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第一話 掲揚


□■□ Re:behind首都 『正義の旗』クランハウス内 □■□




――――Dive Game 『Re:behind(リ・ビハインド)』。

 その中にある『首都』という名のこの街は今、非日常に飲み込まれていた。


 モンスター狩りをする彼らの日常。

 鉄を打ち、皮をなめす彼らの日常。

 クワを持ち、畑を歩く彼らの日常。

 AとBとを混合し、Cを生み出す彼らの日常。


 そんなVRMMOの日常が許されない、非日常の世界での非日常な出来事。



『ラットマンの襲来で、リビハが終わるかもしれない』。

 そんな最終戦争アルマゲドンなイベントは、何の前触れもなく訪れて。

 私たちの平和な世界は、有無を言わさぬ存続の危機に立たされている。




「……おせぇな。いつまで待たせんだ?」


「ふん、余裕がないな【死灰】。そうして "貧乏暇無し" を体現しおるか」


「…………あぁ? 誰に口聞いてんだてめぇ。殺すぞ腐れ課金厨」



「フン! フンッ!」


「ちょっと【脳筋】~、こんな所で筋トレ始めないでよ~」


「ステーキ。【殺界】さんに言われていますよ」


「……フンッ! フンッ!」


「あらら、また無視? いい加減女の子ギライ治したらいいのに」


「フンッ! フンッ!」


「……ステーキ」


「も~……何だか湿度も上がった気がするし、全くやれやれやよ。今日のボクってとっても不運」




 世界にそんな大事があれば、それにまつわるものも普通では居られない。

 プレイヤーたちは蜂の巣をひっくり返したように大騒ぎをし、活気と血気でみちみちて。

 ゲーム外の掲示板やニュースサイトでも、情報が入り乱れて大混乱だ。


 "リビハが終わる" というのはそれほど大変な出来事で、センセーショナルな事なのだ。



 ……そうであるから、この場も当然、普通じゃない。




「おい、スピカ。【正義】バカはまだ来ねぇのかよ」


「……不明」


「……クソがよ。わざわざこの【死灰】を呼びつけておいて、こうまで待たせやがるとは」


「ボクもそれなりに忙しいのにさ~。こんな状況でだって、殺させ屋の依頼はあるんやよ」


「余の全ては下賤な者とまるで価値が違う。我が時は金塊なるぞ」


「フンッ! フンヌッ!」




【死灰】のマグリョウ、【殺界】ジサツシマスと【金王】アレクサンドロス。

【脳筋】ヒレステーキに、その相棒であるタテコさん。

 そして更にはこの私――【天球】の名を持つプリティな魔法少女、スピカ。

 自他共に認めるRe:behind(リビハ)のトッププレイヤー、【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】と呼ばれる私たちが一堂に会する事など、まるで普通の事じゃない。


 それほどまでに、今は非日常の中なのだ。




     ◇◇◇




「やあやあ諸君! 待たせたなっ!」


「おせえしうるせえぞ、クソムゾン」


「ク、クソムゾン!? ひどい!」


「んふふ、【死灰】は面白い事言うねぇ」




 "会議は薄暗い所でやるべき" という変な思想に基づいて、半永久的に明かりを灯す『永久蝋(トワロウ)』のみで照らされる部屋。

 そんな薄暗がりの中でも眩しいほどに真っ赤な鎧を装着した彼女が、晴れ晴れとした笑顔で部屋に入って来る。


 この部屋、ひいてはこの建物――トップクラン『正義の旗』の主である、【正義】のクリムゾンだ。




「ともあれまずは、集まってくれた事に感謝をするのだ」


「……ふん」


「俺は構わないってのよ。筋トレはいつでもどこでも出来るからなぁ」


「……可能は可能かもしれませんが、周囲の迷惑を考えなくてはなりませんよ、ステーキ」


「実際にボクは迷惑してるよ。ボクって汗臭い男の人、キラいなんだ。泥臭い人は好きだけどね」




 あの日あの時首都に飛来した、赤い鱗の竜型ドラゴン。

 それを打倒した私たちは、晴れて【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】と呼ばれ、名声を欲しいがままにした。


 だけど、だからと言って、私たちは仲良し軍団などではない。

 同じ二つ名を持ってはいるけど、あの日成り行きでパーティっぽく共闘をしただけの、目的違いの同志であるだけ。

 そうして目指す物が違えば、どんな思いでこのVRゲームに挑んでいるのかもまるきり違う、赤の他人で "関係ない同士" だ。


 だから普通は、集まらない。

 ただ一度だけ臨時でパーティを組んだ、フレンドでもない繋がりに、多忙な日々の貴重な時間を費やそうなどとは、普通は思わない。


 ……例えそれがリビハ全部を巻き込む、一大事の最中であっても。

 普通はこうして、集まらない。




「泥臭い、ですか? それは一体何某を指すのでしょう」


「……おい、タテコ。女と話すんじゃねぇよ」


「んふふ……身を捨て、全てを捧げ、格好悪く格好つけた、とっても素敵な男の子さ。きっと【正義】は知ってるよ」


「むっ……」


「それに【死灰】と【天球】、ついでにライバルな【金王】もね」


「…………」


「……ふん」




【脳筋】以外の誰もがぴくりと反応し、【殺界】の事を、そしてその言葉が指す男を意識する。


 ……気に入らない。あの男、サクリファクト。

 首都で防衛にあたっていた私の知らない所で、なんか色々やってた男。


 カブトムシ型のドラゴンに乗り、

 ラットマンの主力部隊を2つも排除し、

 ついにはシマリスドラゴンをも単独で撃破して、

 最後の最後は、リザードマンと一緒に帰ってきた、あの男。


 戦場全体の状況を一変させ、トッププレイヤーである【正義】のクリムゾンをも救い出した、誰もが認めるあの日のヒーロー。

 地味で普通でデリカシーの無い、ザ・凡夫なあの男、サクリファクト。



 ……なにそれ。何なの? どういう事?

 全部の意味がわかんない。

 レベルも低いし、経験も浅い。装備は安物で、キャラクタービルドだって半端な出来。

 そんな他愛もないモブキャラのくせに。ロールプレイだってしてないくせに。

 それに、女心もわからないくせに。

 そんな普通なプレイヤーのくせに、とびきりな戦果をあげて、ひときわに目立つだなんて。


 ……それに、その状況もそう。

 私の知らない所で、【正義】と【死灰】と――可愛い可愛いロラロニーちゃん! と。

 そんないつかの面子を揃えて、とってもドラマティックでエキセントリックな事を、勝手にやっちゃうなんて。

 彼のパーティと竜殺し。そんな人々で行った海岸地帯でのリスドラゴン戦、そのやり直しを……私抜きでやるなんて。


 そんなの、意味わかんない。

 意味わかんないし、何だかすごく嫌な感じだ。




「……おい、変態女。てめぇが俺とアイツの絆を、訳知り顔で語ってんじゃねぇよ。殺すぞ」


「んふ、ごめんごめん。キミと彼との繋がりは、他とは一線を画する物やよね。それはきっと、龍鱗よりも固いものだと思っているよ」


「…………わかってんなら良いんだよ」


「ん~、【死灰】は独占欲が強いなぁ。あんまりそうだと、彼も鬱陶しく思っちゃうかもしれないぞぉ?」


「…………」



「サ、サクリファクトくんは――す、凄かったのだ! 私を華麗に救出せしめて、ついには一人でドラゴンを……! 私は、か、感激した! とっても嬉しかった!」


「……そのようなセリフは、あちらこちらで聞き飽きた。さっさと本題に入れクリムゾン。余はその子細を聞きに来たのだぞ」


「……同上」




 私たち【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】が、こうして一堂に会しているのは、そのためだ。

 普通な男サクリファクトが、ドラゴンを倒すという――普通じゃない事を、やったから。

 それの詳しい話を、クリムゾンが話すと言ったから。


 だから今、竜殺したちがここにいる。

 "サクリファクトが何をしたのか"。それを聞くため、集まってるんだ。




「奴は一体何をしたのだ。動画で見た限りでは、いくらか金色に輝いているように見えた。それは余に纏わる二つ名、【金王の好敵手】の効果ではないのか? そこを詳しく語るが良い」


「俺はあの時ネズミを痛めつけてたからな、どうしたって見逃しがある。足をくじいて座り込んでた正義バカなら、じっくりアイツを見てたんだろう?」


「弱々しい力を振り絞り、こわ~いリスに全身で突っ込んだ彼は、きっと恐怖で胸をいっぱいにしていたと思うんだ。あの時のサクリファクトくんの表情を、事細かく教えて欲しいなぁ?」


「【炮烙ホウラク】と【凌遅リョウチ】、でしたか。あの卓越したステータスを持ったラットマンたちを、【七色策謀】の彼がどうやって退けたのでしょう? 僕はそれが知りたいのです」




 ……餌。

 まるでそんな感じ。


 "サクリファクトの活躍を知りたい" と、憧れの人の噂話に聞き耳をたてるような、そんな雰囲気の集まりだ。


 でも、私は違う。私だけは、そうじゃない。

 私は誰にも憧れない。そういう視線は自分が受ける物であり、誰かに向ける物じゃない。


 私がここにいるのは、違う理由だ。

 気に入らない男が何をして、どういう事をしたのかきっちり聞いて――そうなった理由の種明かしを、鼻で笑ってやるためだ。


 大したことない。誰でも出来る。別にヒーローなんかじゃない。

 だからアイツは格好良くないし、ロラロニーちゃんにも相応しくない。

 自分がそうして納得するための、材料を探しに来ただけだ。


【死灰】も【殺界】も【金王】でさえも、英雄譚を聞くような表情。目をキラキラさせる、子供のような顔つきだ。

 だけど私は、私だけは違うんだ。

 いつも通りのジト目はハイライトもなく、感情のない無表情はピクリともさせず。

 一切の感動もないままに、アイツの活躍を聞き流すのだ。


 別にアイツは凄くない。

 たまたまいい感じになっただけで、アイツじゃない誰かでも出来たはず。

 そんなに騒ぐほどの出来事じゃないから、私にとってはどうでもいい。

【天球】スピカはその程度では心を揺り動かさないし、そこに同席出来なかった事を悔しがったりするような事は――全然まったく、これっぽっちもありはしないのだ。


 ……そう思うために、そういう考えだよってアピールするために、ここに来た。




「ふふん、良いだろう。それでは語ろうではないか。差し迫る脅威、抗いようのない絶望の足音……それらに飲まれたか弱い私が、ピンチの先でいよいよ終わりを迎えんとしたあの時に、颯爽と現れ私を抱き上げた――黒紅色のヒーロー! サクリファクトくんの英雄譚を!」


「前置きがなげぇよボケ」




     ◇◇◇




「ほう。余が授け給うた【金王の好敵手】によって、ローグスキルの効果を上げたと言うのか」


「と言ってもそれは、彼のパーティメンバーであるキキョウくんによる推測なのだ。サクリファクトくん本人が、ここぞって時にやるかもしれないと語っていたらしい」


「ふん、その矮小な身にあまる小賢しさ。見方を変えれば余を頼った形とも言えるその行いは……ぬはは! 中々どうして悪くないではないか!」


「へぇ~、『一切れのケーキ』ってそういうスキルなんだ? ローグは盗賊(シーフ)より忍んでるから、そういう情報も中々出てこないんやよねぇ」




 そうして嬉々として語る、頬を薄っすら赤らめたクリムゾンの口から明かされたのは、あの男の持つ二つ名効果と、それの利用法だった。


 トリックを聞いたら納得で、案の定な肩透かし。

 あの男がいくつか持った内の一つ【金王の好敵手】の効果を上手いこと使って、ローグのスキルを倍増させるというだけの話。


 それはとっても無理やりな方法だし、良い事になると信じ切るばっかりの、後先考えない捨て身の選択。

 ああ、それならとってもあの男らしい。

 その後は一切考えず、今出来る事を形振り構わずするというのは……海岸の時と全く一緒だもん。


 だったらやっぱり、すごい事でも何でもない。

 ()()()()()()()()()なあの男が、いつも通りの事をしただけ。

 それがたまたま状況と合致して、全てが良いように転んだだけだ。


 なんて事はない、普段通りだ。

 わざわざ聞く必要もなかったかもしれないし、あの男ならそうするだろうな、としか思わない。



 ……うん。

 だから、私は別に。

 生で見れなかった事を、悔しがったりもしないんだ。

 海岸の時は一緒だったのに、今回は私だけ参加出来なかった事だって、何も問題じゃないんだ。

 うん、全然平気。サクリファクトがいつも通りの事をしただけでしょ? だったら全然気にしない。




「……つっても、どうして金色のオーラが出てたんだ?【金王の好敵手】を以前使った時は、そんな変化は無かったぞ」


「ふん、そのような事はわかりきっている。奴が『金色』に、情念を燃やしていたのだろう。余が身に纏ったまばゆい金色こんじきにな!」




 "サクリファクト(あの男)" が金色に光っていた事を、面白くなさそうな顔でボヤくマグリョウ。

 そんな灰色の男は、最近の手癖とも呼べる『灰の手とのナイフのキャッチボール』をして。


 ナイフを柔らかく投げ渡す『灰の手』と違って、マグリョウの投擲は、鋭く苛烈だ。

 見えない速度で振られた腕が、空気を切り裂く音をたてながらナイフを飛ばし、灰にまあるい穴を開ける。




「ボクはあの動画をスローで舐め回してたんだけど、あれは金のオーラっていうより……『灰色』の中で、キラキラした金色の()()が舞ってる感じに見えたかな~」


「ああ、それならばきっと【死灰の片腕】も使っていたのだろう。確かに少し、灰色っぽくもあったのだ」


「……待てよ。俺が言うのも何だが、【死灰の片腕】は大した効果のモンじゃねぇ。あの場で使っても意味がねぇし、あいつはそんな無駄をする奴じゃあねぇぞ」




 そうしてイライラを隠そうともしない一人遊びのマグリョウに、クリムゾンが言葉を渡す。

 それは会話のキャッチボールで、ナイフよりもよっぽど突き刺さる、とっても大きな爆弾だった。




「ああ、それは帰りの道中に、リュウジロウくんが話していたのだ。"サクの字が気合を入れる時は、決まっていつも【死灰】と呟くんで~い。そうする事で自分が信じる『最強の男』の背中に、少しだけでも近づける気がするからで~い" と」




 目を見開いたマグリョウが、灰の手から渡されたナイフを取り零し――音を鳴らして床へと落ちる。



「…………」



 落ちたナイフを気にもかけずに、クリムゾンの言葉を噛みしめるよう、ぎゅっと目をつぶった灰色の男。

 外套を引き上げ、うつむいて、そんな体を抱くようにして『灰の手』が包み込む。


 そうしてそのまま。

 ロウソクの光から隠れるよう、しん とすっかり黙り込んだ。


 ……なんだかすごく面白くない。


 やっぱり私は、あの男が気に入らない。




     ◇◇◇




「なるほどなるほど。【炮烙】と【凌遅】の両名に対し、サクリファクトくんとリュウジロウくんが取った戦法は、『2対2』ではなく――2度の『2対1』であった訳ですか。それは大変参考になりますね」


「リュウジロウってのぁ、アレか? 海岸で網を引いてた "ややマッチョ" か?」


「……ややマッチョ、という単語は知りませんが、恐らくそうですよ」


「そんなら納得だ。あいつの筋肉は、伸びしろが半端なかったからな」


「……あ、そうですか。それはよかったですね」



「ふん、『カルマ値全消費でローグスキルの強化』とは、財を持たない悪漢ローグがゆえの、その身を賭した大盤振る舞いではないか。貧民なりに余にならうとは、多少はわかっているようだ」



「んふ~、やっぱりボクもあそこに居ればよかったなぁ。サクくんのショー・タイム、見たかったなぁ」




 三者三様……俯くマグリョウをいれたら四者の反応は、おおむね好意に溢れる物だ。

 大した事をしてないサクリファクトに、過ぎた称賛を送ってる。


 ……私は絶対、褒めたりしない。

 別にそんなの、普通だもん。

 そんなの全然すごくなんてないし、いつも通りのサクリファクトで、普段と同じあのパーティのスタイルだし。

 コクーンハウスでロラロニーちゃんとお話するたび、彼らの無茶でとっぴな行動に驚かされた私にとって、そういう話は聞き慣れた。

 だから何とも思わないし、特別に思ったりもしないんだ。




「私はとても、感動した。登場から決着までが、まるでコミックのワンシーンのようだった。あの鮮烈なクライマックスは、私の胸に深く刻み込まれたのだ」


「いいな~、羨ましいな~。ボクもチイカちゃんを抱っこする役回りじゃなくって、サクリファクトくんの腕に抱かれたかったな~」


「……しかし、それと同時に――これでは駄目だとも思ったのだ」


「駄目、ですか?」




 ふと、クリムゾンが変な事を言いだした。

 これでは駄目? どういう事だろう?


 まさか、ノロケか何かかな?

 "サクリファクトに惚れてしまって、ハートがきゅんきゅん悲鳴をあげてる! もうだめぇ!"

 ……みたいな。


 ……だったら、嫌だな。そんな話は聞きたくない。




「彼らはおおむね初心者だ。他愛もない一般プレイヤーだ。そんな彼らに私は……【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】である【正義】のクリムゾンは、助けられた」


「ん~? ふぅん?」


「駄目だ。こんな調子じゃ駄目なのだ。救われ、助けられ、手を差し伸べられて――それはとっても嬉しかった。だけど今ではその気持ちと一緒に、どうにかしなくちゃ、とも思うのだ」


「……ふむ」


「昔私が助けた彼が、こうまで大きな力をつけて、恩を返しにやってきた。それは何物にも代えがたい喜びで、私の胸を強く打った。

 しかし、それと同時に……気づいたのだ。

 彼らはここまで来ている、と。我らの後を追うだけだったプレイヤーは、もう手が届く所まで迫っていると」


「…………」


「不甲斐ない。竜殺しという名にかまけて研鑽を怠った訳ではなく、日々をだらけて過ごした訳でもないというのに……あっという間に追いつかれ、助ける側から助けられる側になっていた。それはとっても、駄目な事なのだ」




 クリムゾンが語った内容は、名声を欲しいがままにする、有名人な自分を叱責する物だった。

 だけれどそんな彼女の表情は、その内容とはまるで違って。

 不思議と明るい、大きな希望が浮かんでいるようにさえ見えた。




「レベルも装備も勝っているが、気持ちの面で負けていた。"自分がどうにかする" っていう()()()みたいな物で、私と彼との性能差が埋められていた。私はそれが、とっても情けない事だと思ったのだ」


「…………」


「もっと沢山、頑張らないと。【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】と呼ばれる我々は、それに見合った力を持っていて、それを発揮するのを期待されているのだから。

 だからもっと、真剣に。再び訪れるラットマンとの最終決戦に向けて、竜殺しとして出来る事を……本気で全部やりきらないと駄目なのだ。

 トッププレイヤーとしての面目を、きちんと保って居続けて、その誇りを守り抜き。

 ……ああして頑張るサクリファクトくんに、置いてけぼりにされないように。

 みんなの目指すべき所として、きちんとトップで在れるように」


「……ふん」


「んふふ」


「ふむ」


「お~ん?」




 三者三様……俯くマグリョウをいれたら四者の反応は、それぞれ変わったものだった。

 わかっていないような顔の【脳筋】。

 片眉を上げ、口をへの字にする【金王】。

 獲物を見つけた表情で、舌なめずりをする【殺界】。

 前髪と外套の隙間から、射殺すような視線をよこす【死灰】。



「…………」



 ……そして私は。

【天球】スピカは。

 いつも通りのジト目な無表情、だったと思う。




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