第十話 隣り合わせの【死灰】と青春 下
◇◇◇
250.マグリョウ
聞け、名無しの顔無し共
楽しい楽しいRat狩りの時間だ
参加条件はただ一つ。奴らを殺す意思がある事
それさえあればロールもプレイヤースキルも不問だ
全員「同時」に、匿名の悪意で押し潰すパーティーを始めようぜ
251.名も無きリビハプレイヤーさん
いや、なに言ってんの
やるわけねーだろそんなの
252.名も無きリビハプレイヤーさん
話聞いてたんすかマグリョウさん
ここの住民は群れたり馴れ合ったりするのが嫌いだって言ってんすけど
253.名も無きリビハプレイヤーさん
虫とばっかり遊んでるから、人間とはまともに対話も出来なくなってるのか……
死灰……悲しきコミュ障モンスターよ
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友人のためでもある。知人のためでも。
だが、結局の所は……俺のプライドの問題だ。
中国勢であるラットマンは、独国攻めに失敗し、日本国に矛先を変えて来たと聞く。
そこにあるのは、確かな驕りだ。
"独国が駄目なら日本国だ" と、俺らをどこまでも見下して。
……ふざけやがって。殺す。殺してやるぞ、ドブネズミ共。
俺を舐めるな。俺を侮るな。【死灰】はそれを許さねえ。
俺はトッププレイヤー、最強の男だ。そのための努力をしてきたし、その自負をしっかり持っている。
だから、どっちが狩る側であるのかは――――俺が決める事柄だ。
それをこの手でわからせてやる。
舐めた口を聞き腐った、お前らの命を代償として。
……なぁ、お前らもきっと同じだろ?
ネットで全力を尽くし、ネットでイキるしか取り柄のない俺たちは、ネットの世界だけでは、そんなちっぽけじゃ駄目なんだ。
現実世界を苦手とするからこそ、仮想世界では誰にも負けたくない。負けていられない。負けては駄目なんだ。
お前らも『2525ちゃんねらー』の端くれだったら、そういう存在であるはずだ。
そういう奴らでなきゃ、いけないだろ。
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254.マグリョウ
勘違いすんなよ名無し共
俺はお前らと仲良しこよしをしようだなんて言ってない
そんなん想像しただけで、どうしようもなく吐き気が湧いてくるぜ
255.名も無きリビハプレイヤーさん
は? じゃあ何で誘ってんの?
意味わかんねーぞクソぼっち
256.名も無きリビハプレイヤーさん
どういう事?
257.マグリョウ
「同時」だ、あくまでも
俺もお前らも、全員個別だ
各自ネズミを狩るんだよ
時間だけを合わせてな
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だったら立てよ、名無し共。
舐めた奴らをぶち壊すんだ。
いつだってそうして来たんだからよ。
そのための舞台は、俺が整えてやる。
お前らがお前らのまま、『2525ちゃんねらー』らしく暴れられるよう、戦場に灰色の場所を作り上げてやる。
だから立て。日陰者共。
陽光から逃げまわる、嫌われ者の害虫よ。
誰かを笑顔にするのは不得意で、誰かに涙を流させるのだけは大得意。
そんな『滅ぼし専門』の、どうしようもないはみ出し者たち。
お前ら害虫の持つ『害』は、俺が確かに有益にして――――
――――だからお前らは、今日だけ『益虫』になるんだ。
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258.名も無きリビハプレイヤーさん
時間合わせるだけ? 何の意味があるのそれ
259.マグリョウ
「団」じゃねぇ
「群」でもねぇ
俺らみたいな はぐれ は、いつだって「流れ」だろ
悪意の空気で、そういう波だ
奴らが4,5匹で細かく群れてるなら、こっちは1を沢山並べる
あちこちで同時多発的に、一人一殺で蹂躙しろ
いいか? 聞け、名無し共
担当は無し。役割も無し。ノルマも義務も全部無し
必要なのは殺す意思だけ
仲間意識も大義名分も、そんな小奇麗なもんは何もいらねぇ
眼の前の奴に痛い目を見せる害意のみを持って来い
俺と同時にネズミを襲え
連携も助け合いもせず、ただ自分の思うがままに、気に入らねぇネズミをくびり殺すか野垂れ死ね
そんで飽きたら勝手に帰って、歯磨いて寝ろ
それを全員で同じ時間におっ始めれば、一人でやるよりは痛い目見せてやれるはずだ
これは「荒らし」だ
匿名掲示板の名無しってのは、いつの時代だってそういう事をするもんだろ?
260.名も無きリビハプレイヤーさん
ふーん
つまり時間だけ合わせて、各自でネズミ狩りしろって事?
261.名も無きリビハプレイヤーさん
ああ、なるほど
それは確かに俺らっぽいな
どこぞのクソサイトを荒らしに行くムーブって感じで
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俺たち『匿名掲示板の名無し』は、誰の指図も受けない。
いつでもどこでも、ただ各々がやりたいようにして、ムカつく奴に各自嫌がらせをするだけだ。
どれだけ時代が変わろうと、そればっかりは変わらない。
それを許されるのが匿名掲示板で、俺たちが掲げる一つの信念。
西暦が幾つを数えようとも――――『荒らし』ってのは、得てしてそういう存在だろう。
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262.名も無きリビハプレイヤーさん
って言っても、ソロで戦場行ったら絶対めんどくさい事になるだろ
うちのPT入れだの、スペルのタイミング合わせろだの言われそう
263.名も無きリビハプレイヤーさん
変な事したら顔も覚えられるしな
264.名も無きリビハプレイヤーさん
つかそれに参加したら、自分は2525ちゃんねらーだって言ってるようなもんじゃん
マグリョウは気にしないんだろうけど、俺は嫌だぞ
一応普通のクランにだって入ってるし……存在感は無いけどさ
265.名も無きリビハプレイヤーさん
顔バレ状態でそんな祭りに参加する勇気は無いわ
下手したら悪い噂にもなるし
勝手にやってろ
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……確かに、こいつらが持つ悪意ってのは、匿名ありきの代物だ。
表では にこやか に会話をしながら、裏で悪態をつく陰の者。
それがこういう場所に棲む、そういう生き物の生態だろう。
……だから、俺がやってやる。
この【死灰】がそれをさせてやる。
俺はマグリョウ、名は【死灰】。
骸の燃えさしが漂う世界を支配し、害虫共とたわむれる、死灰歩きの軽戦士だ。
目的のためなら禁忌も喰らうし、悪霊とだって連れ歩くんだぜ。
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266.マグリョウ
見ろ
[[ 画像URL ]]
267.名も無きリビハプレイヤーさん
なに?
グロ画像?
怖くて開けん
268.名も無きリビハプレイヤーさん
エロ画像で俺たちを釣り上げるつもりかな?
269.名も無きリビハプレイヤーさん
なにこれ
ウサギのお面?
なんか気持ちわりいな
270.マグリョウ
ダンジョンの虫素材で作った仮面だ
今から現実時間で1時間、首都西のダンジョン入り口でコレと外套を配る
ネズミ殺し祭りに参加する奴は、それを着けて参加しろ
お前らは匿名の仮面を被ったまんま、ムカつく相手に好き勝手ヤレるんだ
クールだろ?
271.名も無きリビハプレイヤーさん
なにこの、見てるだけで不安になるデザイン
腐ったぬいぐるみのウサギって感じだ
272.名も無きリビハプレイヤーさん
うわぁ……
これマグリョウが作ったの?
273.名も無きリビハプレイヤーさん
なんでウサギ?
もっと良いのないの?
274.マグリョウ
>>271 不気味になったのはちょっとした手違いで、俺の本意じゃねぇよ。
ただ、むしろ好都合だろ。こんなのつけてる奴に話しかけるイカれは、大体の場合いねぇだろうからよ
>>272 俺じゃねえよ。手先が器用な奴に任せた。デザインの原画は俺だが
>>273 他にもある。ひよことかクマとか、後はペンギンにゾウさんもあるぜ
275.名も無きリビハプレイヤーさん
なんだそのファンシーなラインナップは
276.名も無きリビハプレイヤーさん
ゾウさんて
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クワガタ・ムカデ・ハサミムシ。
そいつらが持つ甲殻を、切り貼り染め縫い作らせた仮面。
灰色のそれを顔につけ、灰色の外套で体を隠す。
……俺は【死灰】。
最強の男で、【竜殺しの七人】。
そんな俺がどこかを歩けば、誰もが指差し視線を送る。
だから例えば、俺の背後に『マントを羽織って仮面をつけた集団』が列を為していたならば――それは俺の添え物として扱われるだろう。
だったら参加者共は、個として見られない。
『マグリョウが連れて来た謎の仮面集団』と認識されて、【死灰】の名が持つオーラに包まれ、隠される。
そうなりゃ決して特定には至らない。
なにせこの俺は、不本意ながらに……すこぶる有名だからな。
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277.名も無きリビハプレイヤーさん
って言っても、仮面はマグリョウから受け取るんだろ?
その時に顔覚えられちゃうじゃん
そんなの嫌じゃん、無理じゃん
278.マグリョウ
>>277
何言ってんだお前
この【死灰】様がてめえみたいな雑魚を一々覚えてたまるかよ
雑魚の汚え面なんざ5分も経ったらすっかり忘れてるわ
279.名も無きリビハプレイヤーさん
協力仰ぐ気あんのか? コイツ
280.マグリョウ
別に仲間って訳じゃねぇんだ、馴れ合いたいなら他所行けよ
俺が求めているもんは、半端な仲間意識を持ったにわかPTじゃねぇ
「勘違いして調子づいてるドブネズミ共を、仮面被って好き放題傷つける」って悪意だけを持つ、『匿名の荒らし軍団』だからな
281.名も無きリビハプレイヤーさん
匿名のまま炎上させまくって、満足したら帰るってスタイルか
叩いてもいいと決めた物を気の済むまでぶっ叩くってのは、いかにも匿名掲示板らしいなw
282.名も無きリビハプレイヤーさん
なんだ、いつもの俺らか
283.名も無きリビハプレイヤーさん
暇だしとりあえず行ってみようかな
ダンジョン行けばいいの?
284.マグリョウ
南じゃねぇぞ、西のダンジョン入り口近くの岩陰に来い
目印に灰をブチ撒いておくから、馬鹿なお前らでも迷わんだろ
ちなみに、馴れ合う気はねぇから挨拶も不要だ
受け取るもん受け取ってさっさと消え失せろ
285.名も無きリビハプレイヤーさん
ひでー言い草
286.名も無きリビハプレイヤーさん
へー、面白そう
もう引退しようと思ってたけど、ダイブして参加してみよっかな
287.名も無きリビハプレイヤーさん
ネットの害虫の本領発揮か
最近なごみに邪魔されて派手に出来なかったし、久々に滅茶苦茶やるかな
288.名も無きリビハプレイヤーさん
終わったら仮面貰っていいの?
289.マグリョウ
好きにしろ
どうせ素材は灰にもならねぇ余り殻だ
この【死灰】が通った跡に、亡き骸が枯れる瞬間はねえ
290.名も無きリビハプレイヤーさん
ほんとマグリョウはいちいち厨ニだなw
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……手応えはあった。
元々 "祭" が何より好きな腐れ名無し共だ。
燻らせていたラットマンへのイライラを、コレに乗じて発散しようとする奴は少なくないだろう。
「……ははっ」
揺蕩う灰が俺をくすぐるように動くのは、俺の機嫌による物か、それとも灰の自己愛なのか。
ともあれ、気分は最高だ。
中国勢。お前らが俺たちに害をなそうとするのなら。
より一層に大きな害で、お前ら全員を爛れ殺してやる。
ここに揃えた劇毒でもって、その毒を制してやるよ。
「うふ。マグリョウ、嬉しそうね」
「…………済んだか?」
「……うふふ。うん、うん、終わったよ。使えそうな物はすっかり剥いだよ。見て? お手々が汚れちゃったの。ねぇ、見て? きれい? きれい? 真っ赤だよ、きれい?」
「……仮面が足りなくなるかもしれねぇ。ソレ使って追加で作っとけ」
「ふふ、うふふ……大丈夫よ。手先が器用な "裁縫師" は、手袋だって編めるのよ。だから簡単なの。かわいいお面と素敵な色の外套を作るのなんて、とってもとっても簡単なのよ。マグリョウが描いたお絵かきの通りに、いっぱいいっぱいを作れるのよ」
「…………行くぞ、ついてこい」
「はぁい……ふふふふ、憑いていくぅ……どこまでもどこまでも、憑いていくからねえ…………うふぅ……」
PTじゃない。友人じゃない。
仲間でも同志でもないし、持っているのは善意や義心じゃない。
ここに居るのは『害悪』。
ただただ集い、全てをぶち壊すもの。
調子よく遊ぶ "ラットマン共" を、自分が気に食わないってだけで滅茶苦茶にする、目も当てられない荒らし集団だ。
震えて待ってろ、ネズミ共。
"灰色の世界" から、【死灰】と『名無し』と『悪霊女』がずるりと這い出て――――
――――お前らを殺しに行くからな。