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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第二十三話 コミュニケーション 下




『外来種』は、海外プレイヤー。

 それはキキョウが裏を取った情報であり、だからこそ疑いようのない事実だ。


 そんな他国のプレイヤーたちは、何らかの理由で発声にフィルターがかけられていて、俺たち日本勢と意思の疎通が出来なくされている。

 また、その姿もまるで人とは思えない有様に変えられている事も、交流をする弊害にもなっていた。


 そういう理由がある事を踏まえた上で、マグリョウさんが選んだ方法が――――『数字』という表現法なんだろう。


 数を数える時に使う記号。数値を示す一つの文字種。

 それは漢数字やローマ数字と色々あるけれど、基本的にはどこでも『1』から『9』の "アラビア数字" と呼ばれる物が使われる。


 言うなればそれは、世界共通の言語だ。

 読み方は様々だろうと、形は同じ。だからきっと、海外勢にもきちんと届く。

 "カウント5秒で誰か死ぬ" というルールを、理解させる事が出来る。


 ……素晴らしいコミュニケーション能力だ。もうコミュ障とは呼べないな。

 …………例えその交流が、悪意満点のえげつない物であろうとさ。




「…………『0』だ。俺を覚えろ、クソネズミ」


「ヂッ……」




 棍棒持ちのラットマンが、懸命の抵抗も虚しく死んで行く。

 余裕で回避を続けたマグリョウさんが、絡みつくように背後に回って――――首を捻じり折り、殺した。


 ノイズが走って消えて行くラットマンの隣に落ちた棍棒を拾い、『灰陣』の円に向かって投げる。

 地面に広がる灰の一部が餌を貪るように絡みつき、片足が棍棒で出来たバッタが産まれた。




「次は……2匹か。歓迎するぜ。『5』」


「チュルルァ!」


「チュリリィ!」




 バッタが円を形取る輪に入り、新たな2匹のラットマンが円の中へと引きずり入れられる。

 右手に赤い剣を持つ奴と、左手に青い剣を持つ奴――――……言葉が通じなくてもわかる。仲がいい2匹なのだろう。

 鳴き声もぼんやり似てるしな。


 ……あれの中身が人間だと考えると、思う所が無いでもない。

 だけれど今は、敵同士。そういう感情は邪魔なだけだろう。




「さぁ、かかってこいよ、つがいネズミ共……『4』」


「チュル!」


「チュリ!」




 剣をだらりとぶら下げて、作った隙を見せつけるマグリョウさん。

 しかし、かえって2匹のラットマンの警戒心を高めてしまったようだ。


 2匹が左右に素早く別れる。狭い円陣の中、両側に分かれての挟み撃ちの構え。

 そうするためのスムーズな移動は、彼らの歴戦を裏付けるものだろうか。




「チュ!」


「チュ!」


「『3』……」




 短い鳴き声を発した2匹による、息を合わせた強襲。

 マグリョウさんの左側にいる赤い剣のほうが、一歩だけ早い。左腕が無い彼の弱みを狙う作戦だろう。


 見えた隙、そこを狙う万全の連携。恐らく奴らの必勝法。

 赤と青という対の色合いを役割(ロール)としたペアのラットマンが、タイミングを合わせてマグリョウさんへと襲いかかる。




「……()()()




 そんな挟撃に対し、マグリョウさんが思わぬ行動を取った。

 小さく "食らえ" と呟きながら、自身の右側にいる青い剣持ちへとすっかり向き直ったのだ。

 一歩早い赤い剣持ちに、無防備な背中を晒す行為は……どう考えても悪手。


 かに、見えた。




<< ガヂッ! >>



「チュッ!?」


「ヂ……ッ!」



「……よし、いい子だ」




 周囲の『灰の虫』軍団から飛び出す、一つの灰色をした影。

 まんまる太った灰のイモムシだ。


【死灰】の冷たい声に反応したソレが、イモムシらしからぬ素早さで現れ――赤い剣持ちの足を()()()

 マグリョウさんお気に入りのトラップアイテム、黒鉄のトラバサミ。それで作られた、大アゴで。




「……俺は覚えているぜ。ダンジョンで16回目に死んだ原因が、お前のそうした噛みつきだったよなぁ」


<< ガヂッ! ガヂヂヂッ! >>


「『2』。斬っても刺しても離れねぇ "噛み付くイモムシ(お前)" は、しばらく夢にも出てきたんだぜ」




 赤い剣持ちの足に噛みつき、もつれるように地面に引き倒すイモムシ。

 口に含んだ "餌" を食いちぎろうとしているのか、身体はびたんびたんと暴れまわって。


 ……恐ろしい動きだ。野生の生き物特有の、とにかく殺して食うための捕食行動って感じで。

 それがああまで大きくて、噛んだ大アゴ以外は霞のような灰で出来ているっていうんだから、ことさらに恐怖を掻き立てる。あとキモい。


 言うなればそれは、イモムシのおばけだ。

 噛みつきというたたりで呪い殺す、最高にキモい怨霊だ。

 見ているだけでトラウマになっちゃうぞ。




「『1』……俺はいつでもここにいる。何せMMO廃人だからな。……俺に怯えろネズミ共。俺はいつでもRe:behind(ここ)にいる。そうしていつでもお前を見ている。灰色に怯えろ、ネズミ共」


「チュチュゥ!」


「チャァ!?」



「俺に会ったらお前は終わる。俺はいつでもここにいる。灰色の中からお前の背中を、いつでも狙い続けているぞ」


「チュウーッ!」


「【死灰】に会ったら5秒で終わる。それを覚えて記憶しろ。灰を見ながら震えて終われ」


「チャアーッ!」




「『0』――――俺がお前らの、ゲームオーバーだ」




 肉薄したマグリョウさんが、青い剣を軽々さばき……胸元に潜り込み、突きを構える。

 赤い剣持ちの足を食いちぎったイモムシが、今度は首元へと飛びかかる。


 …………灰で作られた円陣の中。

 カウントゼロで、2箇所から血飛沫が上がった。


 赤い剣持ちと青い剣持ちのラットマンたちは、そこで同時に息絶える。




「……2本セットのロングソードか。ネズミのおもちゃにしちゃあ上等だな」




 マグリョウさんが武器を拾い、『灰陣』の中へと雑にぶん投げる。

 蠢く灰がそれに絡んで――――頭にそれぞれ剣を携える、2匹のが産まれ出た。




「さぁ……次はどいつにするかな。お前か? それともお前か? 目移りするぜ」




 ゆらり、とマグリョウさんが歩み出す。

 それに合わせて、彼を取り巻く虫たちも、狂気を感じる暴れ具合をそのままに……主の進む先へと陣を進ませる。


 ……殺したラットマンの武器を使って作る、『灰の戦列』。

 すでに幾匹も増えたそれらが作る陣は、どんどんその半径を広げている。


 その形は、マグリョウさんの殺した相手だ。

 カマキリ、イモムシ、蛾にムカデ。ダンジョンに出てくる虫たちの姿を為して、彼と一緒に殺意をバラ撒く。




「チィ……ッ!?」


「次は魔法師(スペルキャスター)か。死地へようこそ、歓迎するぜ」


「チィィ…………」


「さぁ、5秒間だけ一緒に過ごそう。忘れられない思い出作りだ。俺を覚えろネズミ面……『5』」


「チ、チィ……」




 円陣の外へ向けて、『灰の虫』たちが威嚇する。

 ラットマンもそれをどうにかしようとするが、灰の体に剣は効かない。近づけば "(ショートソード)" や "カマ(手斧)" で斬りつけられて、円陣を崩す事は不可能だ。




「チィィーッ!」


「『4』」




 かと言って、中に入ったラットマンが逃げ出す事も……許されない。

 ぐるぐる回る『灰の虫』たちによって閉じ込められて、抜け出す隙はどこにもない。


 ……外のラットマン、そして中のラットマン。

 そんなそれぞれに許される事は、ただ一つずつ。


 中に入っていないなら、『次が自分の番でないよう祈るだけ』。

 中に入ってしまったのなら、『5秒後に死ぬ覚悟をするだけ』。


 抵抗も、邪魔も、打開も出来ない。

 それは【死灰】が許さない。




「『3』。どうしたほら、俺はなんにもしてねぇぞ」


「チッ! チィッ!」


「ここだ、ここ。ここが俺の弱点で、名前を "あたま" って言うんだぜ? 知らねぇのか? ちゃんと教育受けたのか? チュー学校は出たのか、チュー学校は。どうなんだよ、頭でっかちの魔法師(スペルキャスター)野郎『2』」


「チ、チッ! チィッ! チチィッ!」


「…………慌てるだけかよ、つまんねえ。これだから魔法師(スペルキャスター)ってのはダセえんだよな。対応力に欠けるっつーか、遠距離からぶっぱでキメるだけの考えなしっつーかよ。『1』」


「チ、チィィィーッ!」



「……あぁ、なるほど。日本人だろうが外国人だろうが、魔法師(スペルキャスター)を選ぶ奴が使えねえってのは……万国共通って事だな。勉強になったぜ」


「チ、チィ……」


「『0』だ。無様を晒して劣等を示す……反面教師の才能はあったな? はははっ」




 ……マグリョウさんがああやって、言葉が通じないのに煽りまくるのは……少しでも伝わればいいと考えているからだろうか。

 それとも、単純に魔法師(スペルキャスター)が嫌いなだけか。


 ……多分、後者だな。俺にはわかる。友達だから。



 

     ◇◇◇




「いけいけ~火星虫く~ん」


「ミーチューブアローッ! ……脳天直撃クリティカルっ! 凄いぞ私! これは流鏑馬やぶさめの才能が開花しちゃった予感!?」


「ははっ! そうだ! 死ぬ気で来いよぉ! お前の寿命は後3秒だぜっ」




 ……広い荒野の戦場で、みんながそれぞれやりたい放題だ。

 戦場を転がしているのは、相変わらず自由に暴走をするロラロニーのカブトムシ。

 それを後押しするように、その上から矢を放つまめしばによって、着実にラットマンの数が減らされる。

 そして、そんな大騒ぎなこの地の一角で、マグリョウさんが恐怖の死をバラ撒いて。



 …………置いて行かれた気分になった。

 それなりに戦ってはいるものの、どうしてもこの場にあっては、"脇役" って感じだ。


 ただまぁ、俺は元々そういう存在なんだから、そうなるのも当たり前か。

 自分が地味で普通な一般人って事は、誰より一番俺が知ってる。

 だから、これでいい。このくらいが分相応って所なんだろうし。




「漢一匹リュウジロウッ! ネズミの前歯と漢比べでぃ!」


「チュチュゥ!」




 リュウが声を張り上げ、胸ぐらを掴んだラットマンに頭突きをお見舞いする。

 ……いや、普通に斬れよ。何やってんだコイツ。漢比べってなんだ。




「どうしたどうしたネズ公共ォッ! 敵はカブトムシと旦那だけじゃねぇぞぉ!?」


「……無理に目立とうとするなよな。囲まれたら押しつぶされるぞ」


「てやんでぃ!」


「……何だよその意味不明な感嘆符は。どんな感情を表現してんだよ」




 リュウの謎コミュニケーションに呆れつつ、相対するラットマンの隙を探る。


 俺たちに注目を寄せているのは、こちらから見て最前列のラットマン。

 その後列や、もしくは少しでも距離がある奴らにあっては、すっかり俺たちに背を向けている。

 さもありなん。【ネズミの餌のロラロニー】と、【死灰】の注目度は抜群だしな。


 ……あの隙に、無理やり切り込むか? 少しは荒らせるかもしれない。

 そろそろ一旦下がりたいタイミングだし、最後にちょこっと派手に暴れてみようか。カルマ値もたっぷりあるはずだしな。




「……まぁ、目立ちすぎずにそれなりに、出来る分だけ減らそうぜ。『光壁部隊』の排除も済んだし、ぼちぼち退却も視野に入れつつ――――」


「チチ…………ちぃ」


「――――ッ!?」




 ひやり、とした。二つの意味で。

 首筋に冷たい感触がして一つ、それが刃だと気付いて一つ。


 咄嗟にそれを跳ね除けて、背後に振り向き剣を構える。

 そこにいたのは、黒いローブをすっぽり被った…………不気味が過ぎるラットマンだった。




「チチチ……ち?」


「……お前は……」




 曲がりくねったカマのような形状の武器。

 余裕綽々で首を傾げる、黒いローブの暗殺者のような風体。

 そして、その雰囲気からひりひりと感じる……特別感。




「――――おおっ!? てめぇは……おおっ!? こなくそぉっ!!」


「ヂュウゥゥッ!!」


「リュウッ!」




 そんな黒ローブの向こうでは、リュウに襲いかかるひときわ大きなラットマンだ。

 轟々と燃える棒のような物を持ち、それを使って押しつぶすようにリュウを押さえつけている。

 そこそこに力がある剣士(ソードマン)のリュウをも凌ぐパワーと、燃える棒を持つ特異性――――それもまた一つの、特別感。




「サ、サクリファクトくんっ!」


「ん?」


「そいつは……そいつらはっ! 多分だけど、ラットマン側の――――二つ名持ちですっ!」




 クリムゾンさんの声が聞こえる。やっぱりこいつらは、二つ名持ちか。

 燃える棒と両手のカマ。他のラットマンよりデカくて凶悪な面構えと、黒いローブ。

 それらは以前出会った "リザードマン(あい)の二つ名持ち(つら)" のように、抜群に際立つ個性を持っている。


 装備、武器、そして能力。全体を一つでまとめたデザイン。

 つまるところは、キャラクター性だ。

 ならば、二つ名を戴くに至るだろう。"ラットマンの国" に属するプレイヤーの中で、こうまで異質であるなら、さ。



 ……つーか、クリムゾンさん……なんで俺に敬語なんだ?

 まぁ、どうでもいいか。




「二つ名はきっと、【ホウラク】と【リョウチ】っ! とっても早い黒い【リョウチ】と、【脳筋】にすら打ち勝つ膂力を持つ【ホウラク】の、竜殺しをも凌ぐ強敵ですっ!」




【ホウラク】と【リョウチ】……?

 それがどういう意味だかはわからないけど……彼女にああまで言わしめるほど、この2匹は強いのか。


 …………つまりは、アレだな。

 こいつらこそが――――




「――――『攻撃の要である司令塔』、なのか」


「チチチ……ち」


「ヂュゥゥウッ!」




 戦局の要。ラットマン陣営をまとめる大将。

 カニャニャックさんから聞いた、『防御の要』と『攻撃の要』の内の、後者なんだろう。

 だったらこの場で叩いておきたい。


 …………カブトムシは遠い。マグリョウさんは忙しい。

 クリムゾンさんは負傷していて、キキョウは彼女を守ってる。

 手が空いているのは俺たちだけか。


 だったら、そうだな。





「……やるぞ、リュウ」


「応ッ、サクの字ぃ!」




 俺が言って、リュウが頷く。コミュニケーションはそれで十分。

 俺とリュウとで、なんとかしよう。



 ……登場シーンも、格好つけちゃった事だし。





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