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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第九話 趁热打鐡




「チューチューッ!」


「――――『不退』ッ!」




 囲まれていたプレイヤーの退路を埋めるように、盾を持ったラットマンが押し寄せる。全員揃っての突進攻撃チャージの構え。

 技能(スキル)『不退』で堪える準備をし、衝撃に備える。




「……くっ!」


「チューッ! チュチューッ!」




 "押せ押せ!" とでも言わんばかりに、ちゅーちゅー鳴き喚くネズミたち。

 その鳴き声はちょっとだけ可愛い気もするが、そこに含まれる感情は目一杯の殺意だ。


 私を更にラットマン陣営に入り込ませて、いよいよ大勢で包囲するつもりなのだろう。

 そうとなっては流石の私も無勢。ここは一旦退避すべきか。




「"ヒーローはいつだって空からやってくる!" 魔法(スペル)『レビテー……」


「『チュッチャー』!」


「…………ッ!」




 レビテーションで空へと逃げようとした私の口が、見えざる力で閉ざされる。

 これは、ローグのスキルのような物か。詠唱妨害の。やってくれるな、可愛い声をして。




「…………!!」


「チューッ!」




 であればここは、力で押し通るしかない。

 正義の心を熱く燃やして、ストレージから『真・ジャスティスソード』を取り出す。

 王道も王道の、ヒーローらしい大立ち回りだ。




「チュゥッ!」


「……はぁっ!!」




 戦闘の盾持ちラットマンを、その盾ごと弾き飛ばす。

 剣を振り抜いた隙を狙って、別のラットマンが小剣を突き出してくる。

 鎧を纏った肘でそれを逸らし、膝蹴りで打ちのめす。




「ヂュヂューッ!」


「むっ!? 矢かっ!!『忠義の盾』っ!!」




 周囲にラットマンが居なくなった途端に、少し離れた位置から射撃攻撃が飛んでくる。

 マントを左手で掴んで盾に変え、矢を受けた瞬間マントに戻す。


 吹き飛ばした盾持ちが再びの突進。今度は弾くだけではないぞ、必殺剣を見舞ってやろう。




「『斬鉄』ッ!『一番槍』ッ!!」


「チュ!?」




 両手に力を込め、持った剣を力いっぱい突き刺した。

 鏡のように磨き上げられた盾、そしてその向こう側のラットマンごと貫通する。

【正義】の二つ名効果が十全に発揮されている今、そこにスキルが合わされば、尋常ならざる力を出せる。




「さぁ、次だッ!!」


「ヂュウゥッ!!」




 これは正義の行いだ。未来を守る戦いなのだ。

 さすれば私は、まごう事なき救世主。世界を救うヒーローだ。


 二つ名効果の赤いオーラが燃え盛るのは、これが正しい事の証明だ。

 その事実が輪廻のように沁み入って、私は再び昂ぶりを得る。



 ああ、無限に戦える気さえするぞ。

 ならば、その終わりなき日々のため――――尚更力を振るうのだ。




     ◇◇◇




「――隊長っ! 戦況報告です! 現在、尽く劣勢! 前線は広い範囲で後退を余儀なくされ、ラットマン包囲網が徐々に広がりを見せています!!」


「そうか! それはまずいな!」


「後衛の隊員によれば、ラットマンの『光壁』を阻止するため編成された機動力重視の攻撃隊が準備中のようです!」


「構成は!」


「前衛は出払っていたので、冒険者(アドベンチャラー)盗賊(シーフ)調教師(テイマー)がメイン、それと幾名かの魔法師(スペルキャスター)のようですっ」


「わかったっ!」



「その他、遠隔攻撃の主火力部隊は右側へ展開! 西門前はサポートや召喚士(サモナー)などに任せ、『光壁』の影響が及ばないであろう位置への攻撃を試みています!」


「そうか! 凄いな!」




 所詮寄せ集め。全体での交信手段がない烏合の衆。

 一つの戦闘集団として戦略的に行動を取る事は難しい。


 しかしそれでも、戦意はある。どうにかしようと必死になって、より良き物を模索し続けている。

 同じ役割の者で小規模なパーティを組み、それらがそれぞれに頑張ってくれている。

 だから私も、頑張れる。




「――――行くぞっ!『疾駆』っ!!」




 何はともあれ、あの『光壁』だ。

 あれをどうにか出来さえすれば、魔法師(スペルキャスター)部隊……ひいては【金王】のスペルによって、戦局を大きく変えられる。




「『銀剣突撃紋章』ッ!!」




 それなら、私が躍り出よう。

 赤いオーラと目立つスキルとで精一杯にラットマンの目を引いて、彼らの危険を少しでも肩代わりするのだ。

 一歩でも勝利に近づくため。プレイヤーの旗印として、最たる勇気を示すため。




「私を止めてみろっ! ラットマンッ!!」


「オウオウオウッ! オウオウッ! オオゥッ!!」


「な、なんだ!? アシカか!?」




 オウオウ言う声に振り向けば、そこにいるのは鳴くアシカではなく……ブルドーザー。もしくはロードローラー。そんな重機かと見紛うほどの、荒々しい力の塊が横を過ぎ去る。


――――【脳筋】ヒレステーキ。いつの間にここまで。




「オアアッ!! アブローラァァーッ!!」


「ちょっとステーキ! 突っ込みすぎですよ! ……ああっ、もうっ!!」




 何かの大きな骨を横に構えて、ラットマンを弾き飛ばしながら猛進する彼。その後ろをタテコくんが必死に追いすがる。

 ……何という無茶苦茶。笑えるくらいの力技だ。

 しかし今はそれが頼もしい。


 ……私も負けていられない。




「良いぞ! ヒレステーキ!」


「クリムゾンさん、丁度よかった。あの筋肉馬鹿を止めて下さいよ」


「いや、そのままで良いっ! ははは! 私も共に行こうじゃないかっ! いざ、正義執行だっ!!」


「…………貴女も少し、脳筋のがありますよね~……」




     ◇◇◇




「パワァァッ!!」


「はぁぁぁっ!!」




 最早言語すら忘れ、狂戦士バーサーカーと化したヒレステーキ。

 その横に並び立ち、【正義】のオーラを爛々と燃やすこの私。

 眼前のラットマンたちをことごとく弾き飛ばして、『光壁』を発現させている集団へ向かって一直線に突き進む。


 通った道に蹂躙の跡を残す我らは、今やこの戦場の立役だ。

 誰もが我らを意識して、矢やスペル……そして様々なスキルがひっきりなしに飛んでくる。


 ……いい感じだ。正義のヒーローは、目立ってこそなのだから。

 矢面に立つという意味でも、主役を張るという意味でもね。




「いっそこのまま、あの魔宝石を破壊してしまおうっ!」


「パワ? パワァ!」


「その通りだっ! さぁ行くぞ! ヒレステーキッ!!」


「パァァワァァァッ!」


「……え、それで会話出来てるんですか?」




 勢いを増し、神輿のような台座に乗った特大の魔宝石を二人で目指す。

 あれを破壊出来さえすれば、きっと我らに良い風が吹く。

 ……あれを。あれを目指すのだ。勝利の鍵はそこにある。





「――――クリムゾンさんっ! 来ますよっ!!」


「むっ!?」


「チチィィ……ち」




 そうして懸命に駆ける私の足元へ、抉るように襲いかかる影。

 ……どこから湧いた? 視界には居なかったはずの、黒いローブのラットマン。




「チチ……ち」


「くっ!?」




 地面を掘り返すような斬り上げでカウンターを狙うも、木の葉のようにひらりと舞ってかわされて。

 次いで、再び足元を狙いに来る。


――――疾い。なんというスピードだ。つむじ風をも超える迅速。

 その脚さばきと、両手に持った鎌のような二振りの剣から繰り出される斬りつけは、重いブロードソードでは受けきれぬ。




「――――『忠義の曲剣』!『忠義の細剣』!」


「……チチ……ちぃ」




 この場にあっては枷とすらなる『真・ジャスティスソード』をストレージにしまい、両手で背後のマントを掴んでスキルを口にする。

 猛獣の爪のように湾曲した曲剣シミターと、猛禽の瞳のように一点を穿つ細剣レイピアを作り出し、黒ローブのラットマンの攻撃を受け止める。




「ヂュウゥッ!!」


「パワッ!?」


「ステーキッ!!」




 そうしてラットマンを弾き返す私の隣では、ヒレステーキも襲撃にあっている。

 地面に根を張る大木ですら吹き飛ばす筋肉を、正面からどっしりと受け止められて。


 ……あの筋肉の塊を、あの突進を……止めたのか?

 それに、何だあの武器は。


 ヒレステーキが持つ大骨と比べても遜色ないほどの、とても巨大な――――鉄の、棒?

 それがメラメラと燃え盛り、カンカンと赤熱の様相を見せている。


 ……強いていうなら、建物の基礎を作る……鉄骨だろうか。

 それが真っ赤に燃えていて、だけれどそのラットマンは熱がる事もなく。

 力強くしっかりと、その両手に持っている。


 何だこの、どちらも異質過ぎるラットマンたちは。




「……チィ? チチィ……ち?」


「……不気味なラットマンなのだ。正々堂々、顔を見せろっ!」


「……ち?」




 私の前に立ちはだかったラットマンは、その黒いローブを頭まですっぽり被った格好のまま、首を傾けこちらを見ている。


 …………あの、鎌のような武器。

 ぬらりと光る刀身に、何かの模様が見て取れる。

 何だ?




――――――右手の鎌に『りょう』。

――――――左手の鎌に『』。


 ……『凌遅りょうち』? 日本語?




「ステーキッ! 無事ですか!? 熱くないですか!?」


「パワァ……」


「何なんですかこのラットマンはっ! あんな燃える棒を持って…………ん?」


「パワ?」


「何か、書いてある…………漢字ですか?『炮烙ほうらく』?」




 どういう事だ? どうして "ちゅーちゅー" しか言えないラットマンが、日本語などを使っているのだ。

 まさかアレらは、プレイヤーから奪った物なのだろうか。


 ……いや、それは無いか。

 黒いローブの二振りの鎌は、まるで手の延長のように的確で鋭く動き。

 ヒレステーキと押し合っているあの大柄なラットマンも、持っている鉄骨がメラメラ燃え上がっているというのに、平然とそれを握りしめているのだ。

 どこかで拾った物が、それほど()()()()()など……滅多な事ではありはしない。


 そうすると……私の愛剣『真・ジャスティスソード』と同じなのだろうか。

 このラットマンたち専用の、奴らのために作られた武器。




「炮烙と言うと…………中国の古い刑罰ですね。ああ、なるほど……。確かにその刑は、火で熱した鉄の棒を使った物です。その武器はそういう物なのですか」


「パワァ?」




 物知りなタテコくんは、その言葉を知っているようだ。

 "ほうらく" という物が一体どんな字なのかは知らないが、中国に関する物らしい。

 と、なると……こちらもか?




「タテコくんっ」


「何でしょう? クリムゾンさん」


「"リョウチ" という言葉は、どういう意味だ!? "凌ぐ" に "遅い" で、凌遅っ!」


「りょうち……凌遅……? ああ、凌遅刑」




「何か知っているのか!」




「ええ。それも炮烙と同じく、中国の古い刑罰ですよ。生きたまま人を細かく切り刻む、身の毛もよだつ処刑法ですね」




 ……ホウラク。リョウチ。

 どちらも中国の刑罰で、漢字で書かれる現実リアルの言葉。


 そしてなおかつ、それぞれがその名らしい特性の武器であり。


 どちらのラットマンも、その武器の名に相応しい振る舞いをしている。



 二つ名、なのか。


【凌遅】・【炮烙】と言った感じの。



「…………ちぃ」




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