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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第二十五話 バディ 下




――――男だけが集まった場合、果たしてどんな会話をするだろうか。

 それはどこのどんな人々でも、似たようなものだと思う。


 好きな動画や映画にコミックなどの、取るに足らない趣味の話。

 あとは最近やってるゲームとか、食べて美味かった食べ物の話もするだろう。

 それと他には……綺麗な子を見ただとか、こういうタイプが好きだとか、そんな色気づいた話をするかもしれない。

 そして、そんな話の合間合間に、下ネタだとかつまらないジョークだとかをたっぷり挟み込む。


 男ってのはそういう物だ。いつまで経っても子供なんだ。

 年がら年中下らない与太話と悪ふざけをして、互いに馬鹿を晒して盛り上がる。

 それこそ、女の子が見たらすっかり呆れてしまうような、どうしようもなく低俗で幼稚な会話ではしゃぐばっかり。それが男の友人関係って物だろう。


 それに加えて俺とリュウは、リビハを共にプレイする同士だ。

 だから当然会話の中身は、リビハの話が多くなる。もちろん、ふざけた話をしながら。



『この前こんな物を見たんだ』

『こっちはこういうのを見つけたぜぇ』

『俺が見た物のほうがすげえな』

『何言ってんだ、俺っちの勝ちだろぃ』


『今度はこういう事がしてぇなぁ』

『馬鹿を言うなよ、アレを食うのが先だろ』

『それはリアルで食えやい』

『リビハで食うから良いんだよ』


『武器を新調したんだぜ』

『おいおい、すげえじゃねぇか。ちょっくら見せてくれや』

『凄いだろ。高かったんだぜ』

『こいつぁ上等だ。貰っていいのか?』

『いや、あげねーよ』


『新しいスキルを覚えたぞ。こんな風に使おうと思ってる』

『そんなら、こういうのはどうだ? 良さそうじゃねぇか?』

『……確かに良いかもな。早速やってみようぜ。お前で試し斬りしていいか?』

『……いい訳がねぇぜ』



 …………そうしてからかい合いながら、一緒にリビハの世界を満喫して来た。

 得た装備品を自慢しあって、互いの成長を確認し合う。広大な仮想世界で見つけた物で盛り上がり、新たな発見を共に求めるってのもまた、楽しい事だ。

 戦い方や工夫の仕方を語り合い、馬鹿を言いながら色んな連携を考えるのだって、時間を忘れるほどに面白い。

 そういう会話と共に同じ世界を楽しむ事は、MMOでしか味わえないご機嫌な交流ってやつだろう。


 これから俺たちがする作戦は、そんな中での思いついた、悪ふざけの延長にあるもの。


――――決まれば必ずケリがつく、俺たちだけの必殺技。

 リュウと俺じゃなければ出来ないし、俺たちだから出来る合わせ技だ。




     ◇◇◇




「……【死灰の片腕】」


「ヂュウ!?」




 マグリョウさんが持つ二つ名の一端を借り、灰のオーラを身に纏う。

 ()()である【死灰】が力をアップさせた事により、今までよりも濃密な、重さを感じそうなほどにはっきりとした幻惑の灰が湧き出した。


 次いで、貰った『灰のポーション』を割って開ければ、辺りを灰が包み込む。

 ……俺の装備は黒っぽいから、完全に見えなくなる訳じゃない。ぼんやりさせる程度の物だ。


 それでいい。ギリギリ見えるくらいが丁度いい。

 何しろ俺を見失って貰っちゃあ、困るんだ。

 ラットマンにも……リュウにもな。




「これでも食らえっ!『ローグ印の砂かけアタック』!」


「ヂュッ!?」




 そんな灰色に紛れつつ、地面の砂を握って【ホウラク】の顔面に投げつけてやる。

 たまらず顔を背けるソイツは、忌々しそうに片目を瞑って。


 スキルでもなんでもなく、かつ、卑怯で悪どいノーマナー戦法だ。

 どうだラットマン。ならず者(ローグ)ってのは、そういう存在なんだぜ。




「オラァ! どんどん来いやぁ!」


「……ちぃ」




 灰の向こうで薄っすら見える、赤っぽいのと黒っぽいのが声を荒げる。

 そのうるささが今はありがたい。どこに居るのかわかりやすいしな。


 ……もしかしてリュウは、そのために声を出してるのか? 俺に居場所を知らせるために?

 …………いや、それは無いか。リュウにそんな器用さは無い。




「…………」


「ヂュ、ヂュヂュゥ~ッ!」




【ホウラク】が燃える鉄骨を振り回すのは、風圧で灰を散らそうとしているのだろうか。

 脳みそまで筋肉っぽさがあるけど、それなりに知恵を働かせるらしい。


 しかし、それがかえって隙となる。

 巨大な武器の、全力を込めたフルスイング。

 その大振りの合間を狙って、俺たちが策を始めるのは――――




「――――今だっ! リュウ! 来いっ!!」


「応ッ!」


「チチ……ち?」




【ホウラク】、俺、リュウ、【リョウチ】の一直線。


 俺は身をかがめて【ホウラク】の眼前に。

 リュウはこちらに真っ直ぐ駆け寄り、大太刀を大きく振りかぶる。




「……ヂュウッ!!」


「…………ちぃ」




 俺を見つけた【ホウラク】が、低い姿勢の俺を叩き潰す構えを取った。

 リュウを追う【リョウチ】は、その背後から首を刈り取る用意を始める。


――――チャンスは一回。失敗したらきっと死ぬ。馬鹿な俺たちの全賭けだ。


 ……ドキドキしてきた。

 ああ、クソ。すげえ楽しいな。俺は今、最高にゲームしてる。




「よっしゃサクの字! 受け取れやぁッ!」


「――――なっ!? 馬鹿、下手くそかよっ!」




 振りかぶった大太刀を、リュウがこちらに投げつける。

 作戦通りの動きだけれど、回転してるのは想定外だ。どうして回した。真っ直ぐ投げると決めたはずなのに。




「ああ、もうっ! いてぇっ!」


「泣くなよサクの字ぃ! 男だろぉ!?」


「泣いてねぇっ!」




 全てが都合よく行くわけもなく、煌めく刃をがっしり掴む形となった。

 手のひらがすぱりと斬れて、鈍い痛みがじわりと広がる。


 …………こんなの、全然平気だけどな。

 "これからのリュウ" のほうが、ずっと痛いんだろうしさ。




「ヂュウ~ッ!」


「チチッ……ちぃ」




 俺の頭上に、燃える大鉄骨が迫る。

 リュウの背後で、死神の鎌がぬらりと光る。


 リュウは真っ直ぐこっちに来ている。サラシの巻いた半裸の姿で。

 俺の手にはリュウの大太刀。位置関係は理想の状況。




「…………出来る。俺なら出来る。そればっかりやってきたんだ」




     ◇◇◇



 マグリョウさんは言っていた。

 "素人は、とりあえず突いとけ" と。


 ファンタジーの定番武器、ロングソード。

 そうしたいわゆる "剣" というのは、実は意外と扱いにくい代物だ。

 なぜならそれは――――上から振り下ろす、横から薙ぐ、下から斬り上げる――――と言った『剣の基本動作』、それらをこの "仮想現実" で始めてやる時、およそ誰もが空振ってしまうんだから。

 ……実際、俺もそうだった。

 ゲームを始めてしばらくは、『ダメージが低い』ではなく、『ミス』ばかりだった。



 マグリョウさんは言っていた。

 "とにかくまずは、当てる事。他の話はそれからだ" と。


 普段は現実リアルに生きる俺たちだ。剣を振って何かを斬るなんて、当然のように未経験である。

 そうなってくると大体のプレイヤーが、剣のリーチを把握出来ずに、()()()事すら出来やしない。

 そりゃそうだ。踏み込み具合がわからなくって、剣筋の角度を知らなくって、どこまで届くか検討もつかないっていうのに、動いて跳ねる獲物を華麗に斬るだなんて……そんな事をいきなり上手く出来るのは、一部の天才だけだと思う。



 マグリョウさんは言っていた。

 "そうして慣れてけ。剣で何かを傷つけることに" と。


 眺めている時はずいぶん立派に見えていたのに、いざモンスターとの戦いとなると、予想以上に長さが足りない。

 届くと思った距離でも届かず、かと言って思い切りよく踏み込めば、近づきすぎて振りが()()()。握った手に近い所で、殴りつけるようにするだけとなってしまう。

 そんな感じで、とても難しい。『剣で斬る』というのは、慣れがいるんだ。


 だから、素人の内は "突き"。

 手に持つ剣を、敵に向かって伸ばすだけ。間合いがわからない初心者だって、走って突くなら簡単だ。

 自身の剣が届く距離を測る事にも役立つし、戦いの呼吸を覚えるためにも有意義なものだろう。



 そして最後の仕上げとして、マグリョウさんはこう言った。

 "当てるのに慣れたら、いよいよ殺せ。刺したら死ぬ場所を突けばいいんだ。簡単だろ?" と。


 スポーツとしての剣技ではなく、殺すため。

 この世界で数多の経験を積んだマグリョウ先輩が、この地で生き抜くために教えてくれたその技を、俺は愚直に繰り返してきた。


『ダメージ判定――"ミス"』を避け、確実に怪我をさせる攻撃方法。

 狙いはいつも『クリティカル』。突いたら死ぬ場所を狙って突くだけ。

 それが俺の基本技。

 それがRe:behind(リ・ビハインド)のゲームキャラクター "サクリファクト" の、『たたかう』コマンドだ。




「ウオオッ!」


「チ……ちぃ、ちぃ」


「ヂュウ~ッ!」




――――迫る。

 リュウが迫る。【リョウチ】が迫る。俺の頭上に鉄骨が迫る。


 ……信じろ。

 片手で刃を、片手で柄を握りしめ。

 手のひらに熱い血を流しながら、俺は出来ると信じ込め。

 リュウのサラシをぶち抜いて、その背後にいる【リョウチ】を、射殺す。それだけを考え、研ぎ澄ませ。



 ……信じろ。

 尊敬できる先輩の言葉を聞いて、積み重ねてきた自分の腕を。

 共に過ごした相棒の、熱き漢の魂を。


 リュウは俺を信じてる。失敗しないと確信してる。俺の "突き" を疑わないから、こうしてその身をさらけ出す。

 俺もリュウを信じてる。頭上の鉄骨は、リュウが必ず受け止める。無手の両腕と漢気で、必ず俺を守ってくれる。


 だから、俺なら出来るんだ。

 五尺もある大太刀を借り受けて、リュウを殺さず、その裏に居る【リョウチ】を殺せる。

 リュウのサラシを巻いた腹……その腹の『突いても大丈夫な場所』を突く。

 そして、そのまま貫いて…………リュウの背後で首刈りを狙う、【リョウチ】の命を突き止める。

 俺なら出来る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 大丈夫。俺なら出来る。



 だから……信じろ。

 突け。マグリョウさんに習ったその技で。

 貫け。頼れる相棒の体の向こうへ、致命の一撃を届かせろ。

 穿て。俺とリュウとで考えた、ゲームでしか出来ない捨て身戦法で。


 狙うは相棒、その裏側。

 怪我をいとわず、痛みを受け入れ、俺とリュウとで勝ちを信じろ。







「――――……食らいやがれっ! 俺の必殺、『普通の突き』っ!」


「チチ……ち……チッ!?」




 相棒の胸元に飛び込むようにして、大太刀を根本まで突き入れる。

 ……手応えは完璧。リュウの身体ごと【リョウチ】を突き刺して、『初見殺し』は、ここに成る。




「噴ッ! 気合ィッ!!」


「――――ヂュッ!?」


「…………ちぃ……」




 ……2匹のラットマンと、2人のプレイヤー。

 その4つが重なるここに、合計3つの血しぶきが舞う。


 1つは、大太刀の刃を掴んだ俺の手から。

 1つは、俺がぶっ刺したリュウの腹から。




「……あ~……わりぃ。深めに突いちまった」


「かかっ! なぁに、屁でもねぇや」



「チ……ち、ち……ッ」




 そして最後の1つは、リュウの裏に居る【リョウチ】の心臓から。


 ……どれもこれもが赤い血だけど。

 死ぬのは黒いローブの【リョウチ】、お前だけだ。




「……これが俺たちの『うらぎり』作戦」


「名付けて、『裏・伝説の漢斬り』でぃ!」




 ……そんなスキルは存在しないし、ダサいからやめろって言ったのに。


 ともあれ、ひとまず、俺たちの勝ちだ。

 ざまあみやがれ、ラットマン。




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