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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第二十四話 バディ 上




――――宵闇が意思を持ったかのような、艶消し黒ローブのラットマン。


――――雄々しい体躯に激しく燃え盛る棒を持つ、赤い毛並のラットマン。


 誰が見たってすぐわかる、軽装の技量タイプとゴリ押しパワータイプの2匹だ。

 だったら……適した方をこのまま相手取ろう。


 速さには速さ。

 力には、力で。




「リュウ! そのまま燃えてるほうをやってくれ!」


「合点ッ!」


「チチ……ち」


「ヂュゥッ!」



技能(スキル)、『一切れのケーキ』」




 まずは様子見。素直な突きと薙ぎ払いだ。

 ならず者(ローグ)のスキル、反応速度を上昇させる『一切れのケーキ』を使用して、黒いローブに斬りかかってみる。


 スキルの効果により、体感で普段の1.3倍くらいに早い刺突が繰り出せた。

『伸びるカエル』程度なら、これだけでさっくり終わるんだけど……どうだろうか。



「チ……ち?」



 ひらり、と黒いローブが揺れる。

 そこそこ自信があった攻撃は、何の苦労もなく躱されて。


 ……風にたなびく洗濯物のように、ふんわりとした無重力っぽい動きだ。のれんを腕で押すような感覚。もしくはヌカに釘を打つって感じだろうか。

 ヌカってのが何なのかは、知らないけど。炭酸飲料かな?



「……ち」



 俺の横薙ぎを躱す動きから、流れるように反撃行動へ入る黒ローブ。

 地面すれすれを滑るようにしながら移動して、狙いは恐らく――――俺の足首。両手に構えた鎌のような武器で、刈り取るように斬り落とす動きだ。


 咄嗟に足を引こうとするも、引く方向に鎌の刃が回り込む。

 ハンガーがクローゼットに掛けられるように、俺の足に()()()()()()()


 下げる足の退路を塞ぐ、逃げ場をなくす囲い込み。

 "鎌" の形状を、存分に発揮させる使い方だ。




「くっ……そっ……!」


「……ちぃ」




 ……鉤爪のような、湾曲した武器。

 いかにもファンタジーって感じの物だけど、それと同時に正直()()()()だと思っていた。

 そういうロールプレイをするための、個性に特化したロマン武器だと。


 だけど……これが存外、避けにくい。

 くるりと曲がった剣刃で足を狙われ、すれ違いざまに引っ掛けられて、引っ張るように斬りつける。

 地についた足を包み込むようにするそのカマは、俺の回避行動を阻害する。




「……痛ぇ……っ」


「チチ……ちぃ」




 正面から遅い来る黒ローブの攻撃に、バックステップで対応しようとし……足を浅く斬りつけられた。

 逃げようとする俺の動きをわかっているから、それを踏まえたやり方だ。

 俺が後ろに下がるだろうと見越して、足を引いたら斬れるようにと()()()()()


 その形状から、"引いて斬る" 事ばかりを得意とするのだろう。

 だからこそ、後退を許さない。かかとを後ろに下げれば、そこに刃が来る形だ。

 

 ……あれ、厄介だな。

 なりきり用の遊び武器なんかじゃない。手の延長かのように使いこなしている。

 そしてその上、それほど変わった武器だからこそ、こちらは不慣れを押し付けられるぞ。




「なんだよ、その変な武器。初見殺しだろ。そういうのやめろよな」


「チチ……ち?」


「……どうしたもんかな」




 地面ギリギリに身を伏せて、打撃力より確実性を優先した、浅くぎ続けるようなヒット&アウェイ。

 そうしてちくちく足をけずられていれば、足はそのうち使い物にならなくなるだろう。


 そして、いよいよ移動が出来なくなったら……あの鋭利なカマで、首をスパっと刈られるんだ。

 恐らくそれが、あいつが好む盤石で、何度も繰り返した勝利の方程式。




「……これは……キツいな」


「チチ……ちぃ」




 鎌の特性と、コイツの戦い方は……大体理解した。

 その上で、わかった事がある。


 アレを避けきるのは、俺には無理だ。




     ◇◇◇




 出会い頭に()()()()()……とか言ってる場合じゃない。

 考えよう。俺に出来るのは、そればっかりなんだから。


 …………とにもかくにも、まずは攻撃。避けきれないなら、その前に殺しきる。

 俺がこの場で出来るのは、コイツを倒す方法を考え、それをする事だけだろう。



 俺はならず者(ローグ)で、戦闘職としては下の下な存在だ。

 素早い生き物を狙って斬れるほど、剣が得意な訳じゃない。

 ひらりはらりと木の葉のように舞う【リョウチ】を、すぱりと両断出来る手腕は持ちえない。


 ならば、スキルはどうか。

 ダメージ反射効果のある『ヴァイヴァー』……は、コイツには絶望的に相性が悪い。

 細かく刻む攻撃の前では、大した効果も得られない。あれは反撃回数が3回と決まってるしな。


 罠の隠蔽率を上げる『セタ』は……いやいや、目の前で罠を設置しておいて、隠蔽率も何もないだろ。バレバレだし、そんな時間もない。

 せめて、首都で買った『踏んだらトゲが弾け出る玉』が残っていたらよかったけど……すっかり全部を使っちゃったし。


 回復効果の阻害は……無意味だ。

 敵視の上下は……もっと無意味。

 強化効果の解除……いや、相手は "無強化(ノー・バフ)" だろう。


 俺の得意な『シャッター』は……魔法師(スペルキャスター)以外にはほぼ無意味だし……。


 困った。どうにも思いつかないぞ。




「……参ったな」


「……ち」


「後は『爆発ポーション』で、お前もろとも自爆するくらいしか――――」




「ぁああッ! あっちぃッ! ちきしょうめッ!」


「…………リュウもか」




 聞き慣れた声に顔を向ければ、ボロボロになった赤い男が目に入る。


 身の丈ほどもある大太刀を構えながら、荒い息を吐き出している、リュウジロウ。

 そんな燃える男の体には、その名の通りあちらこちらに火がついている。名実共に『燃える男』だ。

 ……いや、全然笑えない。まずそうだ。




「だあァッ!」


「ヂュウッ!」




 リュウと大きな【ホウラク】のラットマンが、互いの武器をぶつけ合う。

 がぎ、と激しい音と合わせて、火花と火の粉が混ざって跳ねる。


 ……そうした光景を目にして思うのは、あの【ホウラク】の持つ武器のデカさだ。

 リュウの持つ大太刀、"五尺(約150cm)" もある特注品のそれと、何合もぶつかりあう【ホウラク】の "燃える棒" 。

 それはリュウの武器よりずっと大きく、そして太くて、デカかった。


 棒というよりは、柱か丸太。

 カタカナの『エ』のような形状をしている事から、鉄骨か何かなのかもしれない。

 そんな異常なサイズ感のモノが、轟々と音をたてながら燃え盛り、ぶんぶんと振り回されている。




「くっ! がっ! こんチキショウッ!」


「ヂュゥウ~ッ!」




 ……それは、ぶつけ合いでは無かった。

 リュウの攻撃の全てを、【ホウラク】が弾き返している。


 唐竹、袈裟斬り、横一文字。様々な始点から、鋭く放たれるリュウの太刀筋。

 そのことごとくが、【ホウラク】の棒で堂々と打ち返される。


 そこにあるのは、絶望的なまでの力量差だ。

 正面からの打ち合いで、リュウに勝ち筋は1ミリも見えない。




「てやんで――――ガハッ!」


「ヂヂュウウゥゥ~……ッ!」




 そして時折、腹を突き……またある時は、腕を打つ。

 その都度リュウはよろめきながら、打撃を食らった所を炎上させる。

 ゲーム的に言うのなら、『燃焼』という "継続ダメージ(DoT)" を与える攻撃と言った所だろうか。




「ゼッ……カハッ……! ハァッ! ……ちっきしょう……ッ!」


「ヂュウ!」




 息を荒げるリュウの表情は、あいつにしてはずいぶん珍しい、はっきり苦しそうなものだ。

 痛いや熱いというよりは――――息苦しそうな呼吸音。火によって酸素が薄められているのかもしれない。


 そういう武器、なのか? それとも二つ名効果か?

 クリムゾンさんが言った【ホウラク】という言葉が、それっぽい物を指すのだろうか。


 ……わからない。

 けど、何にしたってあの攻撃は……厄介すぎる。

 厄介すぎるから、よくない状況だ。


 俺もリュウも、()()()()()()()()()()()()()



 これは、駄目だな。


 正直に言えば…………勝ち目がない。




     ◇◇◇




――――ああ、そうだ。

 このままじゃあ、勝てない。


 だから、変えろ。この場の全てを活かすんだ。

 技術も力もレベルも持たない俺の策と、そんな俺を信じて真っ直ぐ行くばかりのリュウで、いい感じにどうにか頑張ろう。


 俺は【リョウチ】に勝てない。

 リュウは【ホウラク】に勝てない。


 だったら――――俺とリュウとで、どうにかするんだ。




「リュウっ! スイッチだっ!」


「ス、ス……? 酢飯だァ!?」


「……全然ちげーよ! 交代だっての!」


「なるほどなァ! 合点承知の助ぇ!」




 まめしばとロラロニー。

 2人が共に過ごした時間は、以心伝心の連携という形で実を結んだ。


 だったら、こっちもそうだろう。

 俺とリュウも――――それなりに時間を共にしたんだ。


 女子2人組、まめりばとロラロニーが "ペア" だと言うのなら。

 俺たち2人は、切っても切れない "腐れ縁" って所だろうか。




     ◇◇◇




「ヂュウ~ッ!」


「……『我が二枚貝』『一切れのケーキ』」




【ホウラク】の名を持つラットマン。その肉体は強靭だ。

 今なおメラメラ音をたてて燃え盛る、鉄の棒によるぶん回し。こんなのに俺が当たったのなら、ピンボールのようにふっ飛ばされてしまうだろう。


 ……当たったら、の話だけど。




「……そんな大振り、当たるかよ。俺は痛いのが嫌いなんだ」


「ヂュウゥゥ~ッ!」




 反応速度を上昇させる『一切れのケーキ』と、ローグスキルの効果を上げる『我が二枚貝』。

 その二つを同時に使用し、ひたすら回避だけを考える。


【ホウラク】の武器は、巨大だ。リュウの大太刀よりもデカい。とにかくデカい。

 そんな巨大な物であるから、振る予兆から全てがわかる。

 振り始めできっちり見切れる。


 あの【リョウチ(黒ローブ)】の速度にはついて行けなかった俺だけど、こんな大雑把な攻撃だったら……避け続けるのは楽勝だ。



 そして。




「オラァ!」


「チ……ち」


「この程度のかすり傷が、なんぼのもんよぉ!」




 リュウと【リョウチ】も、悪くない。裂帛の気合で押しまくっている。

 細かい傷を物ともしない、燃える漢のガン攻めに、黒ローブは()()()()だ。




「……ちぃ」


「俺っちの熱い雑草魂、そんな小せえ草刈り鎌で、刈り取らせてたまるかよぉッ!!」




 単純な話だ。

 ()()()()()()()

 さっきまでのは間違いで、こうする事が正解だった。


 素早い【リョウチ】に、パワフルな【ホウラク】。

 ならば、その速さに置いていかれないように "サクリファクト()" が【リョウチ】に対抗し。

 力負けしないようにリュウが【ホウラク】を相手取るのが上策だ……と、そう思いこんでしまっていた。


 しかし、それじゃあ駄目なんだ。 "思い上がっていた" と言ってもいい。

 結局俺とリュウなんて、初心者あがりの中級者。取るに足らない一般プレイヤーでしかないんだ。

 そんな俺達が、まばゆい二つ名を持つトップ層の『得意』を上からねじ伏せようだなんて……調子に乗るにも程がある。


 俺たちがするべき最善は、正面からのぶつかり合いなんかじゃない。

 姑息で狡猾に弱点を見つけて、卑怯で悪辣に弱みにつけこんで、死に物狂いで勝ちを目指す事だったんだ。




「ヂュウ~ッ!」


「ヂューヂューうるさいな……焼き肉屋かっつーの」




 俺と【ホウラク】の相性は、言わずもがな。

 殺すには至らないけれど、回避に集中してさえいれば、相手をする事はいくらでも出来る。


 そんな中で、たまに炎がちりちり吠えて俺の体を襲うけど……その程度だったら、何の事もない。

 そんなボヤで火傷するほど、俺の体は不慣れじゃないんだ。


 何しろ、この俺……サクリファクトは。

 鬱陶しくてやかましい "燃える男" のリュウジロウと、灰と塵の中でニヤつく "灰色の男" のマグリョウさん。その2人といつも一緒に居たんだからな。

 ……暑苦しい2人と居たから、そういうのには最近慣れてる。




「チチ……ち」


「だりゃァッ!」




 そんな相性抜群の俺と【ホウラク】のラットマン。

 しかしそれは、あくまで前座でしかない。


 向こうで競り合う1人と1匹、リュウと【リョウチ】の一騎打ち。

 その組み合わせは、俺よりよっぽどとびきりだ。



【リョウチ】の武器は、鎌。

 それは湾曲した刃を持ち、()()()()事を得意としている。


 ……引いて、切る。

 つまり、()()()()()()か、もしくは()()()()()()を殺す武器だ。


 だから、リュウが良い。

 燃える漢でアホで愚直な……猪突猛進を体現するリュウが、最高なんだ。




「……ちぃ……?」


「漢一匹リュウジロウ、いざ、いざァッ!!」




 地面を這いずり、両手の鎌を足に引っ掛ける。"普通の奴()" ならそこで焦って、なんとか回避を試みる。

 逃げるか飛ぶか、後ろに下がるか。足を上げたり武器で受けたり、とにかく鎌から逃れようとする。

 そこを狙った "引いて斬る" アクションで、【リョウチ】は獲物を削ぎ落とす。



 だけどあいつは……リュウは違う。


――――()()

 鎌を持つ【リョウチ】に向かって、ただひたすらに突き進む。


 鎌が引かれるその前に、リュウが自分で前に行く。




「ウオオッ!『伝説の漢頭突き』だオラァッ!」


「……ち……っ」




 引っ掛けられた鎌だって、自分の大太刀だって気にせずに、ただ眼前の敵へと突っ込みまくる。


 そうして気付いた時にはもう目の前で、"引いて斬る" 余地なんてない。

 引くより先に迫った漢が、大太刀片手にぶん殴り、胸ぐらを掴んで頭突きをする。


 退()()()()から、()()()()

 逃げる獲物を刈り取る鎌は、逃げない漢を殺せない。




「流石のアホさだ、惚れ惚れするな」


「ヂュゥゥ~ッ!」




 何があろうと臆さずに、ただひたすらに前を向く。

 躊躇ちゅうちょは恥だとかなぐり捨てて、『真っすぐ行ってぶった斬る』。

 亡くした母の名 "タテカワ" を、その身に背負って練り歩き、いつしか現実リアルの空にまで、その名をあまねく轟かせ。

 草葉の陰まで届かせるため、気鋭と武功で成り上がる。

 その志だけを胸に持ち、一度たりとも振り向く事なく、己が生き様を貫き通す。


 それが無敵の百鬼無双。

 俺の相棒、リュウジロウ・タテカワだ。




「おうおう、どうしたネズ公ッ! ちっとも効かねぇぞぉ!? このリュウジロウを打ち倒したきゃあ、腹の底から どおんと来いやぁ!!」


「…………ちぃ……」




 …………大した奴だよ、本当に。

 いつでもどこでもうるさくて、食いしん坊で大雑把。

 考えるより先に動いて、失敗を繰り返しながら、それでも決して止まらない。


 ……コイツはアホだ。最初から。

 ずっと変わる事なくそのまま、考えなしの大馬鹿野郎だ。

 そして今では、代えのきかない――――切っても切れない腐れ縁の、誰より頼れる相棒だ。



 だから、俺も。

 ひたすら馬鹿で真っ直ぐな、眩しい生き方をするリュウに負けないような。

 隣を堂々と歩けるような、そんな存在でいなくちゃいけない。


 どこまでも走り抜ける男に置いて行かれないように、互いを認め合っていられるように。



 だから、俺は、俺たちは。

 この程度の奴なんて…………()()()()()()()()()()()()()()になんて、負けちゃいられないんだよ。




「――――リュウ」


「オラオラァ! ネズミオラァ!…………おおん? なんでぃ!」


「折角の機会だ、アレをやろうぜ」


「アレって……どれだ!?」




「アレだ、『うらぎり』作戦」


「んん? ――――……かかかっ! よしきたぁッ!!」




 俺とお前で、やってやろう。

 お前の真っ直ぐと、俺の小細工で。

 邪魔な奴らを、ぶっ倒そう。


 男二人の馬鹿話で産まれた、悪ふざけみたいな戦法で。



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