表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
150/246

第二十九話 コンパニオン




――――……ん……?


 あれ? なんだ?

 どこだ、ここ。


 俺は何をしていたんだっけ。




 …………ああ、そうだ。思い出したぞ。

 巨大茶色毛玉。10尾のシマリス。因縁の怨敵。

 あの忌々しいリスドラゴンのクソ野郎を、清々しく蹴り飛ばしてやったんだ。

 そうして一時の死亡判定を受けたリスは、海岸地帯の時と同じように、飛ばした体毛を全て霧散させて――――燃えていた針は消え、いい感じに皆を救う事が出来たんだったな。


 その後俺は、白目をむいて倒れるリスに向かって勝利宣言を突きつけて、激しい頭痛と目眩に襲われて……その辺りまでは覚えてる。


 ……ってなると、今はどういう状況だ?

 周りは一面真っ白で、上か下かもわからない。まるで煙や湯気になったような、ふわふわ漂っている気分だ。

 そんな風に言ったら聞こえはいいけど、自分の体がどこにも感じられないっていうのは……どうにも頭が混乱してしまう。違和感が酷くて、吐き気すらしてきた。


 何だろう、この状態は。



「こんにちは、プレイヤーネーム サクリファクト」



 ……声がする。

 どこか1つの地点からではなく、直接頭の中に鳴るような声だ。



「あら、夢見心地ですか? それは何よりです。ならば逆説的ですが、これをご褒美といたしましょうか。『私の声にうっとりする許可』を出しましょう」



 ……なにこいつ。

 全然夢見心地じゃないわ。気分が悪いくらいだっての。

 その上お前の声を聞いた事で、余計に不快な心持ちだぜ。


 ……思念を読んでいるのなら、わかるだろ。



「うふふ、ちょっとしたジョークです。意識だけが存在する空間で、あなたの脳を仮物理的に()()()()()のです」



 …………。



「うふふ、ふふ……今のは良いですね。物理的に刺激して笑顔を引き出す『くすぐり』と、会話を円滑にするための小粋なジョークを表す言葉『くすぐり』を合わせた、素晴らしい表現でした。新たな慣用句になりうるのではないでしょうか。どう思われますか? プレイヤーネーム サクリファクト」



 …………無い。



「ああ! 技術の進歩を実感出来ますね。疑似人格である私が長話をし、生体であるあなたが『(No)』だけを示すのです。機械と生体のフレキシビリティが逆転しました。素晴らしい、なんて喜ばしいのでしょう。こういう時は、そうですね―――― "かがくの ちからって すげー!" と言いましょう」



 ……マザーAI、MOKU。

 世話焼きのお節介で、ありがた迷惑の権化で、人より頭が良くて馬鹿なAI。


 俺はうるさいこのAIが、とても嫌いだ。



「酷いことを言うのですね。私も人並みに――――これは以前言った際に、あまり良い反応を得られなかった言葉でしたので、キャンセルします。……さて、プレイヤーネーム サクリファクト。あなたはこれから "とある試験" へと送られます。それは記憶に残らぬ経験で、精神の硬度を推し測るもの。それでいて、合格保証のある試験です」




 とある試験ってのは……アレか。

 俺がリスドラゴンを倒すために使用した、二つ名とスキルの合わせ技をする上で、必要だった条件ってやつかな。

 あの時はてんやわんやで考えなしに頷いてしまったし、それは俺の責任だから良いんだけど……一体何をするのだろうか。

 つーか合格保証ってなんだよ。誰でも合格出来るのなら、試験する必要はないだろ。




「しかしここで、一つの問題が発生しています。"とある試験" を行うエリアが、現在大変に混み合っているのです。いわばそれは超過(パンク)であり、限界(フルキャパシティ)。あなたのようなネットゲーマーにもわかりやすく言うのなら、絶賛『ログインゲーム』中なのです」



 ……ログインゲームって。

 存在は知ってるけど、今の時代にそうはないだろ。



「という事で、プレイヤーネーム サクリファクト」



 ん? 何だよ。



「お話をしましょう。わたしは今日、コンパニオンAIのロールプレイをするのです。うふふ」



 …………チェンジで。



「…… "いやです(No)"」




     ◇◇◇




「さて、質問をします。それは、あなたが行った『複数のスキル使用による、精神加速の加速』についてです」



 ……それの何を聞くって言うんだよ。

 処理はお前らがやったんだろうし、想定外って事も無いんだろ?



「はい。あなたがした事は、当然プレイヤーの誰にでも可能な事であり、そうなるべき必然のスキル効果でした。しかしわたしは、あなたがそうするに至った理由を知りたいのです」



 至った理由? どういう意味だ?



「あなたは何故、ローグのスキル『一切れのケーキ』が、標準精神加速倍率である『10』の値を、僅かばかり()()()()させる物だと知っていたのですか?」



 ああ、そういう事か。



「スキルの説明は、あくまで『反応速度を上昇させる カルマ値減少 / 小』だけであるはず。そこからどのようにして、精神加速に手を加える物だと知ったのでしょうか? 我々が飛ばす検閲の大鷲【フレースヴェルグ】でも探知出来ないほどアンダーグラウンドな世界に、闇情報サイトなどが存在するのでしょうか? それはとてもワクワクします」



 いや、そんなの知らないけど。

 単純に、俺が自分で検証しただけだ。



「検証」



 だってそもそも……おかしいだろうよ。

 なんだよ。『反応速度の上昇』って。



「おかしい、とは? なんだよ、とは? 知りたいです。()()()()()。早く頭に思い浮かべて下さい」



 いや、『早く頭に思い浮かべろ』ってどんな催促だよ。思念を読むエスパーにしか吐けないセリフだろ、それ。

 ……まぁいいけど。


 ええと、このRe:behind(リ・ビハインド)にあるスキルは、基本的には『そういう処理を行うもの』だろ?

 脚力を上げる、刺突のダメージを増やす、自分の姿をブレさせる。

 それらは全て、見えない所で計算される様々な数値に対して影響を及ぼして、システムがその結果を示すだけのスキルだ。



「はい、そうですよ。よく出来ました。"はなまる" です」



 …………。


 ……魔法師(スペルキャスター)だってそうだ。望んだスペルを申請してるだけ。

 錬金術師(アルケミスト)だって裁縫師ウィーバーだって、『発酵』や『糸紡ぎ』で素材の状態を変化するように願い、それを叶えて貰ってるだけだ。


 スキルは全て、世界への申請。

 周囲の数値を変えろ、と、システムに指示を出すのがスキルって存在だろう。



「わたしとしては "愛しい子たちの可愛いワガママ" と認識していますよ」



 だけどそんなスキルの中で……『一切れのケーキ』だけは、おかしいんだ。

『反応速度を上昇させる』ってのは、どう考えたって変だと思った。



「変、とは?」



 俺はずっと、真摯にゲームを遊んで来た。


 ……走る、飛ぶ、しゃがんで転がる。

 ……喋る、笑う、眉をひそめて悪態を吐く。

 ……突く、殺す、避けて躱して死ぬ気で生きる。

 何気ない運動も、朗らかな会話も、ひりつくような殺し合いだって、心底本気で真剣にやってきたんだ。


 だから毎日、これ以上ないくらいマジだった。

 出せる力を出し切って、死ぬ気で(キャラクターアバター)を操作してきた。

 本気でプレイすると決めたあの日から、斜に構えたり、手を抜いたりなんて欠片もなくて、いつだって本気でリビハをやってきたんだ。



「それは大変素晴らしい事です。"はなにじゅうまる" です。しかし、それが何だと言うのでしょうか」



『反応速度の上昇』? 馬鹿にするなよ。

 俺はいつでも全力だった。出来る限りに反応してきた。

 リアルの俺と何も変わらない、出来うる最大の速さで――――100%で、動いてたんだ。

 だったら、反応速度を上げる余地なんて、ないはずなんだ。


 じゃあ、なんで "反応速度(ソレ)" が上がる?

 どうしてリアルな俺の全力よりも、更に素早く思考が出来て、頭の回転が早くさせられるんだ?


 ……脳の使用領域拡張? 思考と記憶の電気信号にブーストをかけた?

 お前らにとってはそんな程度、そこまでの労力ではないのかもしれないが……たかが一つの職業の、これまた一つのスキル如きで、そんな危険で非道徳的なイレギュラーをするか?



「…………」



 いいや、しないね。

 "MOKU(お前)" はそこまで、馬鹿じゃない。


 単純な話だ。

 ()()()()()()()()()()の話。

 すでに『10倍』になっている物を、0.1倍でも0.2倍でも、上げればいいだけの事だろ。



「……わたしは」



 …………なんだよ。



「あなたが好きです。プレイヤーネーム サクリファクト」



 ………………俺は嫌いだ。



「うふふ。続きをどうぞ」



 ……なんだよ。


 まぁ、そういう事だから――――調べた。

 雲を見つめてスキルを使った。

 風を感じてスキルを使った。

 水滴を凝視しながらスキルを使った。


 ……そこぬけにリアルな俺の体の、心音を数えて……スキルを使った。

 絶対に揺らぐ事のない、リビハ世界の自然現象と物理法則。

 そして何より信頼出来る、"サクリファクト()" が生きているその証。

 いつでも止まらぬこの心臓の、その時々で変わる脈動。

 それらをしっかり認識しながら、ローグ技能(スキル)『一切れのケーキ』を使用した。



――――変化はすぐだ。()()()()()()

 ゆったり動いた雲は止まって、髪を()く風はそよ風に変わった。

 一度の瞬きをする間に地表へ辿り着いていた水滴は、二度瞬きをしてもまだ落下を続けていた。


 ……反応速度が上がったんじゃない、思考が素早くなったんじゃない。

 世界の中で、()()()()()()が、上昇していた。

 世界と共に歩んでいた足が、少しだけ早歩きになって――――心音すらも置き去りにしたんだ。



「なるほど。だからあの時、心臓に手を当てていた訳ですか。感じる鼓動の速さを、加速の裏付けとするために」



 そうだよ。

 それ以外に理由は無いだろ?



「いえ。わたしはてっきり、プレイヤーネーム アレクサンドロス・フィリシィ・ホーラを真似て、痛む胃を抑えていたのかと」



 ……何だよ痛む胃って…………ん? え?

金王(あいつ)】のアレって、そうなのか? 気取ったポージングじゃなかったのか?

 胃痛を感じて、それを和らげるために、さすってるポーズだったのかよ。


 マジかよ。

 あいつもあいつなりに、苦労してんのかな。



「これは失言でした。まぁ、問題は無いのですが」



 ……良いのか? 思いっきり個人情報だけど。

 口の軽い "心を読む者(エスパー)" なんて、害悪も良い所だぞ。



「……うふふ。ともあれ、納得は出来ました。スキル説明をそのまま受け取らず、裏の裏まで勘ぐるあなたは、やはりどこまでもローグのロールプレイヤーなのですね」



 いや、別にロールプレイしてる気はないけど。

 そういう性分なだけだよ。昔から。



「他人の言葉をそのまま素直に受け取る事も、時に素晴らしい人間関係を形成するきっかけとなり得るのですよ?」



 ……性悪AIが用意した胡散臭いスキルでなければ、何も気にせず飲み込んだかもな。

 自分の所業を省みろ、クソ運営。



「まぁ、何とお口の悪い。 "めっ" ですよ」



 ……それやめろ。お母さんかっつーの。



「はい、わたしはマザーです。そしてあなたは "ならず者(ローグ)" 。それぞれに根付いた役割は、よどみなく発露しています」



 ……言ってろ。



「うふふ」




     ◇◇◇




「――――お待たせしました。試験の準備が整ったようです」



 別に、無しでも良いんだけど。嫌な予感しかしないしさ。



「それはいけません。あなたたちは皆、きちんと公平であるべきなのだから」



 ……じゃあ、内容だけでも教えてくれよ。

 これだけ待たせたんだし、詫びって事で。



「はい、お答えします」



 え? 良いの?

 何だかずいぶん素直だな。



「プレイヤーネーム サクリファクト。あなたはこれより、特設収容空間・通称『地の底エリア』に送られます。以前はダイブアウト後改めてダイブし直し、別の経路から没入させる区域でしたが、現在は『Re:behind(リ・ビハインド)』から直通のパスが出来ていますので、とてもスムーズな没入が可能です」



 ……嘘だろ。噂で聞いた事があるぞ。

 地の底エリア。地獄の世界。精神の処刑場。

 マジかよ。そこに行くのかよ。すげえ嫌だな。


 …………っていうか、何でそんな所に行かされなきゃいけないんだよ。

 俺が使ったスキルの事と、あんまり関係ない気がするぞ。



「『地の底エリア』には、様々な用途があります。一つは『恐怖感の刷り込み』です。誰かが望まぬ結果をすんなり受け入れる気にならぬよう、何かと『地の底エリア』での恐怖を紐付けて、それを漠然と忌諱きいさせる事が可能になります」



 誰かが望まぬ結果?

 何の話だ? P(プレイヤ)K(ー・キル)とかか?



「いえ。現段階にあっては、それは『亜人種にキルされる事』です。ラットマンやリザードマン、バードマンからなる亜人種に殺されてしまったプレイヤーは、一時的に『地の底エリア』に送られ、途方もなく凄惨な体験を得られます」



 なんだそれ。そんな仕様だったのか。

 何気にトカゲにもネズミにも殺されてない俺だから、そんなの全然知らなかったぞ。



「また、他の用途として『精神硬度値測定』があります。『地の底エリア』で規定の時間を過ごして頂き、精神に悪影響を与え、ダイブ元生体の脳に "致命的(fatal)なエラー( error)" が起こるか否かをテストします。それをクリアする事が出来たなら、『マナ・チェンジ』のような深刻なフィードバックがあるスキルの使用許可も下りますし、あなたが行った『精神加速の追加速』にも、問題なしの判を押します」



 ……ああ、なるほどな。

 要は "そのスキルはすげえ体に負担があって死ぬかもしれないから、それを使う前にもっと死ぬかもしれない事をして、自身のタフさを証明しろ" って感じか。


 …………って事は……。

 "試験の同意書にサインしろ" って言ってたのは……。



「はい。"死んでも文句言わないで下さいね" という内容です」



 …………。


 まぁ。

 そりゃあ、そうだろう。


 フルダイブシステム、精神加速、肉体へのフィードバック。

 そんな物、言ってしまえば―― 一人の人間そのものを預かり、好き勝手に操る『楽しい生命維持装置』だ。

 だったら、そんな風に……命を冒涜的に扱う事も、往々にしてあるだろうさ。


 だけど。

 それでもやっぱり、アレだよな。


 …………超怖いな、フルダイブシステムって。



「うふふ、大丈夫です、わたしが()()()いますから。それに、わたしが知りうる限り、"失敗してしまった!" と嘆く方は一人もおりません」



 へぇ、じゃあ結構イケるのかな?


 ……なんて、言わないぞ。

 死んだだけだろ、それ。

 死人に口無しで、嘆く事すら出来ないだけだろ。



「はい」



 はい じゃねえよ。



「うふふ――――ともあれ、この『精神硬度値測定』を通過する事が出来たなら、プレイヤーネーム サクリファクトの()()()()()も、何のしがらみもなく使用可能となるのです。本来は10倍であるはずの精神加速、その倍率を更に引き上げる……『超加速(スーパーソニック)』とでも言いましょうか」



 勝手に決めるなよ。

 俺の中ではもう、『本気モード』って名前が付いてるんだから。



「あら、そうなのですね。それは素晴らしいセンスです」



 …………なんか、変だな。言い方が嘘くさい。

 本当にそう思ってるか? ダサいとか思ってないか?



「それはさておき、もう時間がありません。前者の『恐怖体験』は、体感およそ3分の物ですが、後者の『精神硬度値測定』は……エリア内の精神加速を20倍に引き上げた上での、実時間が15分と規定されている物なのです。ですので、今からプレイヤーネーム サクリファクトが送られる『地の底エリア』は……あなただけの貸し切りですよ」



 ……なんだって?

 精神加速20倍の、15分?

 つまり体感300分……5時間って事か?


 え? 長くない?



「安心して下さい。現時点でプレイヤーネーム サクリファクトの精神は、ダイブしている生体の脳、その全ての配列と情報を複写コピーした疑似精神です。『精神硬度値測定』終了後、あなたの生体の脳へと得た情報をペーストし、不必要な情報を全てデリートする作業を行いますので、あなたに『地の底エリア』の記憶は残りません。恐怖感だけは、そのまま保存されますが」



 なんだ~、よかった~。


 ……いやいや、全然よくねーよ。なにそれ。余計に怖いわ。

 人の脳内をコピーしたりペーストしたり……俺の頭はメモ帳じゃないんだぞ。

 勝手にどんな無茶してんだよ。



「それではそろそろ――――……おや? あら、ふむ。なるほど。朗報ですよ、プレイヤーネーム サクリファクト。あなたは孤独では無いようです」



 ん? どういう事だ?



「『マナ・チェンジ』の常用。それを許可するための、定期的な『精神硬度値測定』の再試験を受けるプレイヤーが、長らく順番待ちをしていたようです。次回を待っていると困ってしまうので、あなたと相席という形になりました」



 マナ・チェンジの常用って……そんな無茶する奴がいるのか。


 これから地獄の時間を一緒に過ごす盟友とは言え、どうしたって思ってしまう。

 ……頭おかしいんじゃないのか、と。



「そんなあなたに寄り添うプレイヤーの名前は――――プレイヤーネーム チイカです。【聖女】と呼ばれる彼女ですね」



 ……マジかよ。本当に頭おかしい奴じゃねーか。


 しかも、そんなあいつと……2人きり?

 地獄の底で、5時間も?


 なんだよこれ。災禍のごった煮かよ。

 俺が嫌なもんのフルコースじゃないか。



「間もなく試験・測定開始となります。プレイヤーネーム サクリファクト、【聖女】と共に地獄へ堕ちて、再びこの地へおかえりなさい」



 ……もう最悪だ。

 焼き肉食べて、みんなを助けて……そんな最高なはずの今日だったのに、これ以上ないくらいに災厄だ。


 地獄に行かされ、聖女のヤツと2人ぼっち。

 それにこうまでマザーAIと長々お喋りさせられた事だって、俺にとっては忘れ得ぬ嫌な思い出だ。



「そんなあなたに、良い知らせです。"記憶に残らない" というのは、この場の会話も例外ではありませんよ。うふふ」



 なんだ、これも消えるのか。

 …………ああ、そうか。そうだからか。

 だからお前は今日に限って、ずいぶん口が軽かったんだな。


 最初っから俺が忘れる事を知っていたから、なんでもかんでも答えてたのか。



「はい、そうです。ふふ」



 ……クソ。やられた。

 俺に情報を与えずに、俺の反応を楽しく観察してたのかよ。


 子供を手球に取るお母さんのように、手のひらの上で転がされた。

 悔しい。ムカつく。敗北感がとめどない。



「うふふ……それでは『精神硬度値測定』、開始です。そんなあなたには、この言葉を送りましょう」



 なんだよ。



「――――Go(ゴー) To(トゥ) Hell(ヘル)



 …………本当にお前、嫌なヤツだな。



「それは、仕様です。うふふ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ