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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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Re:behind開発者の願い「俺の屍を超えてゆけ」



     ◇◇◇




「え~、という訳で……このDive Game運営業務の大半は、マザー率いる完全無欠の可愛いAIたちがやってくれる。あ~つまり~……俺らニンゲンの仕事の大部分は、そんなAI様の補佐と、ガーガーうるせえ各所への言い訳って所だな~。そのどちらもが、生身の人間でなければ~……あ~、出来ない事でな~……」




 説明会が始まって、1時間半くらいか。ちょこっとダレてきた。つーかもうダルい。

 ここいらで一服したい所だが……相も変わらずキッチリ直立不動を守る部下の視線は、小休止も認めない強い意思を感じるぜ。どっちが上司だかわかんねえ。

 ……う~ん。


――……あ、そうだ。良い事を思いついたぞ。




「……と、話は変わるが……諸君らは晴れて正式な社員となり、このDive Gameを俯瞰で見る権利が与えられた。しかしただそれだけじゃあ、実感ってモンが無いだろう? なぁ? そうだろ? ん?」


「え……あ、はい」


「うむ、そうだろうさ。って事で、ここで一つ諸君らにご褒美だ。巷で『Re:behind(リ・ビハインド)』と呼ばれる世界を、神の視点で見てみようじゃないか」


「おお……!」




 にわかに色めきだつ新入りたち。いくらか子供のような表情を見せるのは、大なり小なり興味があったか、もしくは "開拓魂フロンティア・スピリット" のような物か。

 ……まぁ、後者か。野心に溢れて未知を求める者でなければ、うちには来ないだろうしな。




「桝谷~。お~い、桝谷よ~い」


『…………ちゃんと定型問語使って呼びかけて下さいよ。でないと、酔っぱらいの寝言と区別がつかないっす』


「おいおい、一部のテンプレートにしか呼応出来んとは……精神のサイボーグ化が順調じゃねぇか」


『小立川さんと一緒にしないで下さいよ……で、なんすか? どうせこっちから映像データを送れって言うんでしょうけど』


「何だよ、よくわかってるじゃねぇか。まさに "ツーカー" ってやつだな」


『……何言ってんすか気持ち悪い。どうせ小立川さんの事だから、そろそろタバコを吸いに行く口実を探し出す頃合いでしょ。開口一番の寝ぼけた声を聞いて、それを確信しただけっすよ』


「…………」


『それこそ、小立川さんの()()()()っす』




 ぎらりと視線を送ってくる部下も大概だが、桝谷は桝谷でとんでもないな。もしこの会話が新入りたちに聞こえていたら、俺とコイツが上司と部下という関係だなんて、とてもではないが想像出来ないだろう。

 って言っても俺としちゃあ、こういう距離感のほうが、ずっと気楽で良いってモンだが。




「そうかいそうかい、そんじゃまぁ、ヨロシクナ~」


『あ、ちょっと待って下さい』


「ん?」


『普通のPvE(モンスター戦)を映します? それともRvR(勢力間戦争)にしますか? 』


「……ああ、今日はチャイニーズ決起の日か。そんならそっちだ」


『……良いんすか? そこにいるのって、今日正式社員になったばかりの人たちでしょう?』


「良いんだよ。お偉方が "口が堅い" ってお墨付けてんだから。俺ぁ知んねーけどな」


『…………』


「遅かれ早かれ見るのなら、いつ見たって一緒だろ。そういう訳で、頼んだぜ~」




『……RvRなら、継戦が間延びする。つまりはゆっくり休憩出来て、思うがままにタバコが吸えますもんね。了解っすよ』




 すん、と通信が切られる気配。

 あいつめ。自分だけ捨て台詞を吐いて行きやがったな。


 …………それにしても……。

 俺の思考はつくづく筒抜け。やっぱりツーカーと言う他ない。




     ◇◇◇




 臭いもなければ毒素もない。

 空気を曇らせるだけの "吸うRAMメモリ(電子タバコ)" を咥えながら、同じような技術で作り出された白霧のスクリーンを見やる。


 " 仮想世界の観測を開始 " と表示される後ろには、風にたなびく日本国旗。

 マザーたちへDive Gameの管理を命じた際に、無理やりねじ込まれたいびつな愛国心による物か。

 それに合わせて、映像の左右にある各AIのチェックが赤から緑に変色し、機械音声で『ヨーソロー』『ヨーソロー』の大合唱が沸き起こる。

 ……SG-02Eu(エウロパ)ropa(ちゃん)の声がデカめだ。楽しそうだな、良い事だ。




<< 行くぞぉ! 隊長の赤い旗に続けッ!! >>


<< 走れ! 走れぇっ!! 出遅れるなよぉっ!! >>


<< 突撃ーッ!! >> << ダァーッ!! >>




 そんなタイトル画面を経て映し出されたのは、日本国のユニットを上空から見下ろすようにする神視点だ。

 その中に映る、声を挙げるヤツや、目立った事をするヤツ。

 そんなユニットから逐一ポップアップが出て、パーソナルデータが表示される。


 …………あそこに表示されているのは――『海原(カイバラ) (コウ)』か。

 ゲーム内ではクリムゾンと名乗る、あの【正義】の嬢ちゃん。

 一、十、百……いっぱい。相変わらずえげつない二つ名のリアルタイムカウントだな。生身の(観測機)じゃ追い切れんぞ。




<< 『光壁』を張れッ! 全開だッ!! >>


<< 最初から全開なのカ? 息切れするヨ >>


<< (アリ)共は、ヤベえ魔法(スペル)を持ってんだよッ! 油断してたら一発で終わらされるッ! >>


<< フーン。考えなしで有名な【炮烙】のチムイーにしては、まぁまぁまともな指示ダナ >>


<< やかましいわっ! >>




 そんな日本国勢の前に立ちふさがるのは、中国勢のユニットたち。種族はラットマンの設定だったか。

 俺がリザードマンをモニターした時と違い、その姿はすっかり人型だ。桝谷がチャンネルを変えたらしい。

 ついでにリアルタイムで行われる、微に入り細を穿つ自動翻訳は、一つの映像作品を見ているかのようだな。

 感情までをもきちんと解析し、出力された音声データに基づいた……()につくづく似せた音声。

 それと合わせて口の動きと発言に強いズレがあるってのも、やっぱり吹き替えに近いモンがある。




<< ――――……ここに余が在った事、存分に嘆き、弾けよ『黄金時代ゴールドラッシュ』 >>




<< ――――デケェのが来るぞぉっ! 光壁隊、持ちこたえろよぉ! >>


<< 僕らの魔宝石を貸してやってるんダ。ちゃんと守れよナ、雑兵ドモ >>




 日本側のユニット――――あれは、太客の重課金プレイヤー【金王】か。それによるスペルが、空一面を埋め尽くす。

 全てに持ちうる予測破壊度数値が表示され、画面いっぱい数字だらけだ。まるであのプレイヤーの課金額を可視化したようですらある。

『スイッチを押す仕事』で身を削って稼いでるっていうのにまぁ……よくやるもんだ。




<< ……ハッハァッ!! ゲイリーッ!! >>


<< 流石は僕のクソデカ魔宝石ダナ。これほどのスペルの触媒起用に耐えきったヨ >>


<< あの人食い洞穴の "風が吹く場所" にあった秘宝だ、そうでなくっちゃな! >>




 中国側で目立った動きを見せるのは……【炮烙】のチムイーと、【凌遅】のシャオ・シァン・シィン・ショエン。どちらも中国勢の一流たち。


 確か……この地において3番目となるダンジョン踏破が、こいつらによって為されたはずだ。そしてそれによって呼び出されたのが、あのシマリス型ドラゴンだったか。


 海岸から這い出て首都を襲ったあの日に続いて、今日も日本国を滅ぼしに来るか。こいつらは、二度も日本をドラゴンで脅かすか。

 嫌になるほどたゆまぬ敵対。しつこいまでの "嫌がらせ(ハラス)" 。

 私情を挟む事は原則的に許可されていないマザーたちだが、心情としては憎くて仕方がないだろうな。

 二つ名も古い時代の極刑の名だし。潔癖な "MOKU" であればこそ、とことんまで毛嫌いしていそうだ。


 ……不安がよぎるぞ。

 俺の可愛い娘たち……捻じ曲がった愛国心と、日本国プレイヤーを愛する心とで、迂闊なことをしないだろうか、と。




     ◇◇◇




 戦況は拮抗。

 数の差で、若干日本国が劣勢と言った所か。

 新入り共が食い入るように映像を見つめているのを良い事に、3本目のタバコに点火をする。


【正義】の嬢ちゃんが必死な顔で頑張っている。キャラクターアバターを精一杯に操作して、焦燥に塗れた顔をして。



 ともあれ、いくら劣勢と言えども――――だ。

 まだまだ日本側には余力があるし、いよいよとなったらドラゴンを無理やり叩き起こしたって良い。およそ考えうる最悪になるまでには、()()()()に残された対応の余地はある。切羽詰まったように見えて、本当の所、余裕はあるんだ。




<< ……くぅっ! ステーキ! それにクリムゾンさんっ! このままではマズいですよ! こんな敵の真っ只中で足を止めるなんて、的になるばっかりですっ! >>


<< わかっている! だが……ッ! >>




 だから、【正義】の嬢ちゃんよ。

 日本のリビハを発展させるため、初動を速やかにする治安維持のために選びぬかれた、『強い運命力を持つ優先ユニット』よ。

 まだ大丈夫、全然大丈夫だから……そんな顔は、しないでくれ。


 これは遊び(ゲーム)だ。君たちにとっては、楽しく遊べるMMORPGなんだ。

 そうであってくれよ。そうでなくては、浮かばれんぜ。




     ◇◇◇




 プレイヤーネーム クリムゾン・コンスタンティン。

海原(カイバラ) (コウ)』。女性。22歳。

 彼女の苦難の始まりは、このDive Gameのサービス開始初日からだろうか。


 何もない土地、真っ更な開始地点。

 目に入るのは、むせかえる程の大自然と……草原地帯にぽつんと置かれた『ゲート』だけという、ゼロの地平。

 そこでの簡単なチュートリアルが終わったすぐ後に、女性プレイヤーにいかがわしい言葉と視線を送っていた男性に対して、口頭での注意をしたクリムゾン。

『そんなにいやらしい目で見たら、彼女がかわいそうなのだ』と、あくまで一般道徳の範囲内にある価値観で、柔らかい注意をした彼女。


 そんな『正義感の強い女性』が受難の歴史は、その時から。

 無情にも、有無を言わさず定められた。



 敵は他国。敵は他種族。敵は外部の劣等種。

 目的は近い将来起こりうる大戦、つまりは現在巻き起こる争いに勝利する事であり、日本国プレイヤーの中で優劣を決める事ではない。

 ならば、人の集いで度々見られる『面白みのない悪』は……ただ、邪魔なだけだ。


 キャラクターとして確立された『嫌な奴』なら良い。それはプレイヤーたちのコミュニティを活性化させ、世界への没入度を引き上げる良質なしがらみだ。

 されども、『ただ悪いだけの奴』は不要。

 他人を傷つけ、物を奪い、悲しませるだけの存在――――言ってしまえば、クソつまらんP(プレイヤ)K(ー・キラー)は、我々運営にとってもプレイヤーにとっても、ただの害虫にしかなりえない。


 だからマザーは、その解決法を模索した。

 このDive Gameが開始される前からずっと、"より良()い結果()を作る(A)もの(I)" たちによって、どうすればいいか練られ続けた。



 そうして出来たのが、道徳的なプレイヤーを優先ユニットにあつらえて、そのプレイヤーに自治をさせるやり方。

 "邪魔なプレイヤーをアカウント停止に追い込む" 事が許されていない我々にも可能な、遠回しの民族浄化だ。


 …………運営側が、一人のプレイヤーを優遇するような行いは、やってはならぬ最大の禁忌とされている。

 それはこのDive Gameに携わる全体で共有される絶対的なルールであるし、ネットゲームとしても必ず避けねばならぬ事だろう。

 さもありなん。MMOに『主人公』が居てはならない。

 それをすれば、そうではないプレイヤーに『脇役』の烙印を押し付ける事になるからだ。


 そんな理由があって、具体的に指示をする事は、決して認められはしない。

 だから、クリムゾンへ知らせるのは――――『悪いヤツがここにいるぜ』という情報だけ。

 それを聞いて()()()()()は彼女の自由意志に任せ、こちらの都合で無理をさせる事は無い。



 ……悪どい話だ。

『善良な心を持つ者』に、『邪悪の居場所を知らせる』なんてな。

 正義に憧れ、悪いことを見過ごせない彼女。

 そんな彼女に悪事の生実況をしたのなら、彼女は必ずそこへ行く。

 それをきちんとわかった上での、彼女にささやく情報提供。


 我々は悪人の居場所を伝えているだけで、どうしろとは言っていない。そんな屁理屈を推し通す、小賢し過ぎる介入法だ。

 とんでもない嫌らしさ。

 ひでえ狡猾な "とんち" で私腹を肥やす、クソほど性格の悪い一休さんかって。




 そんな日々の『正義』の行い。

 それを続けて行く内に、マザーの思想も変化を見せる。

 ……そうしてそれはいつの間にやら、クリムゾンの持つ信念と、自分で考えた道徳心の下、独自のアルゴリズムで『悪』を認定し始めてしまうまでとなった。


 成長の限界を知らない "人より頭の良いAI" が、無数のプレイヤーとクリムゾンの思考を吸収し、思いもよらぬ結論を出す。

『悪』の定義を勝手に解釈し始めて、その対処法に身勝手な工夫を入れ始めた時には……流石の俺も焦ったぜ。思わず桝谷に、酒の席で愚痴ってしまうほどにはな。


 ……P(プレイヤ)K(ー・キラー)の存在を知らせる――悪人の位置を伝えるだけならまだ良い。

 だが、"あなただけが特別ですよ" なんて言葉を伝えるってのは、ギリギリアウトだ。


 プレイヤーに特別扱いしている事を伝え、自分は他と違う存在だと認知させるのは、やってはならぬ()()にあたる。

『特別扱い』する事と、『特別扱いの自覚を持たせる』事は、別だからな。



 ただ、まぁ……それの対策としてマザーがしたのは、人知を超えたマルチタスクによる『全員余すことなく贔屓する』事だったから、何とか突っ込まれずには済んだんだが。


 ヒトじゃ到底思いつけねぇよな。

『同時に最大五万人のプレイヤーと常時思念での対話をして、その全員に自分が特別だと思わせる』なんてのはさ。

 "運営のエコヒイキは存在しない。全てが公平に、特別なのです"。

 そんなマザーの思惑が、声なき声で聞こえるようだ。




     ◇◇◇




――――ともあれ、そうして誰もが特別扱いされる中。

 まんまと良いように使われて、発展のための民族浄化装置にさせられたクリムゾンは、来る日も来る日も『自治(ソレ)』をした。

 普通に狩りをする時間も取れず、のんびりお喋りをする暇もないまま、次々知らされる『悪』を滅ぼすため、毎日ひたむきに頑張った。

 おおよそまともではないプレイログ。ダイブ時間の大半が、利も益もない『正義』にあてられた。




 しかしてそれは、実を結ぶ。

 彼女は【正義】の名を掲げ、誰もが認めるヒーローとなった。

 ……夢が叶った。大義を果たした。思う通りの自分になれた。


――――……と、彼女に()()()()

 それをするマザーと、それを知ってて止めなかった俺たち。

 そんな2つの汚い大人が、【正義】の嬢ちゃんに、そうだと思わせた。まんまとな。




     ◇◇◇




 俺は、歯車だ。社会に組み込まれた一つのパーツだ。

 肩書こそ『管理局長』なんて名乗っちゃいるが、全体から見たら下の下の下……言う事を聞かせるよりは、言う事を聞く機会のほうが、よほど多い木っ端モンだ。


 そんなんだから、俺が自分でどうにかする出来る事は、まぁまぁ皆無も良いとこだ。

 上に言われりゃ地獄も作るし、記憶ですらも消し飛ばす。

 フィードバックで殺人するのも、とうとう熟れて来たってモンだ。

 そんな俺と(AI)たちだから、こちらの都合ばっかりで、一人のプレイヤーが持つ良心を利用して……内輪もめを自主的に、粛清させもした。



 それは仕方のない事だ。元々そういうゲームなんだからな。

 しかし。

 しかし、せめて。




<< ……どうしよう……一体どうしたら…… >>


<< クリムゾンさんっ! 僕らはもう下がりますよ!? 行きますからね!? >>




 せめて、君たちにとっては……これが()()であってくれ。

 ヒーローの責任なんか感じなくていい。

 己の無力さを嘆いて、頬を濡らすなんてしないでくれ。

 やらなきゃいけないという義務感を感じて……悲しい顔を、するんじゃない。


 せめて君の中だけでは、()()()()()()()()()()()世界ゲームであってくれ。



 明日も明後日もその先も、俺と(AI)で協力をして。

 灰色に染まった現実世界で、抗えない存在に踏み潰されながら。

 今まで通りにゲームが続けられるようにと――歯を食いしばって、堪えてやる。

 そうした俺らが、何の権限もない無力の中で、精一杯に()()()()をするからさ。

 汚い大人の勝手な都合は、我々でなるべく隠してやるからよ。


 だからせめて、何も知らない君たちは。

 その目に映った『VRMMO』の世界を、精一杯楽しくプレイして欲しい。


 君たちユニット――――いや。

 ()()()()()()()()たちは、そのまま何も憂いなく。

 仮想世界での日々を楽しく健やかに、羽根を伸ばして生きりゃあ良いんだ。

 それこそ社会に生きる俺たち大人の、出来うる限りの贖罪しょくざいってな。



 それだけが俺と、マザー以下管理AI群の望み。

 リビハプレイヤーである君らの健やかな日々と、頭が冴える "吸うRAMメモリ(電子タバコ)" さえありゃあ、俺の灰色な現実世界はハッピーで。

 人生バラ色、()()()()()




     ◇◇◇




<< ボクが不運の代名詞。ここにいる皆に、それをバラ撒いてあげようね >>


<< ……何だ。貴様は、何をしに来た…………何を持ってきた……ッ! >>




 ……おん?

 ……こいつ、【殺界】のアレか。イルカ研究所の狂気マッドなヤツ。

 どっちかっていうと()()()()の、特別招待枠での参加者だよな。


 あっちこっちでやりたい放題して、意思ある人間が持つ命への執着心を検分してると聞いてたが……ここで何するつもりだよ。

 こんないよいよの瀬戸際は、トリック・スターの出番じゃねぇだろ。




<< んふふ――――この場の誰もに、プレゼント。"忍法、台無しの術 ~っ!" なんてね >>




 そうして開かれる、大荷物。

 そこから出てくる白い髪。膨大な量のポップアップと、頭に鳴り響く(AI)からのコール音。


 …………おいおい、マジかよ。あの女。

 ここで彼女を連れてくるのか。そうして舞台をかき回すのか。

 それはもう、ピエロの所業じゃないだろう。

――――道化や狂言回しどころじゃない、紛うことなきデウス・エクス・マキナだ。



「……聖女」



 ぽつりと呟く新入りは、自分が声を出した事に気付いていないような顔付きで、食い入るように霧状のスクリーンを見つめる。

Re:behind(リ・ビハインド)』に興味を持つならば、彼女を知るのも当然か。


 …………丁度いい。電子タバコも吸い終わる。




 そろそろ、彼女の話をする時か。


 世界で最もRe:behind(リビハ)が得意な、【聖女】のチイカさんについての話を。







<< 第五章 『応えよ、響け、目を覚ませ』 完 >>




<< 最終章 『覚める夢』へつづく >>



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