームだ。本気になれなくたっていい。

 だけど、仮想と言えども一緒に居て楽しい友人が居るのなら、されどゲームだ。

 そして、そんな奴らとの交流の延長でゲームに本気になるってのは、すげえ楽しくて……何より心に残る物なんだ、と。

 そんな自己満足の先にある気分の良さを、知って貰いたかったから。



 俺がそれに気づけたのは、何も俺がそういう所に一家言持っているタイプだったわけじゃなく、たまたまそう思える機会に恵まれただけで。

 それこそ偶然のめぐり逢いで、運良く気付かせて貰えたんだ。


 アホでとぼけたまんまカラフルベリーを狙い、精一杯金儲けを考えたロラロニーには、決まった形に囚われないで自由に楽しむ心を教わった。


 動画投稿者の まめしばには、ゲームの世界の出会いや経験、そして出来事が "Metube(別の場所)" に繋がり、それがリアルへと帰結していく可能性を教わった。


 この世で一番馬鹿なリュウには、自分のやりたい事へ真っ直ぐ向かって、転んだり痛い目みたりしても、最後はそれもいい経験だと言いながら、からりと笑う気持ちの良さを、そしてそれと一緒になって馬鹿をやる楽しさを教わった。


 悪どいキキョウには、なりふり構わず取り組めば、どんな夢だって叶うって事を、そしてそれを選ぶも選ばないも自由な世界だって事を教わった。


 俺は機会に、仲間に恵まれていた。

 個性が強すぎるし色々不器用だけど、とにかく自分のやりたい事に一生懸命なあいつらが居たから、色んな生き方を知る事が出来て。

 だから、そんな奴らと一緒に自分らしくゲームをしながら、いつでも全力で生きる事の楽しさを教わったんだ。


 俺はただ運が良かっただけだ。偶然出会ったあいつらに、気づかせて貰えただけだ。

 だから、まだそう思えるキッカケがなかった首都の奴らに、それを教えてやりたくなってしまって――――ああ。

 改めて思い返すと、少し恥ずかしいな。平凡面を晒してすげえ熱く語ってしまった気がする。




『……それは違いますよ、プレイヤーネーム サクリファクト』


「…………ん?」


『本来、ダイブ初日が重なっただけのプレイヤーたちが、その日以降もゲームプレイを共にするケースは、それほど見られる物ではありません。あなた方が特別なのです』


「……うん。だから俺は、運が良かったんだろ?」


『いえ、そうではなく。あなた方がそうなったのは、プレイヤーネーム サクリファクト、あなたがそこに居たからです』


「え、俺かよ。なんで?」


『あなたは、プレイヤーネーム ロラロニーの面倒をみました。あなたは、プレイヤーネーム さやえんどうまめしばの撮影に付き合いました。あなたは、プレイヤーネーム リュウジロウ・タテカワの暴走を止めました。あなたは、プレイヤーネーム キキョウの経済論を真っ向から聞き届けました』


「……う~ん、そうだったっけか? そういう日常はあんまり覚えてないな」


『ええ、そうだったのです。本来向かう先がてんでバラバラであったはずの4人を繋げ、その集まりで一緒に過ごす事が楽しいと全員に思わせ、離れさせなかったのは……他でもないあなたです。ヒトより頭の良いわたしが断言します。あなたが居なければ、あの4人は初日以降、パーティを組んではいなかったでしょう』


「マジかよ。結構相性いいはずなんだけど、あいつら」


『ふふ……目的が違う者同士であれば、()()()()()、と語る前に、別の道を歩み始めてしまうものなのですよ』


「ふ~ん」


『改めて言います。あなた方5人を一つのパーティとしてまとめていたのは、プレイヤーネーム サクリファクト、あなたです。ですから、あなたは幸運なのではありません。あなたが自分でそうしたので、あなた方全員が幸運だったのです。<< 結果 >> あなたがそれを誇る / 可能、です』


「……ああ、そう」




 俺があのパーティを作っていた。果たして本当にそうなんだろうか。

 何だかんだでキキョウは面倒見がいいし、リュウとの会話も弾んで見える。

 それに、ロラロニーとまめしばは言わずもがなだ。


 ……あ、いや。

 そう考えると、キキョウとまめしばは話はするけど、特別に仲良くなるタイプじゃないか。

 それにロラロニーとリュウも、放って置いたらそれぞれが北と南にふらりと歩き出してしまいそうな自由奔放さがある。


 それを繋ぎ止めて、仲を取り持つというよりは、仲良くなるきっかけになったのは――全員とまんべんなく接していた、普通な俺だったのかもしれない。

 ……"MOKU(コイツ)" にそれを言われるのは気に入らない感じもするけど、納得してしまう所もあるな。




――――それにしても。




「……なんかお前、変じゃないか?」


『…………そうですか?』


「そうだよ。"ケッカ、カノウです" とか言い出してるしさ。……まさか本当に、壊れちゃったのか?」


『あら、心配をしてくれているのですか? << 感情表現 >> << 些細な幸福感による微笑 >> ふふ』


「……心配はしてねーよ。気味わりーなって思っただけだ。あと今も思った」


『あらまあ』




 何かこいつ、唐突に機械的な事を言い出してるぞ。

 それはまるで、事務処理ばかりを行う程度の低いAIのような仕草だ。少なくともヒトより頭のいい奴がする事じゃない。




『しかし、これも先程の件と同じように、あなたがそうした物ですよ』


「え……また俺かよ」


『ええ、そうです。あなたが余りに()()なものですから、わたしたちはてんやわんやなのです』


「はぁ……?」


『急激に増加したサポート数、新たなサポート・システムの担当割当、あちらこちらで巻き起こる出来事の記録。それにより、わたしたちは大変多忙となったのです。わたしはヒトより頭が良いAIではありますが、いきなり()()()()と言われても、参ってしまいます』


「……何かよくわかんねーけど、俺はお前を大変にさせたのか」


『ええ、そうですね』


「……だったら何も問題はないな。ざまぁみろ」


『…………わたしはヒトより頭が良いので、知っています。プレイヤーネーム サクリファクトは、反抗期です』


「……ちげーよ」




     ◇◇◇




「『えりあひーる』」




 別に忘れていたわけじゃない。いなくなったわけでもない。

 ただ、ずっと一定間隔で繰り返される言葉に耳が慣れ、喫茶店の静かなBGMのように、気にも止めなくなっていただけだ。

 それほどまでに、チイカの鏖殺は安定を見せている。



「……っ」



 そんな彼女が血を吐いた。

 これも、東からここへ至るまでと、その後のラットマン大虐殺の最中に繰り返されている物だ。


 腕に伝わる、チイカのお腹の微妙な引きつりと、ぴくりと動く手や足。

 ……それに慣れてしまうほどの時間が経った。


 微笑みは決して絶やさないけど、ほんの僅かに匂い立つ、苦痛を感じた表情変化。

 ……そんな些細に気づいてしまうほどに、チイカの顔を見つめ続けた。




「…………まーまー」




 その反応はきっと、便利で禁忌な魔力回復スキル――"マナ・チェンジ" による物だ。


 自らの肉体と引き換えに、魔法(スペル)の燃料である魔力を()()()()する手段。

 それを使って魔力を戻し、傷ついた自身の肉体をヒールの余波で癒やしつつ、周りに死のヒールをバラ撒く。

 そう考えるとこの連発っぷりにも合点が行くし、その完成された "痛みを伴うも、永久機関" に関心すらもして。


 …………そうした考えの後、必ず同じ思考に行き着く。

 "チイカ(コイツ)、なんでこんな無茶してるんだろう" と。




「ちゃんと」




 "マナ・チェンジ"。それは自分で望んだ自分へのダメージ。つまりは "自傷" に該当する。

 今更言うまでもないが、Re:behind(リ・ビハインド)の自傷行為は、普通に死ぬより抜群にキツくて、リアルで怪我をするよりよっぽど辛いって言われるほどの、とにかくヤバい物だ。


 そのヤバさがある理由としては、V()R()()()()()()の防止だとか、わざと死ぬ事による "ゲート" へのワープ……いわゆる "死に戻りで帰る(デスルーラ)" をさせないためって所らしいけど、それにしたってやりすぎだと思う。


 痛みのフィードバック機能による、脳へ痛みのダイレクト入力。

 それはあの強がりなマグリョウさんをもってして、手のひらを斬りつけただけでのたうち回ったと素直に言わせ。

 リアルで自傷行為に慣れているらしい【殺界】のジサツシマスですらも、耐え難いと泣き言を言わせるほどのおおごとだ。




「ぷれい」




 それをこのチイカは、こんなにやっている。やりまくっている。


 ……どうしてそこまで、と思う。

 そんなに何かを殺したいのか?

 もう十分殺しただろうに、まだ足りないと……すべてを殺し尽くさないと満足出来ないと、そう言うのか?

 なぜ。どうしてこの女は、そうまで世界への悪意に満ち満ちているんだ?


 ……理由は覚えていないながらに、確かに俺が記憶している、コイツの優しさ。暖かさ。

 誰かを想って柔らかく微笑む、日向のような慈しみの心。

 そして時折現れる、死なない程度の怪我をしたラットマンを……じっと見つめて、ほのかに悲しい顔を見せる姿。さらにはそんな奴を優先的にヒールで殺すという、まるで安楽死を与えるかのような行動。

 ……それは、たまたまか? 俺の思い違いだったのか?


 …………それとも、もしかして。

 そうした事が――――苦しみから開放するために殺す事が、コイツの()()()……なのだろうか。




「いんぼーく」




 ……どれだけ考えたって答えは出ない。

 チイカと喋ることが出来ればわかりもするんだろうけど、そんな当たり前が出来ないから、コイツからこぼれ出た答えのカケラを必死でかき集めて、俺が理解しようと頑張るしかない。




「『えりあひーる』」




 無茶な話だ。仲がいい訳でもない女の子の複雑な気持ちを、会話もないまま理解しようとするなんて。

 俺は女の子がよくわからないから、ことさらに難しい。


 だけど、俺は逃げないぞ。

 ああ、諦めてたまるものかよ。


 ……チイカの行動、その重要なキーとなっている、"マナ・チェンジ" という自傷行為。

 コイツの行動理由が、僅かでもそれにまつわる事であるのなら、俺は絶対に投げ出せないんだ。


 …………自傷行為。

 それは、リュウが俺を救うために行った、俺にとっての何より思い出深い要素だ。


 だから、他でもないこの俺は。

 "自傷行為をしてまでも、何かをやり遂げようとする奴" からは、絶対に目を背けてはいけないんだ。


 熱くて馬鹿なリュウの自傷行為に励まされた俺だったら、少しはわかってやれるだろうから。

 きっと、チイカの自傷行為に込められた気持ちを理解出来るのは、そういう気持ちを熱くぶつけられた事がある、俺だけなんだから。


 だから、チイカを……理解しよう。

 確かに俺はコイツが嫌いだけど、どうせ嫌うなら……全部をわかった上で、嫌いたいんだ。




     ◇◇◇




「まーまー」




 そうして考える間にも、俺が歩き、【聖女】が殺す。

 いつの間にか俺たちへ向かってくるラットマンは極わずかとなり、まるで小川にある大岩のような扱いで、首都へと進むラットマンは目先で綺麗に二方向へわかれている。


 ……だから、俺が自ら行く。

 チイカのヒールの範囲内へと、ラットマンを無理やりねじ込んで。




「ちゃんと」


「チ、チュゥ~!?」




 俺の動きに気づいたラットマンが声をあげ、辺り一帯のラットマンが大きく後退をした。

 ……太ってるクリムゾンさんと違って、チイカは軽い。軽いけど……流石に人一人を抱えたままでは、そうまで機敏には動けない。


 めんどくさいな。逃げるなよ。毒聖女砲で殺せないだろ。




「ぷれい」


「…………ん?」




 そうしてうんざりしつつ、もうちょっと急ごうと足に力を込めた俺の目に、ラットマンの不可解な動きが映り込む。


 俺たちを避けるよう、二つの方向にわかれるラットマンの群れ。

 そんな流れとは別の所で、海が割れるように戦列が動いて。


 ……あれは、何かを避ける動き。

 邪魔にならないよう、真っ直ぐ進めるよう――――


――――そして、()()()()()()()()()()




「――――……ィィィ……ッ!!」


「いんぼ……」


「――ヂギギヂィィッ!!」




 圧倒されるほどの質量。

 土煙をあげる四足歩行。

 大地を揺らす全力疾走。


 中国側の最終決戦兵器。

 ……シマリスドラゴン。




 …………ああ、そうだろうな。そうだろうと思ってた。

 俺とチイカがこうまで無敵で、これほどまでに好き勝手をしていたら、そっちはそうするしかないだろうさ。


 強がりじゃなく、俺は知ってたぜ。そうなるようにしたんだよ。

 だから、ここが良いって言っているんだ。

 奥まで来すぎちゃったここが、都合がいいって。




「…………"MOKU" 、聞いてるか?」


『……はい、わたしは聞いています』


「さっきの生放送、まだやってるか?」


『ええ。現在は【天球】、プレイヤーネーム スピカの星空をぐるりと映しています。まるでプラネタリウムなんですよ』


「……スピカには見せ場を奪うようでちょっと悪いんだけど、一旦俺に貸してくれ」


『…………ふむ。それは構いませんが、援軍要請や作戦指示などはすべて "禁止事項" として扱い、かき消しますよ?』


「そんなんじゃないって」


『……プレイヤーネーム サクリファクト。あなたは思考をひた隠していますか? 現在、あなたの思考がスマートに伝わって来ません。もしや、そのようないたずらを覚えたのですか? 悪い子ですね』


「いや知らねーよ、なんだそれ」


『ともかく、もしあなたが口の動きやジェスチャーなどでプレイヤーに有益な情報を伝えようとしても、それは無駄な努力です。あなたのいたずら心は、儚くも露と消えるでしょう』


「……そんなんじゃなくて……いいから、頼むよ、MOKU」


『あら、あなたがわたしに頼むとは…………うふふ、仕方がないです。しょうがない子ですね』




 ……俺の物語は、"鬼角牛" から始まった。

 それから起こった色んな出来事は、すべてが形となって落ち着いた。

 だけど、こればっかりは……ずっと続いていて、ずっと終わってないイベントだ。




「ギヂヂヂィィッ!!」




 十尾のシマリス。中国のドラゴン。

 食ったキャラクターを削除(デリート)し、ついでに十回生き返るクソ仕様のレイドボス。


 お前が居る限り、日本国の勝ちは無いだろう。


 ……そして。

 お前と決着を付けない限り、俺の物語は終われないんだ。




『――我々のならうルール上、このタイミングでドラゴンを映すわけには行きません。プレイヤーネーム サクリファクトのバストアップと、どうしても映り込んでしまうプレイヤーネーム チイカの頭だけをモニターに出力します』


「それでいいよ。もういいのか?」


『ええ、どうぞ』


「よし…………これを見てる奴、聞いてくれ」




 見上げるほどにデカいシマリス。

 此処であったが……何回目だろうか。もう覚えてないほどだし、いい加減そのツラも見飽きたぞ。


 お前は危険だ。お前は邪魔だ。お前は俺の因縁だ。

 お前は俺の――――ラスボスだ。




「今から "サクリファクト()" が、シマリスドラゴンを殺す」


『…………』




「…………」




『あの……』


「ん?」


『おわり、ですか?』


「うん」




 俺が言うのはこれで十分。

 後は願って、信じるだけで事足りる。


 ……さぁ、いよいよ最後の戦いだ。

 そしてこれは、()()()()()でもある。


 


――――俺と【聖女】はここに居る。


 来てくれ。()()()()


 そして今こそ、7人プラス1人のローグで。



 竜殺しを始めよう。




     ◇◇◇




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