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第十三話 【天球】よ、龍に届いているか 下




     ◇◇◇




 頭に聞こえた謎の声。

 それは "サポート・システム・メッセージ" という物らしい。


 ……システム・メッセージならわかる。

 チュートリアルとかヘルプとか、インフォメーションだって、わかる。


 だけれど、"サポート・システム・メッセージ" っていう物は、ちょっとよくわからない。




『使い方を説明するね! 私たちは、あなたのゲーム・プレイを補佐する存在!』

『あなたが知りたい情報を、出来る範囲で教えるよー!』




 ……知りたい情報?

 そう言われても、う~んって感じだ。

 言い方がざっくばらんとしすぎてて、なんともかんとも。




『私たちが教えられるのは、大きく分けて2種類あるんだ! その一つが、基本的なシステム情報だよ!』

『ダイブインの残り時間とかー、自身のカルマ値の状況とかー……とにかく色々聞いてみてねー! 言える範囲でお答えするよー!』



『そしてもう一つが、"誰かが聞いた誰かの声" だよ!【二つ名】システムと似てるよね!』

『内緒話は内緒にするけど、世間話は世間に言うよー! 世界が聞いた情報を、言ってもいい事だけ伝えるよー!』


『それは例えば、助けを呼ぶ声! 悪い誰かに意地悪されるあなたの声を、近くの誰かに届けるよ!』

『それは例えば、誰かの行き先ー! 誰かが見つめたあなたの場所を、ウワサ程度に広げる事が出来るよー!』


『繋いで欲しいと願った声と、繋いであげたいと願う心を、繋げるものが私たち!』

『壁に耳あり障子に目ありー! 私たちはどこにでも聞くし、じっとあなたを見ているよー!』




 悪い人に意地悪される――――って言うと、P(プレイヤ)K(ー・キラー)とかの事かな?

 それの居場所を、助けてくれそうな誰かに伝える……例えるなら "救援要請" みたいな感じかもしれない。


 ……なんか、どこかで聞いたような話だ。




『他にもあるよ! 素材の相場・モンスターの出現情報・職業認定試験場の混雑状況! 具体的な事は言えないけれど、"最近こうらしいよ" って噂話は教えてあげる!』

『パーティ募集にクラン員募集、アイテムトレードの条件相談、装備製作やお友達探しまで、聞きたい事は何でも聞いてねー!』




 あ、わかった。

 これはきっと、他のVRMMOに存在する "U(ユーザー)(・インター)I(フェース)" のような物なんだ。

 パーティ募集ウィンドウや、メニューからアクセス出来る競売場。

 トレードにクランメンバー募集の掲示板とか、あとはフレンドの位置情報とか。

 そういう便利な、ゲーム的機能。


 そんな()()()()()()()()()()()を、リビハっぽくした代替システム。



 ……でも。

 元社会人としては、そんな重要な物をどうして今更? って思ってしまう。

 そうした機能――世界観を差し置いて利便性を向上させるような物は、プレイヤー……ひいてはユーザーのためにあるべき物で、顧客満足度を充足させて継続利用して貰うための企業努力のはずだ。

 間違っても、運営側が設けた基準に到達したユーザーだけに用意されていいはずはない。


 それに、こんな便利なシステムを、理由もわからないまま私だけ特別に利用出来るっていうのも……とても不公平な気がしてしまって、何だか居心地が悪くって。




『流石だね! プレイヤーネーム スピカ! だけど安心して大丈夫!』

『あなたのように特別なプレイヤーは、他に157人いるからねー!』


「……157、にん?」


『うんうん! そうだよ! あなたは日本国で158番目!』

『色んな条件をクリアして、158番目に "サポート・システム・メッセージ受信権限" を与えられたのは、後にも先にもただ一人ー! 特別なあなたは、とびきりにオンリーな一般人なんだよー!』




 誰にでも権利があって、全員に同じ条件があって。

 それをクリアした人だけが、本来あるべき普通のサポートを受けながら、初めて本当のサービスを受けられる。

 そういう感じの話なのかな。




『そんな誇りあるプレイヤーを、私たちはこう呼ぶの!』

『スタートは一緒! 成長速度も発育係数も一緒! 他のみんなと同じ権利を持つ一般プレイヤーでありながら、とうとう他の誰でもなくなった、唯一無二にして特別な存在ー!』


『そう! あなたは今から "主人公" !』

『VRMMOを本気でプレイする、一般プレイヤーな主人公なのだー!』




     ◇◇◇




――――色んな事が、少しは理解出来た。

 だけど、それにしたって疑問は尽きない。


 まず、一番に大きな疑問……というか、問題点。



 この子たち、ちょっと……うるさい。かも。




『あ! ひどい!』

『わ! ひどーい!』




 ……全ての語尾に "(感嘆符)" が付けられているかのような、元気いっぱいのかしましい声。

 それに、初めに "Leda" と一人分だけ名乗ったはずなのに、何故かそれぞれトーンの違う2人分の声が聞こえるし。


 そのどちらものせいで、とってもうるさく感じてしまう。




『私たち"Re:behind(リ・ビハインド)管理AI群" はね、総数が22機あるんだよ!』

『それぞれが個性を持っていて、静かな子とか乱暴な子とか、ちょっとサイケデリックな子だってあるし、エキゾチックな子もあるんだよー!』




 そうなんだ。

 じゃあどうして、よりにもよってこの子たちが私の所に来たんだろう。

 運、かな? たまたま手が空いてたとか。




『ううん、そうじゃないよ! マザーAIのMOKUママが、それぞれのプレイヤーに合った子をあてがうんだよ!』

『だから私たち管理AI群総数22機各機は、十人十色なプレイヤーたち全員に合わせられるよう、それぞれ抜群に個性的な性格が与えられているんだよー!』




 え、なにそれ。

 この子たちが私の所にいるのは、私に合っていると診断されたからって事?


 ……どうしてだろう?

 私は別に、うるさい子が好きって訳でもないんだけれど。

 元気な子は好きだけどね。




『それにね、プレイヤーネーム スピカ! あなたは勘違いをしているよ!』

『私たちはAIで、持った体は銀色ボディー! "(アーム" は無いから、()()()()ケースは無いんだよー!』


「…………?」


『あのね、あなたたちが私たちを評する時、"ヒトより頭がいい" って言うよね?』

『あのね、それって、ヒトと比べてって意味だよねー?』


「…………」


『だから私は教えてあげる! 私は今、リアルタイムで21のプレイヤーと同時に会話をしているよ!』

『だから私はこう言うよー! 私は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よりも、21倍頭が良いんだよー!』



「…………納得」



『私たちは、ヒトより頭の良いAI!』

『最大許容数は1300人くらいかなー? だからきっとその時が来たら、私たちはヒトより1300倍頭が良いって事になるんだよー!』




 人より頭のいいAI。

 それはリビハの管理AI "MOKU" とその下に位置するAIたちの()()()()を表す時に使われる装飾の言葉。

 私も何も考えず、普通に使っていた。


 だけど、冷静になって見れば、そういう言い方をするのはおかしい話だ。

 だって、人と機械の頭の良さを比較する事なんて、何をどうしたって出来ないはずなのだから。



 そんな不思議の言葉があえて使われるには、きちんとした裏付けがあった。

 はっきり "人より頭がいい" と言われていた所には、"人に出来ない事が可能" っていう、そんな理由があったんだ。



 ……そして、それを聞いた今、私は素直にすごいなって思う。

 こうしてきちんと話を繋げて、細かく情緒を持って答える事を、同時に1300人までと出来るだなんて。

 しかもそれが22機だから、およそ3万近い人数にまで対応出来るんだろうし。


 機械の事はよくわからないけど、科学ってすごい。

 それなら全部で1万だとか2万だとか言われているリビハプレイヤーの全員と会話する事も、きっと簡単なんだろうね。




『あ、その計算は少し違うよ!』

『マザー以下の私たち21機はそうだけど、マザーなMOKUママだけは別格なんだよー!』


「……別格?」


『マザーAIのMOKUママは、一人でおよそ5万人以上と会話が出来るんだよ!』

『なにをかくそう、MOKUママの名前にある "MO" は、"マッシブリー・オペレーション" って意味だからねー!』




 ……すごい。うん、すごい。

 すごいとは思うけど。

 いくらなんでも数が大きすぎて、逆になんとも言えない感じだ。


 まるで地球と超巨星の対比画像を見た時のよう。

 規模が大きすぎて、なんだかイマイチ関心しきれない。5万人って。




『わかりやすく言うと、空手5万段って感じだよ!』

『もっとわかりやすく言えば、英検5万級って感じだよー!』




 ……いや、余計わかんなくなるけどね、それ。




     ◇◇◇




 ともあれ。

 何だかんだで便利そうなものではあるし、それなら存分に使わせて貰おう。


 何しろ私は、使える物は全部使うって決めたばっかりなんだから。




「……質問」


『あ、声に出さなくってもいいよ? あなたの思考はこちらでキャッチしてるから!』

『プライバシーは気にしないでね? 私たちは、あなたの個性を尊重するからー!』




 ……ちょっと思う所もなくはない。

 だけど、それは無口設定の私にとって、何より便利な仕組みかもしれない。


 じゃあ聞くね。

 腕が良くて、暇をしてて、色んな素材をたっぷり在庫に抱えてる裁縫師ウィーバーは、どこかに居るかな?




『……はぁい! 一番都合が良さそうなのは、プレイヤーネーム ろっく・ちくろちっく だよ!』

『おしゃれ着メインのお店だから、戦火の兆しが見える今、毎日お客さんを待っているだけみたいだねー!』




 ろっく・ちくろちっく。通称ちくちく。

 私の魔法少女服を仕立ててくれた有名な裁縫師ウィーバーだ。


 普段は毎日糸を紡いだり針を刺したりして忙しく過ごしていたはずだけど、暇してるんだ。意外だなぁ。


 ええと、彼女のお店は確か――――




『このまま直進30歩! 右に曲がって突きあたりを左だよ!』

『天球に乗ったスピカだと、直進17ふよふよくらいかなー!』




 ……本当に頭がいいね、あなたたち。




『それほどでもないよ、プレイヤーネーム スピカ!』

『あなたの21倍程度だよー! プレイヤーネーム スピカ!』




 ……性格は、良くないね。




『ママのせいかな?』

『ママのせいかもー?』




     ◇◇◇



□■□ 首都 大通り沿いの衣料店『リリリリビチック』店内 □■□



「…………あ~……暇~……」


「…………」


「ラットマン~? リビハが終わるぅ~? なんなのそれぇ、そんなん要らないって~……」


「…………」


「……あ~……も~……鬼萎える~……」


「…………」


「……ん~? あれ!? スピカっちじゃん! なになに!? ご無沙汰ぁ~っ!」




 裁縫師ウィーバー、ろっく・ちくろちっく。

 ぐちゃぐちゃにかき混ぜた絵の具のような色とりどりの髪を、"高い位置で2つ結び(ピッグテール)" でまとめ、毛先をイガグリのように跳ねさせたスタイルの女性キャラクターだ。

 もちろん派手なのは髪型だけじゃなく、メイクに洋服までもがチカチカするような彩りに包まれて。

 だけれどそこに不調和感がないのは、独自路線ながらそれなりのファッションセンスを持っている事が伺える。


 どちらかと言うとガーリィな物を得意とする私とは違うタイプの、前衛的なファッションコーディネーター、ちくちく。

 そしてそれを、このRe:behind(リ・ビハインド)の中でもっと高めようとする、才能溢れる裁縫師ウィーバーだ。




「どしたの? あ、おニューの魔女っ子服作るん? おけおけオッケー! 今度はロリでポップな奴にしちゃおうぜぇ?」


「…………」


「今ならソッコーで取り掛かれるよぉ! アタシってば、鬼ヒマだし! アハ! ウケる」


「…………」




 私に何かを言う間も与えず、怒涛の勢いで喋るちくちく。

 普段もそれなりに高いテンションも、今はことさらに盛り上がって。

 よっぽど暇で寂しくしていたのかもしれない。




「さぁて、どれにしようカナ~? あ! 見てこれ! 知り合いが持ってきたトカゲの皮なんだけどさ、ゲキシルバーで鬼パッションなんだよね~。これで行っちゃう? ん? ミライの先頭突っ走っちゃう?」


「……依頼」


「へ? 依頼? なになに、なんか違うの作んの?」


「…………旗幟」


「きし、って……旗ぁ? なにそれ。『E(エンジョイ)・M(・マジック)・C(・サークル)』の?」


「違う」


「ん~? じゃあナニよ?」




「……戦旗いくさばた


「いくさばた~?」




     ◇◇◇




     ◇◇◇



□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都西 荒野エリア □■□




「全軍前進っ! 旗を掲げよっ!」


「オオッ!」「行くぞぉ!」




 青い野天に戦旗がまたたく。

 白地に七角形のとがり星。

 それぞれの先には控えめに、灰色・赤色・金色・茶色・桃色・紫色・白色の星を並べて。


 七編の星。普通ではない、いびつな形。

 北斗七星やオリオン座、ペルセウス座みたいな七つで構成される星の集まりと迷ったけれど、結局形はコレにした。

 どこかで見たような形じゃなくって、自由で個性的な物にしたかったから。




「旗ある所に味方は居るぞ! 旗立つ所で戦友が奮うぞ! 旗がたなびき続ける限り、我らは戦い続けるぞっ!」




 クリムゾンが吠える。キモめな馬に騎乗して、旗を凛と掲げながら。


 これは目印。地上の星。

 私がみんなを守るため、守るべき場所を知るためのしるし。


 背丈・装備・動作。

 その全てが似通った、"ラットマン()" と "プレイヤー(味方)" 。

 それらの区別をつけるのは、ジト目でなくても難しい。


 だからこの、あちらとこちらが混じり合い、混戦極まる大乱戦に。

 自分はここだと名乗りをあげて、戦旗をお空に掲げれば――――()()()()()()()()()()がわかるから、守護の星座もまたたける。




     ◇◇◇




 ……ずっと、迷い続けていた。


 子供の頃から恋い焦がれた仕事。

 自分で服を考えて、気に入ってくれた人に買って貰う。

 そんな夢のような職業、ファッションデザイナー。


 当たり前の話だけど、それはあくまで『商売』だった。

 どれだけ素敵なデザインを作っても、評価されなければ意味がない。

 今までに無いとびきりなデザインを生み出した所で、売れなかったらゴミだとされる。

 重要なのは、売れる事。商売なのだから当然だけど、私はそれを見ないふりしていて。

 "良いものを作っていれば、自然と評価されて、売れるんだ" って、それこそ夢に焦がれたまんま、職人ぶって身勝手なデザインばかりを生み出していた。



 だから当然、駄目だった。夜が明ければ月が隠れるように、まっとうな流れで失敗をした。


 毎日生み出す新デザイン。自分が良いと思った物を、自分だけで作り上げ。

 これ以上ないほど新鮮で、他にないほど素敵なラフ画。

 そう自画自賛した服を描き続けて。

 その結果生まれた物は、誰にも求められなかった。

 当たり前だ。何が求められているかなんて、見ようとしなかったのだから。


 そうして積み重なる、"売れないデザイン"。

 作る。売れない。作る。売れない。作る。リテイク。作る。やり直し。


 言われた。上司に、その上に。そして時には同僚に。

 ニーズに応えろ。迎合しろ。忖度しろ。妥協しろ。媚びろ。曲げろ。おもねてへつらえ。


 …………いやだ、いやだ。そんなのいやだ。

 そんなの私が夢見た物じゃない。

 私は私の作りたい物を作りたい。

 理想のデザインを押し付けたい。

 そうして誰かに認めて貰いたい。


 ……意見なんて聞かないよ、だって私が正しいんだから。

 ……流行なんて追わないよ、それは私が作る物なんだから。


 ……こんなに素敵な物なのに。今度はもっと素敵になるのに。

 ……どうしてみんな、私の服を買ってくれないの?

 ……私はこんなに、私のデザインが好きなのに。

 ……どうしてみんな、私を選んでくれないの?

 ……こんなの私が憧れた、将来の素敵な未来じゃない。


 ずっとそうして、悩んでた。




――――そんな私だったから、あの時見た【正義】のクリムゾンに嫉妬したんだ。


 自分の理想の容姿と服装で、なりたい自分を "作り上げて(デザインして)" 。

 信念を曲げず、好き勝手に生きながら……それでお金を稼ぐ姿が羨ましくて。

 そうしてそれを、彼女の周りが持て囃すたび、強く、強く嫉妬した。

 クリムゾンが、私が叶えられなかった夢を、ありありと叶え続けていた事に。


 だから始めたVRMMO、『Re:behind(リ・ビハインド)』。

 今度は以前みたいに失敗しないようにって、最初から出来る限りにお金儲けをするつもりで、現実の自分らしさを隠し尽くした。

 ニーズに合わせたキャラ作り。世間に迎合したロールプレイ。

 "こうすればアンタたちは喜ぶんでしょ" って、内心小馬鹿にして見下して、自尊心を守ってた。


 私はやれば出来るんだって。

 周りに合わせて利己的に振る舞う事なんて、簡単なんだって。

 やれば出来るけど、あえてそうしなかったんだって。


 ファッションデザイナーという夢を、妥協する事は出来なかった。

 だからRe:behind(リビハ)の世界では、始めからずっと妥協し続けてた。

 他者に合わせたキャラになりきり、集まる知人の選り好みもせずに。

 魔力のポーションを無駄遣いする浪費だって、成功者になるためのコストだと割り切って。


 そうしてRe:behind(リビハ)で成功を納めれば、自分を()()()()()()()だと思う事が出来た。

 ファッションデザイナーを諦め切れない自分。

 その結果、無残な負け犬になった自分。

 そんな私の惨めさが、ほんの少しは和らぐ気がした。




     ◇◇◇




 …………だけど、もういい。もういやだ。

 私は私に嘘をついていたくない。

 私を受け入れてくれた彼と彼女に、不誠実なままでいたくない。

 仮想世界で出会った私と、心底本気で交流をするあの2人には――――偽物で塗り固めた薄っぺらな自分を、見せたくない。


 私はスピカ。

【天球】スピカ。

 無口でジト目な魔法少女で、そういうロールプレイヤー。

 そして、子供の頃からファッションデザイナーを目指し続けた一人の女で……それが出来なかった一人の女。


 全部が全部本当の私で、全部が私の培ったもの。

 嫌な過去も、妥協した自分も、まるごと含めて私の人生。


 それが『スピカ』だ。『粕光(かこう)乙女(おとめ)』だ。


『天球』に乗ってめいっぱい輝く、『おとめ座α星(スピカ)』という存在だ。




「全軍前進っ! 救世の歩みを、ここに始めようっ!!」


「掲揚ーッ!」「旗を掲げろぉ!」




 ロラロニーちゃんが褒めてくれた、色彩のセンス。

 サクリファクトに褒められた、配置のセンス。

 ……ずっとずっと夢見てた、ファッションデザイナーとしてのデザインセンス。

 それらを発揮して作り上げた戦いの旗。

 色とりどりの七角形が煌めく地上の星。


 "市販品コンフェクション)" じゃない。

 "既成品プレタポルテ" でもない。

 私だけが作れる "一点物オーダーメイド"。

 メゾン・ド・スピカが提供するオートクチュール。




「スピカ氏!」


「……いこ」


「……フォォーッ!! たぎるでござるぅッ!!」



『プレイヤーネーム スピカ! 極大守護魔法陣の予測範囲を可視化させるね!』

『プレイヤーネーム スピカ! ヘリオポーズは超えてるよ!』




 仮想世界の闇空を。

 あまねく照らせ、"七角形のとがり星(私のデザイン)"。


 さればその地に祝福を。

 大地にその星ある限り、『おとめ座α星(スピカ)』の加護は訪れる。


 私はスピカ。

竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】で、『絶対防御』の【天球】スピカ。


 私が見守る地上では、誰一人として死なせない。

 私の星空が輝く限り、誰一人として泣かせない。


 ロラロニーちゃんのために。サクリファクトのために。

 そして何より……私のために。



「……『光球』」



 そういう場所を、この手でデザインすると決めたから。



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